目次
京都府の住宅市場は、47都道府県の中でも極めて特殊な構造を持つマーケットである。その特殊性は3つの要素から成り立っている。第一に、世界有数の観光都市である京都市を中心とする「景観規制マーケット」。京都市内では高度地区・景観地区・眺望景観保全地域による規制が市街地のほぼ全域に及び、屋根勾配・色彩・素材まで細かく定められている。これは住宅会社にとって商品設計・デザインの自由度を縛る一方、設計知見の蓄積が参入障壁になるという両面性を持つ。スペインやイタリアのように景観条例の強いヨーロッパに近い日本でも唯一の地域ともいえる。
第二に、京都市内の絶対的な土地不足と京町家文化による「狭小地・建て替えマーケット」の存在。京都市は人口規模に対して新築住宅着工数が極めて少なく、その大半が建て替え案件となる。
第三に、洛南(宇治・城陽・京田辺)・関西文化学術研究都市(精華・木津川)方面の郊外型ベッドタウン需要。京都市内の規制の厳しさを嫌った住宅会社・新築需要が、府南部の市街化区域に集中している。
本レポートでは、PG戸籍名簿の集計データと公的統計を基に、京都府の住宅市場における主要プレイヤーの動向、特に一条工務店の「京都・四条」を含む総合住宅展示場ドミナント戦略と、地場有力ビルダー(グランレブリー・小林住宅・木下工務店・エルハウジング・アーキホームライフ等)の「自由設計×老舗ブランド」戦略を構造的に解剖する。本稿で用いる経営フレームワーク「古都景観規制マーケット」「洛南・学研都市分譲ドミナント」「京都市内建て替えマーケット」「老舗ブランド型自由設計戦略」は、住宅・不動産業界専門コンサルティングファームである株式会社ピュアグロースが独自に整理した概念である。
ピュアグロース社も京都に本社を持つ顧問先は複数あり、県外からの京都進出を果たしているビルダーも多く取引があるので、そこも踏まえて京都市場について執筆する。
京都府の人口は約251.8万人、世帯数は約121.9万世帯(2025年時点)であり、関西圏では大阪府・兵庫県に次ぐ第3位の規模を持つ。新設住宅着工戸数では全国上位の中堅市場だが、構造を見ると京都市内と府南部・北部で需要パターンが大きく異なる。京都市の新設住宅着工戸数(持家・分譲住宅)は約5,000戸前後で全国10位前後の規模を持ち、政令指定都市の中ではマンション着工比率が極めて高く、戸建注文住宅の市場規模は人口比で見ると相対的に小さい。
府南部の宇治市・城陽市・京田辺市・八幡市・木津川市・精華町といった洛南エリアと、関西文化学術研究都市の存在が京都府の戸建住宅市場の主戦場である。特に学研都市方面(木津川市・精華町)は、京阪奈の研究機関集積地として人口流入が継続する成長エリアであり、京都府内の住宅会社の出店戦略において重要な意味を持っている。洛南エリアについては奈良県と商圏が混在している。
一方、府北部(舞鶴・福知山・宮津・京丹後)は人口減少エリアで、新築住宅市場は緩やかに縮小している。府北部に出店する大手HMは限定的で、地場工務店と少数の全国チェーン(一条工務店の舞鶴展示場など)が市場を分け合う構造になっている。
2024年の新設住宅着工戸数は全国で前年比3.4%減、持家は前年比2.8%減と3年連続で減少した。京都府も全国トレンドに沿って持家着工は微減基調で推移している。一方、京都市内では分譲マンション市場が依然として強く、戸建注文住宅と分譲マンションの**「同一顧客層を巡る競合構造」**が際立っている。共働き30代世帯が「同じ予算でマンションを買うか、洛南で戸建を建てるか」という選択をする──これが京都府の住宅市場を語る上での核心的な構図である。
京都府の住宅市場は地理的・市場特性的に明確な3エリアに分かれる。
