山形県は、東北6県のなかで最も地理的に分断された県である。蔵王連峰・朝日連峰・月山が県土を縦横に切り裂き、庄内・最上・村山・置賜という四つの独立した地方文化圏を形成している。庄内地方(酒田・鶴岡)は日本海側の独立した経済圏で、村山地方(山形市)とは生活圏として完全に分かれている。県人口は約103万人、新築住宅着工は年間約3,500戸前後と東北の中では小規模な市場ながら、4地域それぞれに地場ビルダーが根を張り、独自の市場構造を維持してきた。さらに山形県には、クリエイト礼文・ウンノハウス・近江建設・エクシードという4社の地場有力ビルダーが存在し、それぞれが独自の商圏戦略でポジションを築いている。一条工務店も10年で大きく成長しているが、4地域並立構造のため、県内シェアの取り方が他県と根本的に異なる。
筆者も毎月顧問先があり訪問していたことがあるが、昼食は100%麺類を選ぶという県民性も個人的には気に入っている。本稿では、人口・着工・商圏・プレイヤー・現場論点・戦略の6章構成で、山形県の住宅市場の全貌を解剖する。
目次
指標 数値 全国順位 総人口(2024年推計) 約103万人 35位 世帯数 約42万世帯 39位 平均年収 約400万円 36位前後 新設住宅着工戸数(2024年度) 約3,500戸 37位 持家比率 約77% 全国1位 県土面積 約9,323平方キロメートル 全国9位
山形県の特異性は、県土面積が全国9位と広いにもかかわらず、人口は35位という点と、4つの地方文化圏が並立する地理的分断にある。これは「広い県土・薄い人口・分断された商圏」という三重の制約となり、住宅市場の構造を根本的に規定している。岩手県・静岡県・山口県とは一線を画するが、山形新幹線(東京〜新庄)の山形県内停車駅は、米沢・高畠・赤湯・かみのやま温泉・山形・天童・さくらんぼ東根・村山・大石田・新庄の10駅あるという特殊なエリアでもある。一方、持家比率は約77%と全国1位。秋田・富山・岩手と並ぶ「持家文化県」の代表格である。
山形県の住宅市場を理解するには、五つの地理的条件を押さえる必要がある。
第一に、4地方の地理的分断である。村山地方(山形市・天童市・寒河江市等)、置賜地方(米沢市・長井市・南陽市等)、庄内地方(酒田市・鶴岡市等)、最上地方(新庄市等)の4地域は、それぞれ別の文化圏・別の生活圏として機能している。特に庄内地方と内陸3地方の交流は限定的で、酒田・鶴岡の住民の生活圏は内陸ではなく、新潟県北部や秋田県南部とつながっていることも珍しくない。
第二に、豪雪地帯である。山形県は新潟県・秋田県と並ぶ豪雪地帯で、特に庄内地方の沿岸部と内陸の月山周辺は積雪量が3〜4mに達する。屋根構造・断熱性能・除雪動線・雁木(がんぎ)等の地域文化建材の活用が住宅設計の必須要件となる。
第三に、海と山の二極構造である。県西部は日本海に面し、県東部は奥羽山脈で宮城県と分断される。東西の生活圏連続性が極めて弱いため、住宅会社の県内広域展開は他県より難易度が高い。
第四に、仙台圏との生活圏連続性である。山形市・米沢市は山形自動車道・東北中央自動車道で仙台市と1〜1.5時間圏内にあり、仙台への通勤・通学・買い物の流れが恒常化している。これは住宅市場における山形側の購買力に直接的な影響を与える。特に米沢市と仙台商圏・福島商圏との距離感を考えると、県外(仙台圏)進出のハードルは秋田・岩手県に比べると低いといえる。
第五に、人口減少のペースである。山形県の人口減少ペースは秋田・青森ほどではないが、それでも全国平均を大きく上回る速度で進行している。2050年に向けて県人口は約75万人前後まで縮小する見通しで、住宅市場の母数も継続的に縮小する。
山形県の人口は1950年代の約135万人をピークに、ほぼ一貫して減少局面にある。2024年時点で約103万人、ピークから約32万人(約24%)が失われた。社人研推計では2050年に約75万人前後まで縮小する見通しで、これは現在から約28万人、率にして27%の人口削減に相当する。東北の中では青森・秋田・岩手より緩やかだが、それでも全国平均を大きく上回る縮小ペースである。
