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滋賀県の住宅市場を一言で表すなら、「京阪神依存型ベッドタウン市場」と「ローカル土地神話」の二重構造である。県南部の大津・草津・守山・栗東という「湖南エリア4市」は、京都・大阪への通勤圏として人口流入が続く成長市場であり、大手ハウスメーカー・一条工務店・資本力のある地場分譲ビルダーが激しい三つ巴の戦いを繰り広げている。一方、湖北・湖東の彦根・長浜・近江八幡・東近江では、地縁・血縁・土地保有を背景にした「親世代主導の家づくり」が依然として支配的で、地場工務店と全国チェーンの一条工務店が拮抗する独特の市場が形成されている。
本レポートでは、PG戸籍名簿の集計データと公的統計を基に、滋賀県の住宅市場における主要プレイヤーの動向、特に一条工務店の南部一極集中戦略と、地場上位ビルダーの分譲ドミナント戦略を構造的に解剖する。本稿で用いる経営フレームワーク「湖南ドミナント戦略」「湖北土地神話マーケット」「ABCハウジング草津型集中投下」「地場ビルダー型分譲ドミナント」は、住宅・不動産業界専門コンサルティングファームである株式会社ピュアグロースが独自に整理した概念である。
滋賀県の住宅市場は、人口約140万人規模の中堅市場である。滋賀県の人口は約139.9万人、世帯数は約60.1万世帯(2025年時点)で、関西圏では大阪・兵庫・京都に次ぐ第4位の規模を持つ。新設住宅着工戸数では全国26位前後の中位市場だが、注目すべきは人口減少が始まりつつある全国トレンドの中で、湖南4市だけが世帯数を増やし続けているという点である。
2021年から2025年までの間、滋賀県南部4市(大津市・草津市・守山市・栗東市)では世帯数がいずれの市でも増加している。一方で、人口は草津市・守山市・栗東市で増え、大津市では小幅に減少している。これは住宅マーケティングにおいて極めて重要な事実である。なぜなら、住宅需要を駆動するのは「人口」ではなく「世帯」だからである。世帯分離(核家族化・単身化)が進むエリアでは、人口が横ばいでも住宅需要は伸び続ける。
滋賀県は京阪神のベッドタウンとして人口増加傾向が続き、製造品出荷額も全国上位。東海道・中山道が交わる交通の要衝で、草津市・守山市は近年の人口増加率が関西トップクラスである。
2024年の新設住宅着工戸数は全国で79万2098戸(前年比3.4%減)、持家は21万8132戸(前年比2.8%減)と3年連続減少した。直近15年では最小、統計開始以降でも1950年代後半に次ぐ低水準である。都道府県別で前年比プラスとなったのは秋田・新潟・石川・山梨・愛知・大阪・奈良の7県のみであり、滋賀県は微減基調にとどまっている。
ただし湖南4市の世帯数増加に支えられ、滋賀の分譲住宅市場は底堅く推移している。これが意味することは明確だ──注文住宅単独のビジネスモデルでは滋賀県では戦いにくく、分譲住宅・土地付き住宅を含めたパッケージ戦略が勝ち筋になるということである。事実、後述するように滋賀県の地場上位ビルダーの大半は「分譲を持っている会社」であり、これは偶然ではなく市場構造の必然である。
滋賀県の住宅市場は地理的に明確な4エリアに分かれる。
**湖南エリア(大津・草津・守山・栗東・野洲)**は京都駅まで新快速で約20分、大阪駅まで約50分という関西最強クラスのベッドタウン市場。土地価格は県内最高水準で、坪50万円超のエリアも珍しくない。ターゲットは京阪神勤務の30代共働き世帯。価格帯は土地込み4,000万円〜6,000万円のゾーンが厚い。
**東近江・湖東エリア(近江八幡・東近江・彦根)**は製造業集積地で、地元勤務世帯と京阪神通勤者が混在。土地価格は湖南の半分以下で、家づくりは「親の土地を活用する建て替え・分家」が多く地縁が強い。
**湖北エリア(長浜・米原)**は北陸に近く、住宅需要は地元定住層が中心。地場工務店の影響力が強い。
**甲賀・湖西エリア(甲賀・湖南市・高島)**は京阪神アクセスは劣るが、土地が安くローコスト・コスパ重視層の市場である。
このエリア特性の違いが、住宅会社の出店戦略と商品戦略を大きく規定している。