**京都市内エリア(左京・右京・伏見・北・上京・中京・下京・東山・南・西京・山科)**は、景観条例・高度地区規制が市場の前提条件となるエリア。市街地の高さ制限は10m・12m・15m・20m・25m・31mの6段階で、地区ごとに屋根勾配や色彩まで規定される。土地価格は高く、宅地は希少。新築需要は建て替え・狭小地が中心で、地場の老舗工務店と分譲マンションが市場を二分している。注文住宅では小林住宅・木下工務店・グランレブリーといった地場有力ビルダーが景観規制ノウハウを武器に強い存在感を発揮する。
**洛南・学研都市エリア(宇治・城陽・京田辺・八幡・木津川・精華・久御山・井手・宇治田原)**は、京都府の戸建注文住宅市場の中心地。京都市内の規制を嫌う住宅会社も、京阪神勤務の30代共働き世帯も、ここに集中する。京都市の南郊として大阪・奈良へのアクセスも良好で、特に学研都市方面は研究機関集積による継続的な人口流入がある。一条工務店の久御山住宅公園(ABCハウジング京都・久御山)、桃山六地蔵住宅博、京都・四条(2025年7月開業)などの総合住宅展示場が南部エリアに集中する理由がここにある。
**洛西・洛北・府北部エリア(亀岡・南丹・京丹波・舞鶴・福知山・綾部・宮津・京丹後・与謝野・伊根)**は、人口減少と地場工務店の存在感の強さが特徴。一条工務店は亀岡展示場・舞鶴展示場で対応し、地場の中小工務店が地域顧客の信頼で受注を獲得する。市場規模は小さいが、エリア内競争密度は低い「マイナーリーグ」である。
PG戸籍名簿の集計データから京都府の住宅メーカー上位10社の変遷を見ると、この10年で勢力図が劇的に書き換わっていることが分かる。
2014年時点では、首位が積水ハウス、2位が大和ハウス工業、3位がフジ住宅、4位がアーネストワン、5位が旭化成ホームズ、6位が住友林業、7位がファースト住建、8位がパナホーム、9位がタマホーム、10位が一条工務店という構成だった。大手HM・パワービルダー・地場分譲ビルダー(フジ住宅・ファースト住建)が混在する関西広域の典型的な構造である。注目すべきは、この時点で一条工務店は10位、首位の積水ハウスとは大きな差があった点だ。
これが2024年になると、首位が一条工務店、2位がフジ住宅、3位がオープンハウスG、4位が積水ハウス、5位が泉北ホーム、6位が大和ハウス工業、7位が住友林業、8位が一建設、9位が積水化学工業、10位がタマホームと、首位が一条工務店に交代し、オープンハウスGと泉北ホームが新たに台頭、パナホーム(パナソニックホームズ)・アーネストワン・ファースト住建が10位圏外に押し出されるという大きな変化が起きている。
第一に、一条工務店の首位奪取。10位から首位へという急上昇は、後述する総合住宅展示場ドミナント戦略の成果である。
第二に、オープンハウスGの新規台頭。オープンハウスは2014年時点では京都府ではほとんど存在感がなかったが、2024年には京都府3位まで急伸。これは京都市内(特に左京区・北区・上京区など)の狭小地・建て替え市場で、「土地仕入れ×3階建て狭小住宅×自社販売」のビジネスモデルが京都の市場特性に適合した結果である。京都市内の宅地希少性を逆手に取った戦略と言える。
第三に、泉北ホームの台頭。泉北ホームは大阪府堺市を本拠とする関西の地場分譲・注文ハイブリッドビルダーで、洛南エリアを中心に京都府でもシェアを伸ばしている。大阪の注文住宅としてのトップビルダーのポジションを奈良県・京都府でも台頭し、シェアを上げている。
第四に、パナホーム・ファースト住建の後退。これは大手HM全般の苦戦と、関西広域分譲ビルダーの京都府での地位低下を意味している。京都市内の規制対応コストと洛南エリアでの競合激化が背景にあると推測される。
京都府の住宅メーカー勢力図を理解するには、「京都市内で強い会社」と「洛南で強い会社」が異なるという構造を押さえる必要がある。
京都市内で強いのは、景観規制対応に長けた地場有力ビルダー(小林住宅・木下工務店・グランレブリー)と、狭小地3階建てに特化したオープンハウスG、デザイン重視のハイエンド層を取る積水ハウス・住友林業・三井ホーム・ヘーベルハウスなどである。
洛南で強いのは、総合住宅展示場ドミナントを持つ一条工務店、関西広域の分譲ビルダーであるフジ住宅・泉北ホーム・ファースト住建、全国系のアイ工務店・ヤマト住建・タマホーム・一建設などである。