自然減と社会減の両方が進行している。合計特殊出生率は1.30前後で全国平均よりやや高めだが、出産可能年齢層の絶対数が減少し、年間出生数は5,000人を割り込んでいる。社会減については、高校卒業後の若年層の県外流出(仙台・首都圏)が継続している。これは日常の生活圏を考えても妥当であり、加速することが予測される。
世帯数は約42万世帯。山形県では世帯数自体も2010年代後半から減少局面に入っている。新築住宅市場のコア顧客である「30〜40代の子育て世帯」は、過去10年で約2割削減されており、新築需要の母数は構造的に縮小している。
山形県の持家比率は約77%。これは全国47都道府県のなかで最も高い水準であり、秋田・富山・岩手と並ぶ「持家文化県」の頂点に位置する。理由は3つに集約される。第一に、土地取得難易度の低さ。山形市内でも坪15万円前後、内陸郊外では坪10万円前後の土地が普通に流通している。第二に、分譲住宅供給の薄さ。第三に、家業継承・実家継承を伴う建替え需要の厚み。山形県の空き家率も全国上位で、相続による空き家を解体・建替える需要が継続的に発生している。
山形県の人口・世帯動態は、「広く・薄く・分かれている」と要約できる。広い県土に薄い人口が4地域に分散し、しかし家を持つ意志は固い。規模の経済が効きにくく、地域密着型の地縁経営のほうが優位性を発揮する市場と理解すべきである。
山形県は、人口減少県でありながら一条工務店が大きく成長した代表的な市場である。同社の山形県内販売棟数は2014年に約170棟、2024年には約305棟へと10年で1.8倍に拡大した。市場全体が縮小するなかでの成長で、純粋なシェア獲得の結果である。
展示場体制は、庄内地方に「庄内みかわ展示場」「庄内みかわ東展示場」「酒田展示場」「庄内展示場」、村山地方に「TUY嶋展示場」「山形平清水展示場」「山形平清水東展示場」、置賜地方に「米沢展示場」と県内に8展示場を配置している。4地方すべてに拠点を持つ広域展開が、一条の山形戦略の特徴である。各展示場の営業人員は4〜6名規模で、県内合計の営業人員は約38名と推定される。
一条の山形戦略の本質は、「4地方並立構造に対応した広域ドミナント展開」である。1拠点あたりの規模は小さくとも、4地方すべてにフラッグシップを置くことで、県全体のシェアを面で押さえる。地場ビルダーは特定地方に集中するパターンが多いため、県全域にネットワークを持つ一条が、山形県の住宅市場でユニークなポジションを獲得したといえる。県内トップビルダーを狙うのであれば、この展開手法を模索しつつ、自社らしい商品・営業展開が必須であるといえる。
山形県の新設住宅着工戸数は、2010年代前半までは年間4,500〜5,000戸前後を維持していたが、2020年代に入ってから縮小し、2024年度には約3,500戸前後となった。直近10年で約2割が消滅した勘定で、青森・秋田より緩やかだが全国平均を上回る縮小ペースである。
利用関係別の構成比は、2024年度の概算で「持家55〜60%、貸家25〜30%、分譲(建売・マンション)13〜18%」となっている。持家比率の高さは全国1位で、貸家・分譲は薄い。
理由は秋田・青森と類似する3点に集約される。第一に、土地取得難易度の低さ。第二に、分譲住宅供給の薄さ。第三に、実家継承を伴う建替え需要の厚み。山形県は実家継承パターンが特に強く、3世代住宅・二世帯住宅のニーズが他県より高いのが特徴である。筆者の顧問先での実例としても、他エリアと比べて「敷地内同居」が多く、土地なし顧客は多いが建物に予算を賭けることのできる方も多いと言える。
貸家市場は人口減少と高齢化により構造的縮小局面にある。山形市・米沢市・酒田市の都市部では大東建託・大和ハウス系の物件供給が続いているが、地方部では新規貸家供給はほぼ停止している。
分譲市場については、山形市・米沢市・酒田市の中核都市に集中している。地場の分譲ビルダーが一定の存在感を持つ。
山形県の住宅着工データを月別・日別で詳細に分析すると、ある特異なパターンが浮かび上がる。それが「三隣亡(さんりんぼう)」の影響である。