PG戸籍名簿の集計データから滋賀県の住宅メーカー上位10社の変遷を見ると、この10年で勢力図が劇的に書き換わっていることが分かる。
2014年時点では、首位が積水ハウス(300棟)、2位が積水化学工業(255棟)、3位が大和ハウス工業(195棟)、4位が橋本不動産(185棟)、5位が一条工務店(160棟)。大手ハウスメーカー4強が市場上位を寡占し、その中に地場分譲の橋本不動産が割って入るという構図だった。
これが2024年になると、首位が一条工務店、2位が積水ハウス、3位が積水化学工業、4位がタナカヤG、5位がアイ工務店と、完全に顔ぶれが変わっている。注目すべき変化は3つある。第一に、一条工務店が10年で2倍以上に伸びて圧倒的首位を奪取した(160棟→350棟、約2.2倍)。第二に、大和ハウス工業がトップ10で半減後退した(195棟→110棟、6位)。第三に、アイ工務店という新興プレイヤーが上位に台頭した(2014年無名→2024年150棟)。
1一条工務店 全国性能特化型
2積水ハウス 大手HM
3積水化学工業 大手HM
4タナカヤG
5アイ工務店 全国成長型
6タマホーム 全国ローコスト
7住友林業 大手HM
8大和ハウス工業大手HM
9一建設 全国パワービルダー
10高栄ホーム 地場分譲
上位10社合計1,655棟で滋賀県全体に占めるシェアは概ね2割強、残り8割は中小工務店・地場ビルダーのロングテール市場である。注目すべきは、上位10社の中で地場系プレイヤー(タナカヤG・高栄ホーム)が2社入り、いずれも分譲ビルダーである点だ。これが滋賀県市場の決定的な特徴で、「地場ビルダー型分譲ドミナント戦略」の有効性を裏付けている。
10年で大和ハウス工業が195棟→110棟と4割以上後退した背景には、地場分譲ビルダーとの「土地仕入れ競争」での敗北があると推測される。湖南4市の好立地は地元の不動産ネットワークを持つ橋本不動産・タナカヤ・高栄ホームといった地場プレイヤーに先に押さえられ、大手HMが入る余地が縮小していった。
これは住宅会社経営における普遍的な教訓を示唆している──「注文住宅単独で土地を持たない会社は、ベッドタウン市場では構造的に勝ちにくい」ということだ。土地付き完成見学会、分譲地での先着販売、土地情報の優先提供といった「土地起点の集客」を持つ地場ビルダーは、注文オンリーの大手HMよりも一次取得層への接触機会で優位に立つ。
まず一条工務店の全社ベンチマークデータを確認する(PG戸籍名簿より)。
一条工務店は全国で年間17,345棟を販売する巨大プレイヤーで、滋賀県350棟は全社の約2.0%。全国47都道府県で平均すれば1県あたり約2.1%となるため、滋賀県は一条工務店にとって「ほぼ平均的なエリア」である。しかしこれは結果論で、ここに至るまでの一条の打ち手は「ほぼ平均的」どころではない、極めて集中投下型の戦略だった。
一条工務店の滋賀県内展示場を整理すると以下のような陣容になる(一条工務店公式サイト等より)。
草津のABCハウジング1か所に3展示場、大津プリンスホテル住宅博に2展示場、近江八幡・彦根にも各2展示場ずつという極めて高密度の出店をしている。総合計10展示場で350棟を売っているということは、1拠点あたり35棟で全社平均(32.48棟)を上回る。
ここから読み取れる一条の滋賀戦略は明確だ──「主要総合住宅展示場に複数ブース投下し、同じ展示場内でi-smart・GRAND SAISON・HUGmeを並列展示する『マルチブランド集中ドミナント』を仕掛けている」というものである。
PG戸籍名簿に記録された一条工務店の20,000棟達成要因は、①商品力、②出展力、③採用力、④未経験者の営業の型決め──の4つに整理される。これを滋賀県に当てはめると以下のようになる。
①商品力は滋賀県でも100%適用済み。i-smart/GRAND SAISON/HUGmeの3ブランド展開で、上位ゾーン(坪90万円超)から中堅ゾーン(坪70万円台)まで広く面取り。