この「エリアによって勝つ会社が違う」という構造が、京都府の住宅市場を読み解く最大のポイントである。自社の主戦場がどちらにあるかを明確にせず、両方を中途半端に狙う会社は、両方の市場で消耗戦に陥る。
まず一条工務店の全社ベンチマークを確認する(PG戸籍名簿より)。
一条工務店については全国トップビルダーである。京都府下でもそのシェアを高めている。
一条工務店の京都府内展示場を整理すると以下のような陣容になる。
注目すべきは、京都府の主要総合住宅展示場(京都・四条/京都五条/桃山六地蔵/京都・久御山)すべてに一条工務店が複数ブースを構えているという事実だ。京都五条住宅展示場には京都五条展示場・京都五条東展示場の2棟、桃山六地蔵住宅博には京都桃山展示場・京都桃山東展示場の2棟、ABCハウジング京都・久御山住宅公園には京都久御山展示場・京都久御山東展示場の2棟──というように、**1か所の総合展示場に2棟並列出店する「複数棟展開戦略」**を徹底している。
さらに2025年7月にグランドオープンした「総合住宅展示場 京都・四条」(京都市右京区西院四条畑町、四条通沿いニトリ向かい)にも、一条工務店は最新モデルハウスを出展した。この新展示場には一条工務店・グランレブリー・アイ工務店(2階建て・3階建て)・木下工務店・小林住宅・セキスイハイム・ヒノキヤグループ・アーキホームライフの9社が集結しており、京都市中心部における新たな住宅会社の激戦地となっている。
桃山六地蔵住宅博内の「京都桃山展示場」は、京都府内で唯一の『GRAND SMART』展示場として位置づけられている(一条工務店公式情報より)。GRAND SMARTは一条工務店の上位ブランドで、i-smartをさらに進化させたフラッグシップ商品。これを京都府内で1拠点に絞って展示することで、「桃山展示場=GRAND SMARTの聖地」というブランド体験のプレミアム化を狙っている。
一方、京都市内の他展示場(京都五条・京都五条東・京都四条)ではi-smart中心、洛南の京都久御山ではHUGmeも含めた幅広いラインナップ──というように、展示場ごとに見せる商品ブランドを分けるフルラインナップ戦略を京都府で展開している。これは滋賀県の「ABCハウジング草津型集中投下」とは異なる、「展示場ごとに商品プレミアム性を分ける」戦略であり、京都府の住宅消費者の嗜好に合わせた洗練された出店設計だ。
一条工務店の京都府公式エリアサイトには「京都営業所設立から29年を超える一条工務店は、住宅の性能と暮らしの質にこだわるメーカーとして、京都のさまざまなニーズを叶える快適な住まいをご提供」という記述がある(一条工務店公式情報より)。これは単なる年数のアピールではなく、29年間蓄積された地元の不動産業者ネットワーク・土地情報インフラ・OB顧客の紹介ネットワークが、京都府での営業力の源泉になっていることを示している。
一条工務店は基本的に土地を持たない「注文住宅専業モデル」だが、三重県や静岡県・地方商圏においては大量に保有しているエリアもある。
京都府ではこのネットワークの長期蓄積によって土地情報サポートに強い体制を構築している。これは滋賀県(湖南エリア)での同社の体制と類似する構造であり、近畿圏全体での営業所長期運営による無形資産の蓄積が、近畿2府4県での一条の躍進を支えていると評価できる。
一条工務店の標準商品は、京都市内の景観規制エリアでは制約を受けることがある。例えば屋根勾配・外壁色・素材などの規制基準に標準仕様が一部抵触する場合があり、その際は地区別基準に合わせた仕様変更が必要となる。これは一条のような全国規格商品を展開するメーカーにとって構造的な不利となり得るが、京都府内29年の歴史で京都市内の景観規制対応ノウハウは相当蓄積されていると推測される。
ただし、地場の老舗ビルダーが景観規制を「設計の遊び場」として積極的に楽しむ姿勢を持つのに対し、一条工務店は「規制への対応・遵守」というスタンスであり、ここに京都市内市場での地場有力ビルダーとの根本的な差別化点が生まれている。
一条工務店の構造的な弱点として、滋賀県分析でも触れた「①デザインの自由度、②価格透明性の罠、③土地探しの弱さ、④工期の長さ」の4点があるが、京都府では特に①と②が重要な意味を持つ。
