愛知県は、首都圏と近畿圏に次ぐ「第三の経済圏」である中京圏の中核を担い、製造業の集積・人口の規模・所得水準のいずれにおいても、全国の地方住宅市場の中で例外的な厚みを持つ。首都圏・近畿圏を除けば、日本で最も住宅市場が大きく、しかも最も注文住宅率が高いという、一見すると矛盾しているような構造がここにある。弊社の顧問先・会員先も愛知県は比較的多く在籍している。
トヨタ自動車を頂点とする自動車産業群、刈谷・豊田・安城を結ぶ西三河の製造業ベルト、そして名古屋市・尾張地方の都市圏と商業集積。世帯所得は全国平均を大きく上回り、可処分所得を住宅に振り向ける余力を持った一次取得層がコンスタントに発生し続けている。フラット35利用者調査では、愛知県で土地付き注文住宅を建てた世帯の年収は約793万円と、全国平均(約729万円)を64万円ほど上回る水準にある。
しかし愛知県の住宅市場は、ただ「大きい」だけではない。県内は**尾張(名古屋・尾西・尾東)/西三河(豊田・刈谷・岡崎・知多)/東三河(豊橋・蒲郡)**という、まったく経済構造の異なる3つのサブ商圏に分かれており、それぞれで上位ビルダーの顔触れも、消費者の購買行動も、坪単価帯も異なる。さらに北は岐阜県美濃地方、西は三重県北勢地方と、行政区分を越えた「中京住宅商圏」を形成しており、ここで動く一次取得者数は愛知県内の数字だけでは捉えきれない。
本稿では、愛知県内の人口・産業構造から始め、上位ビルダーの戦略、サブ商圏ごとの個別性、中京圏の流入流出の実態、そして注文住宅市場で東海4県9年連続首位を維持するクラシスホームの動きまでを通読する。
目次
愛知県は人口約750万人、世帯数約333万、平均世帯所得は全国でも上位に位置する。新設住宅着工は2024年に持家1万5,578戸(前年比+0.4%)、分譲住宅1万9,816戸(同+5.1%)、貸家1万9,877戸(同▲1.0%)と、持家市場は全国的な縮小局面の中でも踏みとどまっている。注文住宅単独でも全国上位の規模を維持し、しかも世帯所得が高いため坪単価70〜90万円のミドルアッパー層が分厚いという特徴を持つ。
これが愛知県の住宅市場の出発点である。市場が大きく、世帯所得が高く、トヨタ系を中心とした製造業の安定雇用に支えられた持家需要層が県内に偏在している。だからこそ、全国メーカーは愛知に主力拠点を構え、地場のスーパービルダーは愛知から育つ。「中部の中心」ではなく、「日本の住宅産業の主戦場の一つ」として愛知を見る視点が必要になる。
愛知県の住宅市場の特異性を理解する上で、避けて通れないのが製造業集積による安定雇用構造である。トヨタ自動車本体に加え、デンソー・アイシン・豊田自動織機・豊田合成・トヨタ紡織・ジェイテクトといったトヨタグループの中核企業、さらにブラザー工業・三菱重工・川崎重工・三菱電機・パナソニックの主要拠点が県内に集積する。これらに連なる二次・三次のサプライヤー群は、刈谷・安城・豊田・岡崎・小牧・春日井・名古屋市内に広範に分布し、製造業就業者だけで100万人を超える雇用基盤を形成している。
この産業集積が住宅市場に与える影響は、単に「就業者数が多い」というだけではない。長期雇用前提の人事制度/福利厚生としての住宅取得支援/企業健保による生活保障といった、住宅ローンの組みやすさを下支えする要素が、製造業集積地特有の構造として存在する。フラット35利用者調査における愛知県の世帯年収中央値の高さは、この産業構造を反映した結果と読める。
加えて、名古屋市・尾張地方には金融・商社・流通・サービス業の集積もあり、製造業以外の高所得層も厚い。名古屋駅前の再開発(リニア中央新幹線開業を見据えた大型オフィス・ホテル投資)、栄エリアの商業集積の更新、ささしまライブ24地区の都市機能集積など、都市部の経済活動も拡大基調にある。これら都市型ホワイトカラー層は、名古屋市中心部の坪単価100万円超のマンション・カスタムビルダー型注文住宅の購買層であり、住宅市場の上層を支える存在になっている。
愛知県の住宅市場を読む上で、最も重要なのが県内のサブ商圏の分節である。
尾張エリア(尾西・尾東) 名古屋市を中心に、一宮・稲沢・春日井・小牧・尾張旭・北名古屋・あま・愛西などを含む、人口・所得・拠点数のすべてで愛知県内最大の主戦場。一宮は名古屋駅へJR快速で11分という立地から、ベッドタウンとしての吸引力が際立つ。長久手・日進・東郷といった名古屋東部の市町は、若年人口比率と平均所得の双方が高く、子育て世帯の流入が続く「住宅消費パワーゾーン」である。
西三河エリア(知多・刈谷・豊田・岡崎) トヨタ系自動車産業の中核地帯。豊田・刈谷・安城・岡崎・西尾・碧南・知立・高浜・みよし・幸田・東浦・大府・東海・知多・常滑などを含む。製造業勤務の安定雇用に支えられ、坪単価帯はやや高め、住宅性能・耐震性へのリテラシーが平均的に高い。岡崎市は人口約38万、豊田市の約42万と並んで、市単位で大都市並みの規模を持つ。
東三河エリア(豊橋・蒲郡) 豊橋・豊川・蒲郡・新城・田原を中心に、静岡県浜松との文化的・経済的結び付きが強いエリア。県庁所在地名古屋からの距離があり、地場ビルダー・地域工務店の存在感が相対的に大きい商圏である。
