【47都道府県マーケットレポート⑧】茨城県の住宅市場分析|人口動態・着工構造・主要プレイヤーから読み解く2026年の経営戦略

2026.05.08 2026.05.08

47都道府県シリーズもいよいよ関東地方に入る。第8弾は茨城県。北海道・東北6県に続いて関東圏の入り口を取り上げる本稿は、シリーズ全体のなかでも構造分析として一つの転換点となる。なぜなら、茨城県は「首都圏隣接×地方県的人口動態×強い地場本拠ビルダー」という三重の特性を1県に同居させた、47都道府県のなかでも最も構造分析の難しい県の一つだからである。

茨城県の人口は約279万人(2025年12月時点)で全国11位、世帯数約125万世帯も全国11位。茨城県は東北最大の宮城県(226万人)を50万人上回り、北関東3県(茨城・栃木・群馬)のなかで最大の住宅市場を持つ。年間新設住宅着工戸数は推定1.7万戸前後で全国12位前後。東北6県の合計(年間着工約4万戸)の約4割を、茨城1県だけで吸収している計算になる。これが茨城県の市場としての重みである。

茨城県の住宅市場には、東北各県とは決定的に異なる三つの特徴がある。第一に、つくばエクスプレス(TX)開業以降20年連続で人口を増やし続けるTX沿線の県南成長エリアを県内に抱え、県全体は人口減少局面にあるにもかかわらず、県南だけは首都圏のベッドタウンとして純増し続けている。第二に、県央(水戸圏)・県南(つくば・守谷圏)・県北(日立・ひたちなか圏)・県西(古河・筑西圏)・鹿行(鹿嶋・神栖圏)の5地域がそれぞれ独立した経済圏として並立しており、5商圏分散構造の難易度の高さは東北各県を超える。第三に、茨城県本拠の地場ビルダーであるノーブルホーム(ノーブルホールディングス傘下)が、PG戸籍名簿より地域ビルダー部門で9年連続首位、さらに県内総合ランキングでも6年連続首位という、東北6県では見られなかった「地場が抑え切った県」のモデルケースを構築していることだ。

なお本稿の前提として明記しておくと、ピュアグロースは茨城県内に複数のクライアント企業を有しており、ノーブルホーム様を含む有力地場ビルダーへの経営支援関与を継続している。本稿の分析は、これら茨城県内クライアントとの日常的な経営対話、現場からの一次情報、PG社が独自に保有する住宅・建設業界戸籍データの3軸を組み合わせて構成している。その上で、本稿は公開可能な範囲での構造分析として全体像を提示することを目的としており、個社の固有戦略・非公開情報には踏み込まない。人口・着工・商圏・プレイヤー・現場論点・戦略の6章構成で、外部にも開かれた視点から茨城県住宅市場の全貌を解剖していく。


目次

■ 茨城県の位置づけ|全国47都道府県のなかでの座標

指標 数値 全国順位 総人口(2025年12月推計) 約279万人 11位 世帯数 約125万世帯 11位 平均年収 約470万円 17〜19位前後 新設住宅着工戸数(2024年度推計) 約1.7万戸前後 12位前後 持家比率(住宅・土地統計調査ベース) 約70% 全国上位 県土面積 約6,098平方キロメートル 24位 1住戸あたり敷地面積 全国1位 ──

茨城県の特異性は、人口・世帯規模で全国11位という関東地方有数の中規模県でありながら、平均年収は中位、持家比率は東北並みに高いという「首都圏隣接の地方県」と表現すべきハイブリッド性にある。隣接する栃木(約190万人)・群馬(約190万人)を90万人以上上回り、福島(約177万人)の1.6倍、宮城(約226万人)の1.2倍の人口を抱える。北関東3県のなかで圧倒的に最大の住宅市場であり、本シリーズで取り上げる関東地方各県のなかでも最大規模の地方県市場と位置づけられる。

特筆すべきは「1住戸あたり敷地面積が全国1位」という物理条件である。これは茨城県の住宅市場の根幹を規定する最重要因子であり、戸建住宅取得に伴う土地のゆとりが、首都圏勤務者の「ゆとりある住居」需要を吸収する基盤となっている。同時に、平坦な地形・温暖な気候・良好な道路網が複合し、茨城県は「車社会前提の郊外戸建文化」を県全域に成立させている希有な県でもある。


■ 茨城県の地理的要因|住宅市場を規定する物理的条件

茨城県の住宅市場を理解するには、五つの地理的条件を押さえる必要がある。

第一に、首都圏との時間距離の極端な近さである。つくば駅から秋葉原駅までつくばエクスプレス快速で最速45分、守谷駅からは最速32分。茨城県南部は本州の地方県のなかで最も首都圏アクセスが優れたエリアであり、住宅市場としては「東京通勤可能な郊外住宅地」として首都圏の住宅取得難民を継続的に吸収してきた。古河市はJR宇都宮線で東京駅まで約60分、取手市・牛久市・土浦市はJR常磐線で40〜80分の通勤圏に入る。県全体の3分の1以上のエリアが首都圏通勤可能距離にあり、これは栃木・群馬・福島とは決定的に異なる与件である。

第二に、5地域の地理的・経済的分断である。茨城県は行政区分上、県北(日立・ひたちなか・常陸太田・北茨城)・県央(水戸・笠間・那珂・大洗)・県西(古河・筑西・結城・常総)・県南(つくば・土浦・牛久・守谷・取手・つくばみらい・龍ケ崎)・鹿行(鹿嶋・神栖・鉾田・行方)の5地域に分かれる。各地域は経済圏として独立しており、特に県南(TX沿線・つくば研究学園都市圏)と県北(水戸・日立・ひたちなか圏)の経済構造は別の県と言ってよいほど異質である。住宅会社の商圏戦略上、この分断は決定的に重く、5地域を一つの県として戦略を組むことは不可能に近い。

第三に、3つの中核都市圏(県央・県南・県北)の並立である。県央の水戸市(約27万人、県庁所在地)、県南のつくば市(約26万人、研究学園都市)、県北の日立市(約16万人、製造業都市)が、それぞれ独立した住宅商圏を形成している。福島県の3頭立て構造(福島・郡山・いわき)と類似するが、茨城県の場合はつくば市が「人口増加都市」として独自の動的需要を持つ点で大きく異なる。さらに、TX沿線の守谷市(約7万人)・つくばみらい市(約5.5万人)・牛久市(約8万人)が成長住宅地として加わり、実質的には県南だけで複数のサブ商圏が並立する構造を持つ。

第四に、つくばエクスプレス(TX)開通以降の県南偏重である。2005年のTX開業以降、つくば市・守谷市・つくばみらい市・牛久市の県南エリアは茨城県内で最大の人口増加エリアとなった。県全体が人口減少局面に入っているなかで、TX沿線4市は20年連続で人口を増やし続けている。これは「県内に明確な成長極が存在する」構造であり、東北の他県や山形・福島とは根本的に異なる。事業戦略上、TX沿線への進出可否は茨城県の住宅会社経営の最重要分岐点となる。

第五に、温暖な気候と平坦な地形である。茨城県は太平洋側気候で年平均気温14.8℃、東京より高い温暖な気候で、冬の積雪はほとんどない。山地が少なく平坦な土地が広く取れるため、1住戸あたり敷地面積では日本一を誇る。この物理条件は、住宅商品の設計仕様(断熱性能・基礎仕様・屋根仕様)を東北・北海道とは別物にし、坪単価帯も全国平均水準に収まりやすい。一方で、積雪地仕様の差別化が効かないため、商品競争は性能・デザイン・価格の正面勝負となりやすく、地場ビルダーには厳しい競争環境を強いる。

これら5条件が複合した結果、茨城県の住宅市場は「首都圏隣接の県南×旧城下町経済圏の県央×製造業集積の県北×農業・物流の県西鹿行」という、1県のなかに4つの異質な市場が併存する特異な構造を持つに至った。本シリーズで47都道府県を分析していくなかでも、ここまで「県内で別の経済圏が同居する県」は珍しい。