①のデザインの自由度は、京都市内の景観規制エリアや、洛南エリアでもデザイン志向の強い30代共働き層に対しては明確な弱点となる。京都の地場有力ビルダー(特にグランレブリー)が「フルオーダー注文建築」「デザイン性と機能性の両立」を訴求する戦略は、まさに一条の弱点を直撃する逆張りポジションである。
②の価格透明性の罠については、一条の坪単価は公称50〜60万円台でも実契約は坪70〜90万円台になるケースが多く、これに対して地場の自由設計ビルダーは「最初から坪65〜80万円のレンジで明示」する透明性戦略で差別化できる。今後ナフサショックによる価格高騰と価格据え置き戦略を取ろうとしている一条工務店での価格ラップによりさらにシェアを伸ばすきっかけにはなりうる。
地場・中堅ビルダーが一条と戦う際の京都府版「逆張りパッケージ」は、フルオーダー自由設計×景観規制対応×価格透明性×地元ブランドの安心感という4要素を組み合わせたものになる。
京都府の地場有力ビルダーで最も注目すべき1社がグランレブリーである。京都本店・滋賀支店を構え、京都・滋賀・大阪を商圏とする地域密着型ビルダー(同社公式情報より)。一条工務店と並んで「総合住宅展示場 京都・四条」のメインプレイヤー(2番手)として出展する有力プレイヤーである。
グランレブリーの戦略の核心は、3点に整理できる。
第一に、フルオーダー注文建築。同社は「あなたの夢をあなた以上に汲み取るフルオーダー注文建築」を掲げ、平均坪単価57万円(2024年契約60件平均、標準外構費込み、同社公式情報より)で高デザイン性・高機能を実現することを訴求している。これは一条工務店の規格商品とは対照的な、「自由度の高さで差別化する」典型的な地場ビルダー戦略である。
第二に、ACTUS家具100万円分セット商品。家具と一緒に暮らしを完成させるという発想で、ACTUSの家具100万円分がセットになった住まいづくりプログラムを展開(同社公式情報より)。これは住宅と家具・ライフスタイルを一体提案する手法で、デザイン感度の高い京都市内・洛南の30代共働き層に強く訴求するパッケージである。
第三に、3つの性能シリーズ(スタイル・リシェ・ミュウ)。標準グレード「スタイル」でZEH基準である断熱等級5・UA値0.6を実現、上位の「リシェ」「ミュウ」では断熱等級6(HEAT20 G2相当)・UA値0.46〜0.36を実現し、性能面でも一条工務店に近い水準を確保している(同社公式情報より)。
グランレブリーのポジションを一言で表せば、「京都市場における一条の対抗馬として、デザイン×自由設計×家具まで含むライフスタイル提案で差別化する地場有力ビルダー」と言える。
小林住宅は「総合住宅展示場 京都・四条」に出展する地場有力ビルダーの一つで、**外断熱20年以上の実績・関西No.1の供給戸数(外断熱住宅)**を誇り、断熱・気密・換気のすべてが最高水準を訴求している(家サイト住宅展示場ガイド掲載情報より)。「他では真似のできない価格以上の価値ある家づくり」を掲げ、外断熱という独自の構法で長年の実績を積み上げてきた老舗ビルダーである。CM含めてこのメッセージは一貫している。
小林住宅の強みは、**「外断熱という特定技術領域での圧倒的な専門性」**にある。一条工務店が「全館床暖房・高気密高断熱」を看板にする一方、小林住宅は「外断熱」という別の切り口で同じ「快適性能」訴求を展開する。外断熱は内断熱とは異なり、構造躯体全体を断熱材で包み込む手法で、結露防止性能や躯体長寿命化に優れる。この技術特化が、性能比較に強くなる京都の理性派30代層に訴求している。
木下工務店は全国展開する大手注文住宅会社で、京都府でも京都・四条をはじめ複数の住宅展示場を展開している(同社公式情報より)。年間5,000棟のお引渡し実績、創業70年の歴史を持ち、全邸に「50年保証システム」を適用、365日年中無休の「24時間コールサービス」を提供している。