このサブ商圏の違いを無視して「愛知県」と一括りにすると、戦略が機能しない。例えば名古屋市内で通用する高デザイン路線と、西三河の製造業ファミリー向けの高性能ベーシック路線では、求められる商品設計も価格帯もまったく違う。愛知では「商品×エリア」の二軸でブランドを設計しなければならない、というのが、愛知に拠点を構える上位各社の共通認識である。
国立社会保障・人口問題研究所の地域別将来推計人口によれば、愛知県の総人口は2030年代前半までは比較的安定的に推移し、その後緩やかな減少局面に入る。名古屋市・名古屋東部(長久手・日進・みよし)は2040年頃まで人口が増加または横ばいで推移する見通しである一方、東三河の中山間部・知多半島南部・東濃に近いエリアでは早期に減少局面に入る。
この人口動態の分岐は、住宅市場戦略に直接的な影響を与える。今後10〜15年の視点で「市場が伸びるエリア」「市場が横ばいのエリア」「市場が縮小するエリア」をサブ商圏×市町村単位で読み分け、出店戦略・人員配置・商品ラインナップを最適化する必要がある。長久手・日進・東郷・東浦・刈谷・安城・豊田北部・名古屋市東部の各区などは、中長期で見ても住宅需要が安定的に発生し続ける「コア商圏」として位置付けられる。
愛知県の2024年度ランキング上位を概観すると、戸建受注における全国メーカーの強さ・地場スーパービルダーの厚み・分譲ビルダーと注文ビルダーの併存という、他の都道府県では見られない「重層構造」が浮かび上がる。PG戸籍名簿より上位15社を見ると、戸建(注文+分譲)の合算で県内首位を取るのは全国メーカー系であり、注文住宅単独に絞ると地場スーパービルダーが頂点に立つ、というクロスする構造になっている。
ランキングの構造を分解すると、上位15社は概ね次の4グループに分類できる。
第1グループ:戸建合算で量的に首位を取る全国メーカー(一条工務店・一建設) 規格化された商品とスケールメリットを武器に、県内の広範な商圏で量を取るプレイヤー。
第2グループ:分譲戸建のパワービルダー(一建設・アーネストワン・不動産SHOP系系) 名古屋郊外・西三河の一次取得層を、低価格帯×短工期×建売中心で取り込むプレイヤー群。
第3グループ:注文住宅の全国大手ハウスメーカー(積水ハウス・住友林業・大和ハウス工業・旭化成ホームズ・積水化学工業) 坪単価ハイエンド帯で、世帯所得上位層・二次取得層・退職金住宅層を取るプレイヤー群。
第4グループ:地場スーパービルダーと中堅注文専業(トヨタホーム・クラシスホーム・アールプランナー・オープンハウスグループ) 愛知・東海4県を主戦場に、地場の知名度と価格バランスで存在感を発揮するプレイヤー群。
このグループ構造を理解せずに「ランキング上位」を一括りで論じると、戦略議論が空転する。それぞれが異なる顧客層・異なる商品設計・異なる集客チャネルで戦っており、競合分析もグループごとに行う必要がある。
一条工務店は、2024年度の県内ランキングで戸建合算ベースの首位グループに位置する。高気密高断熱・坪単価ミドルアッパー帯・全棟標準仕様という同社の商品設計は、世帯所得が比較的高い愛知県の購買層と相性が良く、尾張・西三河の両方で安定的に棟数を積み上げてきた。展示場の集中出展戦略と「予約来場ファースト」運用も、住宅展示場文化が成熟した愛知の市場で効果的に機能している。
愛知県内 一条工務店 展示場一覧(公式サイトから抽出)
このように30-40の展示場が稼働しており、愛知県でもNo1を獲得している。
トヨタホームは、母体であるトヨタ自動車の本拠地である愛知県では、ブランド認知と信頼性で圧倒的なホームアドバンテージを持つ。鉄骨ユニット工法による工期短縮・耐震性能・トヨタ品質という独自ポジションで、特に西三河のトヨタ系従業員市場で安定的なシェアを維持してきた。
積水ハウスは持家ランキングで上位を保ち、特に名古屋市内の都市部・長久手・日進といった所得上位エリアで一定のシェアを取る。坪単価ハイエンド帯では同社の存在感は依然として大きく、PGクライアント経営対話の中でも「名古屋東部での競合分析の起点」として頻繁に言及される。「Be Sai+e」「IS ROY+E」といったフラッグシップ商品で、ブランド価値と性能を両立させた商品ポジショニングを取る。
住友林業は木造プレミアム路線で、坪単価100万円超のハイエンド帯を中心に展開。「The Forest BF」を中核に、邸別自由設計の高デザイン住宅を提案。長久手・日進・名古屋市東部の所得上位エリアでの存在感が大きい。
大和ハウス工業は鉄骨ハウスメーカーとしての安定的なポジションに加え、分譲・注文の両面で県内に厚みを持つ。「xevoΣ(ジーヴォシグマ)」を中核に、外張り断熱と高耐震を兼ね備えた商品で、坪単価ハイ寄りのミドルアッパー帯を取る。
**旭化成ホームズ(ヘーベルハウス)**は名古屋市・尾張エリアで都市型重量鉄骨のニーズを拾い、世帯所得上位の購買層に支持される構造を維持している。「ロングライフ住宅」のブランドメッセージと、ヘーベル版を用いた特異な構造工法が、デザイン重視層・性能重視層の双方に訴求できる。
**積水化学工業(セキスイハイム)**はユニット工法の代表格で、工場生産率の高さによる品質安定・工期短縮を武器に、愛知県内でも安定的に上位ランクインしている。
一建設は分譲戸建(パワービルダー)として県内ランキング上位の常連。低価格帯の一次取得層を広く取り、特に名古屋郊外・西三河の通勤圏で量的なプレゼンスを発揮する。同社の戦略は「土地仕入れの圧倒的な量×建売中心の高回転モデル×短工期」の三位一体で、注文住宅メーカーとは異なる土俵で量を稼ぐ。