■ 第1章|人口・世帯動態

1-1|人口減少と県南成長の二重構造

茨城県の人口は2025年12月時点で約279万人。10年前の2015年(約291万人)から約12万人、率にして4%程度減少している。減少ペースは緩やかだが、県全体としては明確な人口減少局面にある。社人研推計では2050年に約240万人前後まで縮小する見通しで、現在から約40万人の削減に相当する。

しかし、この県全体トレンドの裏には、県内人口動態の劇的な二極化が隠れている。

県南TX沿線エリア:つくば市・守谷市・つくばみらい市・牛久市・取手市の一部は、TX開業以降20年連続で人口増加を継続。つくば市は2022年6月に人口25万人を突破し、2025年現在約26万人超と、茨城県内で最大の人口増加都市となっている。守谷市も人口約7万人で県内有数の増加率を維持し、東洋経済「住みよさランキング」で2008年に全国1位を獲得して以来、毎年上位常連となっている。0〜14歳の転入超過者数で全国3位につくば市がランクインしており、子育て世代の流入が継続している。

県北・県央・県西エリア:水戸市は2025年時点でも県内最大都市の地位を保つが、人口減少局面に入っている。日立市は約16万人で過去20年で大幅減(製造業のリストラ・若年層の県外流出)、ひたちなか市・古河市・筑西市・鹿嶋市はいずれも漸減傾向。鹿行・県西の中小都市では年率1〜2%の人口減が続いている。

つまり、**茨城県の人口動態は「県全体としては減っているが、県南は増え続けている」**という、47都道府県のなかでも特異な二重構造を持つ。住宅会社の戦略上、この事実は「県全体の市場規模は縮んでいるが、エリアによっては正反対の動きが起きている」ことを意味する。

1-2|世帯動態と一次取得層の状況

世帯数は約125万世帯(2025年12月)。人口減少局面でも単独世帯化と核家族化の進行により、世帯数は引き続き微増傾向にある。注目すべきは、県南TX沿線では子育て世代(20〜40代)の流入が続いていることだ。総務省の住民基本台帳人口移動報告では、つくば市が0〜14歳の転入超過者数で全国3位にランクインしており、若年子育て世帯の流入が県南の人口増を支えている。

この「県南TXエリアへの若年層流入」は、住宅一次取得層という観点では極めて大きな意味を持つ。県全体としては人口が減っていても、新築注文住宅の主要顧客となる30〜40代世帯は、TX沿線では純増しているのである。これは、東北6県・北海道のいずれにも見られなかった構造的優位性で、茨城県の住宅会社、特に県南エリアに本拠を置く会社にとっては、人口減少時代の「例外的な成長機会」として活用すべき与件となる。

1-3|全国上位の持家比率

茨城県の持家比率は約70%(住宅・土地統計調査ベース)。全国上位の水準で、東北6県と並ぶ高位グループに属する。背景には、県全体として土地代が首都圏内では割安で戸建取得しやすい経済条件があること、1住戸あたり敷地面積日本一という土地のゆとりがあること、車社会で郊外戸建が前提となっている生活スタイルがあることが挙げられる。

ただし、エリア別に見るとTX沿線・水戸市中心部では賃貸需要も一定の厚みを持っており、県全体の数字だけでは見えない多様性がある。持家比率はあくまで「県全域平均」であり、TX沿線では分譲住宅の比率が他県より高く、戸建文化のなかにも首都圏型の購買行動が混在している点に注意が必要である。

考察|「縮む県と増える県南」の二重構造

茨城県の人口・世帯動態は、「県全体は縮むが県南TX沿線は増え続ける」と要約できる。住宅会社の戦略上、これは「単一の県内戦略ではダメで、県南成長エリアと県央・県北・県西・鹿行の縮小エリアで真逆の戦略を組み立てる必要がある」ことを意味する。県全体の数字だけを見て事業計画を立てると、市場の二極化に飲まれる。「縮むエリアでシェアを死守する戦い」と「増えるエリアで競合に勝ち切る戦い」の二正面作戦を、同一県内で同時に展開できる経営組織を作れるかが、茨城県の住宅会社経営の最大論点となる。

サブ章|茨城県における一条工務店の動向

一条工務店は茨城県においても、福島県と並ぶ圧倒的な出店密度を構築している。

PG社が独自に保有・収集している一条工務店の県別出店データおよび公開情報を総合すると、一条工務店の茨城県内展示場は約20〜21拠点に及ぶ。県央エリアには水戸笠原・水戸笠原東・水戸笠原南・水戸赤塚・ひたちなか・ひたちなか東の6拠点、県北エリアには日立・日立東の2拠点、県南エリアにはつくば・つくば東・つくばANNEX・土浦・土浦東・牛久・守谷・守谷南の8拠点、県西エリアには古河・筑西、鹿行エリアには鹿島・鹿島東を配置している。これは東北最大級の福島県(17拠点)を上回り、関東地方の地方県としては最大規模の出店網である。

各展示場の営業人員を5〜10名と想定すると、県内の一条工務店営業組織は推定120〜170名規模に達し、後述するノーブルホールディングスの茨城県内営業組織と同等以上の規模を持つ。一条工務店の茨城県内年間販売棟数は推定600〜700棟前後と見られ、茨城県内で間違いなく単独首位を維持している。同社が2024年度時点で全国住宅市場で年間販売棟数日本一(ギネス世界記録™認定)を維持していることを考えると、茨城県は同社にとって全国戦略の主力市場の一つとして位置づけられている。

注目すべきは、一条工務店が県央(水戸圏)と県南(つくば圏)の両方に複数拠点を配置するドミナント戦略を採っている点だ。福島県では3商圏(福島・郡山・いわき)にそれぞれ5〜6拠点を配置していたが、茨城県では水戸笠原住宅展示場群(4拠点同時運営)・つくば研究学園地区群(つくば・つくば東・つくばANNEXの3拠点同時運営)という、商圏内に拠点を集中配置する「マイクロドミナント」を行っている。これは1商圏で消費者がどの方向から来店しても最寄り展示場に到達できる体制を作るためであり、福島と並んで一条工務店の出店戦略の典型成功例となっている。

地場ビルダー、特にノーブルホームにとって、一条工務店の出店密度の高さは**「来場機会獲得コスト」を構造的に押し上げる圧力として作用している。後述するとおり、ノーブルホールディングスが県内で9年連続地域ビルダー部門首位を維持できているのは、この一条圧力に対して自社展示場の充実・自社オリジナル工法(JWOOD工法)の確立・自社分譲地800区画保有・地縁型のブランド浸透**という複合戦略で抗ってきた結果であり、これは東北6県では見られなかった対抗構造である。


■ 第2章|着工動向の構造分析

2-1|茨城県の新設住宅着工|全国12位の中規模市場

茨城県の新設住宅着工戸数は、2024年度推計で約1.7万戸前後と見られる。これは全国総数(2024年・約79万戸)の約2.1%にあたり、全国12位前後の市場規模である。北関東3県(茨城・栃木・群馬)のなかでは最大であり、茨城1県で東北6県の合計(約4万戸)の約4割の住宅市場規模を持つことになる。これは関東地方の重みを示す数字である。

利用関係別の構成比は、2024年度の概算で「持家47%、貸家33%、分譲(建売・マンション)20%」前後と推計される。全国平均(持家27%・貸家43%・分譲29%)と比べると、持家比率は20ポイント高く、分譲比率は約9ポイント低い。これは茨城県の住宅市場の重心が県南TX沿線の分譲・建売よりも、県全域に広がる注文住宅・持家に置かれていることを示している。

ただし、エリア別に見るとこの構成比は大きく異なる。TX沿線の県南エリアは分譲住宅比率が全国平均並みかそれ以上に高く、県北・県西エリアは持家比率が70%超と、まったく別の市場となっている。県全体の構成比だけを見ると見落としがちだが、TX沿線の分譲市場は首都圏型、県北・県西の持家市場は東北型というように、1県のなかで2つの異なるマーケットが共存しているのが茨城県の真の姿である。