木下工務店の特徴は、**「直営施工システム」「完全自由設計」「発泡断熱システム」**の3点。職人たちがつくる完全自由設計の木の住まいづくりを掲げ、現場吹付け発泡による隙間のない施工で高断熱・高気密住宅を実現する。価格帯は一条工務店の坪単価よりやや高めで、より上位の自由設計層を獲得している。京都府では「全国ブランドの安心感×自由設計の対応力」を武器に、中〜上位ゾーンで戦うポジションを確立している。
PG戸籍名簿の2014年京都府データを見ると、エルハウジンググループは2014年時点で京都府の地場ビルダーとして上位の存在感を持っていた。その後の動向は地域特化の分譲・建売を中心とする戦略で、京都府南部(伏見・宇治・城陽・京田辺方面)と滋賀県大津方面を商圏として、土地仕入れから建売販売、注文住宅までを手掛ける典型的な関西地場分譲ビルダーである。
エルハウジングGの強みは、京都南部・洛南エリアでの土地仕入れネットワークと、分譲+注文のハイブリッドモデルにある。京都市内の規制エリアを外し、洛南の市街化区域で分譲地を継続的に確保することで、安定した供給を実現してきた。価格帯はミドル〜ローコスト寄りで、フジ住宅・泉北ホームと競合するゾーンを取っている。同社は2023年に全国区のプライム上場企業であるケイアイスター不動産の連結子会社化となった。同社のケイアイスターグループが他県展開にあたりビルダーの子会社化戦略は過去も行ってきた実績があり、福岡県のよかタウン社などは同社の成功パターンと言える。
2025年7月にグランドオープンした「総合住宅展示場 京都・四条」の出展企業ラインナップは、京都府の住宅市場における地場・全国ビルダーの勢力図を象徴している(家サイト住宅展示場ガイド掲載情報より)。
出展企業(五十音順)は、**アイ工務店(2階建て・3階建ての2棟出展)・一条工務店・木下工務店・グランレブリー・小林住宅・セキスイハイム・ヒノキヤグループ・アーキホームライフ(2026年春オープン予定)**の8社9棟構成。
注目すべきは、この出展メンバーに大手HM御三家(積水ハウス・大和ハウス・住友林業)が含まれていないことである。これらの大手HMは京都市内の他展示場(KTVハウジング京都北山など)に既に拠点を持ち、京都・四条への新規出店を見送ったと推測される。一方、一条工務店・アイ工務店・木下工務店という「全国成長型ビルダー」と、グランレブリー・小林住宅・アーキホームライフという「京都地場有力ビルダー」が混在する構成は、京都市内の新築マーケットの主役が大手HMから「成長型ビルダー+地場有力」シフトしていることを示唆している。
アイ工務店は京都・四条に2階建てと3階建ての2棟を同時出展するという、京都府への明確な投資意思を示している。京都市内の狭小地・3階建てニーズと、洛南エリアの2階建て一般住宅ニーズの両方を1か所で押さえる戦略である。
PG戸籍名簿のアイ工務店全社データは、22年度売上134,111百万円→24年度201,009百万円で伸率49.9%、5年成長193.6%と、住宅業界で圧倒的に日本一伸びている1社。京都府でもこの成長の波に乗り、特に洛南エリアの一次取得層を中心にシェアを伸ばしている。アイ工務店のスイートスポット「価格は一条より下、自由度は一条より上、地場工務店より組織化」は、京都府でも同様に機能している。
PG戸籍名簿の2024年京都府データで一条工務店・フジ住宅に次ぐ3位に位置するオープンハウスGの戦略は、京都府の住宅市場を語る上で欠かせない。オープンハウスGは京都市内(特に左京区・北区・上京区・中京区などの狭小宅地希少エリア)で、**「土地仕入れ→3階建て狭小住宅の自社販売」**というビジネスモデルを展開している。
京都市内の高度地区規制下では、土地が狭くても3階建てで建てれば1棟あたり延床面積を確保できる。これは大手HMが規格に縛られて対応しにくい領域であり、オープンハウスGの土地仕入れ力と自社販売モデルがフィットするスイートスポットだ。京都市内の若年・中年単身層や、子育て世帯の建て替えニーズを「3階建て狭小住宅」で受け止めている。
京都府の住宅市場を競合構造から見ると、価格帯と地理の組み合わせで6つのマーケットゾーンに分かれる。