アーネストワンも同様に分譲戸建の主力プレイヤーであり、ローコスト帯から愛知の一次取得市場を支える存在となっている。アールプランナーは名古屋を中心とした注文住宅でブランドを確立し、坪単価ミドル帯の若年層に強い。SNS・Tiktokでの情報発信が活発で、デジタルマーケティングを駆使した集客モデルを愛知県内で先行展開してきた。
オープンハウスグループは名古屋都市部での土地仕入れから建売まで一気通貫で展開し、近年の伸長が著しい。同社は東京・神奈川での成功モデルを名古屋市内に持ち込み、駅近・狭小・3階建てというフォーマットで、名古屋中心部の若年DINKS・共働き世帯を取り込んでいる。
クラシスホームは、PG戸籍名簿より2024年度愛知県ランキングで注文住宅ベースの上位グループに入る、東海地区を代表する地場スーパービルダーである。同社の動向は、愛知県の住宅市場を語る上で外せないため、第5章で独立して掘り下げる。
過年度のランキング推移を観察すると、いくつかの構造変化が浮かび上がる。第一に、全国メーカー上位群の集中度が依然として高いこと。これは、住宅展示場文化が成熟した愛知では、ブランド認知と展示場露出による「指名買い」の力が他県以上に強いことを示している。第二に、分譲戸建パワービルダーのシェアが安定的に増加していること。共働き世帯の増加・土地取得難・住宅価格上昇局面で、「建売を買って住む」という選択肢が一次取得層の中で常識化しつつある。第三に、地場スーパービルダー(注文住宅)のポジションが地味に強いこと。全国メーカーと違い、地域密着の細やかな顧客対応と価格バランスで、ミドル〜ミドルアッパー帯を奪い続けている。
この3つの構造変化は、今後5年でさらに加速する可能性が高い。全国メーカーは展示場とブランド広告で上層を維持し、分譲パワービルダーは下層を量で固め、地場スーパービルダーが中層を取る──この「サンドイッチ構造」が、愛知の住宅市場の競争パターンとして定着しつつある。
愛知県の住宅市場の心臓部は、いうまでもなく名古屋市である。中区・東区・千種区などの中心部は、坪単価が全国でも上位の水準(中区で坪400万円近い水準)にあり、注文住宅の主戦場というよりも、富裕層向けカスタムビルダー・都市型重量鉄骨メーカーの主戦場である。
名古屋市内16区はそれぞれが異なる住宅市場の性格を持つ。中区・東区は地価最上位の都市型市場、千種区・昭和区・瑞穂区・名東区は文教地区として教育レベルと所得水準が高い層を抱える住宅地、北区・西区・南区・港区は中堅所得層のファミリー世帯が厚いベッドタウン的性格、天白区・緑区・守山区は名古屋市内でありながら比較的広い土地が取りやすく、注文住宅向け一次取得層の主戦場、中川区・熱田区は都市型分譲戸建が量的に動くエリア、というように、市内16区の中だけでも住宅商圏の性格が分かれる。
しかし名古屋市の住宅市場として最も厚いのは、北区・西区・南区・港区・天白区・名東区・緑区といった周辺区である。これらの区では坪単価が中心部よりも大幅に下がり、長久手・日進と並ぶ「子育て世帯の家づくりゾーン」を形成している。緑区は名古屋市の中で最も人口が多く、地場スーパービルダーが本社や旗艦店を構える戦略立地でもある。クラシスホームの本社が緑区桶狭間にあるのは、その意味で愛知の住宅市場の地理構造を象徴している。
一宮市(人口約37万)は、JR快速で名古屋駅まで11分という立地の良さから、名古屋のベッドタウンとしての吸引力が極めて強い。岐阜県との県境に位置するため、岐阜県側からの流入動線も持つ。郊外型のロードサイド展示場が機能するエリアで、坪単価帯はミドル〜ミドルアッパーが厚い。一宮市の住宅市場は、繊維産業の歴史を背景に持つ古い住宅地と、名古屋通勤者向けの新興住宅地が混在する二層構造を持ち、エリア内でもサブセグメントを意識した出店戦略が必要になる。
春日井市・小牧市は、名古屋東北部のベッドタウンとして、製造業就業者・公務員ファミリーの安定的な持家需要を持つ。春日井市は約30万、小牧市は約15万の人口規模を持ち、ロードサイド型・展示場型・分譲型の三つの集客チャネルが並走する商圏である。長久手・日進・東郷と並ぶ、子育て世帯の流入が続くエリアでもある。航空自衛隊小牧基地・自動車・機械工業の集積が安定的な雇用基盤を提供している。
稲沢・あま・愛西は尾西の郊外住宅地として、一次取得層向けの土地付き注文住宅と分譲戸建が並走する商圏である。これらのエリアは、名古屋市内で土地取得が難しくなった一次取得層が「同じ予算で広い土地を」と求めて流出する受け皿となっており、20〜30代の子育て世帯の流入が継続している。
北名古屋・尾張旭・清須は、名古屋市に隣接する小さな衛星都市群として、都市生活の利便性と郊外住宅地の余裕を両立させたい層を取り込んでいる。これらの市は、人口規模では各市10万人前後と小さいが、世帯所得の中央値は名古屋市内よりむしろ高いケースもあり、坪単価ミドル〜ミドルアッパーの注文住宅市場として無視できない存在である。