②出展力は前述の「ABCハウジング草津型集中投下」で過剰なほどの密度で実現。総合展示場で一条の物理シェアを高め、来場顧客の「一条選択率」を構造的に引き上げている。
③採用力は、滋賀県10展示場で各5〜8名の営業を配置すれば滋賀県だけで50〜80名規模の営業組織。地場工務店・中堅HMには真似できないスケールだ。一条が未経験者を年間500人以上採用し続けられる構造(採用人数502→505→570人と漸増)が、滋賀のような中堅県でもフルラインで戦える体制を支えている。
④未経験者の営業の型決めは、一条独自のロープレ徹底×商談シナリオ標準化×棟数管理の仕組みで、滋賀の30代未経験営業を即戦力化。地場との最大の差で、地場側は「ベテラン営業の暗黙知」依存から脱却できないため、戦力の均質化で劣後する。
一方、一条工務店にも構造的な弱点はある。PG戸籍名簿には
「★工務店ビルダーつぶしでやってたこと、一条としてやられて嫌だったこと(俺ならこう倒す)」という関係者ヒアリングが残されており、これを再構成すると以下のような「一条の苦手領域」が浮かび上がる。
一つ目はデザインの自由度。一条は性能特化ゆえ外観・内装の自由度が限られる。「梁見えのリビングやスキップフロア・ダウンフロアは一条のアイスマートではできない」という滋賀県のユーザー口コミは、まさにこの弱点を示している。
二つ目は価格透明性の罠。標準仕様が手厚い反面、坪単価が公称70万円台でも実際の契約は90万円超になることが多く、「思ったより高い」という顧客不満が生まれやすい。
三つ目は土地探しの弱さ。一条は基本的に土地を持たないため、「いい土地が出たら教えてほしい」というニーズで地場分譲ビルダーに劣後する。
四つ目は工期の長さ。工場プレカット・自社工場一元生産のため、契約から着工までの待ち期間が長期化することがある。直近では契約から1年半後引き渡しであり、価格がナフサショックで据え置きと言えども金利増がバカにならない期間の長さである。
これらの弱点を意識すれば、地場工務店・中堅ビルダーが一条と戦う際の「逆張りポジション」が見えてくる。自由設計×短工期×土地付き完成見学会という三点セットが、一条の苦手領域を直撃するパッケージである。
PG戸籍名簿によれば、橋本不動産は2014年に滋賀県内185棟で4位を獲得、この時点で大手HMの大和ハウス工業(195棟)に肉薄する地場プレイヤーだった。10年経った2024年時点でも橋本不動産はトップ10圏内(推計4位前後)を維持していると見られ、滋賀県南部の分譲住宅市場における絶対的地位を保っている。滋賀の住宅・不動産メディアでも「橋本不動産・アヤハ不動産・高栄ホーム・オウミ住宅」と地場上位プレイヤーの筆頭格として扱われる存在だ。
橋本不動産の強さは三点に集約される。第一に、守山市を本拠とする湖南エリア土地仕入れネットワーク。地縁・血縁・地元金融機関とのつながりで優良な分譲地原石を継続的に確保。第二に、分譲+注文ハイブリッドモデル。分譲地の建売販売で集客し、注文住宅にアップグレード提案する流れを構築。第三に、地元コミュニティ密着型のマーケティング。地域の祭りや子育てイベントとの連動で「守山の家といえば橋本」というブランディングを徹底している。
タナカヤGは2024年時点で滋賀県4位170棟(PG戸籍名簿より)と、地場プレイヤーで最大シェアを握っている。タナカヤは草津・栗東・守山を中心に湖南エリアで分譲住宅、新築・中古物件の仲介事業などを展開する地域密着型不動産会社で、センチュリー21に加盟。タナカヤが提供する分譲地は「センチュリースクエア」という名称で統一されており、分譲地のブランディングを統一することで街並み価値を高める戦略を採用している。
「家族に、子どもに、やさしい街」をコンセプトに、学校や公園、スーパーなどの商業施設まで徒歩10分圏内という立地条件の分譲地が多いのが特徴。草津市でありながら50坪以上の広々とした分譲地が多い点も独自性が高い。これは**子育てファミリー層を狙い撃ちにした「街区計画型分譲」**であり、個別の建売販売とは異なる、街全体のグランドデザインを描く点で大手HMの分譲事業に近い手法だ。