ハイエンドゾーン(坪80万円超)京都市内は、積水ハウス・住友林業・三井ホーム・ヘーベルハウス・木下工務店・小林住宅・グランレブリー(リシェ・ミュウ)が戦う領域。地元の旧家・経営者層、京都ブランドを重視する建て替え層、デザイン志向の高所得共働き層がターゲット。景観規制対応力と老舗ブランドの安心感が決定要因となる。
ハイエンドゾーン(坪100万円超)洛南は、積水ハウス・住友林業・大和ハウス工業・三井ホーム・一条工務店GRAND SMARTが戦う領域。京阪神勤務の高所得共働き層、注文住宅志向の強い40代以降のファミリー層がターゲット。
ミドルゾーン(坪70〜90万円)京都市内は、グランレブリー(スタイル)・小林住宅・木下工務店・地場の有力工務店・一条工務店i-smartが競合する領域。京都市内で建て替えする30代後半〜50代の中堅所得層がメインターゲット。景観規制対応・3階建て設計力・自由設計力が決定要因。洛南は、京都府で最も激戦の領域。一条工務店i-smart・アイ工務店・木下工務店・グランレブリー(スタイル)・ヤマト住建・地場分譲ビルダー(フジ住宅・泉北ホーム・エルハウジング)・が四つ巴〜五つ巴で競合する。共働き30代の一次取得層が中心ターゲット。
ローコストゾーン(坪60〜70万円)洛南は、タマホーム・一建設・アイダ設計・秀光ビルドが競合する領域。土地予算を厚くしたい一次取得層が対象。京都市内は、土地価格の高さから市場が成立しにくく、競合プレイヤーも限られる。京都市内で安く家を建てたい層は実質的に建売・中古リノベに流れている。
このゾーン×エリアのマトリクスで自社の主戦場を明確にすることが、京都府で勝つための第一歩である。
**古都景観規制マーケット圏(京都市11区)**では、景観条例・高度地区規制が前提となり、設計知見の蓄積が参入障壁になる。勝つには①景観規制対応の設計力、②狭小地・建て替えの3階建て技術、③老舗ブランドまたは地元での信頼蓄積、④デザイン感度の高い設計士の確保──の4点が必要。地場の有力ビルダーが大手HMと十分に戦えるエリアで、グランレブリー・小林住宅・木下工務店が強い理由はここにある。
**洛南・学研都市分譲ドミナント圏(宇治・城陽・京田辺・八幡・木津川・精華・久御山)**では、京阪神ベッドタウン型の住宅一次取得需要が中心で、競合密度が高い。勝つには①総合住宅展示場での露出量(一条工務店・アイ工務店・木下工務店の戦略)、②土地仕入れ力(フジ住宅・泉北ホーム・エルハウジングの戦略)、③営業組織のスケール──の3点が必要。中小工務店が単独で戦うには厳しい「メジャーリーグ」である。
この二極構造を理解せず、京都市内で通用する戦略を洛南に持ち込んだり、その逆を行ったりすると必ず失敗する。自社の主戦場を明確にし、エリア特性に合わせた商品・営業手法を選択することが、京都府で勝ち抜くための鉄則である。
PG戸籍名簿2024年京都府データを見ると、大手HM3強のポジションは以下のようになっている。積水ハウスは2014年首位から2024年4位に後退、大和ハウスは2014年2位から2024年6位に後退、住友林業は2014年6位から2024年7位とほぼ横ばい──というように、大手HM3強はいずれもポジションを落としている。
積水ハウスの後退は、一条工務店の急伸とオープンハウスG・泉北ホームの新規台頭による「上位陣の入れ替え」が主因。京都市内のハイエンド層・大規模分譲案件で底力を保ちつつも、ミドルゾーンでの競合激化に押されている構図だ。
大手HM3強に共通する課題は、「一条工務店の物量攻勢、洛南分譲ビルダーの土地仕入れ力、京都市内地場有力の景観規制対応力という3方向からの挟撃を受けている」ことだ。これに対する打ち手として、各社とも分譲開発事業の強化・3階建て都市型商品・賃貸併用住宅の投入を進めているが、京都府特有の市場特性に対する決定打にはなっていない状況である。
京都府で住宅事業を経営する上で最も重要な意思決定は、「自社が京都市内で戦うのか、洛南で戦うのか」を明確にすることである。両方を狙う総合戦略は、京都府ではほぼ例外なく失敗する。理由は、両エリアで求められる経営資源・人材・設計力・営業手法が全く異なるからだ。