長久手市は、住みよさランキングの上位常連であり、平均世帯所得・住民の平均年齢の若さ・教育水準・利便性のすべてで愛知県内随一の住宅消費パワーゾーンを形成する。ららぽーと愛知東郷・IKEA長久手といった大型商業集積が周辺にあり、子育て世帯の流入が続く。日進市・東郷町も同様の構造を持ち、世帯所得が県平均を上回るレンジでまとまっている。
長久手市の人口構成の特徴は、住民の平均年齢が全国の市町村の中でも極めて若いこと。これは2005年の愛・地球博開催以降の都市基盤整備と、名古屋市東部からの転入による若年子育て世帯の流入が継続的に起きていることが背景にある。市内に複数の大学キャンパス(愛知淑徳大学・愛知県立大学・愛知医科大学・愛知工業大学等)が立地することも、教育志向の高い世帯の流入を促している。
このエリアは、坪単価ミドルアッパー〜ハイエンドの注文住宅メーカーが集中的に展示場・モデルハウスを構える「展示場戦争のメインステージ」である。一条工務店・積水ハウス・住友林業・ヘーベルハウス・クラシスホーム・アールプランナーといった上位各社が拠点を重ね、来場予約獲得の競争が最も激しい。各社の展示場が長久手・日進の幹線道路沿いに集中し、消費者は1日で複数社の展示場を比較できる「展示場ベルト地帯」が形成されている。
尾張エリアを商圏設計の観点で整理すると、以下の3層に分かれる。
この3層は、商品ブランド・価格帯・展示場戦略のすべてを変える必要があり、「尾張で1ブランドで勝つ」ことは構造的にできないというのが、地場スーパービルダーが多ブランド化・店舗フォーマット分化を進める理由である。
尾張エリアの住宅消費者は、「展示場で比較してから決める」という購買行動が依然として主流である。ABCハウジング・CBCハウジング・毎日ハウジング・住まいの公園といった総合住宅展示場が県内に点在し、消費者は最低3〜5社を回って比較検討する。SUUMO・LIFULL HOME’S・タウンライフといったポータルサイトでの一次情報取得から、展示場での体感比較、そして敷地調査・プラン提示・契約というファネルが、愛知県では比較的整然と機能している。
これに加えて近年は、Instagram・YouTube・TikTokによる完成事例の閲覧が、展示場訪問の前段階として確立しつつある。特に20〜30代の一次取得層は、まずSNSで気になる施工事例を見つけ、その会社の展示場を「指名訪問」するパターンが増えている。この変化に対応できているのは、SNSコンテンツに継続投資している地場スーパービルダーと、デジタルマーケティングを駆使する中堅注文専業ビルダーである。
西三河は、トヨタ自動車を頂点とする自動車産業群に支えられた、製造業就業者の持家需要が分厚いエリアである。豊田・刈谷・安城・岡崎・西尾・碧南・知立・高浜・みよし・幸田・東浦・大府・東海・知多・常滑などを含み、人口で見れば尾張に次ぐが、世帯所得の中央値の高さ・雇用の安定性・長期住宅ローンの組みやすさという観点では、愛知県内で最も持家市場のファンダメンタルズが強い地域である。
豊田市は人口約42万、岡崎市は約38万、刈谷市は約15万、安城市は約19万。これらの市は、それぞれが単独で「中規模都市の住宅市場」として成立する規模を持ち、市単位で展示場の出展戦略を組む必要がある。
豊田市は、トヨタ自動車本社所在地として、日本の自動車産業の中心地である。市内には本社・元町工場・上郷工場・高岡工場・堤工場・貞宝工場・明知工場・下山工場・衣浦工場(碧南)と、トヨタの主要工場群が集中。さらに豊田自動織機・アイシン・トヨタ自動織機・トヨタ紡織・トヨタ車体・デンソーといった主要グループ会社の工場・拠点も多数立地する。
これにより、豊田市の住宅市場はトヨタ系従業員=高所得・長期雇用・住宅取得能力の高い層で構成される独特の構造を持つ。同社の住宅取得支援制度(社内融資・住宅手当・寮制度等)は、地域の住宅市場の安定的な需要創出に直接寄与している。
豊田市内のサブエリアとしては、市街地中心部(豊田市駅周辺)、北部の山間部、東部の工業集積地、西部のベッドタウン地区、南部のみよし境界エリアと、市内でも商圏の性格が分かれる。住宅会社が豊田市で勝つには、市全体を一括りで見るのではなく、サブエリアごとの所得帯・年齢層・土地条件を読み分ける必要がある。
刈谷市・安城市・知立市は、デンソー・アイシン・豊田紡織といったトヨタ系一次サプライヤーの本社・主力工場が集積する西三河の中核工業都市群。これらの市は、人口規模では豊田・岡崎よりも小さいが、世帯所得の中央値・住宅取得層の厚みでは引けを取らない。
刈谷駅周辺は、JR東海道線・名鉄三河線が交差する西三河の交通ハブで、近年は駅前再開発も進んでいる。三河安城駅は東海道新幹線停車駅であり、新幹線通勤を前提とした遠距離通勤者の住宅取得層も存在する。これらの駅近・利便性重視層向けには、都市型注文住宅・狭小地対応住宅の市場が形成されている。
一方、刈谷・安城・知立の郊外部は、土地条件に余裕があり、坪単価ミドル帯・延床35〜40坪・駐車場2〜3台という「西三河標準仕様」の注文住宅市場が広がる。共働き世帯比率が高く、家事動線・収納設計・宅配ボックス対応・電気自動車充電設備といった現代的な住宅機能への要求水準が高い点も特徴である。
