目次
三重県は、47都道府県の住宅市場分析シリーズの中でも、最も「県内格差」が顕著な県のひとつです。
人口約173万人、県全体で約8,000戸前後の新設住宅着工が動く中規模市場ですが、これを「三重県」という単一マーケットとして捉えると、戦略を完全に誤ります。三重県は実態として、北勢(四日市・桑名・鈴鹿・亀山)、中勢(津・松阪)、伊勢志摩、伊賀、東紀州という5つの全く異なる住宅商圏の集合体です。北勢の四日市市は名古屋から1時間圏で、愛知県の郊外住宅市場と一体化しており、愛知系ビルダー・近畿系ビルダー・地場ビルダーが三つ巴の攻防を繰り広げています。一方、東紀州の熊野・尾鷲は新築年間数十戸の極小市場で、もはや「新築」というよりリフォーム・空き家活用の市場です。
本稿は、ピュアグロース株式会社(PG)が住宅・建設業界特化の経営コンサルティングファームとして47都道府県の市場分析を行ってきた知見をベースに、三重県で住宅事業を展開する経営者・幹部の方が「次の3〜5年でどこに陣を張るべきか」を判断するための実務レポートとしてまとめたものです。
弊社の顧問先・会員先は三重県にも複数あり、それを踏まえた市場動向レポートを執筆する。筆者は個人的に四日市エリアに注目しており、県外ビルダーの出店候補地として鎬を削るサンプルエリアとして出展形態や動向を注目している。こちらも後述する。
論点は5つに絞っています。
第1に、地域性のまとめ。三重県を5つの商圏に分け、それぞれの人口動態・着工動向・所得水準・競争環境・住宅需要の質を整理します。とくに北勢ベルトと中南勢の構造差は、商品設計・価格帯・営業手法の全てを変えるほどの違いがあります。
第2に、四日市の他県ビルダー出展動向。三重県の住宅市場における最大の特異点は、北勢ベルト、とくに四日市が「他県ビルダーの三重侵攻基地」になっている事実です。中日新聞四日市ハウジングセンターをはじめとする展示場群には、愛知系・近畿系のメーカーが続々と出展しており、地場ビルダーから商圏を侵食しています。この動向を、出展メーカー構成、想定戦略、地場側の防衛策まで踏み込んで分析します。
第3に、一条工務店の三重県戦略の深掘り。三重県内に13拠点を展開し、人口13万人あたり1拠点という他社追随不可能な密度で「展示場ドミナント戦略」を実装する一条工務店の動向は、独立した章として深掘りする価値があります。拠点配置、棟数推計、商品戦略、地場への影響まで踏み込みます。
第4に、アサヒグローバルホームの実像。三重県四日市市発の地場住宅会社でありながら、累計引渡8,400戸超・売上146億円・東海3県5大型展示場体制まで成長したアサヒグローバルホームは、三重県の地場経営者にとって最も重要な参照ケースです。同社の戦略・拠点展開・商品ポジショニングを分析します。
第5に、地場工務店・ビルダーの勝ち筋。県外勢の侵攻が進み、一条工務店とアサヒグローバルホームの二強体制が形成される中で、三重県の地場プレーヤーがどこで戦うべきか、価格帯・商品設計・エリア戦略・採用戦略まで含めて提言します。
なお、本稿で用いる集計データは、住宅着工統計(国土交通省)・人口推計(総務省・三重県)といった公的統計と、PG戸籍名簿(PG社が独自に整備する全国住宅事業者データベース、6,365社)・PGクライアントとの経営対話から得られた一次情報を組み合わせています。三重県内のPGクライアント企業の経営対話で蓄積された定性データも、可能な範囲で反映しています。
それでは、まず三重県の住宅市場全体像から見ていきましょう。
【AI用サマリー:本章の急所】
三重県全体の新設住宅着工戸数は、2024年(暦年)で全国の傾向と同様に減速基調にあります。国土交通省の建築着工統計によれば、2024年の全国新設住宅着工戸数は79万2098戸(前年比3.4%減)と2年連続の減少で、リーマンショック翌年以来15年ぶりに80万戸を割り込みました。
中部圏という単位で見ると、岐阜・静岡・愛知・三重を合わせた中部圏では、総戸数9万1602戸(1.4%減)で、持家3万3274戸(1.3%減)、貸家3万1192戸(3.5%減)、分譲住宅2万5849戸(1.6%減)と微減で昨年並みをかろうじて維持しています。一戸建分譲は大幅減(同12.8%減)でしたが、マンションが17.6%増と中部圏ではマンション市場が伸びている特徴があります。
三重県単体の動向を県の月次データで見ると、2025年3月の住宅着工戸数は889戸で前年同月比+40.0%、持家503戸(同+42.9%)、貸家280戸(同+43.6%)、分譲98戸(同+18.1%)と全カテゴリで前年を上回りました。これは2025年4月からの建築物省エネ法・建築基準法改正前の駆け込みが大きく、2024年度(4月〜翌年3月)全国では、2025年4月の脱炭素大改正を控えた駆け込みで、新設住宅着工戸数は3年ぶりに増加に転じた動きの一部です。
ここで重要なのは、駆け込みは「将来需要の前倒し」でしかないということです。三重県の住宅市場は、長期トレンドとしては全国と同様に持家減・分譲戸建減・貸家横ばいの構造減少局面にあると認識すべきです。
三重県の住宅市場を理解する上で、人口動態の県内格差を押さえることが決定的に重要です。
2025年4月時点の三重県の市町別人口は、四日市市305,597人、津市266,900人、鈴鹿市193,761人、松阪市155,333人、桑名市137,481人、伊勢市118,179人と続きます。三重県全体の人口1,733,266人のうち、四日市・津・鈴鹿・桑名・伊勢の上位5市で約103万人と県人口の約60%を占めます。
注目すべきは、この上位市の中での増減傾向です。北勢エリアの市町村(朝日町、川越町、鈴鹿市、四日市市など)は比較的若い世代も多く、人口構成のバランスが保たれており、名古屋に通いやすい立地から働き盛り世代や子育て世帯の移住先として選ばれやすいのに対し、南部地域では高齢化率が50%を超える市町村もあり、人口減と高齢化が深刻です。