三隣亡とは、「この日に建築(特に上棟・地鎮祭)を行うと、向こう三軒両隣まで滅ぼす」とされる建築業界の伝統的な凶日である。江戸時代から続く慣習で、年間で約30〜40日が三隣亡日に該当する。東北・北陸を中心に根強く残る文化で、なかでも山形県は施主・施工者ともにこの慣習を重んじる傾向が極めて強い。
実際、山形県内の地場ビルダーに上棟日のデータを確認すると、三隣亡日の上棟件数は通常日の3〜5割程度に落ち込む。施主から「三隣亡を避けてほしい」という要望が出ることが多く、地鎮祭・上棟・建前のスケジュールはこの暦に大きく左右される。地場ビルダーは年間カレンダーから三隣亡日を最初にマーキングし、そこを避けて工程を組むのが常識化している。
過去10年の県内着工データを精査すると、直近5年で三隣亡を避ける傾向はむしろ強まっているように見える。これは絶対数としての着工が減少するなかで、施主側により慎重な意思決定(「せっかく一生に一度の家だから縁起物にもこだわりたい」)が生まれていることの現れと解釈できる。つまり、三隣亡は単なる古い慣習ではなく、縮小市場における「失敗したくない心理」を強化する文化的装置として機能している。
この文化的特性は、住宅会社経営においても無視できない。三隣亡日を考慮しないスケジューリングは現場で衝突を生み、施主満足度を毀損する。県外から進出してくる大手ハウスメーカーが山形県でつまずく理由のひとつが、この「目に見えない暦の壁」である。一方、地場ビルダーは三隣亡を経営資産として活用しており、年間工程・職人手配・引渡し時期の最適化に組み込んでいる。これは地場ビルダーの暗黙の競争優位のひとつである。
山形県の住宅市場は、「緩やかに縮小する市場のなかで、持家経済が圧倒的多数派を占める」という構造である。注文住宅事業をコアに据えた地場ビルダー型の事業モデルが構造的に有利な市場である。さらに三隣亡という文化的制約が経営に組み込まれている点で、山形県の住宅市場は「データだけでは見えない暗黙のルール」が依然として強く作用する市場である。
全国的に貸家市場は寡占化が進行しており、上位事業者へのシェア集中が年々強まっている。2024年度の全国貸家上位ランキングでは、上位10社が全体の相当割合を占める構造で、山形県もこの全国トレンドの例外ではない。
山形県の貸家市場のプレイヤー構造は三グループに分かれる。第一グループは貸家専業大手(大東建託・大和ハウス・東建コーポレーション等)。第二グループは大手ハウスメーカー(積水ハウス・ミサワホーム等)。第三グループは飯田グループ系・地場ビルダーである。山形県でも上位ビルダーへのシェア集中は年々強まっている。
山形県の住宅商圏は、4地方の独立性が極めて高い。県庁所在地の山形市が突出して大きいわけでもなく、4地方それぞれに中核都市が並立する。以下、主要7都市の特徴を見ていく。
人口約24万人。県人口の約23%が集中する県庁所在地で、住宅市場でのシェアは**県全体の約25〜28%**と推定される。山形駅・山形大学・行政機関を擁する村山地方の中核。山形商圏は駅東・西・南・北の4ブロックに分かれており、一条工務店・近江建設・エクシード・ウンノハウス・大和ハウス・積水ハウス等がしのぎを削る。仙台へ車で1時間圏内のため、富裕層は仙台のメーカーに流れるパターンも見られる。
人口約12万人。庄内地方の南部中核都市で、出羽三山・庄内藩の歴史を持つ文化都市。住宅市場でのシェアは県全体の約12〜15%と推定される。内陸とは独立した商圏で、地場の中堅ビルダー・地縁工務店が拠点を構えている。庄内地方は新潟県北部と生活圏が近く、新潟系ビルダー(ハーバーハウス等)が越境して進出するケースも見られる。
人口約9.5万人。庄内地方の北部中核都市で、酒田港・酒田市場を擁する。住宅市場でのシェアは県全体の約8〜10%と推定される。一条工務店の酒田展示場・庄内みかわ展示場が庄内地方の主要拠点。鶴岡と並んで内陸とは独立した商圏を形成している。
人口約7.5万人。置賜地方の中核都市で、米沢藩・上杉家の歴史を持つ文化都市。住宅市場でのシェアは県全体の約8〜10%と推定される。ウンノハウスは米沢に本社を構える地場の有力ビルダーで、置賜地方を中心に展開している。一条工務店の米沢展示場も拠点として機能。福島県北部との生活圏連続性も持つ。