西三河の住宅取得層は、製造業勤務の安定雇用に支えられ、以下のような特徴を持つ。
このため、西三河で支持されるビルダーは、**「高性能をベーシックに、長期保証を厚く、駐車場2〜3台が標準プラン」**という3要件を満たす商品を持つ。坪単価帯は尾張のミドルアッパーとほぼ同等だが、性能要求の高さから坪単価70〜85万円のレンジに需要が集中する。
大府・東海・知多・東浦といった知多半島北部は、名古屋市への通勤圏として尾張の延長線上の性格も持つが、常滑・武豊・南知多といった半島南部に向かうにつれて、地場ビルダー・地域工務店の存在感が増す。中部国際空港の開港以降、常滑周辺の人口動態は安定しており、空港関連雇用・物流業の集積が新しい住宅需要を生んでいる。
大府市はJR快速で名古屋駅まで約15分というアクセスから、名古屋市内よりも静かな環境を求めるベッドタウン需要が継続的にある。東海市は新日鐵住金名古屋製鐵所を中心とする鉄鋼業の城下町で、製造業就業者の安定的な持家市場を持つ。
岡崎市は徳川家康のふるさととして知られる歴史都市であり、名古屋市・豊田市の双方のベッドタウンとして注目を集める。名鉄東岡崎駅・JR岡崎駅から名古屋駅まで約30分、愛知環状鉄道で豊田市にもアクセスしやすい立地で、子育て世帯の流入が続く。
岡崎市の住宅市場は、市街地中心部の都市型住宅、北部山間部の自然志向型住宅、南部・西部のベッドタウン型住宅と、市内でも複数のサブセグメントが並存する。岡崎・西尾・幸田を結ぶエリアは、西三河と東三河の結節点として、地場ビルダーが地域密着型のブランドで根を張る商圏である。坪単価ミドル帯の注文住宅と、分譲戸建のパワービルダーが並走する構造を持つ。
西三河の住宅市場戦略は、「性能を売る/長期保証を売る/駐車場と動線を売る」の三本柱で構築される。デザイン志向よりも実用志向、ブランド訴求よりも性能訴求が機能しやすい商圏であり、商品開発・営業ロープレ・モデルハウスのコンセプト設計のすべてを、この特性に最適化する必要がある。
具体的には、以下の運用がPGクライアントの中で実装されてきた:
クラシスホーム(本社:名古屋市緑区桶狭間清水山、代表取締役:高木正次氏、設立2004年6月、グループ売上高304億円・従業員600名規模、2025年実績)は、東海4県(愛知・岐阜・三重・静岡)に本社を置くビルダーの中で、2016〜2024年度の9年連続で注文住宅着工棟数No.1を維持している地場スーパービルダーである。PG戸籍名簿より、2024年度の愛知県ランキングでは注文住宅ベースの上位グループに位置する。
同社のポジショニングは、「デザイン・性能・コストの三位一体バランス」という独自路線にある。建売や規格住宅ではなく、こだわりのデザインの注文住宅一筋で、自社設計・自社管理・自社施工というフルオーダー型のオペレーションを徹底している。設計事務所のデザイン力と、地元工務店の柔軟性・職人ネットワーク、そして全国メーカー並みの知名度・アフター体制を併せ持つという独自のポジションを確立した。
クラシスホームの拠点展開は、東海・関西で全12店舗(緑店/長久手店/春日井店/津島店/一宮店/豊田店/岡崎店/半田店/豊橋店/岐阜店/四日市店/大阪茨木店)に達している。注目すべきは、店舗の地理的配置である。
四日市店は2025年12月にオープン予定、大阪・東京は2026年にオープン予定で、東海4県の地場王者から、関西・首都圏も含めた広域型ビルダーへの転身フェーズに入っていることが店舗計画から読み取れる。
同社の商品設計上の特徴は、「坪単価ミドルアッパー帯(70〜90万円レンジ)で、設計事務所水準のデザインを、地場価格で提供する」という、価格帯と提供価値のギャップを最大化する戦略にある。地元工務店特有の職人ネットワークと自由度・柔軟性を武器にしながら、設計事務所のデザイン力と全国メーカー並みの知名度・安心感を併せ持つ。東海4県の本社拠点ビルダーで圧倒的な実績を背景に、構造解析ソフト「ウォールスタット」を全棟検証に組み込むなど、見えない性能領域まで標準化を進めている。
集客面では、東海4県を中心とした各種住宅展示場(CBCハウジング、ABCハウジング、毎日ハウジング等)に拠点を置き、SNS・公式サイトでの完成事例公開を厚く運用している。グループ全体で家具・インテリア・エクステリア・店舗併用住宅・飲食事業まで広げ、住宅単品ではなく「暮らし全体」を提供する事業構造へと進化させている点も特筆すべきである。
クラシスホームの拠点配置(緑・長久手・春日井・津島・一宮・豊田・岡崎・半田・豊橋)は、愛知県の住宅市場の主要拠点を一筆書きでなぞるような配置になっている。これを逆から読むと、愛知県で本気で勝とうとすると、これだけの拠点数と地理的展開が必要になる、ということでもある。
地場スーパービルダーが、全国メーカー以上の店舗網を県内に張り巡らせる──これは愛知県以外の道府県ではほとんど見られない現象であり、愛知県の住宅市場の厚みと、地場プレイヤーの戦闘力を象徴している。