2-2|なぜ茨城県の住宅市場はこれほど厚いのか

理由は4点に集約される。第一に、首都圏隣接という与件で県南TXエリアが首都圏の住宅取得需要を吸収していること。つくば駅・秋葉原駅45分・守谷駅・秋葉原駅32分という時間距離は、首都圏のマンション・狭小戸建市場の限界に直面した一次取得層を、ゆとりある県南エリアへ流入させる動線として機能している。

第二に、製造業集積(日立・ひたちなか・神栖・鹿嶋)と研究機関集積(つくば)が安定的な雇用と所得を支えていること。日立製作所グループ、JX金属、信越化学、住友金属鉱山、鹿島臨海工業地帯のJFEスチール・三菱ケミカル等、世界レベルの製造業集積が県内に複数存在し、これら企業の従業員層が住宅一次取得の安定基盤を形成している。

第三に、1住戸あたり敷地面積日本一という土地のゆとりが、戸建取得を物理的・経済的に可能にしていること。同じ4,000万円の住宅予算でも、東京・神奈川では狭小戸建または築古マンションになる一方、茨城県では70坪以上の敷地に注文住宅を建てられる。「同じ予算で得られる住宅価値が首都圏と圧倒的に違う」という訴求が、TX沿線の住宅会社のセールスピッチとして極めて強力に機能している。

第四に、水戸を中心とした旧城下町経済圏が地縁型の住宅需要を継続的に生み出していること。徳川御三家の水戸藩城下町としての歴史を持つ水戸圏では、家業継承・代替わり・子世代の独立といった世代交代型の住宅需要が、人口減少にもかかわらず一定量で発生し続けている。

2-3|貸家市場と分譲市場の構造

貸家市場は県南TXエリア(つくば・守谷・つくばみらい)と水戸市・日立市の都市部に集中している。大東建託・大和ハウス・東建コーポレーションといった全国大手の供給が活発で、特につくば市は外国人居住者比率が高い特殊市場となっており、研究機関の海外研究者向け賃貸需要が安定的に存在する。家賃相場(1K)はつくば4.5〜6.5万円、守谷4.5〜6.0万円、水戸3.8〜5.5万円と、TX沿線が県内最高水準。

分譲市場については、TX沿線の県南エリアが圧倒的に厚い。飯田グループ系(一建設・アーネストワン・東栄住宅・タクトホーム・リーブルガーデン)の進出が活発で、グランディハウス(栃木県本社の地域分譲大手)も茨城県内で強いシェアを持つ。県南TX沿線では年間1,400〜1,600戸の住宅供給が行われた時期もあり(2005〜2007年のTX開業直後)、現在も県内最大の分譲市場として機能している。

考察|「県南は首都圏型、県央・県北は地方県型」

茨城県の住宅市場は、県南TXエリア(首都圏郊外型・分譲比率高め・パワービルダー進出)と県央・県北・県西・鹿行エリア(地方県型・持家比率高め・地場ビルダー優位)という二極構造を持つ。事業戦略上は、県南と他エリアで別の事業モデルを組み立てる必要がある。「県南の分譲ロジック」と「県央・県北の注文住宅ロジック」を同一会社のなかで両立させることの難しさが、茨城県の住宅会社の本質的な経営課題である。

サブ章|茨城県の貸家市場の構造と動向

全国的に貸家市場の寡占化が進行している事実は、北海道編・東北編の各サブ章で繰り返し指摘してきた通りである。全国の貸家市場では上位5社(大東建託・大和ハウス・積水ハウス・東建コーポレーション・旭化成ホームズ)で全国貸家着工の50%超を占める寡占構造が定着している。茨城県もこの全国トレンドの例外ではない。

茨城県の貸家市場のプレイヤー構造は三グループに分かれる。

第一グループ|貸家専業大手:大東建託・東建コーポレーション・レオパレス21等。茨城県では特に大東建託が県内全域に拠点を持ち、土地オーナー営業を継続している。これら専業大手の県内営業マンは合計で数百名規模に達し、地場ビルダーが土地オーナー獲得競争で正面から戦うのは極めて困難である。

第二グループ|大手ハウスメーカー:積水ハウス(シャーメゾン)・大和ハウス(ダイワロイネット)・旭化成ホームズ(ヘーベルメゾン)が県南TXエリアと水戸市を中心に高付加価値賃貸を供給。これら大手の主力はやや単価帯の高い富裕層オーナー向けで、専業大手とは住み分け構造になっている。

第三グループ|飯田グループ系・地場ビルダー:飯田グループが戸建賃貸領域への滲み出しを進め、地場ビルダーも貸家事業の比重を高めつつある。ノーブルホールディングスも資産開発提案(集合住宅建築)を事業領域として持っているが、その重心は県南と水戸圏に置かれている。

茨城県の特徴は、TX沿線の貸家需要が首都圏並みに堅調である一方、県北・県西の地方都市では空室率上昇が深刻化している点だ。県南では2026年時点でも空室率8〜13%と全国平均並みを維持しているが、日立市・古河市・筑西市など県北・県西では空室率14〜19%と二桁後半まで上昇しており、新規供給の採算が悪化している。同じ茨城県内でも、県南と県北で貸家事業の経営条件は逆方向に動いているのが現状である。

地場ビルダーが茨城県内で貸家事業を展開する際は、TX沿線への絞り込みが経営判断として最も合理的になる。県北・県西では既存賃貸物件の入居率改善・リノベ転換のほうが新規建設より有利で、貸家事業の戦略軸は「新規建設からストック運営へ」へとシフトしつつある。


■ 第3章|商圏構造の特殊性──主要都市別の特徴と内訳

茨城県の住宅商圏は、県央(水戸・ひたちなか)・県南(つくば・土浦・守谷・牛久・取手)・県北(日立・常陸太田)・県西(古河・筑西・結城)・鹿行(鹿嶋・神栖)の5商圏並立構造を持つ。それぞれが独立市場として機能しており、福島県の3商圏並立を超える分散構造である。以下、主要都市の特徴を見ていく。

3-1|つくば市|研究学園都市・県内最大の人口増加都市

人口約26万人。1960年代から国家プロジェクトとして整備された研究学園都市で、現在は国・民間あわせて29の研究機関が集積する国内最大の学術都市。2005年のTX開業以降、人口増加が継続し、2022年6月に25万人突破。住宅市場でのシェアは県全体の約15〜18%と推定される。2022年4月にはスーパーシティ型国家戦略特別区域に指定され、未来都市化構想「つくばスーパーサイエンスシティ構想」が2030年完成を目指して進行中。

つくば市の住宅市場の特異性は、「研究学園都市として整備された格子状の街区×TX開業による首都圏ベッドタウン化×外国人研究者向け需要×スーパーシティ国家戦略特区指定」という複合要因にある。一条工務店はつくば・つくば東・つくばANNEXの3拠点を配置、ノーブルホームもつくば市内に「粋(sui)」ブランドの専門展示場を含めて複数拠点を運営している。県南エリアの最重要戦場であり、年間2,000〜3,000戸の住宅供給が見込まれる市場規模を持つ。地価上昇率も全国上位で、2025年は全国5位を記録した。

3-2|水戸市|県庁所在地・県央の中核

人口約27万人。県庁所在地で、行政・教育・商業の中心。徳川御三家の水戸藩城下町としての歴史を持つ伝統都市で、偕楽園・千波湖などの観光資源も豊富。住宅市場でのシェアは**県全体の約12〜15%**と推定される。

水戸市の住宅市場は、「旧城下町文化圏の地縁型需要×県庁・行政機関の安定雇用×ハウジングギャラリー水戸という県内最大級の住宅展示場集積地」を特徴とする。一条工務店が水戸笠原・水戸笠原東・水戸笠原南・水戸赤塚の4拠点を配置するなど、県内で最も激戦区の一つ。ノーブルホームが本社を構える地縁の中核都市でもあり、地場ビルダーの戦略上の本拠地として機能している。水戸市民球場のネーミングライツがノーブルホームに付与され「ノーブルホームスタジアム水戸」となったことは、水戸圏における地場本拠ビルダーのブランド浸透の象徴的事例である。