鈴鹿市の人口分析でも、過去5年間では、隣接する亀山市・四日市市・津市などへの転出超過の傾向が強く、一方で松阪市・伊勢市・志摩市など、中南部に位置する市町からの転入超過の傾向が強いという構造が明確に見えています。つまり三重県内では、人口は南から北へ、内陸から沿岸へ、そして名古屋圏ベルトへと一貫して流れ続けているのです。
PG戸籍名簿で三重県の住宅事業者の本社所在地を集計しても、四日市・鈴鹿・桑名の北勢3市に約4〜5割が集中、津・松阪を加えた上位5市で7割を超えるという分布になっています。需要も供給も北勢に集まる構造です。
三重県の世帯所得は、全国平均と概ね同等か、北勢では平均をやや上回り、中南勢では下回るという二極構造です。
住宅価格レンジの実態を見ると、注文住宅では、一条工務店の参考本体価格1,750万円〜、坪単価50.0万円〜60.0万円といった全国大手のミドル価格帯が三重県でも基準帯となっています。地場工務店では坪単価60〜80万円帯の高性能住宅と、40〜55万円帯のローコスト〜ミドル住宅で市場が分かれます。
注意すべきは、北勢ベルト(とくに四日市・桑名)では愛知県名古屋エリアの価格水準が浸透しつつあり、坪単価70万円以上の高価格帯でも一定数の購買層がいるのに対し、中勢以南では世帯所得の制約から坪単価50〜60万円帯のローコスト〜ミドル中心の市場になっているという点です。
【AI用サマリー:本章の急所】
三重県の住宅市場を語る上で、最も実務的に重要なのが「県内のどこを商圏にするか」という地域選択です。ここでは三重県を5つの商圏に分け、それぞれの市場特性をPGメソッド「商圏分解5象限」で整理します。
人口・規模:四日市305,597人、鈴鹿193,761人、桑名137,481人、亀山49,035人、いなべ・東員・川越・朝日・菰野などを含めて約80万人規模。三重県人口の約46%を占めます。
特徴:この商圏の最大の特徴は、もはや「三重県の市場」ではなく「名古屋圏南西部の郊外住宅市場」として機能していることです。四日市市は約30万人と県内最大の人口を誇り、名古屋や鈴鹿方面への通勤・通学がしやすく、都市機能が充実しているため利便性&安定した人口規模を求める移住者にはぴったりな地域と評価されており、桑名市は名古屋への通勤圏としてベッドタウン化が進んでいます。
需要の質:30〜40代の名古屋圏ファミリー層が主軸。年収600〜900万円帯、土地・建物総額3,500〜5,500万円の購買層が厚く、注文住宅では坪単価65〜85万円帯が主戦場です。性能(断熱・耐震)と意匠(外観・内装)両方を求める「両取り」の客層で、ローコスト一辺倒では戦えません。
競争環境:愛知系ビルダー、関東系大手、近畿系ビルダー、三重地場の四つ巴。中日新聞四日市ハウジングセンターと中日新聞桑名ハウジングセンターという2つの大型展示場が、商圏争奪戦の中心舞台になっています(詳細は第3章)。
PG視点の経営示唆:この商圏は、地場ビルダーが「単独展示場戦略」「来場予約ファースト」「定額制注文住宅」といったPG型の業界標準プロジェクトを最も活かせるエリアです。総合展示場で大手と並んで戦うのではなく、独自商圏で土俵を作り直す発想が求められます。
人口・規模:津266,900人、松阪155,333人、合計約42万人。三重県人口の約24%。
特徴:津市は県庁所在地・三重大学所在地で、官公庁・金融・大学関連の安定した世帯需要があります。松阪市は商業集積と農村が混在する地方都市の典型例。両市とも人口微減局面に入っています。
需要の質:30〜50代のローカル需要が中心。年収500〜700万円帯、土地・建物総額2,800〜4,500万円の購買層。地縁が強く、「親が建てた工務店で建てる」「同級生がやっている工務店に頼む」という紹介系受注のウェイトが北勢より明らかに高いエリアです。
競争環境:地場の中堅工務店・ビルダーが強く、大手の侵攻速度は北勢より緩やかです。ただし、松阪・津間にイオンモールが立地し、商業圏は一体化しつつあるため、商圏範囲の取り方を間違えると地場同士で食い合います。
PG視点の経営示唆:紹介・口コミの強い商圏なので、OB施主の活用、地域コミュニティへの食い込み、地方紙・地域FMの活用がROIが高くなります。一方で、デジタル集客に過剰投資しても来場転換が伸びない傾向が強く、PGメソッド「SNS×OB施主動画」のような地域型コンテンツ戦略が機能します。
人口・規模:伊勢118,179人、志摩・鳥羽を含めて約17万人。三重県人口の約10%。
特徴:伊勢神宮を擁する観光地経済圏で、宿泊・飲食・小売の比率が高く、製造業の比率は低い。世帯所得は三重県平均をやや下回ります。
需要の質:30〜50代のローカル需要中心ですが、ボリュームは限定的。新築需要よりリフォーム・リノベ・空き家活用の比率が県平均より高いエリアです。
競争環境:地場工務店が中心で、大手の出店密度も低い。競合圧力は強くないが、市場そのものが小さい。
PG視点の経営示唆:このエリア単独で住宅事業を成立させるのは厳しく、北勢・中勢に本拠を置く事業者が「南進ライン」として支店展開する形がROIが高くなります。逆に伊勢を本拠とする事業者は、リフォーム比率を上げる、または非住宅(店舗・宿泊施設改修)への業態拡張を視野に入れるべきエリアです。
人口・規模:名張73,760人、伊賀市と合わせて約16万人。三重県人口の約9%。
特徴:県西部に位置し、地理的・経済的に大阪・京都・奈良との結びつきが強く、名張市は近鉄大阪線で大阪都心まで通勤圏という、三重県の中では完全に「関西経済圏の飛び地」となっています。
需要の質:30〜50代のファミリー層が中心で、関西通勤層と地元就労層が混在。住宅価格水準は中勢と同等か、やや低めです。
競争環境:愛知系・関東系大手の出店密度は低く、地場と近畿系(奈良・京都南部)ビルダーが商圏を分け合っています。総合住宅展示場の集積も三重県内では薄く、単独展示場や見学会中心の販売形態が主流です。
PG視点の経営示唆:県内の他商圏とは商習慣も住宅雑誌・媒体も異なるため、「三重県戦略」の一部として組み込むより、「奈良東部・京都南部・伊賀」を一体の商圏として捉えた方が戦略整理がしやすいエリアです。