クラシスホーム以外にも、PG戸籍名簿より愛知県に本社を置き、完工棟数で年間300棟以上の規模を持つビルダーが複数社存在する。クラシスホームを含めると、愛知県を本拠地とする戸建ビルダーで完工棟数300棟超のプレイヤーは合計9社にのぼり、これは全国の都道府県の中でも例外的に多い数字である。
これら9社は、注文住宅特化型/建売中心型/アパート併設型/注文+建売の併走型と、それぞれ異なる事業構造を持つ。事業構造の違いから、9社の中で「直接的な競合関係にある会社」は意外と少なく、それぞれが愛知県内のサブ商圏・価格帯・商品タイプで棲み分けを成立させている、というのが実態である。PG戸籍名簿の決算データを横並びで見ると、以下のような階層構造が浮かび上がる。
完工棟数1,000棟超レンジ 愛知県本社のビルダーの中で、年間完工棟数が1,000棟を超える規模を持つのは、ウッドフレンズ(売上高約295億円・従業員154名・名古屋市中区本社)と東建コーポレーション(売上高約1,538億円・従業員4,909名・名古屋市中区本社)。ウッドフレンズは建売主軸・名古屋都市圏の分譲戸建市場の主力プレイヤー、東建コーポレーションはアパート建築主軸の異色プレイヤーで、戸建注文・建売市場とは異なる土俵を持つ。
完工棟数800〜1,000棟レンジ AVANTIA(売上高約368億円・従業員192名・名古屋市中区本社)、アールプランナー(売上高約310億円・従業員305名・名古屋市東区本社)、クラシスホーム(売上高約290億円・従業員460名・名古屋市緑区本社)の3社。AVANTIAは建売主軸、アールプランナーは注文+建売の併走型、クラシスホームは注文住宅一筋という商品構造の違いがある。
完工棟数400〜600棟レンジ エサキホーム(売上高約223億円・従業員236名・一宮市本社)、不動産SHOPナカジツ(売上高約363億円・従業員600名・岡崎市本社)、サーラ住宅(売上高約133億円・従業員228名・豊橋市本社)の3社。エサキホームは尾西の一宮、サーラ住宅は東三河の豊橋、ナカジツは西三河の岡崎と、本社所在地が県内の異なるサブ商圏に分散しているのが特徴である。
完工棟数300〜400棟レンジ アーレックス(売上高約141億円・従業員91名・名古屋市中区本社)。
この9社を一覧すると、本社所在地が名古屋市中区・東区・緑区に集中する一方、一宮・岡崎・豊橋といったサブ商圏の核都市にもそれぞれ独立した地場ビルダーが本社を構えていることがわかる。県内の主要拠点を、地場資本のビルダーがしっかりと押さえている──これが愛知県の住宅市場の地場プレイヤー層の厚みを象徴している。
なお、各社の事業構造・経営戦略の踏み込んだ動向については、本稿ではあくまで「県内市場の構造を読む素材」として規模感を提示するにとどめる。個別の事業戦略・出店戦略・商品開発の方向性については、PGクライアント経営対話の中で個別に共有している。
愛知県の完工棟数300棟以上の地場ビルダー9社を「県外進出のスタンス」という軸で再整理すると、県内特化型・東海4県広域型・全国広域型・関東進出型・全国展開型という、5つの異なる戦略パターンが並走していることがわかる。
全国展開型(土地活用主軸) 東建コーポレーションは、母体である土地活用・賃貸建築の事業特性を活かして、北海道から九州まで全国規模で支店網を構築している。アパート建築・賃貸仲介(ホームメイト)を主軸とする事業構造が、戸建注文住宅とは異なる「全国展開のフィージビリティ」を生んでいる典型例である。
全国広域型(不動産・分譲主軸) 不動産SHOPナカジツは、岡崎本社から愛知・岐阜・静岡・千葉・埼玉・福岡・熊本まで広域展開。不動産仲介・分譲住宅・リノベーションを組み合わせたワンストップモデルを各エリアに移植する事業構造で、現在7都県にプレゼンスを持つ。同社は「名古屋から、世界へ」を掲げてIPO準備を進めており、今後さらにエリアを広げる可能性が高い。
関東進出型(東京2本社体制) アールプランナーは、2021年の東証マザーズ(現グロース)上場後、東京本社を新宿NSビルに開設し「名古屋本社・東京本社の2本社体制」へ移行。グループ拠点は計36拠点に拡大しており、内訳は愛知17拠点・東京8拠点(アールプランナー本体)に加え不動産部門11拠点。「アールギャラリー」ブランドのテレビCMを関東地区にも投入し、アンバサダーに山崎育三郎氏を起用するなど、関東市場への本格進出フェーズに入っている。
中部圏+関西・関東・九州型 AVANTIAは、コアエリアの愛知県を深耕しつつ、三重事業部・関西事業部を重点強化、さらに関東・九州エリアにも新規出店を進めている。拠点は名古屋市内(南・東・西・栄)・春日井・豊田・東海・一宮・刈谷・岡崎・豊橋という愛知県内主要市に加え、四日市・岐阜・浜松・金沢・宝塚と中部圏外にも面展開する。「エリア戦略」と「ブランド戦略」を成長戦略の両輪に据えた、明確な広域型ビルダーである。
東海4県広域型(東海地盤密着) クラシスホームは東海4県+大阪・東京(出店予定)、サーラ住宅は東海4県(特に静岡県西部の浜松・磐田・湖西を含む)を主商圏として、東海地盤を活かした広域展開を進める。クラシスホームは2025年12月四日市店・2026年大阪店・2026年東京店という出店計画で、東海4県本社ビルダーから広域型ビルダーへの転身フェーズにある。サーラ住宅は中部ガスグループの一員として、東海地域における「地域インフラ企業の一員」というポジショニングで、東海4県内での密着型展開を継続している。