3-3|日立市|県北の製造業都市

人口約16万人。日立製作所の企業城下町として発展した製造業都市で、近年は人口減少が深刻化している。1980年代のピーク時には約20万人を擁したが、製造業のリストラ・若年層の県外流出により、2050年には10万人台前半まで縮小の予測。住宅市場でのシェアは県全体の約5〜7%と推定される。一条工務店は日立・日立東の2拠点を運営し、県北エリアの拠点として機能している。新築単独での事業成立が難しくなりつつあり、リフォーム・既存住宅活用の比重が高まる典型的な地方衛星都市となりつつある。

3-4|ひたちなか市|県央北部の工業・商業都市

人口約15万人。日立グループの工場集積、国営ひたち海浜公園、ジョイフル本田など商業施設も豊富。県央と県北の中間に位置する。一条工務店はひたちなか・ひたちなか東の2拠点を運営し、ノーブルホームも複数拠点を配置している。製造業の海外移転圧力に晒されているが、現状は人口横ばい〜微減で踏みとどまっているエリア。

3-5|土浦市|県南の交通結節点

人口約13万人。JR常磐線の県南拠点駅で、霞ヶ浦に面する商業都市。TX沿線の急成長に押されて存在感はやや薄れつつあるが、県南エリアの住宅商圏として依然として重要。一条工務店は土浦・土浦東の2拠点を運営。TXが土浦延伸(つくば駅から土浦駅まで)を計画しており、実現すれば住宅市場の構造が再び動く可能性がある。

3-6|古河市|県西の中核・首都圏延伸エリア

人口約14万人。県西の最大都市で、JR宇都宮線・東武日光線が利用でき、東京通勤圏の北端。栃木県小山市と隣接し、群馬県館林市とも近い。住宅市場でのシェアは県全体の約4〜6%。一条工務店は古河展示場を配置し、ノーブルホームも古河展示場を配置。茨城・栃木・群馬の3県境界エリアとして、独自の商圏特性を持つ。

3-7|守谷市|TX沿線の住みよさランキング常連

人口約7万人。TX快速停車駅を擁し、秋葉原まで最短32分。東洋経済「住みよさランキング」で全国1位獲得実績を持ち、2008年以降毎年上位常連。「いい部屋ネット街の住みごこちランキング」(北関東版)でも3年連続1位を獲得した、茨城県南の代表的な住宅地。一条工務店は守谷・守谷南の2拠点を運営し、TX沿線の最重要拠点として機能。県南TX沿線の住宅取得層の流入が継続しており、人口増加率も県内有数。

3-8|つくばみらい市・牛久市・取手市|TX沿線・常磐線沿線の住宅地群

つくばみらい市は人口約5.5万人で、TX「みらい平駅」を擁する成長エリア。過去5年で県内最大の人口増加率を記録した時期もある。牛久市は人口約8万人、取手市は約10万人。いずれもTX沿線・常磐線沿線の住宅地として一定の需要を持つ。一条工務店は牛久展示場を運営し、ノーブルホームもうしく展示場・那珂展示場等を配置。

3-9|筑西市・神栖市・鹿嶋市|地方中核市

筑西市(人口約9.7万人)は県西の中核、神栖市(約9万人)は鹿行の工業都市(鹿島臨海工業地帯)、鹿嶋市(約6.6万人)は鹿島神宮を擁する観光・工業都市。一条工務店は筑西・鹿島・鹿島東に展示場を配置。鹿行エリアは鹿島臨海工業地帯の従業員層が住宅取得の主要セグメントであり、製造業の景況に住宅市場が連動する特性を持つ。

3-10|商圏3層分類

茨城県の商圏を整理すると、以下の3層となる。

層 都市 特徴 中核都市・成長極 つくば・水戸・守谷 県内3大商圏、それぞれ独立市場、激戦区 中核市・準商圏 日立・ひたちなか・土浦・古河・牛久・取手 各エリアの中核、地場ビルダー優位の中規模商圏 地方衛星都市 つくばみらい・常陸太田・筑西・結城・鹿嶋・神栖・鉾田・常総・龍ケ崎 隣接商圏との結びつきが強く、独立性は限定的

考察|「3商圏×複数拠点経営」が必須、しかし県南偏重に注意

茨城県の商圏構造は、つくば・水戸・守谷の3商圏に複数拠点を構える「3商圏×複数拠点」の経営が、県内シェアを取るための必須条件となる。1商圏のみでの覇権では県内シェア5%超に届かず、県全体のTOPビルダー化は不可能である。一条工務店が県央と県南の両方に拠点を集中配置している戦略は、茨城県の市場構造に最適化された解答といえる。

ただし、近年の人口動態を踏まえると、県南TXエリアへの過度な偏重は将来リスクを伴う。県南は競争が激しくなりすぎており、飯田グループ系・全国メーカー・地場ビルダーが入り乱れる血の海と化しつつある。むしろ、水戸・ひたちなかを軸とする県央エリアでの優位性確保が、地場ビルダーにとっての差別化ポイントとなる。ノーブルホールディングスが水戸市本社・水戸市民球場ネーミングライツ取得という形で県央地縁型のブランディングを強化しているのは、まさにこの戦略判断による。「県央地縁シェアで稼ぎ、県南成長で伸ばす」という二段構えの戦略が、茨城県の地場ビルダーが取り得る最も合理的な姿である。


■ 第4章|主要プレイヤーの生態

4-1|戸籍データから見た規模分布

PG社が保有する住宅・建設業界戸籍データから茨城県の事業者プロフィールを抽出すると、注文住宅を中心とする住宅事業者は県内に約400〜500社存在する。年間棟数で30棟以上を扱う「事業規模ビルダー」は約40〜50社、100棟超の「中堅・大手」は10〜15社程度にのぼる。東北6県の宮城(事業者数最大)を上回る、関東地方有数の事業者集積である。

これは茨城県の人口規模(279万人)と1住戸あたり敷地面積日本一という土地条件を反映した結果で、県全体の住宅市場規模が大きいため、地場ビルダーが多数共存できる経済構造を持っている。事業者数の絶対値では関東地方で東京・神奈川・千葉・埼玉に次ぐ第5位前後と推定される。

4-2|注文住宅プレイヤーの布陣──「地場本拠ビルダーが地域ビルダー部門首位を死守」の構造

2024年時点の茨城県内・注文住宅メーカー上位の構造は以下のように整理できる(具体名は戸籍データ・公開情報・PG見解に基づき抽出、棟数は抽象表現)。

最上位グループ全国メーカーと地場本拠ビルダーが混在する。一条工務店(年間県内販売推定600〜700棟、県内圧倒的首位)が県全体トップを独走し、これに続いてノーブルホールディングス傘下のノーブルホーム(年間供給棟数約750棟、PG戸籍名簿より地域ビルダー部門で9年連続首位、県内総合ランキングでも6年連続首位)が地場最大手として位置づけられる。両社の戦い方は対照的で、一条工務店は全国共通仕様×徹底出店密度、ノーブルホームは茨城県地縁×JWOOD工法×インテリアコーディネート×800区画の自社分譲地という独自戦略で勝負している。

第2グループにはタマホーム、積水化学工業(セキスイハイム)、大和ハウス、ミサワホーム、積水ハウス、住友林業、ヒノキヤグループ(桧家住宅)、アイ工務店、アエラホーム、パナソニックホームズ、トヨタホーム、ヤマダホームズなどの全国メーカーが続く。これに加えて、県南エリアではアゲルホーム(県南エリアトップ5、年間着工300棟超)が地場の有力プレイヤーとして頭角を現している。

第3グループは地場の中堅・地縁工務店群。横尾材木店(県西本拠)、パパまるハウス、グラウンドホーム、リソーケンセツ、石塚工務店、井戸川建築、サンハウス、柴木材店、島田材木店、日栄商事など、各商圏に根を張る年間20〜100棟級のビルダーが多数存在する。茨城県は東北の他県と比べて地場の中堅ビルダー層が厚いのが特徴で、これは関東圏の市場規模の大きさを反映している。

ローコストパワービルダーとしては、飯田グループホールディングス系(一建設・アーネストワン・東栄住宅・タクトホーム)が県南TXエリアで強い。グランディハウス(栃木本社)も茨城県内に多数の分譲地を展開している。