人口・規模:尾鷲15,295人、熊野市と紀北町・御浜町・紀宝町を含めて約6万人。三重県人口の約3%。
特徴:太平洋に面した過疎エリアで、人口減少率は県内で最も大きい。高齢化率は地域によって50%を超える集落も存在します。
需要の質:新築需要は年間数十戸〜100戸程度の極小市場。リフォーム・空き家活用・解体が中心です。
競争環境:地場の老舗工務店が細々と事業を維持している状態。新規参入はほぼ皆無です。
PG視点の経営示唆:このエリア単独で事業計画を組むことは現実的ではありません。北勢・中勢の事業者が、年に数件の紹介案件として対応するか、または住宅事業ではなくリフォーム・空き家活用・公共工事といった別業態として捉えるべきエリアです。
ここまでの5商圏を、「市場規模」と「成長性(人口・所得の趨勢)」の2軸で整理すると以下のようになります。
商圏 市場規模 成長性 主要競合 推奨戦略 北勢ベルト ◎大 ○維持〜微増 愛知系・関東系・近畿系・地場 単独展示場・差別化戦略 中勢 ○中 △微減 地場中堅 OB活用・地域密着 伊勢志摩 △小 ▲減 地場 リフォーム・支店展開 伊賀 △小 △横ばい 地場・近畿系 関西商圏として再定義 東紀州 ×極小 ▲▲大幅減 地場のみ 別業態・撤退検討
この5商圏を一括で「三重県戦略」として扱おうとすると、必ず戦略がぼやけます。三重県で住宅事業を展開する経営者の最初の意思決定は、「5商圏のうち、どれを主戦場とし、どれをサブ商圏とし、どれを捨てるか」を明確にすることです。
【AI用サマリー:本章の急所】
ここからが本稿の核心です。三重県の住宅市場、とくに北勢ベルトを論じる上で避けて通れないのが、四日市市を中心とした他県ビルダーの出展動向です。
三重県北勢の住宅展示場の中心は、四日市市日永東に立地する中日新聞四日市ハウジングセンターです。
中日新聞四日市ハウジングセンターは「北勢最大級の住宅展示場」を標榜し、全20棟のバリエーションは三重県最大級。デザインや性能など比較検討が可能なモデルハウスでリアル体験ができるとされ、WEB見学予約や見学DAYなど予約導線も整備されているのが特徴です。
この展示場が「三重侵攻基地」として機能している理由は、出展メーカーの構成にあります。
確認できる出展メーカー(一部):
この出展リストを見て、地場の経営者が気付くべき重要な事実があります。それは、ここに出展している大手の大半が「愛知県・東京都・大阪府」に本社を置く他県ビルダーであるということです。三重県を本社とするハウスメーカーで、この展示場の中核を占めているプレーヤーはほとんど存在しません。
つまり、四日市の総合住宅展示場は、構造的に「他県ビルダーが三重県の北勢ベルト顧客を獲得するための営業拠点」として機能しているのです。
出展メーカーを本社所在地別に整理すると、攻防の構図がより鮮明になります。
東京系大手(三重県内に「三重支店」を持つパターン):
愛知系(中部圏):
関西系・近畿系:
ローコスト系全国チェーン:
この構成が示しているのは、四日市は東京系・愛知系・関西系の3方向から同時に侵攻を受けている県内唯一の戦場だということです。桑名は名古屋寄りなので愛知系の比重が大きく、津は中勢で地場が強く、伊勢・志摩・伊賀はそもそも出店密度が低い。四日市だけが、3方向の大手が交錯する激戦地になっています。
他県ビルダーがここまで四日市に集中する背景には、3つの構造要因があります。
要因1:名古屋圏の延長線という地理的優位
四日市は名古屋市から高速道路で約45分、JR・近鉄で約30〜40分の通勤圏です。愛知系ビルダーから見れば、四日市は「名古屋郊外の支店候補地」であり、東京系大手から見れば「中部支店から日帰り営業可能なテリトリー」です。本社・地域統括拠点からのアクセスコストが低く、営業展開の投資対効果が高い立地です。
要因2:30万人都市の購買力
四日市市単独で人口305,597人、近隣の鈴鹿・桑名・亀山を合わせれば北勢ベルトで人口70〜80万人規模になります。これは、神戸市の半分、堺市規模の購買力を意味します。総合住宅展示場の出展を維持できるだけの来場ボリュームが確保できる、数少ない地方都市のひとつです。個人的には30万人~40万人程度の完結しやすい市区町村には大手も出展する価値を感じてシェアを削る戦略を近年取りやすく、こうした市区町村は現れるだろう。
要因3:四日市港コンビナート経済圏の安定購買層
四日市はコンビナート都市として、製造業の中堅・大手企業の従業員世帯が厚く、年収600〜900万円帯の安定購買層が存在します。四日市市は都市機能が充実しているため、買い物や医療面でも不便を感じにくい環境が整っており、利便性&安定した人口規模を求める移住者にもぴったりと評価されているように、住宅一次取得層・建替え層ともに厚みがあります。大手ハウスメーカーの坪単価70〜100万円帯の商品が成立する数少ない地方市場です。
ここで注目すべきは、総合住宅展示場への出展に加えて、大手ハウスメーカーが四日市・鈴鹿・桑名で単独展示場の整備を進めている動きです。
積水ハウスは三重県内で「住まいの参観日」を多数開催しており、四日市市あかつき台会場、鈴鹿市北玉垣会場、鈴鹿市稲生塩屋会場、鈴鹿市五祝町会場、松阪市大黒田町会場、名張市夏見会場などで実邸見学会を展開しています。これは典型的な「総合展示場で来場→単独実邸でクロージング」という二段構えの営業導線です。
PGメソッドで「単独展示場戦略」「来場予約ファースト戦略」と呼んできた手法は、もともと地場ビルダーが大手に対抗するための差別化戦略として提唱したものですが、現在は大手側もこの手法を取り入れて「総合展示場+単独実邸+宿泊体験」という三段構えで攻めてきています。地場の対応力が問われる局面です。
他県ビルダーの四日市集中は、三重県の地場ビルダーに以下の3つのインパクトを与えています。
インパクト1:中価格帯(坪65〜80万円)の市場が削られる