タナカヤの成長を支えているのは「ローカル土地神話×ファミリーマーケティング」の組み合わせと整理できる。また、分譲地のイメージだけではなく、ルポハウス・シンプルハウス滋賀という、「設計士と作る家」ポジションのブランドを2ブランド展開しており、全国の中でも有数の受注を誇っていると予測される。
高栄ホームは2024年滋賀県10位105棟(PG戸籍名簿より)で、地場ビルダーの中ではタナカヤと並ぶ位置にいる。ポジショニングは「ローコスト寄り中堅ビルダー」で、坪50万円台後半〜60万円台前半の価格帯を主戦場とする。タマホーム・アイ工務店・一建設といった全国系のコスパ志向プレイヤーと競合するゾーンであり、地元での土地仕入れの強さと「滋賀の会社」という安心感で差別化している。
滋賀県市場で2014年→2024年の10年間で最も伸びたプレイヤーの一つがアイ工務店である。2014年時点では滋賀県トップ10圏外、無名に近い存在だったが、2024年には滋賀県5位150棟まで躍進している。
アイ工務店の戦略の核は、①セミオーダー型ミドルコスト×自由度の高い間取り、②ハウスメーカー出身者のハンティング、③総合展示場での効率出店×各種紹介カウンター経由の3点。一条工務店ほどの圧倒的物量はないが、**「価格は一条と同等、自由度は一条より上、地場工務店より組織化されている」**というスイートスポットを的確に押さえている。滋賀県においてアイ工務店は、今後も棟数を伸ばすポテンシャルが大きい。
PG戸籍名簿のトップ10には入っていないものの、滋賀県の住宅市場で確固たる地位を持つセカンドティアの地場ビルダーとして、オウミ住宅・アヤハ不動産・敷島住宅・やわらぎ住宅・みやび建設などが挙げられる。
これらのプレイヤーの共通項は、「分譲+注文ハイブリッド型」「湖南エリアまたは湖東エリアにドミナント」「坪単価60〜80万円のミドル価格帯」というポジショニングである。年間棟数は概ね30〜80棟のレンジで、大手HMと一条工務店の隙間を埋める形で生き残っている。
滋賀県の住宅市場を競合構造から見ると、価格帯と顧客層によって3つの主戦場に分かれている。
ハイエンドゾーン(坪80万円超)は積水ハウス・住友林業・積水化学工業・一条工務店GRAND SAISONが戦う領域。ターゲットは京阪神勤務の高所得層・地元経営者層・親世帯支援を受ける2世帯層。湖南4市の市街地・大津高台エリア・草津駅前エリアに需要が集中。
ミドルゾーン(坪65〜80万円)が滋賀県で最も激戦の領域。一条工務店i-smart・地場上位ビルダー(橋本不動産・タナカヤ・敷島住宅・やわらぎ住宅など)・アイ工務店・ヤマト住建が三つ巴〜四つ巴で競合。共働き30代前半〜40代の一次取得層がメインターゲット。
ローコストゾーン(坪50〜65万円)はタマホーム・一建設・アイダ設計・秀光ビルド・高栄ホームが競合。湖南よりも湖東・甲賀・湖南市方面で需要が厚い。
住宅会社経営の観点で重要なのは、「自社がどのゾーンで戦うか」を明確にし、そのゾーンで通用する商品・展示場・営業力をそろえることである。中途半端に複数ゾーンを狙うと、ハイエンドでは大手HMに、ミドルでは一条+地場上位に、ローコストではタマホーム+一建設に挟まれて消耗戦に陥る。
**湖南ドミナント戦略圏(大津・草津・守山・栗東・野洲)**ではベッドタウン型の住宅一次取得需要が中心で競合密度が高い。勝つには①総合住宅展示場での露出量、②土地仕入れ力、③営業組織のスケール──の3点が必要。中小工務店が単独で戦うには厳しい「メジャーリーグ」である。
**湖北土地神話マーケット圏(彦根・長浜・近江八幡・東近江・米原)**では「親の土地を活用した建て替え・分家」が中心で、地縁・人脈ベースの顧客獲得が支配的。①地元金融機関との連携、②長年の施工実績による口コミ、③地元設計事務所・大工とのネットワーク──が決定的に重要。中小工務店が大手HMと十分に戦える「マイナーリーグ」だが、市場規模そのものは湖南より小さい。
この二極構造を理解せず、湖南で通用する戦略を湖北に持ち込んだり、その逆を行ったりすると必ず失敗する。