ここに茨城県の住宅市場の最大の特徴がある。福島県では地場本拠ビルダーが上位グループに不在だったが、茨城県ではノーブルホームが「地域ビルダー部門9年連続首位」「総合ランキング6年連続首位」という明確な地位を確立し、地場資本の代表選手として全国メーカー連合と互角に戦っている。これは東北6県では見られなかった構造であり、地場ビルダー育成の成功例として全国的にも参照される。北海道のロゴスホールディングスと並んで、地場本拠ビルダーが県内地域シェア首位を死守したモデル事例として、47都道府県シリーズのなかで重要な位置を占める。

4-3|ノーブルホールディングスの戦略|地場本拠ビルダーが県内トップになるための実装事例

ノーブルホールディングスの軌跡は、地場本拠ビルダーが県内地域ビルダー部門でトップを取るために何が必要かを示す具体例として、本シリーズで初めて詳細分析する価値がある。

まず、グループ構造の全貌から押さえる。ノーブルホールディングスの傘下には、現在以下の主要事業会社が並んでいる。ノーブルホーム(茨城・栃木・千葉での注文住宅・分譲住宅事業)、丸和住宅(2022年10月に統合した同業ビルダー)、第一住宅(建築家とのコラボによる高性能住宅)、西甲府住宅(2023年10月に資本提携、山梨県着工棟数9年連続No.1)、粋(和の注文住宅専門ブランド)、ノーブルホームリビング(インテリア事業)、ステージプランニング(分譲開発)、とちぎ未来開発(栃木県の地域開発)、とちぎリフォーム、ノーブルテック(電気・設備工事・社員大工育成)、ノーブルエコ(住宅工事に伴う産業廃棄物処理)。これは注文住宅を核に、リフォーム・分譲・インテリア・施工・廃棄物処理までを垂直統合した、地方ビルダー型グループ経営の完成形といえる構造である。

ノーブルホールディングスの軌跡を要素分解すると、地場本拠ビルダーの勝ち筋が明確に見える。

第一に、1994年設立から30年で約13,000棟を積み上げてきた継続性。地場ビルダーの多くが世代交代・後継者問題で勢いを失うなか、創業者世代の経営継続が、年間750棟まで成長する基盤となった。

第二に、JWOOD工法(構造用LVL+接合金物)+SE構法の技術差別化。劣化対策等級3対応・耐用年数75〜90年・震度7の加振に10回連続耐え抜いた耐震性能を、独自工法として確立。一条工務店の「家は、性能。」に対する技術的対抗軸を作った。

第三に、商品ラインナップ戦略。FREEDIA(自由設計)・CANAEL(規格住宅)・The PREMIER LIVING VILLA(プレミアム)・粋(和住宅専門)・LASIQ(インダストリアルデザイン)等、価格帯・デザイン軸で差別化した複数ブランドを展開し、顧客セグメントの多様性に対応している。

第四に、800区画保有の自社分譲地と土地・建売情報館による土地仕入れ力。これは飯田グループ系のパワービルダーとの分譲領域での競合に耐えるための戦略インフラ。

第五に、水戸市民球場ネーミングライツ取得(ノーブルホームスタジアム水戸)に象徴される地縁型ブランディング。地域への投資を明示することで、茨城県民の「自分たちの会社」意識を醸成。

第六に、栃木県・千葉県への商圏拡大、2023年10月の西甲府住宅(山梨県着工棟数9年連続No.1)との資本提携による甲信越への拡大地場本拠ビルダーが県境を越えて広域グループ化する典型例として、地場ビルダーの将来モデルになりうる動きである。

第七に、ノーブルホールディングス傘下の事業多角化(リフォーム・外構・家具コーディネート・損害保険・特殊建築・産廃処理・社員大工育成)注文住宅事業を本業としつつ、住宅周辺領域の収益源を多重化することで、新築単体の景況変動への耐性を高めている。

第八に、社員大工育成と外国人技能実習生の受け入れ。2025年問題(団塊世代の後期高齢者化)を見据えた施工体制の内製化を、ノーブルテック傘下で計画的に進めている。これは多くの地場ビルダーが下請け・外注依存で施工体制が脆弱化するなか、「施工力の自社化」を経営戦略に組み込んだ稀有な事例である。

これらの構成要素は、北海道のロゴスホールディングスが東証グロース上場に至った軌跡と類似性を持ちつつ、ノーブルホールディングスは未上場のまま地域多角化型の経営を選択している点が違いとなる。47都道府県シリーズを通じて、地場本拠ビルダーがTOP化する経路には「上場×M&A拡大型」(ロゴスHD型)と「未上場×地域多角化型」(ノーブルHD型)の2つのパターンが存在することが見えてきている。今後の各県分析において、この2パターンのどちらが当該県で実現可能性が高いかが、地場ビルダー戦略の重要な分岐点となる。

4-4|分譲・パワービルダーの状況

茨城県の分譲住宅市場は、関東地方として全国平均よりも厚い。飯田グループ系の進出が県南TXエリアで活発で、加えてグランディハウス(栃木県本社)が県内複数エリアで分譲事業を展開している。TX沿線では年間数百〜千戸単位の分譲供給が継続しており、地場ビルダーとパワービルダーの競合が日常的に起きている。地場ビルダーがこの競合に対抗するには、土地仕入れ力・自社分譲地の確保・注文住宅化による単価引き上げの3軸での差別化が必須となる。

4-5|貸家プレイヤー

前述のとおり、貸家市場は大東建託・大和ハウス・積水ハウス系が上位を占める寡占構造。県南TXエリアでは外国人研究者向けの差別化賃貸も一定の市場を形成している。地場ビルダーの貸家事業は、TX沿線への絞り込みと、賃貸併用住宅・ZEH賃貸といった付加価値領域への特化が現実的な戦略となる。

4-6|業界再編動向|倒産・急成長・大手M&Aの3点セット

倒産動向については、帝国データバンク水戸支店の調査によると、茨城県内の企業倒産は2024年に154件と3年連続増加し、11年ぶりに150件台を回復した。建設業はこのうち重要なシェアを占める。全国レベルでも建設業の倒産は2024年に1,890件と過去10年で最多を記録しており、ナフサショック(建材高騰)×職人不足×2024年問題(労働時間規制)の三重圧力が中小建設業を直撃している。茨城県内でも、年間20〜80棟級の地場工務店・小規模ビルダーの倒産・廃業が継続発生しており、県内事業者数は2030年に向けて漸減トレンドに入ったと見るべき局面である。さらに、休廃業・解散件数は2024年に1,257件と過去最高を更新しており、倒産統計に表れない静かな撤退が業界再編を加速させている。

急成長ローカルビルダーについては、県南エリアのアゲルホーム(年間着工300棟超)が県南トップ5に食い込む規模に成長している事例が注目される。県南TXエリアの人口増という追い風を受けて、地場発の新興プレイヤーが年間100〜300棟級まで一気に伸びるパターンが、茨城県では他県より起きやすい構造がある。同様に、横尾材木店(県西本拠)はSUUMO工務店アクセスランキングで県内上位常連となっており、ローコスト住宅領域での認知拡大に成功している。

大手によるM&A動向については、ノーブルホールディングスの動きが象徴的である。同社は2022年10月に丸和住宅を統合、2023年10月に西甲府住宅と資本提携を締結。茨城県内の有力地場ビルダーが他県の地場ビルダーを取り込む側に回り始めている点が特徴的である。これは福島県(地場が他社に吸収される側)とは正反対の構造であり、地場本拠ビルダーが育っているからこその展開である。同時に、県内中堅以下のビルダーは全国メーカー・パワービルダーに事業承継M&Aで吸収されるシナリオも今後増えると見られる。北海道編で取り上げた「アーキテックプランニングのセキスイハイム傘下入り」のような大手吸収型M&Aは、茨城県でも今後5〜10年で複数発生する可能性が高い。