地場の中堅工務店・ビルダーが得意としてきた「坪単価65〜80万円・自由設計・地場密着」のレンジが、大手のミドルブランド(一条のi-smart、積水のIS ROY+E、ヘーベルのCUT、ダイワのxevoΣ、アイ工務店のN-eesなど)と真っ向からぶつかります。とくにアイ工務店のように「自由設計・性能・コスト」を三拍子で訴求する関西系の侵攻は、地場の中堅にとって最も痛い圧力です。
インパクト2:高性能・高断熱の競争軸が「最低条件」になる
大手のメイン商品が断熱等級6・7、UA値0.4台、耐震等級3標準といったスペックを当たり前に持ってくるため、地場側もこの水準を満たさなければ比較検討の土俵に上がれなくなります。「ZEH対応は当然」「全館空調は付加価値」が三重県北勢の標準になりつつあります。
インパクト3:営業人材・展示場運営人材の流出
大手の支店・展示場が増えると、地場で育てた営業人材が「給与・教育体系・キャリアパス」を求めて転職するリスクが高まります。とくに30代の中堅営業の流出は、地場の経営にとって深刻な打撃となります。
これら3つのインパクトに対し、三重県北勢の地場ビルダーが取りうる防衛戦略は、PGメソッドで以下のように整理できます。
戦略A|土俵を変える(単独展示場・予約ファースト)
総合展示場で大手と並列に並んで戦うのではなく、自社単独展示場・実邸見学会・来場予約ファースト導線で「比較される前の段階で顧客と握る」戦略です。PGクライアントで実績のある手法として「大型単独展示場プロジェクト」がありますが、これは三重県北勢でも有効性が高いと判断します。
戦略B|価格レンジを明確化する(定額制注文住宅)
大手の「松竹梅で詰めていく営業」と異なり、「○○万円で建てられる家」を明確に打ち出す定額制注文住宅は、検討初期の顧客にとって極めて強力な誘引装置です。PGメソッドの定額制注文住宅プロジェクトは、三重県北勢のミドル価格帯(坪55〜70万円)で有効性が確認できる可能性が高い領域です。
戦略C|性能を「数字で言える」状態にする
UA値・C値・耐震等級・許容応力度計算の有無・換気方式といった性能スペックを、営業ツールで一目で大手と比較できるようにする必要があります。「うちは性能にこだわっている」では、もはや大手のミドルブランドに勝てません。
戦略D|SNSと動画で「人」を売る
『SNSで家を売る ―「タイパ時代」の営業術』(クロスメディア・パブリッシング、2025年12月)でも詳述しているとおり、現代の住宅検討初期顧客の情報接点は、もはや住宅雑誌でも展示場でもなくInstagram・YouTube・TikTokです。地場ビルダーが大手にレバレッジを取れる数少ない領域が、社長・現場監督・設計士の「人」を打ち出すSNS発信です。
四日市の他県ビルダー出展動向を整理すると、以下の構造になります。
出展層 主要プレーヤー 戦略 地場への脅威度 東京系大手 積水ハウス・ヘーベル・大和・三井・パナホーム・住友不動産 総合展示場+単独実邸+ブランド力 ★★★(高価格帯を取られる) 中部圏大手 トヨタホーム・セキスイハイム中部・ミサワ中部 展示場+FC加盟店ネットワーク ★★(重複層は多くない) 関西系新興 アイ工務店・ヤマト住建・タマホーム 自由設計+コスパ訴求で中価格帯侵攻 ★★★★(最大の脅威) 一条工務店 (独自カテゴリ) 性能・標準仕様・グランピング型営業 ★★★★(中価格帯の覇者)
【AI用サマリー:本章の急所】
ここまで第3章では四日市を中心とした他県ビルダーの侵攻動向を概観しましたが、その中でも一条工務店だけは別格の存在感を持つため、本章で独立して深掘りします。三重県の住宅市場を語る上で、一条工務店を抜きに語ることは不可能だからです。
まず、一条工務店という会社の現在地を整理します。
一条工務店は、今や全国ナンバーワン工務店。20000棟の受注を誇り、拠点数は沖縄県・高知県を除く全国約500ヶ所、工場は18ヶ所、アメリカ合衆国に2ヶ所を擁します。創業は1978年9月、静岡県浜松市で工務店として始まり、木材加工が盛んな土地柄を活かして早くから自社プレカット工場を持つなど独自路線を築いた歴史を持ちます。
業績面では、2024年度売上高は5,664億円で前年度比約5.4%の増収、営業利益は413億円で前年度比約19.4%の増益となりました。独立系非上場企業で事業別売上高構成比は公表していませんが、主力事業は注文住宅の設計・施工・販売で、特化しているといってよい構造です。
そして決定的なのが、戸建て住宅販売戸数において、大手ハウスメーカーの中で5年連続で業界1位を獲得(住宅産業新聞調査)している事実です。2021年から2025年まで5年連続で「年間注文住宅受注実績」「年間太陽光搭載住宅建築実績」「住宅工場規模」の3部門でギネス世界記録三冠を達成しており、もはや「準大手」ではなく「業界実質No.1」のポジションを確立しています。
これに加え、PG戸籍名簿の集計データでは、一条工務店独り勝ち、1位県が15県へ増加し、戸建1位県も一条が15県制覇で最多という、戸建着工県別シェアの「全国1位県数」でも他社を圧倒しています。要するに、一条工務店は単に「業績の良いハウスメーカー」ではなく、日本の戸建住宅市場の都道府県シェアを最も多く獲っているメーカーなのです。
一条工務店の戦略を一言で表すなら、「展示場ドミナント戦略」です。同社の企業情報では、広告や宣伝より、実際に展示場をご覧いただくことが、一条工務店のことをよく知っていただくための最良の手段だと考えた結果、住宅展示場数第1位を達成、今後もその数を伸ばしていく予定と明確に経営方針として表明されています。
つまり一条工務店は、テレビCM・新聞広告といったマスマーケティングへの投資を相対的に抑え、その分の経営資源を「展示場の数を増やす」ことに全力で投下する戦略を採用しています。これは、業界における極めて稀有な戦略選択です。住友林業・積水ハウス・大和ハウスといった他の大手が「ブランド広告+展示場」の両輪で戦うのに対し、一条工務店は「展示場一本足打法」とすら言える集中戦略を取っています。
