住宅・不動産業界全体で集客数が伸び悩む中、昨年よりも契約棟数を増やしていくには契約率を上げていくことは避けては通れません。営業目線で見た場合、集客が減っている分、来場されるお客様は会社を絞り込んで来場されますので単純に見込度は高くなっています。なので、契約率を上げるのは難しいことではありません。以前は10社来場した中から1社決めていたのが今は3社程度ですので、契約率30%というのも珍しくないのです。
昨年よりも契約棟数が増えている会社の実態は、集客数が1.2倍になっているのではなく(むしろ減っているにも関わらず)例えば契約率が10%から12%の1.2倍になったことで、結果的に契約棟数が増えているのです。当然、集客数が増えるにつれて契約率の伸び率は鈍化し、場合によっては落ち込みますが、契約率が落ち込むほどの集客を確保できている会社はかなり稀です。因みに、100棟以上のビルダーの会社全体としての契約率のKPIは15%です。3組の面談から1組の契約を取るのは難しいかもしれませんが、6組の面談から1組の契約は取れます。そうした会社の組織として契約率が15%以上超えているところが取り組んでいることには共通することがあります。それが顧客体験型セールスです。
東京ディズニーリゾートは訪れる全ての人々に夢と魔法を提供し続けています。では何を売っているかと言えば、夢や魔法を売っているわけではありません。ディズニーリゾートで得られる顧客体験を売っているのです。顧客体験(カスタマーエクスペリエンス)とは、顧客が製品やサービスと接触し興味を持った時点から、購入して利用し続けるまでのすべての企業との接点と、それらに基づき顧客が企業に対して持つ評価を指します。
住宅会社は家を提供しているわけではありません。家の提供を通じて、例えば、家族の趣味が楽しめるより良いライフスタイルや、ヒートショックや地震などから家族の生命と財産を守るための安心感という顧客体験を売っています。建売住宅やローコスト住宅だとそこまでライフスタイルに特化した間取りやデザインの提案であったり、住宅の性能を上げることができなくても、購入するお客様は一生自分のものにならない家賃を払い続けるという不安からの解消という顧客体験を売っているはずです。こうした家に住んでから得られる体験をいかに家に住む前に体験していただく場を提供するのが顧客体験型セールスです。
営業マンを介さずネットだけで家が売れる時代はまだ先です。なぜなら今はまだネットだけでは顧客体験ができないからです。コロナ禍で旅行ができなくなり、各旅行会社や代理店から自宅に居ながら旅行気分を味わえるオンラインツアーが出てきましたが、今旅行に行けるにも関わらず敢えてオンラインツアーを申し込む方はどれだけいるでしょうか?例えば、モデルハウスに来場される前にVRで見学してもらったり、ルームツアーを見てもらって理解を深めてもらうためのデジタルツールの活用は有効ですが、それだけは家は売れないのです。
そもそもなぜ家を売るのに顧客体験が必要なのでしょうか?それはほとんどの家を買うお客様が購買経験をしたことがない高単価商材だからです。提案された平面の間取図を見ただけで実生活をリアルに感じられる方はほとんどいません。それと今はそれだけではありません。住宅販売において性能の数値は重要で、なぜなら数値化されているので、車の燃費のように比較しやすくわかりやすいからです。ただG2グレードの家とG3グレードの家の違いを表面上の数値以外で判断するのはほぼ不可能なので体験してもらう必要性があるのです。
いくつか具体的な事例をご紹介させていただきます。全館空調を家づくりの特徴とされているH社。前提として全館空調を正しく理解しているお客様はほとんどいません。なので、全館空調の説明をしていては売れません。なぜならお客様からすれば全館空調が欲しくて家を建てるわけではないからです。なぜそれが必要なのかを伝えなければなりません。そのためにいかにヒートショックを防がなければならないかを理解してもらう必要があります。それだけなら動画やパネルで十分かも知れませんが、実際に全館空調の部屋とそうでない部屋を体感してもらうことが最もわかってもらいやすい顧客体験に基づいた伝え方です。
そうした設備や性能にこだわっていなくても顧客体験型セールスは可能です。自社で家を建てる体験を提供できればいいからです。それにはモデルハウスでの宿泊体験です。コロナ前は宿泊体験を行っていた会社もコロナ禍で一旦中断になりましたが、今まさに再開すべき顧客体験です。住んでからの快適性を強みしている会社であればOB宅訪問です。こちらはこれから家を建てるお客様にとっては未来のことなので実際に体験はできませんが、体験者から直接話が聞ける機会をつくることで顧客体験は可能です。営業マンが商談ルームで机に座って口で伝えるだけでは契約率は上がりません。皆さんの会社なりの顧客体験型セールスを取り組んでみてください。