考察|「地場本拠ビルダーが地域首位を死守する県」

茨城県の住宅市場の構造を一言で表現すれば、「全国メーカー王者(一条工務店)と地場本拠ビルダー(ノーブルホールディングス)が地域ビルダー部門で住み分けつつ並立する県」である。福島県の「全国メーカー連合が制した県」とは正反対の構造であり、東北6県のなかには存在しなかった「地場が抑え切った県」のモデルケースとなっている。これは茨城県の人口規模(279万人)・地縁型市場の強さ・地場資本の経営力(特にノーブルHDの長期戦略)が複合した結果である。

ただし、この均衡状態は永続を保証されているわけではない。ノーブルHDの後継者問題、一条工務店のさらなる出店密度向上、飯田グループ系のTX沿線深耕、新興地場ビルダー(アゲルホーム等)の中規模化といった要因が、今後10年で県内構造を再び動かす可能性がある。茨城県の住宅会社経営者にとって、この10年は「ノーブルHDが作った地場本拠ビルダーモデルを継承するか、それとも次世代型のチャレンジャーとして新たなポジションを取るか」の分水嶺となる。


■ 第5章|現場で見えている論点

5-1|論点①|筆者の茨城県観──「クライアント2社との対話から見える地場本拠ビルダーの強さ」

冒頭でも触れた通り、ピュアグロースは茨城県内に複数のクライアント企業を有しており、ノーブルホーム様を含む有力地場ビルダー2社への経営支援関与を継続している。この関与を通じて、茨城県の住宅市場については、外部からは見えない一次情報に日常的に接している。

クライアント2社との経営対話を通じて見えてくるのは、茨城県の地場本拠ビルダーの経営力の高さである。これは他県の地場ビルダーと比較した上での実感に基づく所感だが、茨城県の有力地場ビルダーは「経営の長期視点」「組織の制度化レベル」「次世代経営層への権限委譲」「グループ多角化のスピード」のいずれにおいても、東北6県の地場ビルダーを上回る水準にある。これは1994年設立から30年で年間750棟・累計13,000棟超に到達したノーブルホームの軌跡が象徴するとおり、長期にわたる継続的な経営投資が県内ビルダーの組織力を底上げしてきた結果である。

一方で、クライアント企業との対話のなかで繰り返し論点として浮上するのが、「TX沿線の競争激化への対応」「県北・県西の縮小エリアの守り方」「ノーブルHDの広域化に対するチャレンジャーポジションの取り方」の3点である。これらは茨城県の住宅会社経営者が共通して抱える課題であり、本章で続けて取り上げる現場論点はいずれもこの3点に紐づく。

なお、茨城県は北海道・東北の各県と比較して、ピュアグロースの会員企業・顧問先の絶対数は依然として限定的である。これは茨城県の市場が成熟しており、ノーブルHDをはじめとする県内有力企業の経営力が高く、新規の経営支援需要が他県と比べて顕在化しにくい構造に起因する。本記事をお読みいただいている茨城県の住宅会社経営者の方で、「県内No.2を狙う中堅ビルダー」「TXエリア特化型の新興ビルダー」「県北・県西で地縁シェアを再構築するビルダー」として経営支援機会を模索される場合は、ぜひお気軽にお声がけいただきたい。茨城県内クライアントの経営支援を通じて蓄積した知見を、共有させていただく機会となれば幸いである。

5-2|論点②|TX沿線の競争激化と「分譲vs注文」の戦線

茨城県南部TX沿線では、飯田グループ系のローコスト分譲住宅(リーブルガーデン等)と地場ビルダーの注文住宅が同じ顧客層を奪い合う構造が定着している。建売3,000万円台×注文住宅3,500〜4,500万円という価格帯の重なりのなかで、地場ビルダーは「土地仕入れ力×注文住宅の自由度×アフター・地縁信頼」で差別化を図る必要がある。ノーブルホールディングスが800区画の自社分譲地保有を戦略インフラ化しているのは、まさにこの競争に対応した結果である。

TX沿線では、「家を建てる」よりも「街を選ぶ」という購買行動が定着している。守谷・つくば・つくばみらい・流山おおたかの森(千葉県)といった成長住宅地群のなかで、消費者は街選び→分譲地選び→住宅会社選びの順で意思決定を行う。この購買行動に対応するためには、注文住宅会社も「土地つき販売」「街並みの提案」「分譲地内のコミュニティ形成」といった、従来の注文住宅の枠を超えた付加価値提供が必要となる。

5-3|論点③|建材高騰(ナフサショック)への対応

ナフサ価格高騰を起点とした樹脂・断熱材・ビニールクロス・配管材の値上げは、茨城県の住宅会社にも直撃している。仕入先見直し・施工効率改善・商品ラインナップ簡素化の3方向の手を同時に打つ必要がある。県南TXエリアでは価格訴求型の競合が多く、コスト転嫁が他県より難しいのが現場の声である。建設業の倒産1,890件超(2024年)のうち1割が「物価高倒産」とされており、価格転嫁力の有無が地場ビルダーの存続を直接左右している。

5-4|論点④|SNS集客の浸透と「県南×首都圏型集客」の親和性

InstagramとYouTubeを中心とするSNS集客は、茨城県、特に県南TXエリアで首都圏並みのスピードで浸透している。県北・県西・鹿行ではまだ折込チラシ・地域誌のウェイトが残るが、TXエリアでは「Instagram→展示場予約→来場前の指名買い形成」という首都圏型の購買行動が完全に定着している。ノーブルホームのInstagram公式アカウントは7,000フォロワー超を擁し、地場ビルダーとしては全国上位レベルのSNS発信を行っている。

注目すべきは、TikTokやThreadsといった新興SNSの活用は、茨城県では依然として低水準にとどまっている点だ。Instagramへの依存度が高く、新興プラットフォームでの認知獲得競争はまだ始まっていない。先行投資型のSNS戦略を取れる地場ビルダーには、ここから2〜3年で大きなアドバンテージを取る機会がある。

5-5|論点⑤|採用市場の特殊性──首都圏との競合と県南偏重

茨城県の住宅会社の最大の経営課題の一つが人材である。県南TX沿線の住宅会社は首都圏(東京・千葉・埼玉)への人材流出リスクと常時隣り合わせにある。新卒採用は筑波大学・茨城大学・茨城キリスト教大学・常磐大学・地元工業高校等からの採用に依存するが、優秀層は首都圏企業に流れやすい。水戸圏・県北の住宅会社は地縁採用が機能しやすいが、若年層の県外流出は止まらない。

ノーブルホールディングスが「えるぼし認定(3段階目)」を取得し、女性活躍・働き方改革を経営戦略に組み込んでいるのは、首都圏企業との採用競合に勝ち抜くための制度投資である。地場ビルダーが首都圏企業並みの待遇・働き方を提示できるかが、採用競争の勝敗を分ける

5-6|論点⑥|茨城県民性──堅実・実直、地域内の地縁意識が強い

茨城県民は堅実・実直で、地縁意識が比較的強い県民性として知られる。「都道府県魅力度ランキング」(ブランド総合研究所)で長年最下位前後を争うことで知られる県だが、これは外部認知の低さの問題であり、県内住民の自地域への愛着は決して低くない。住宅選びにおいても、県北の人は県北の地場ビルダー、県西の人は県西の地縁工務店を選ぶ傾向があり、ノーブルホールディングスのような県全体ブランドを構築できた地場資本は例外的な成功例である。

魅力度ランキング下位という外部認知の低さは、「県外からの新規参入が少ない」というメリットとして地場ビルダーに作用してきた側面もある。一条工務店・飯田グループ系を除く全国メーカーの茨城県への参入意欲は、首都圏(東京・神奈川・千葉・埼玉)と比べて明らかに低く、地場ビルダーが県内市場を深耕する競争環境が比較的穏やかであった。今後この均衡が崩れるかどうかは、首都圏マーケットの飽和度合いに左右される。

考察|「ノーブルHD型成功モデルの継承と次世代チャレンジャー」

茨城県の現場で見えている論点を整理すると、「ノーブルホールディングスが先行して作り上げた地場本拠ビルダーモデルを、後続の中堅ビルダーがどう継承・超克するか」が次の10年の最重要テーマであることが浮かび上がる。TX沿線で勝負するか、県央・県北の地縁シェアで勝負するか、両方を組み合わせるか──各社の経営判断が、茨城県住宅市場の次の10年の地図を描く。