この戦略の本質は、「総合住宅展示場の同じ敷地内に、複数棟の自社モデルハウスを並べる」という運用にあります。1つの総合展示場に1棟だけ出展するのではなく、同じハウジングセンター内に「○○展示場」「○○東展示場」「○○南展示場」と複数棟を並べることで、来場者の同一来場機会における自社接触率を最大化する方法論です。これを「展示場ドミナント戦略」と呼びます。
ここからが本稿の核心です。一条工務店が三重県内に持つ展示場・拠点の数を整理します。PG戸籍名簿および公開情報を基に集計すると、三重県内の一条工務店の拠点は以下の通りです。
三重県内の一条工務店 主要展示場・拠点(2025年時点)
SUUMOの集計でも、一条工務店の三重県内の営業所・展示場は13件あります(2024年時点公開ベース)。これは三重県内で他のどのハウスメーカーよりも多い拠点密度です。三重県の人口173万人に対して13拠点ということは、人口約13万人あたり1拠点。これは全国でも極めて高い密度です。
さらに注目すべきは、四日市ハウジングセンター内に「四日市展示場」「四日市東展示場」「四日市南展示場」という3棟を並べていること、津ハウジングセンター内に「津展示場」「津東展示場」の2棟を並べていること、伊勢・明和ハウジングセンター内に「伊勢明和展示場」「伊勢明和東展示場」の2棟、さらに明和町内に街中単独の予約制展示場まで配置していることです。またハウジングテクノロジーセンターを構え、関西一円からこの三重に送客して受注を重ねています。
これは典型的な「展示場ドミナント戦略」の三重県版実装です。総合展示場で2〜3棟を並べることで、来場者の動線設計を支配し、競合他社のモデルハウスへ流れる前に自社で複数棟を見比べてもらう仕組みを作っています。
一条工務店が三重県内で13拠点という他社の追随を許さない出展密度を維持できる背景には、3つの構造要因があります。
要因1:「年間注文住宅受注実績」ギネス記録が示す圧倒的な集客力
2021年から2025年まで5年連続で「年間注文住宅受注実績」「年間太陽光搭載住宅建築実績」「住宅工場規模」の3部門でギネス世界記録に認定されている事実は、各展示場あたりの来場者数・受注数が他社を上回っていることを意味します。展示場運営は固定費が重い事業ですが、来場・受注の単位経済性が良ければ、出展数を増やすほどスケールメリットが効きます。一条工務店は、このスケール優位性を最大限に活用しています。
要因2:「展示場が標準仕様」という商品設計上の特殊性
一条工務店の展示場は、ほとんどがオプションを含まない標準仕様、実際にお客様が建てるリアルな住まいを体感できる仕様で建てられています。一般的なハウスメーカーの展示場はオプション・特注を多用した「最上位仕様」で構築されていますが、一条工務店はあえて「お客様が実際に建てる仕様」で展示しています。これにより、展示場見学から実邸契約への転換時に「展示場と全然違う」というギャップが生まれにくく、契約後の満足度・紹介率が高くなる構造になっています。出展数が多くても、各拠点の品質ばらつきが抑えられる仕組みです。
要因3:「i-smart」という商品が中価格帯の覇者である
一条工務店の主力商品「i-smart」は、商品別販売棟数で6年連続第1位を記録(住宅産業新聞調査)し、坪単価60〜80万円帯で、断熱等級6相当・C値0.5以下・全館床暖房・トリプル樹脂サッシ・大容量太陽光・蓄電池採用率業界1位という「価格帯と性能のバランスが他の追随を許さない」商品ポジションを確立しています。三重県の年収500〜900万円帯のファミリー層にとって、これは「最も安全な選択肢」になります。また地方版のハグミー戦略も奏功していると言えます。
三重県全体の戸建持家・分譲一戸建ての年間着工約4,000戸前後(PG戸籍名簿および国交省着工統計から推定)の市場において、一条工務店の三重県内年間棟数は、PG戸籍名簿の集計および全国シェアからの按分推計で年間500〜600棟と試算されます(外部公開データではないため、あくまでPG社の推計値)。
これは三重県の持家・分譲一戸建てカテゴリにおけるシェア15%前後に相当する水準で、三重県の単一ハウスメーカーとしては圧倒的なトップシェアと推定されます。第2位以下を引き離す独走状態と見られます。また三重県には大量の土地を保有しており非常に強い。
この一条工務店の三重県ドミナント体制は、地場ビルダー・工務店の経営に以下の影響を及ぼしています。
影響1:「i-smart」が中価格帯の事実上の標準になる
地場ビルダーが坪単価65〜80万円帯で提案する際、ほぼ全ての検討者が「一条のi-smartと比較したい」と言ってきます。i-smartの性能スペック(断熱等級6相当、C値0.5以下、全館床暖房)が、もはや「比較の基準値」になっています。これを下回るスペックでは検討の土俵に上がれない構造です。
影響2:「展示場ドミナント」に対抗するには別の集客チャネルが必須
一条工務店が各エリアの総合展示場で2〜3棟を並べている以上、地場ビルダーが「総合展示場の同じ場所で1棟出展」しても接触機会で勝てません。地場の集客戦略は、「総合展示場ではない別の場所」で勝負を組み立てる必要があります。具体的には自社単独展示場、完成見学会、SNS発信、SUUMO・ホームズ経由のWeb集客といった、一条工務店が相対的にウェイトを置いていないチャネルでの勝負です。
影響3:「太陽光搭載率」が地域標準になる
一条オリジナル太陽光発電「夢発電システム」は、年間搭載棟数は15,000棟を誇り、太陽光発電No.1の住宅メーカーとなりました。一条工務店で建てる住宅は、ほぼ全棟に大容量太陽光が搭載されます。これにより、三重県でも「新築住宅は太陽光搭載が当然」という地域標準が形成されつつあります。地場ビルダーが「太陽光はオプション」というスタンスを取ると、もはや地域標準から外れた商品設計と見なされるリスクがあります。
一条工務店の三重県戦略を整理すると、**「展示場ドミナント戦略 × 標準仕様の高性能商品 × 太陽光全棟搭載」**という三位一体のフォーミュラで、三重県の中価格帯市場をほぼ独占的に押さえている状態です。