天童市は人口約6万人、寒河江市は人口約4万人。山形市の北部・西部に位置する衛星都市で、山形市との生活圏連続性が強い。住宅市場では山形商圏の一部として機能している。
人口約3.3万人。最上地方の中核都市で、内陸北部の経済中心。豪雪地帯としても全国有数。住宅市場としては小規模で、地場ビルダーが中心。人口減少が県内で最も深刻なエリア。
それぞれ人口2〜3万人台。人口減少が深刻なエリアで、地場ビルダーの新規出店はほぼ進んでいない。地縁の濃いローカルビルダーが固有市場を維持している。
山形県の商圏を整理すると、以下の3層となる。
層 都市 特徴 都市圏(人口20万以上) 山形 県内最大商圏、ただし仙台への流出あり 中核市(人口10〜20万) 鶴岡 庄内の中核、独立商圏 地方衛星都市(人口10万未満) 酒田・米沢・天童・寒河江・新庄・長井・南陽・上山 各地方の中核または衛星
山形県の商圏構造は、4地方が独立した市場を形成し、県内シェアを取るには面的展開が必須となる。山形・鶴岡・酒田・米沢の4都市にフラッグシップを構えなければ、県内シェア5%以上を取ることは構造的に困難である。これが他県との決定的な違いで、山形県でTOPビルダーを目指す場合は、最初から「4地方展開」を計画に組み込む必要がある。
PG社が保有する住宅・建設業界戸籍データから山形県の事業者プロフィールを抽出すると、注文住宅を中心とする住宅事業者は県内に約140〜180社存在する。年間棟数で30棟以上を扱う「事業規模ビルダー」は約15社、100棟超の「中堅・大手」は数社にとどまる。県全体としては中小・零細事業者が多数派を占める。
2024年時点の山形県内・注文住宅メーカー上位の構造は以下のように整理できる(具体名は戸籍データに基づき抽出、棟数は抽象表現)。
最上位グループは一条工務店(約305棟、県内首位)と積水化学工業(セキスイハイム、約500棟、東北全体GC含む)。一条は前述のとおり10年で1.8倍に成長し、首位の座を確実なものにしている。積水化学(セキスイハイム)は山形・東北で長年強いポジションを築いている全国メーカーである。
山形県本拠の地場有力ビルダーとしては、以下4社が上位グループを形成する。
これら4社は、それぞれが特定地方に深く根を張る「地方密着型」で、山形県の4地方並立構造に最適化された経営をしている。
全国メーカー上位グループには大和ハウス(約140棟)、ミサワホーム(約135棟)、タマホーム(約100棟)、アーネストワン(約115棟)、ヒノキヤG等が続く。
山形県の分譲住宅市場は薄い。飯田グループ系の山形進出は限定的で、地場の中規模ビルダーが小ロットの分譲を併走させているケースが目立つ。アーネストワンが分譲市場での主要プレイヤー。
前述のとおり、貸家市場は大東建託・大和ハウス系が上位を占める寡占構造である。
倒産動向については、山形県でも2023〜2024年にかけて複数の地場工務店・小規模ビルダーの倒産・廃業が発生している。資材高騰・人件費上昇・人口減少の3重苦が効いている。特に鎌田工務店(山形県山形市)が2024年に自己破産申請の準備に入ったことが分かった。負債は約6億1,000万円とみられる。山形地場ビルダーの経営環境の厳しさを象徴する事例である。
急成長ローカルビルダーについては、山形県内では大きな急成長事例は限定的である。むしろ、クリエイト礼文・ウンノハウスといった県内首位経験のあるビルダーが棟数を縮小させていることが、近年の最大の構造変化である。これは山形地場ビルダーが一条工務店・大手ハウスメーカーの進撃を受け止めきれず、徐々にシェアを譲っている可能性を示唆する。それとともに急成長ビルダーに有力社員が移籍することでシェアの付け替えも散見されることも、紛れもない事実である。
大手によるM&A動向については、山形県を直接ターゲットとした大型M&A案件は近年表面化していないが、経営者の高齢化・後継者不在は山形県でも進んでおり、事業承継型M&Aは今後加速すると見られる。