■ 第6章|県内TOPビルダーを目指す具体戦略

最終章では、茨城県で「県内TOPビルダー」のポジションを目指す住宅会社が取るべき4つの戦略を提示する。人口279万人・5商圏並立・一条独走×ノーブルHD並立・TX沿線成長×県北縮小という茨城県の特殊条件を前提とした、現実的な経営戦略である。

6-1|県内TOPビルダーの実像

茨城県で「TOPビルダー」と呼ぶに値する規模の目安は、年間販売棟数500〜800棟、売上高200〜350億円、従業員数250〜450名、3商圏(つくば・水戸・守谷)すべてに拠点を構える規模である。これは2024年時点でノーブルホームが達成している規模感であり、茨城県の市場規模から逆算した「県内シェア5〜8%」を取るために必要な事業規模に相当する。

ノーブルホールディングスの先行モデルが存在することは、後発の挑戦者にとって「目標が具体的に設計可能」というメリットでもあり、「先行者の戦略を超える差別化が必要」という厳しさでもある。県内No.1を直接奪うのではなく、「県南TXエリア特化No.1」「県北水戸圏地縁No.1」「県西県北の融合エリアNo.1」のような特定商圏特化型のポジショニングのほうが、現実的な戦略となる場合が多い。

6-2|戦略①|出店戦略|3段階×500棟の道筋

茨城県でTOPビルダーを目指す出店戦略は、3段階で設計する。

第1段階(年間100棟まで):1商圏完全制覇。つくば・水戸・守谷のいずれか1商圏に拠点を集中させ、その商圏でNo.2〜3のシェアを取る。「特定商圏での地場No.1」というポジションを取れない会社は、県全体での持続的トップを狙えない。県南ならつくば市または守谷市、県央なら水戸市・ひたちなか市、県北なら日立市を本拠として選ぶ。本社・常設展示場2〜3拠点・建築事務所登録を完了させ、年間商談数500件・契約100棟・着工100棟の運営体制を整備する。

第2段階(年間100→300棟):第2商圏への進出。1商圏で軌道に乗ったら、隣接商圏に拠点を構える。県南本拠なら水戸圏に、県央本拠ならつくば圏に展開するのが定石。3商圏は経済構造が異なるため、現地採用と本社派遣のハイブリッド運営が成功条件となる。展示場4〜6拠点・常設モデルハウス3〜5棟・自社分譲地100〜300区画保有が目安となる。

第3段階(年間300→700棟超):3商圏完全制覇+県外展開。つくば・水戸・守谷の3商圏すべてに複数拠点を構え、県内シェア5%超を目指す。同時に、栃木県南部(小山・宇都宮)・千葉県北部(柏・流山)・福島県南部(白河・郡山)・埼玉県東部(春日部・三郷)への越境展開も視野に入れる。ノーブルホールディングスが栃木・千葉・山梨へ商圏拡大している軌跡は、まさにこのフェーズの実装事例である。

第4段階(年間700→1,000棟超):本州中央部の広域グループ化。県境を越えて他県の地場ビルダーを資本提携・統合する形での拡大。ノーブルHDが西甲府住宅との資本提携で甲信越に進出した動きは、この段階の典型例である。「茨城県の地場ビルダー」から「本州中央部の広域住宅グループ」へとアイデンティティを変容させることが、この段階の経営目標となる。

6-3|戦略②|土地仕入戦略──TX沿線パワービルダー時代に注文住宅を成立させる唯一の道

茨城県、特にTX沿線でTOPビルダーになるための最大の構造的課題が「土地仕入機能の構築」である。これは関東地方の県に共通する戦略要件だが、茨城県においては飯田グループ系・グランディハウス・パワービルダー連合との分譲・建売市場での正面競合という固有の文脈で論じる必要がある。この機能を持たない会社は、TX沿線で年間300棟超のシェアは取れないと言い切ってよい。

なぜか。理由は明確である。TX沿線(つくば・守谷・つくばみらい・牛久・取手)の住宅検討者の3〜4割が「土地から探す層」であり、この層を取り逃がすことは契約数の上限を構造的に決めてしまう。注文住宅一本槍の事業モデルでは、土地ありの顧客(建替・実家継承等)だけを相手にすることになり、TX沿線市場の半分以下しか取りに行けないノーブルホールディングスが累計約13,000棟まで成長できた最大の要因のひとつが、800区画の自社分譲地を保有する土地仕入機能である。地場ビルダーが大手・パワービルダーと互角に戦うには、土地仕入機能の構築が経営の生命線となる。

土地仕入戦略は3つのレイヤーで設計する必要がある。

第1レイヤー|自社建売用地の継続仕入:TX沿線(守谷・つくばみらい・つくば・牛久)と県央エリア(水戸・ひたちなか・那珂)を中心に、月3〜10区画の用地を継続的に仕入れる体制を構築する。地場の有力不動産業者・農協・地主・常陽銀行・筑波銀行との関係構築が前提条件。専属の用地仕入担当を3〜5名配置し、エリア別・価格帯別の仕入ターゲットを明文化する。これにより月20〜50棟の分譲供給能力を持つ。

第2レイヤー|注文顧客への土地提案機能:注文住宅検討者に対して、自社が確保した複数区画から「あなたの理想の家を建てる土地」を提案できる体制を作る。「土地探し→注文住宅」の動線を社内で完結できれば、土地探しに時間を費やしている顧客を競合(飯田グループ系・グランディハウス)に奪われずに済む。

第3レイヤー|デベロッパー機能:中長期的には、1,000〜3,000坪の中規模分譲地開発の能力を持つ。これは飯田グループ・グランディハウス・地場の上位デベロッパーとの直接競合になるが、ここで戦える経営力を持てば、「注文+分譲+デベロッパー」の3階建て事業モデルで年間500棟超を狙える。ノーブルホールディングス傘下のステージプランニングがこの機能を担っており、地場本拠ビルダーが大手連合に対抗できる構造的基盤となっている。

注文住宅一本槍では、茨城県でTOPは取れない。これはノーブルホールディングスが先行して証明している論点であり、後続の地場ビルダーが県内で年間300棟を超えるためには、土地仕入機能の構築が経営戦略の中核に据えられる必要がある。飯田グループ系のTX沿線進出は、まさに「土地仕入機能を持たない注文住宅事業者の構造的限界」を突きつける現象だったといえる。

6-4|戦略③|採用戦略|3層採用設計+首都圏Uターン強化

茨城県の採用戦略は、3層構造に加え、首都圏Uターン採用の強化が決定的に重要となる。県南TXエリアからは秋葉原まで32〜45分という時間距離のため、首都圏在住の茨城出身者をターゲットにしたUターン採用を制度化する。

第1層|新卒採用:筑波大学・茨城大学・茨城キリスト教大学・常磐大学・地元工業高校との関係性を「定期接続」化する。年間新卒15〜25名を継続的に獲得するためには、就職課訪問を年4回以上、OB社員派遣を年2回以上、インターンシップ受け入れを年6回以上、を経営アジェンダとして固定化する。

第2層|中途採用:BizReach・Wantedlyを使ったダイレクトリクルーティング。一条工務店・タマホーム・積水ハウス・大和ハウス等の経験者を年間5〜15名獲得できれば、営業生産性を一段引き上げられる。県内外の住宅業界経験者プールへのリーチが、地場ビルダーの組織力を一段押し上げる。

第3層|首都圏Uターン採用:これが茨城県固有の強み。東京で働く茨城出身者のなかには、「いつかは地元に戻りたい」と考える層が一定割合いる。新卒3年目で年収500〜600万円、5年目で650〜800万円、10年目で900〜1,100万円というキャリアパスを明示し、首都圏企業の給与水準に並ぶレベルを作ることが、Uターン採用の前提条件となる。年2回の「茨城Uターンキャリアフェア」を東京駅・秋葉原駅近郊で開催する経営判断は、地場ビルダーが取りうる差別化施策である。