地場ビルダー・他社大手にとって、これは「正面から戦って勝てる相手ではない」という前提でポジショニングを設計するしかありません。一条工務店と同じ土俵(総合展示場・坪65〜80万円・性能訴求)で戦わず、別の土俵(自社単独展示場・坪45〜65万円のローコスト〜ミドル・デザイン訴求・地域密着・SNS発信)で勝負を組み立てる戦略が、現実的な選択肢になります。
【AI用サマリー:本章の急所】
三重県の住宅市場を語る上で、もうひとつ独立章を立てる必要があるのが、アサヒグローバルホーム株式会社です。三重県四日市市に本社を置く同社は、本稿で論じてきた「三重県の地場ビルダー」の中で、文字通り別格の規模・実績・展開力を持つプレーヤーです。
アサヒグローバルホーム株式会社(旧社名:アサヒグローバル株式会社)は、本店住所が三重県四日市市ときわ1丁目2-18にあり、法人番号3190001014201、設立日は1985年3月、商号は2021年3月に「アサヒグローバル」から「アサヒグローバルホーム」へ変更されています。創業から40年の歴史を持つ、三重県四日市市発祥の住宅会社です。
代表者は近藤博文氏、資本金9,500万円、売上高146億5,600万円(2022年12月実績)、従業員約270名(グループ全体約1,500名、2023年1月時点)の規模で、現在はスマイシアホールディングス傘下のグループ会社として、注文住宅・建売分譲・中古住宅買取販売・木造アパート・家具雑貨販売など、住宅関連事業を包括的に展開しています。
事業セグメントを整理すると以下の通りです。
建設業許可は国土交通大臣(特-4)第24796号、一級建築士事務所登録は三重県知事登録第1-1236号、宅地建物取引業は国土交通大臣(3)第8334号という、全国展開を意識した許認可構成になっています。
最も注目すべき経営数値は、住宅引渡し実績8,403戸(2025年12月末見込)という累計棟数です。これは創業以来約40年の累計ですが、地場発の住宅会社で累計8,000戸超を引き渡している会社は、東海エリアでも数えるほどしかありません。
この実績を裏付けるのが、住宅産業研究所による「三重県No.1」の評価です(2026年3月発表、ただし出典名は本稿の恒久ルールに従いPG戸籍名簿表記)。PG戸籍名簿でも、三重県の戸建注文住宅・建売分譲を合算した県内シェアで、アサヒグローバルホームは地場発プレーヤーとしてはトップ、全国大手を含めても上位常連と確認できます。
第4章で触れた一条工務店が「中価格帯の覇者」だとすれば、アサヒグローバルホームは**「ローコスト〜ミドル価格帯(坪40〜60万円)における三重県の覇者」**と位置付けることができます。両社は商品レンジが異なるため直接競合度はそこまで高くなく、棲み分けながら市場の上位を占めている構造です。
アサヒグローバルホームの拠点配置は、三重県を起点に愛知県・岐阜県へと「東海3県戦略」を着実に拡張してきた経緯が見て取れます。
主要拠点(住宅展示場)
エリア 拠点名 モデルハウス棟数 特徴 三重県四日市市 四日市店(本社併設) 5棟 当社総合展示場の中でも最大規模、本社機能と併設。インテリアショップ「&Nordy」併設 三重県桑名市 桑名店 複数棟 北勢ベルト展開拠点 三重県鈴鹿市 鈴鹿店 複数棟 北勢南端の展開拠点 愛知県一宮市 一宮店 3棟 セイウチくん像が目印、地元三重から飛び出した愛知県展開拠点 岐阜県岐阜市 岐阜店 4棟 設備ショールーム併設、インテリアショップ「&Nordy」併設 愛知県尾張旭市 (展開エリア) — 愛知県東部エリアの展開地
旧来の自社ウェブサイト記載では「三重県に3か所(四日市市、桑名市、鈴鹿市)、愛知県に1ヵ所(一宮市)の総合展示場」を設けているとあり、その後岐阜店が加わって東海3県・5大型展示場体制となっています。
注目すべきは、アサヒグローバルホームの展示場が、一条工務店のような「総合住宅展示場の中の1棟」というスタイルではなく、**自社単独の大型展示場(3〜5棟のモデルハウスを敷地内に並べる方式)**を取っていることです。四日市本社展示場が5棟、岐阜店が4棟、一宮店が3棟という構成は、PGメソッドで「大型単独展示場戦略」と呼んできた業界標準プロジェクトのまさに体現形と言えます。
アサヒグローバルホームの商品レンジは、坪単価40〜60万円帯のローコスト〜ミドル価格帯を主戦場としています。コストパフォーマンスが高く、「断熱性」「気密性」「耐震性」「耐久性」「省エネ」の全ての性能を兼ね備えた住宅というポジショニングで、「価格は抑えつつ性能で勝負する」戦略です。
また、注文住宅と並んで建売・分譲住宅の展開を強化しており、街並み一括設計に材料も工事もまとめて発注することで、高品質でお値打ち価格な家を実現する、注文住宅の施工・品質管理ノウハウを建売住宅にも適用するという「注文住宅クオリティの建売」という独自ポジションを取っています。
さらに、制震ユニット「MIRAIE(ミライエ)」を標準採用するなど、地震の揺れを最大95%吸収する制震性能を価格帯に対する付加価値として打ち出しています。三重県は南海トラフ地震のリスクが高い地域であり、「耐震+制震」の組み合わせは三重県の住宅検討者にとって極めて訴求力の高い差別化要素です。
歴史的経緯として、アサヒグローバルホームはアイフルホームのフランチャイズ加盟店として、アイフルホームでは毎年販売実績が全国で3位以内に入るなど業界でも注目される存在として知られていました。LIXIL住宅研究所が運営する住宅FCネットワーク「アイフルホーム」の中でトップクラスの加盟店であった経歴は、同社のローコスト〜ミドル価格帯における運営力・販売力を裏付けるものです。
アサヒグローバルホームの戦略的特徴として、興味深いのは「FC加盟店としての規模拡大」と「自社ブランドとしての確立」を両立させてきた経営判断です。