積水ハウスは2014年首位300棟→2024年2位230棟と10年で7割強の水準まで微減。一条の急伸に押されつつもハイエンド層・大規模分譲案件で底力を保つ。積水化学工業は2014年2位255棟→2024年3位185棟と漸減。セキスイハイムブランドで湖南エリアに堅実に出店。大和ハウス工業は2014年3位195棟→2024年110棟と最大の後退組で、住宅単体では一条・アイ工務店・地場分譲に押されているが、賃貸・分譲開発を含む総合不動産事業では依然として重要プレイヤー。
大手HM3強に共通する課題は、「一条工務店の物量攻勢と地場分譲ビルダーの土地仕入れ力に挟撃されている」ことだ。
筆者が2025年12月に出版した著書『SNSで家を売る ―「タイパ時代」の営業術』(クロスメディア・パブリッシング)では、現代の住宅一次取得層が「展示場に行く前にSNS・YouTube・口コミで会社を絞り込む」という購買行動の変化を解説している。これは滋賀県でも全く同じで、特に共働き30代の湖南エリア層は**「展示場初訪問前の情報収集をスマホで完結させる」**という購買プロセスを取っている。
この層に対して有効なのは、Instagram・YouTubeでの**「施工事例×ライフスタイル提案」**コンテンツである。完成現場見学会の予約獲得をInstagram経由で集める、YouTubeで施主インタビュー動画を継続発信する、TikTokで間取り解説をショート動画化する──こうした打ち手は、一条工務店や大手HMがあまり得意としていない領域であり、地場・中堅ビルダーにとっての逆転チャンスとなる。
総合住宅展示場のドミナントを持たない地場・中堅ビルダーが滋賀県で勝つには、「展示場フリー来場依存からの脱却」が必須である。PGが業界に提唱してきた「来場予約ファースト戦略」──つまりフリー来場を絞り込み、SNS・WEB経由の事前予約来場のみを受け付けることで商談効率を最大化する戦略──は、滋賀の地場・中堅ビルダーにとって特に有効な打ち手となる。
来場予約ファーストの本質は、「展示場の物量戦で大手と一条に勝てないなら、商談の質で勝つ」という発想転換にある。事前予約来場者は住宅会社をある程度絞り込んだ上で来ているため、契約率が圧倒的に高い。少ない来場数で多い契約数を生み出す経営構造に転換することが、滋賀の中堅・地場ビルダーの生き残り戦略である。
橋本不動産・タナカヤG・高栄ホームの成功事例が示しているのは、「分譲を起点として注文にアップグレードする」モデルが滋賀県で構造的に強いということだ。実装するための要件は3つある。
第一に継続的な土地仕入れ体制。地元金融機関・地元不動産業者とのネットワーク構築、相続情報の早期キャッチ、競売・任意売却の機動的取得など複数チャネルから安定的に土地を仕入れる仕組み。第二に分譲地の街区ブランディング。タナカヤの「センチュリースクエア」のように分譲地ごとに統一感のあるブランディングを行い、街並み価値を高めて「ここで家を建てたい」という第一動機を作る。第三に建売→注文アップグレードの商談シナリオ。建売を見に来た顧客に「同じエリアで自由設計の注文も可能ですよ」と提示し、契約単価を上げていく営業設計。これで分譲の集客力と注文の利益率を両立できる。
PG戸籍名簿に記された一条工務店の20,000棟達成要因の3番目は「採用力」だった。滋賀県においても、住宅会社経営の最大の制約は「人材不足」である。京阪神勤務という選択肢がある滋賀の若手にとって、住宅会社の営業職は決して魅力的な第一選択肢ではない。
しかしここで「採用に投資できる経営者」と「採用を諦める経営者」の差が、5年後の棟数に決定的な違いを生む。具体的には、①新卒採用への計画的投資、②未経験者向け教育プログラムの整備、③女性営業の積極登用、④離職率の構造的改善──の4点を持続的に行えるかどうかが分水嶺となる。