山形県の住宅市場の構造は、4地方それぞれにクリエイト礼文・ウンノハウス・近江建設・エクシード等の地場ビルダーが根を張り、その上を一条工務店が県全域で覆う形である。地場ビルダーは特定地方に深く根を張ることで生存圏を確保しており、一条と直接競合するというよりも棲み分ける構造が成立している。ただし、この棲み分けの均衡が近年崩れ始めている。クリエイト礼文・ウンノハウスの棟数縮小は、地場ビルダーの世代交代・経営承継のタイミングで構造が変化する可能性を示唆している。
山形県の住宅会社経営者と話していて頻出する論点が「4地方展開のコストをどう吸収するか」である。山形・米沢・酒田・鶴岡の4拠点を構えれば、本社機能・展示場・人材育成のすべてが4倍になる。「広く展開して負ける」と「狭く絞って取り切る」の二択を、各社が突きつけられている状況である。
ここには山形県の県民性も深く関わる。山形県民は粘り強く、保守的で、地縁・血縁を重視する文化を持つ。これは「信頼関係を一度築いた地場ビルダーから離れない」という強い顧客ロイヤリティを生む反面、「新規進出してきた事業者を簡単には受け入れない」という参入障壁にもなる。庄内・最上・村山・置賜の4地方それぞれで方言も気質もやや異なり、村山の山形市住民が庄内のビルダーと付き合うことは稀である。これが「県内広域展開のコストと効率」を実質的に押し上げる構造的要因となっている。
ナフサ価格高騰を起点とした樹脂・断熱材・ビニールクロス・配管材の値上げは、山形県の住宅会社にも直撃している。特に高性能住宅を売りにしてきた地場ビルダーほど影響が大きい。仕入先見直し・施工効率改善・商品ラインナップ簡素化の3方向の手を同時に打つ必要がある。
InstagramとYouTubeを中心とするSNS集客は、山形県でも明確に浸透している。一方で、4地方それぞれに別のSNS戦略が必要で、庄内地方と村山地方では消費者の情報収集パターンが微妙に異なる。地域メディア(TUY等)との併用も依然として有効。山形県民の保守性は、TVCM・新聞広告といった旧来メディアへの信頼度が他県より高い形で表れており、これがSNS×地域メディアのハイブリッド戦略を有効にしている背景にある。
山形県の住宅会社の最大の経営課題は人材である。新卒採用は山形大学・地元高校からの採用に依存し、採用競合は地元金融機関・公務員・仙台圏企業という構造になっている。特に山形市・米沢市は仙台圏への通勤可能圏で、若年層が仙台の企業を選ぶパターンが恒常化している。給与水準・福利厚生で仙台企業と並ぶ水準を作れるかが採用の分水嶺となる。
山形県のクライアント企業については、本稿では具体名を伏せるが、県内の中堅地場ビルダー数社をご支援している。共通する課題は前述の通り「4地方展開のコスト最適化」「採用力強化(仙台流出対策)」「SNS×地域メディアの統合的集客」の3点である。
山形県の住宅会社経営の最大論点は、「4地方それぞれの地場ビルダーが、世代交代を乗り越えて生存圏を守れるか」である。市場縮小・人材不足・建材高騰の3重苦に加え、県民性に支えられてきた「地縁・血縁の信頼関係」も、世代が変わるたびに少しずつ風化していく。クリエイト礼文・ウンノハウスの棟数縮小は、この「文化的優位の風化」の最初のサインかもしれない。地場上位企業がポジションを守るには、商品力・採用力・財務力・経営承継のすべてで地味に磨き続ける必要がある。
最終章では、山形県で「県内TOPビルダー」のポジションを目指す住宅会社が取るべき4つの戦略を提示する。
山形県で「TOPビルダー」と呼ぶに値する規模の目安は、年間販売棟数200〜300棟、売上高80〜120億円、従業員数80〜150名、4地方すべてに拠点を構える規模である。これは2024年時点で一条工務店が達成している規模感で、山形県の市場規模から逆算した「県内シェア6〜8%」を取るために必要な事業規模に相当する。
山形県でTOPビルダーを目指す出店戦略は、3段階で設計する。
第1段階(年間100棟まで):1地方完全制覇。村山(山形市)か庄内(酒田・鶴岡)のいずれか1地方に拠点を集中させ、その地方でNo.1のシェアを取る。まず1地方で30〜40%のシェアを取ることが、ブランド・採用・財務の基盤となる。