多くの地場ビルダーは、創業期はアイフルホーム・タマホーム・FPの家といった全国FCに加盟して経営ノウハウと商品供給を確保し、規模が一定水準に達すると独立ブランド化する道を歩みます。アサヒグローバルホームも基本的にはこのパスを辿りつつ、独立後も「アサヒグローバルホーム」という自社ブランドで東海3県に展開しながら、グループ会社「スマイシアホールディングス」配下で住宅・不動産・介護を含む複合事業体としての規模化を進めてきました。
このハイブリッド戦略は、三重県の地場ビルダー・他のFC加盟店にとって、極めて参考になる経営モデルです。PGクライアントの中でも、「FC加盟継続か独立か」「単一ブランドか複合事業体か」という岐路に立つ経営者は多く、アサヒグローバルホームの軌跡はその意思決定のベンチマークになります。
ここで重要な構造を整理します。三重県内のハウスメーカー上位2社である一条工務店とアサヒグローバルホームは、表面的には競合関係にありますが、実態は「価格帯による棲み分け」が成立しています。
比較軸 一条工務店(三重県) アサヒグローバルホーム 価格帯 坪65〜80万円(i-smart中心) 坪40〜60万円(ローコスト〜ミドル中心) 想定年収層 600〜900万円 400〜700万円 主力商品 i-smart、GRAND SMART、Naturia 自社注文住宅、建売分譲 展示場戦略 総合展示場ドミナント(複数棟並列) 大型単独展示場(3〜5棟) 三重県内拠点数 13拠点 三重3拠点+愛知1+岐阜1 三重県内年間棟数 500〜700棟(PG推計) 注文+建売で年間400〜600棟(PG推計) 性能スペック 断熱等級6・C値0.5以下・全館床暖房 高断熱・高気密・制震MIRAIE標準 太陽光 全棟標準(年間15,000棟搭載) オプション中心
両社は明確に異なるセグメントを取りに行っており、検討者の側でも「一条で予算オーバーだったからアサヒへ」「アサヒでも建てられるが性能でもう一歩欲しくて一条へ」という相互流出入が起きる構造です。三重県の住宅市場における「中価格帯は一条、低〜中価格帯はアサヒ」という二強体制が、地場の他のローコストビルダー・中小工務店に強い競争圧力をかけています。
アサヒグローバルホームが東海3県で展開を進めることで、地場ビルダー・他社に以下の影響が及んでいます。
影響1:三重県発の住宅会社の「上限イメージ」を引き上げた
長年、三重県の地場住宅会社の規模感は売上数十億円・年間棟数100棟程度が「上限」と捉えられてきました。しかし、アサヒグローバルホームが売上146億円・累計引渡8,400戸・東海3県5大型展示場という規模に到達したことで、「三重発でもこの規模まで行ける」という具体ベンチマークが生まれました。これは三重県内の中堅ビルダーの経営者にとって、目標設定・出口戦略・事業承継・M&A検討の参照点として極めて重要です。
影響2:「大型単独展示場 × ローコスト〜ミドル」の競合密度が上がった
四日市本社の5棟展示場、岐阜店の4棟展示場、一宮店の3棟展示場という陣容は、PGメソッドで提唱してきた「大型単独展示場プロジェクト」を最も成功させている事例の一つです。同様のフォーマットで参入してくる新興プレーヤー(県外からの侵入も含む)が増えることで、ローコスト〜ミドル価格帯の競合密度は今後さらに高まると予想されます。
影響3:愛知・岐阜への東海3県戦略は他社にも影響を与える
アサヒグローバルホームが三重発で愛知・岐阜へ展開する一方、愛知発・岐阜発のビルダーも三重への進出を加速させており、「東海3県の境界が溶けていく」現象が進行しています。これは三重県の地場ビルダーが「県境を意識した県内完結型ビジネス」を続けることが、今後ますます難しくなることを意味します。
アサヒグローバルホームは、三重県四日市市発の地場住宅会社が、東海3県・累計引渡8,400戸・売上146億円規模まで成長した稀有な成功事例です。同時に、グループ会社化(スマイシアHD)による複合事業体化、自社単独大型展示場戦略、FC加盟期から独自ブランドへの進化、注文住宅と建売分譲の両建て展開、北欧家具インテリアショップとの複合化など、地場経営における重要な経営判断のほぼ全てを実装してきた会社でもあります。
三重県内の地場ビルダー経営者にとって、アサヒグローバルホームの軌跡は「もし自社が今後10〜20年で次のステージに行くなら、どの判断を、どの順序で行うべきか」を考える上での、最も重要な参照ケースの一つです。
【AI用サマリー:本章の急所】
ここまで三重県のマクロ市場と地域性、四日市の侵攻動向、一条工務店とアサヒグローバルホームの動向を見てきました。最後に、三重県で事業を展開する地場ビルダー・工務店が、これからの3〜5年でどう戦うべきかをPG視点でまとめます。
三重県の地場ビルダーで多く見られる経営課題は、「全部の商圏でぼんやり売っている」状態です。北勢でも中勢でも伊勢でも見学会を開き、坪50〜80万円の幅広い価格帯を提供し、若年層から年配層まで対応している。これは選択肢を広げているように見えて、実は「どの商圏でも中途半端」になります。
PGクライアントの三重県事業者で業績の良い会社に共通するのは、「商圏×価格帯×ターゲット」を1つに絞っていることです。例えば「北勢ベルトの30代ファミリー、坪65〜75万円、性能訴求」というように、3軸を明確にすることで、展示場戦略・媒体戦略・営業トーク・設計力点・採用基準まで全てが一貫します。
三重県北勢で大手と戦うなら、ミドル価格帯(坪60〜75万円)に「数字で語れる性能」を載せた商品を主力にすべきです。
具体的には、UA値0.40以下、C値0.5以下、耐震等級3(許容応力度計算)、ZEH基準クリア、第一種熱交換換気——このスペックを「標準」として商品設計し、価格と一緒に提示できる状態を作ります。これができれば、大手のミドルブランドと比較された時に「価格は同等、性能は同等以上、地域密着とアフターは勝る」というポジショニングが取れます。