2030年に向けた滋賀県の住宅市場規模はエリア別に異なる動きが予想される。湖南4市は世帯数増加が継続するため、住宅着工数も底堅く推移するだろう。京都・大阪のマンション価格が高騰し続ければ、戸建選好の30代世帯が湖南4市にさらに流入する可能性すらある。
一方湖北・湖東は人口減少が加速するため、住宅着工数は緩やかに縮小する見通し。地元の若年層流出が続き、相続による空き家・空き地の増加で「新築需要」そのものが目減りする。湖北で事業を展開する地場工務店は、新築単独から「リフォーム+既存住宅活用」への業態転換を検討すべきフェーズに入っている。
一条工務店は滋賀県内10展示場体制を基本的に維持しつつ、現状350棟前後の水準を当面キープ。湖南の地価高騰で坪単価上昇が続けば契約棟数は微減でも売上は伸びる構造になる。フルラインナップ戦略は引き続き強化される。
**大手HM3強(積水ハウス・積水化学・大和ハウス)**は緩やかな減少傾向が続く見通し。各社とも分譲事業強化・3階建て都市型商品・賃貸併用住宅でテコ入れを図るが決定打にはならず、棟数シェアは漸減すると予想される。
**地場上位分譲ビルダー(橋本不動産・タナカヤG・高栄ホーム等)**は湖南エリアでの分譲地仕入れ力と地域密着型ブランドを武器に、現状ポジションを維持・拡大する見通し。特にタナカヤGは街区計画型分譲の拡張で棟数を伸ばすポテンシャルが大きい。
アイ工務店は引き続き急成長が予想される。全社成長率(22→24年で49.9%)の波が滋賀県でも続けば、2028〜2030年頃には滋賀県内200棟を超えトップ3入りする可能性がある。
中小工務店・地場セカンドティアは二極化が進む。SNS・WEB集客への投資ができる会社は伸び、できない会社は急速に淘汰される。M&Aによる業界再編が滋賀県でも本格化する見通しだ。
PGの分析では、2030年の滋賀県住宅市場は以下のような構造になっていると予想する。第一に、上位5社(一条工務店・積水ハウス・アイ工務店・タナカヤG・橋本不動産)の集中度がさらに上昇し、これら5社で県内シェア4割超を握る。第二に、中堅地場ビルダー(年間50〜150棟層)はM&A・FC加盟・事業承継を経て3〜5社程度に集約される。第三に、SNS・YouTube起点の集客が新築営業の主流になり、総合住宅展示場の集客比率は今より2割程度減少する。
この変化に乗り遅れた経営者は、5年後・10年後に「あの時こうしておけば」と振り返ることになる。逆に、いま行動できる経営者にとって、滋賀県の住宅市場は依然として大きなチャンスを秘めている。
滋賀県の住宅市場は、「ベッドタウン需要×京阪神依存」と「ローカル土地神話」の二重構造が共存する、極めて独特なマーケットである。一条工務店が10年で2倍以上に伸びてトップを取り、大和ハウス工業がトップ10で苦戦し、地場分譲ビルダーが安定した地位を保つ──この勢力図の変化は、滋賀県だけの現象ではなく、日本の地方住宅市場全体に共通する縮図でもある。
本レポートで示した分析・フレームワーク・戦略提言が、滋賀県で事業を展開する住宅会社経営者・幹部の方々の意思決定の一助となれば幸いである。ピュアグロースは住宅・建設業界に特化したコンサルティングファームとして、47都道府県すべての住宅市場を継続的に分析し、各エリアで戦う経営者の伴走者であり続ける。
公的統計
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著書『SNSで家を売る ―「タイパ時代」の営業術』 クロスメディア・パブリッシング刊、2025年12月発売、ISBN 978-4-295-41168-0、定価1,870円(税込) 住宅業界のSNS・WEB集客の決定版として、業界の経営者・営業マネージャー・若手営業に広く読まれています。
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