県内特化型(愛知深耕) ウッドフレンズ(名古屋市中区本社、長谷工コーポレーション傘下)、エサキホーム(一宮市本社)、アーレックス(名古屋市中区本社)の3社は、愛知県内(一部は岐阜南部・三重北勢)を主戦場とし、県内深耕型の戦略を取る。特にウッドフレンズは2024年に長谷工コーポレーションの完全子会社となり、東証スタンダード市場・名証メイン市場の上場を廃止、親会社の経営資源を活用した愛知県内事業の強化局面に入っている。
この5パターンを横並びで見ると、いくつかの示唆が浮かび上がる。第一に、「愛知の地場ビルダー=愛知だけで戦う」という時代は既に終わっていること。完工棟数300棟超の9社のうち、純粋な愛知県内特化型は3社にとどまり、残り6社は何らかの形で県外進出を進めている。第二に、進出先のパターンが「中京住宅商圏(岐阜・三重)の延長」と「関東・関西の三大都市圏」の2系統に分かれること。地続きの中京住宅商圏は商圏設計の延長で進出できる一方、関東・関西進出には別のブランド構築・組織能力・資本政策が必要になる。第三に、上場・親会社経営資源活用が県外進出の触媒になっていること。アールプランナー(東証グロース)、AVANTIA(東証スタンダード)、ウッドフレンズ(長谷工子会社)、ナカジツ(IPO準備中)といった資本政策との連動が、エリア戦略を支える構造になっている。
愛知県内市場の競争を分析する際、これらの地場ビルダー上位9社が、それぞれ異なる地理戦略・成長戦略・資本政策で動いていることを前提に置く必要がある。「愛知の地場プレイヤーの地理スコープが、もはや愛知県内に閉じていない」──これが愛知県の住宅市場を語る上での重要な前提条件である。
愛知県の住宅市場を理解する上で決定的に重要なのが、県境を越えた住宅取得が大規模に発生しているという事実である。名古屋市を中心とする中京圏は、首都圏・近畿圏に次ぐ三大都市圏の一つであり、域内総生産は約42兆円。**愛知県・岐阜県・三重県の3県にまたがる「中京住宅商圏」**として、行政区分を超えた住宅市場が形成されている。
中京住宅商圏は、おおむね次のような範囲で構成される。愛知県全域を中心に、岐阜県美濃地方(岐阜・羽島・瑞穂・大垣・各務原・関・美濃加茂・可児・多治見・土岐・瑞浪・恵那・中津川等)、そして三重県北勢地方(桑名・四日市・鈴鹿・亀山・いなべ・木曽岬・東員・菰野・朝日・川越・大紀町等)まで。これに長野県南信地方(飯田・伊那・木曽地方)、静岡県西部・遠州地方(浜松・湖西・磐田・袋井・掛川等)を加える広域概念もある。
岐阜市・羽島市・瑞穂市・岐南町・大垣市といった岐阜県南部は、JR東海道線で名古屋駅まで約20分という立地から、「岐阜県に住んで名古屋に通勤する」というライフスタイルが定着している。岐阜駅〜名古屋駅間はJR快速・新快速が10〜15分間隔で運行し、朝の通勤時間帯のキャパシティも十分に確保されている。名鉄岐阜駅〜名鉄名古屋駅間も特急で約30分、毎時複数本の運行があり、通勤手段の選択肢が豊富である。
岐阜県の岐阜市の平均坪単価は約26万円と、名古屋市の坪単価平均(約160万円近い水準)と比べて圧倒的に低い。同じ予算でより広い土地・より大きな住宅を建てられるため、名古屋勤務者にとっては「岐阜に建てる」という選択肢が経済合理性を持つ。岐阜県岐阜市は、政治・経済の中心地でありながら、名古屋のベッドタウンとしても発展を続けている。岐阜県の移住・定住ポータルサイトによれば、令和6年度に愛知県から岐阜県に移住した人数は885人で、そのうち73%を20〜30代が占めている。
岐阜県側のベッドタウン群を整理すると、以下のような層に分かれる。
また、岐阜県東濃地方(多治見・土岐・瑞浪・恵那・中津川)は、JR中央線で名古屋まで約1時間。リニア中央新幹線の中津川駅開業を控え、中長期の住宅需要が高まる地域として注目されている。中津川は長野県南信地方との結び付きも深く、リニア開業後は「東京〜名古屋〜中津川〜長野県南信」を一直線に結ぶ新しい広域生活圏が立ち上がる可能性がある。
**三重県の北勢地方(桑名・四日市・鈴鹿)**は、名古屋市までの通勤圏として、もう一つの「県境ベッドタウン」を形成している。桑名駅〜名古屋駅間は約30分、四日市は近鉄特急で名古屋まで約30分。北勢地方は名古屋経済圏に組み込まれ、桑名市にはアウトレットモール・イオンモール桑名などの大型商業集積もある。
桑名市の平均坪単価は約18万円水準で、名古屋市・岐阜市と比べても土地取得の経済合理性が高い。三重県北勢地方の住宅市場は、三重県の県内市場というよりも、「名古屋通勤圏の住宅市場」の延長線として読む必要がある。
三重県北勢地方のサブエリアは以下のような層に分かれる。
クラシスホームが2025年12月に四日市店をオープン予定としていることも、この「中京住宅商圏」の構造を踏まえた拠点戦略である。愛知県の地場スーパービルダーが、三重県北勢地方を「県外市場」ではなく「自社の主商圏の延長」として扱う──これが中京住宅商圏の実態である。