第4層|異業種・リファラル:金融機関・地元企業からの異業種転職者の受け入れ、現職社員からのリファラル紹介の制度化。リファラル成立時のインセンティブ(紹介者に20〜50万円、被紹介者に5〜10万円)を設計する。

注意点として、土地仕入のキーマン採用は別枠で考える必要がある。前節の土地仕入機能の構築には、地元不動産業界・常陽銀行・筑波銀行等の金融機関出身の経験者を引き抜く必要があり、ここの採用がTOPビルダー化の最大の難関となる。

6-5|戦略④|定着率|働き方・報酬・キャリアの制度設計

茨城県の住宅会社の3年定着率は業界平均で50〜60%台と言われる。これを80%以上に引き上げる制度設計が必要。完全週休2日制(土日休み・展示場は交代制)、年間休日120日以上、産休・育休100%取得、月次営業ランキングの社内公表、新人保証年収400万円は最低ラインとして整備する。

働き方:展示場勤務の交代制を徹底し、営業マン1人あたり週休2日を完全保証。月平均残業時間20時間以下を経営指標化。キャリア:営業職→マネジャー→支店長→経営幹部のキャリアラダーを5段階で設計し、各段階の年収レンジ・必要能力・昇進条件を明文化する。報酬:固定給+業績連動型インセンティブ+ストックオプション/従業員持株会の3段構成で、長期定着のインセンティブを設計する。ノーブルホームが「えるぼし認定(3段階目)」を取得しているのは、こうした制度投資の成果である。

6-6|戦略⑤|商品×ブランド×財務の3位一体

商品:3層ラインナップ(プレミアム・ミドル・規格)を整備し、年間着工の40%をミドル層、30%をプレミアム、30%を規格層に振り分けるのが標準形。茨城県は気候要件が比較的穏やかなため、UA値0.5以下を全棟標準化、断熱等級6以上を最低ラインに据えれば全国基準は十分に満たせる。耐震等級3を全棟標準化し、長期優良住宅認定取得率80%以上を目指す。

ブランド:YouTube・Instagramの自社オウンドメディア化は必須インフラ。県南TXエリアでは首都圏並みのSNS発信精度が要求され、**県央・県北では地縁型のブランディング(地元スポーツチームのスポンサー、地域イベント協賛、ネーミングライツ取得等)**が威力を発揮する。ノーブルホームの水戸市民球場ネーミングライツ取得は、後者の典型成功例である。茨城県は「魅力度ランキング下位」というネガティブブランドが県全体を覆っているため、地場ビルダーは「茨城を誇れる地域づくり」というナラティブを自社ブランドに組み込みやすい。これは他県の地場ビルダーが持ち得ない、茨城固有のブランディング機会である。

財務:自己資本比率35%以上、流動比率150%以上、年間粗利率28%以上を3つの財務指標として死守する。500棟級では運転資金30〜50億円規模になるため、メインバンク(常陽銀行・筑波銀行)との長期関係構築が県内ビルダーの財務戦略の根幹となる。茨城県は地銀基盤が比較的安定しており、地場ビルダーにとっては資金調達面で優位性のある県である。ただし、土地仕入を本格化する場合は、土地在庫リスク・金利負担を踏まえた財務設計が必要となり、自己資本比率45%以上を目安にしたい。

考察|「茨城県は地場本拠ビルダーが先行モデルを作った県」

茨城県でTOPビルダーになるとは、ノーブルホールディングスが先行して作り上げた地場本拠ビルダーモデルを参照しつつ、その背後で県内No.2・No.3のポジションを確立することを意味する。「No.1を奪う」よりも、「県南TXエリア特化No.1」「県央水戸圏No.2」「県北日立圏No.1」のような特定商圏特化型のポジショニングのほうが、現実的な戦略となる。

茨城県は人口規模が大きく(279万人)、5商圏分散構造を持つため、1社で県内全域を制覇するよりも、特定商圏に深く入り込む経営のほうが収益性が高くなる場合がある。ノーブルHD1社の独走を許さない複数の地場プレイヤーが共存する県内構造を作れるかが、次の10年の茨城県住宅市場の活性度を決定する。茨城県の住宅市場が次の10年でどう動くかは、ノーブルHDのさらなる広域化と、それに対抗する次世代地場チャレンジャーの登場の有無にかかっている。


■ まとめ|次回予告

茨城県の住宅市場は、首都圏隣接×5商圏並立×TX沿線成長×県内地場本拠ビルダーの強さ×全国メーカー王者の出店密度という五つの構造的特徴を持つ。一条工務店が県内に約20の展示場を配置し関東地方の地方県としては最大級の出店密度を維持する一方、ノーブルホールディングスが地域ビルダー部門9年連続首位・総合ランキング6年連続首位を死守し、年間750棟・累計13,000棟超の実績で地場資本の代表選手として全国メーカーと並立する。さらに2022年の丸和住宅統合・2023年の西甲府住宅資本提携で甲信越への広域化も進めている。「地場本拠ビルダーが先行モデルを作り、後続のチャレンジャーが背後を狙う県」として、茨城県は東北6県のいずれとも異なる構造を持つ。本州の地方県のなかでは、「縮む県全体×増える県南×強い地場本拠ビルダー」という3層の特殊性が同時に存在する珍しい県である。

47都道府県シリーズの第8弾として、茨城県を取り上げた。次回・第9弾は栃木県編として、宇都宮・小山・栃木・足利・佐野の5商圏構造と、北関東の住宅市場のもう一つの顔を分析する。茨城・栃木・群馬の北関東3県をそれぞれ独立に分析することで、**「首都圏ベッドタウン化の進行度合いの違い」「県内地場ビルダーの育成度合いの違い」「3県境界エリアの取り合い構造」**を立体的に浮かび上がらせる予定である。


■ 最後に|ピュアグロースへのご相談・お問い合わせ

最後に、ピュアグロースへのご相談窓口をご案内します。

経営相談・無料コンサルティング相談はこちら:https://pure-growth.co.jp/contact/

「自社のいる都道府県の市場でNo.1ビルダーを目指したい」「採用が思うように進まない」「資材高騰のなかでも粗利を確保したい」「Web集客のしくみを根本から作り直したい」「次の10年のビジョンを一緒に描いてほしい」──どんな経営課題でも、まずはお気軽にご相談ください。

PGの公式情報チャネルは以下です。

  • コーポレートサイト:https://pure-growth.co.jp
  • YouTube『ハウスメーカー・工務店コンサルTV』:業界向け経営情報を発信 https://www.youtube.com/@pure-growth
  • YouTube『ウラ側ハウスのミヤウチ社長』:エンドユーザー向け、10万回再生超え多数 https://www.youtube.com/@pg_house
  • 著書『SNSで家を売る』クロスメディア・パブリッシングで発売中

出典・参考データ

  • 国土交通省「住宅着工統計」(2024年・2024年度速報値)
  • 茨城県「住宅着工データ」(令和5年度・令和6年度)
  • 茨城県「人口と世帯(推計)」(令和7年12月1日現在)
  • 総務省「住民基本台帳人口移動報告」「人口推計」
  • 国立社会保障・人口問題研究所「日本の地域別将来推計人口」(令和5年推計)
  • 帝国データバンク水戸支店「茨城県の倒産動向2024年」「茨城県休廃業・解散動向調査2024年」
  • 帝国データバンク「建設業倒産動向調査2024」
  • ピュアグロース株式会社「住宅・建設業界戸籍データ」(2024年度版)
  • ピュアグロース株式会社 茨城県内クライアント企業との経営対話(一次情報)
  • 各社コーポレートサイト・採用ページ・公開IR資料

筆者

宮内和也(みやうち・かずや) ピュアグロース株式会社 代表取締役。船井総合研究所を経て独立、住宅・建設業界に特化した経営コンサルティングファームを経営。「定額制注文住宅」「大型単独展示場」「来場予約ファースト」など、業界標準となったプロジェクトを多数主導。著書『SNSで家を売る ―「タイパ時代」の営業術』(クロスメディア・パブリッシング、2025年12月)。

You are up Next

クライアントの成果を見て
興味を持った方、
次はあなたの会社の番です。

無料相談してみる