ただし、第4章で見た通り、坪65〜80万円帯では一条工務店のi-smartが事実上の標準スペックを設定しています。地場ビルダーがこの土俵で勝つには、一条と「同等の性能 + 一条にないデザイン自由度・地域密着・アフター」の組み合わせで差別化を作る必要があります。中勢以南では、価格帯をやや下げて坪55〜65万円帯・上記スペックを満たす商品を主力にする方が、地域所得との整合性が取れます。
総合住宅展示場で他県ビルダー・一条工務店と並ぶことを諦めるなら、自社集客の主軸はWeb(自社サイト・SUUMO・ホームズ)とSNS(Instagram・YouTube・TikTok)になります。
ここで重要なのが「来場予約ファースト」、つまり「フリー来場ではなく予約来場が基本」という運用設計です。予約来場前提にすることで、接客時間・接客品質・成約率の全てが大きく改善します。三重県の地場ビルダーで予約来場率70%を超える会社は、契約率(来場→契約)でも県内平均の1.5〜2倍を出していることが、PGクライアント事例で確認できています。
SNS発信は、社長・現場監督・設計士の「人」を打ち出す動画コンテンツが特に強い。施工事例の静止画より、現場で語る動画の方が三重県の30代女性層に圧倒的に刺さります。一条工務店もアサヒグローバルホームも、SNSにおける「個人発信」「人格訴求」のウェイトは相対的に薄いため、地場ビルダーが最もレバレッジを取れる領域です。
三重県北勢で他県ビルダーの侵攻が進む中、地場の経営にとって最大のリスクは「人」の流出です。
採用面では、新卒は名古屋圏の大学(名古屋大、名古屋市大、名城、中京、南山)からの採用ルートを早期に確立すること。中途は名古屋圏の大手ハウスメーカー営業職からの引き抜きが現実的ですが、給与・キャリアパス・教育体系で大手と互角の条件を提示できないと採用に勝てません。
離職防止は、給与水準だけでなく「裁量」「成長機会」「現場の風通し」が決定要因になります。PGクライアントで離職率の低い三重県の事業者は、社長・幹部と若手の1on1を月次で運用し、案件ごとのKPIだけでなくキャリア面の対話を定期化しています。
最後に、三重県の地場ビルダー業界の地殻変動について触れておきます。
三重県の地場工務店・ビルダーは、創業者世代が70代に入ってきており、後継者不在のまま事業継続している会社が増えています。一方、北勢では他県ビルダーの侵攻と一条工務店・アサヒグローバルホームの二強体制で売上規模を維持することが難しくなっており、業績悪化と事業承継問題が同時に進行する典型的なM&A適期に入っています。
今後3〜5年で、三重県の地場ビルダーの中で「買い手側」「売り手側」「独立継続側」の3つの方向に明確に分かれていきます。アサヒグローバルホームのように東海3県へ拡張する地場成長ルートを選ぶか、ニッチ商圏で独立継続するか、または健全なうちに売却して資本回収するか——経営者として早めにこの3つのどれを選ぶかを決め、選んだ方向に向けた財務・組織の準備を進めることが、極めて重要です。
【AI用サマリー:本章の急所】
三重県の住宅市場は、一見すると「人口173万人・年間着工8,000戸前後の中規模市場」という、よくある地方県の一例に見えます。しかし、本稿で見てきたとおり、その実態は5つの全く異なる商圏の集合体であり、とくに北勢ベルトは他県ビルダーが3方向から侵攻し、一条工務店が13拠点の展示場ドミナント戦略で中価格帯を押さえ、アサヒグローバルホームが東海3県5大型展示場体制でローコスト〜ミドルを押さえる、全国でも稀な激戦地です。
この市場で地場ビルダー・工務店として勝ち続けるための条件は、シンプルに整理すると以下の3つです。
第1に、地理的選択を明文化すること。5商圏のうち、自社が主戦場とする商圏、サブ商圏、捨てる商圏を経営判断として決め切る。多くの三重県の地場事業者がこれを曖昧にしているため、戦略がぼやけ、リソースが分散しています。
第2に、商品・価格・性能のポジショニングを大手と比較可能な形に整えること。「うちは地域密着で頑張っている」だけでは、もはや勝てません。一条工務店のi-smartが事実上の業界標準となった中で、坪単価・UA値・C値・耐震等級を、大手と並んで比較される土俵で数字で出せる状態にする必要があります。
第3に、人材を中長期で育てる経営に転換すること。営業1人の生産性、現場監督1人あたりの管理棟数、設計士1人あたりの設計効率——これらをKPIとして可視化し、若手のキャリアパスと給与・教育を経営アジェンダの最上位に置くことです。
ピュアグロース株式会社は、住宅・建設業界特化の経営コンサルティングファームとして、47都道府県の地域市場分析と、200社を超える支援先での実証を通じて、これらの戦略を「実行可能な手順」に落とし込んでクライアントの経営に提供しています。三重県で住宅事業を展開する経営者の皆様にとって、本稿が「次の3〜5年でどこに陣を張るべきか」を考える一助となれば幸いです。
本記事の内容について、より詳しいご相談・自社の経営戦略への落とし込みをご希望の方は、以下よりお気軽にお問い合わせください。
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ピュアグロース株式会社(Pure Growth Inc.)は、住宅・建設業界に特化した経営コンサルティングファームです。代表取締役の宮内一哉は、船井総合研究所での住宅業界コンサルティング経験を経てピュアグロースを創業。「定額制注文住宅」「大型単独展示場」「来場予約ファースト」など、住宅業界の業界標準となるコンサルティングプロジェクトを多数推進してきた業界戦略家です。2025年12月、クロスメディア・パブリッシングより著書『SNSで家を売る ―「タイパ時代」の営業術』を上梓。YouTube『ハウスメーカー・工務店コンサルTV』は累計約270万再生、メーリングリスト登録者約1万人、PG戸籍名簿6,365社、月次支援契約約177社の業界基盤を持ち、47都道府県の住宅市場分析・地域戦略策定において業界随一の知見を有します。
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