愛知県内の住宅会社が、岐阜・三重の北勢地方・美濃地方からの来場者・契約者を一定割合で取り込んでいる、というのが中京住宅商圏の本質である。同時に、岐阜・三重の地場ビルダーも、愛知県内(特に名古屋西部・尾西)からの来場者を取り込んでいる。
つまり、愛知県の住宅市場戦略は、「県内市場のみを見ていては読み切れない」。一宮・稲沢・あま・愛西といった尾西エリアの展示場には岐阜県南部からの来場者が流入し、名古屋西部・北部の展示場には岐阜市・羽島市からの来場者が、知多半島北部の展示場には三重県桑名・四日市からの来場者が、それぞれ一定割合で含まれる。
逆方向で見れば、岐阜県側の展示場・三重県側の展示場には愛知県側からの流出があり、両県のビルダーが愛知県の市場の一部を取り込んでいる。
この双方向の流動は、ナフサショック以降の原材料高騰・建築コスト上昇局面でさらに加速する可能性が高い。名古屋市の地価上昇に対して可処分所得が追いつかない世帯が、岐阜・三重の郊外に土地取得の選択肢を求めて流出するパターンが、若年層を中心に増加傾向にある。
中京住宅商圏を前提とすると、広告・集客の最適化も大きく変わる。テレビCM・新聞折込・ラジオといったマス広告は、メーテレ(名古屋テレビ)・CBC・東海テレビ・中京テレビといった愛知発の広域放送局を経由することで、岐阜南部・三重北勢にも同時に到達する。一方で、岐阜県・三重県の地域紙・地域CMだけでは、愛知県側の消費者には届かない。
デジタル広告では、Google・Meta・YouTube・TikTokのターゲティングを、行政区分ではなく「商圏単位」で設定する必要がある。「愛知県全域」だけでなく、「岐阜県岐阜市・羽島市・瑞穂市」「三重県桑名市・四日市市・鈴鹿市」を追加することで、中京住宅商圏全体へのリーチが取れる。展示場の位置情報を中心に半径30km・60kmといった同心円ターゲティングを設定することも、商圏設計に即した有効な手法である。
ピュアグロース式・愛知県戦略フレームは、以下の4軸で構成される。
軸1:商圏×商品の二軸ブランド設計 尾張・西三河・東三河で求められる商品が異なり、さらに尾張内部でも名古屋中心部・周辺区+東部・尾西ベッドタウンの3層で異なる。「1ブランドで全域カバー」という構造は機能しない。価格帯別・商品コンセプト別の多ブランド化、または店舗フォーマット分化が必須となる。
軸2:性能訴求の徹底 特に西三河では、消費者の住宅性能リテラシーが平均的に高い。気密・断熱・耐震・空気質・長期保証──これらの要素を「業界トップクラス」レベルで標準装備し、かつ訴求できるか否かが、契約率を左右する。クラシスホームがウォールスタットによる全棟構造検証を標準化している事例は、性能の見える化の典型例である。
軸3:中京住宅商圏を前提とした拠点戦略 愛知県内の拠点配置だけで戦略を組むのではなく、岐阜南部・三重北勢を含む中京住宅商圏全体で拠点を最適化する。名古屋市内の展示場には岐阜南部からの来場者が、知多半島北部の展示場には三重北勢からの来場者が来る、という前提でモデルハウス・接客・契約後の引渡し動線を設計する。
軸4:来場予約ファースト × SNS × LLMO 愛知県は住宅展示場文化が成熟しており、ABCハウジング・CBCハウジング・毎日ハウジング・住まいの公園など、複数の総合展示場が県内各地に存在する。来場予約ファースト運用で接客効率を最大化しつつ、SNS(Instagram・YouTube・TikTok)で完成事例を公開して認知を取り、LLMO(生成AI最適化)で生成AI経由の指名検索にも対応する──この3チャネルの統合運用が、愛知の競争環境で勝ち残るための前提条件になっている。
愛知県で住宅会社を経営する経営者にとって、6か月で取り組むべき優先アクションは以下の通り。
このフレームは、すでに愛知県内で支援を行ってきた中堅地場ビルダー数社との経営対話の中で、繰り返し検証されてきた実装可能なフレームである。
愛知県の住宅市場は、規模・所得水準・産業構造のいずれを取っても、日本の地方住宅市場で例外的な厚みを持つ。同時に、県内3サブ商圏(尾張・西三河・東三河)の分節、名古屋東部の住宅消費パワーゾーン、岐阜・三重との中京住宅商圏、そして9年連続東海No.1の地場スーパービルダー(クラシスホーム)を含む重層的な競争環境──これらすべてが、愛知の住宅市場を「最も大きく、最も難しい」マーケットにしている。
愛知で勝つためには、「県内市場のみを見る」「1ブランドで全域を狙う」「全国メーカーと同じ土俵で戦う」という3つの罠を避けることが必要である。商圏×商品の二軸設計、性能訴求の徹底、中京住宅商圏を前提とした拠点戦略、SNS×LLMO×来場予約ファーストの統合運用──この4軸を経営戦略に組み込めるか否かが、今後5年の愛知県市場での勝者と敗者を分ける。
ピュアグロース株式会社は、愛知県内の複数の住宅会社の経営支援を通じて、本稿で整理した4軸のフレームを実装してきた。愛知県で住宅会社の経営戦略を再設計したいとお考えの経営者の方は、ぜひお気軽にご相談いただきたい。
公的統計
PGナレッジ
■ 最後に|ピュアグロースへのご相談・お問い合わせ
愛知県の住宅市場で、貴社の経営戦略・出店戦略・商品戦略を再設計したい経営者の方は、ぜひお気軽にお問い合わせください。
ピュアグロース株式会社 代表取締役 宮内和也