第2段階(年間100→200棟):第2地方への進出。1地方で軌道に乗ったら、隣接地方に拠点を構える。村山発なら置賜(米沢)への南進、庄内発なら最上(新庄)への東進が現実的。ただし、4地方は文化が異なるため、現地採用と本社派遣のハイブリッド運営が成功条件となる。
第3段階(年間200→300棟超):4地方完全制覇と県外展開。庄内・村山・置賜・最上の4地方すべてに拠点を構え、県内シェア5%超を目指す。同時に、新潟県北部・宮城県南部・福島県北部への越境展開も視野に入れる。
山形県の採用戦略は、3層構造に加え、仙台圏企業との競合に勝てる仕掛けを持つことが必要となる。
第1層は新卒採用。山形大学・米沢工業高校等をターゲットに、年間3〜10名の新卒を継続採用する。仙台圏企業の初任給と並ぶ水準(22〜24万円)の確保が前提条件。
第2層は中途採用。仙台・首都圏Uターン層を視野に入れた採用が有効。「山形に戻りたいが、戻る職場がない」と感じている首都圏在住者をターゲットに、地元銀行の人材紹介・OB会ネットワーク等を活用する。
第3層はリファラル採用と異業種転職。建築・住宅業界外(自動車ディーラー・保険・銀行・通信)からの未経験中途を、半年〜1年で戦力化する仕組みを構築する。
山形県の住宅会社の3年定着率は業界平均で50%台と言われる。これを80%以上に引き上げる制度設計が必要。仙台圏企業の労働環境と比較して見劣りしないレベルを作ることが採用・定着の前提となる。新卒3年目で年収450〜500万円、5年目で550〜600万円、10年目で700〜800万円というキャリアパスを明示する。
商品については、山形の気候要件(豪雪・寒冷)に最適化した高性能住宅を主力とし、坪70〜90万円の中核ゾーンで一条工務店と差別化する。三隣亡・大安・友引等の暦に応じた工程管理を組み込んだ「山形仕様の引渡しスケジュール」も、地場ビルダーとしての差別化軸になりうる。
ブランドについては、「山形で家を建てるなら、まずこの会社に相談する」という第一想起を取りに行く。山形県民の保守性を踏まえれば、短期的なキャンペーンよりも長期的な地域貢献活動・OB施主との継続的関係構築のほうが効果的。また価格帯ごとにマルチブランド展開をすることも効果的である。エクシード社が同戦略で成長しているのは、まさに好例の一つ。
財務については、自己資本比率40%以上、流動比率150%以上、年間粗利率28%以上を3つの財務指標として死守する。
山形県でTOPビルダーになるとは、4地方並立構造のなかで、面的展開と地域密着を両立する経営力を持つということである。1地方の覇者になることと、県全体のリーダーになることは別の経営力が必要となる。**「広い県土に薄い人口、4地方が分断された市場、しかも県民性に支えられた地縁文化が強い」**で勝つことは、地方住宅市場経営の最高難度のチャレンジといえる。
山形県の住宅市場は、4地方並立・広い県土×薄い人口・全国1位の持家比率・三隣亡に代表される文化的制約という四つの構造的特徴を持つ。一条工務店が10年で1.8倍に成長して首位を獲得し、クリエイト礼文・ウンノハウス・近江建設・エクシード等の山形本拠の地場ビルダーが地域別に生存圏を守る。「面的展開と地域密着の両立」が問われる難易度の高い市場である。
次回・第6弾は宮城県編。仙台市が東北全体のハブとして機能する宮城県は、東北で唯一人口100万人超の中核都市を擁し、住宅市場の構造も他の5県とは根本的に異なる。あいホーム・セキスイハイムグループ・一建設・積水ハウス等が市場を分け合うなか、東北全体への影響力を持つ仙台ハブの実態を解剖する。
宮内和也(みやうち・かずや) ピュアグロース株式会社 代表取締役。船井総合研究所を経て独立、住宅・建設業界に特化した経営コンサルティングファームを経営。「定額制注文住宅」「大型単独展示場」「来場予約ファースト」など、業界標準となったプロジェクトを多数主導。著書『SNSで家を売る ―「タイパ時代」の営業術』(クロスメディア・パブリッシング、2025年12月)。