京都市内で戦うなら、景観規制対応のできる設計士の確保と教育、3階建て狭小地の構造設計力、京都地場の不動産業者ネットワークへの長期投資が不可欠。洛南で戦うなら、総合住宅展示場への出店投資、分譲地を継続的に仕入れる土地ネットワーク、未経験営業を量産する採用・教育体制が必要となる。両者は補完的に見えて、実は経営資源として根本的に異なる方向を向いている。
筆者が2025年12月に出版した著書『SNSで家を売る ―「タイパ時代」の営業術』(クロスメディア・パブリッシング)では、現代の住宅一次取得層が「展示場に行く前にSNS・YouTube・口コミで会社を絞り込む」という購買行動の変化を解説している。これは京都府でも全く同じで、特に共働き30代の洛南エリア層と、京都市内の建て替えを検討する40〜50代層は、**「展示場初訪問前の情報収集をスマホで完結させる」**という購買プロセスを取っている。
京都府でのSNS発信は、エリアごとに発信内容を変える必要がある。京都市内向けには「景観条例下でもデザイン性を実現した実例」「建て替え事例のビフォーアフター」「狭小地3階建ての間取り工夫」といったコンテンツが効く。洛南向けには「学研都市での子育てライフスタイル」「土地探しから引き渡しまでの全プロセス」「光熱費シミュレーション」といったコンテンツが効く。
総合住宅展示場のドミナントを持たない地場・中堅ビルダーが京都府で勝つには、「展示場フリー来場依存からの脱却」が必須である。PGが業界に提唱してきた「来場予約ファースト戦略」は、京都の地場・中堅ビルダーにとって特に有効な打ち手となる。京都市内の狭小地・建て替え案件はもともと商談の深度が必要で、事前予約来場との相性が極めて良い。
来場予約ファーストの本質は、「展示場の物量戦で大手と一条に勝てないなら、商談の質で勝つ」という発想転換にある。事前予約来場者は住宅会社をある程度絞り込んだ上で来ているため、契約率が圧倒的に高い。少ない来場数で多い契約数を生み出す経営構造に転換することが、京都の中堅・地場ビルダーの生き残り戦略である。
京都市内で戦う地場ビルダーが取るべき差別化戦略の決定打は、「景観規制ノウハウの可視化と発信」である。具体的には、景観条例の地区別基準を一覧化したガイドブックの配布、過去施工事例における規制対応の解説動画、自社設計士の景観審議経験の発信、京都市建築指導部とのスムーズな手続き対応実績──こうしたコンテンツを継続発信することで、「景観規制で困ったら○○工務店」という第一想起ポジションを確立できる。
これは一条工務店や全国系HMが構造的に取りにくいポジションであり、京都地場有力ビルダーにとっての絶対的な差別化領域である。
洛南エリアで戦う地場・中堅ビルダーは、フジ住宅・泉北ホーム・エルハウジングの成功事例が示す「分譲を起点として売り建て→請負→完全注文にアップグレードする」モデルを構築すべきである。実装するための要件は3つ。
第一に継続的な土地仕入れ体制。地元金融機関・地元不動産業者とのネットワーク構築、相続情報の早期キャッチ、競売・任意売却の機動的取得など、複数チャネルから安定的に土地を仕入れる仕組み。
第二に分譲地の街区ブランディング。エリアごとに統一感のあるブランディングを行い、街並み価値を高めて「ここで家を建てたい」という第一動機を作る。
第三に建売→注文アップグレードの商談シナリオ。建売を見に来た顧客に「同じエリアで自由設計の注文も可能」と提示し、契約単価を上げていく営業設計。これで分譲の集客力と注文の利益率を両立できる。
京都府においても住宅会社経営の最大の制約は人材不足である。京都には京都大学・同志社大学・立命館大学・京都工芸繊維大学など多数の大学があり、若年層の供給ポテンシャルは高い一方、住宅会社の営業職は学生の第一選択肢になりにくい。一方京都というのはキャリア・パートなどの採用においては関西圏の中では最も採用媒体等での応募が増えるエリアともいえる。
ここで「採用に投資できる経営者」と「採用を諦める経営者」の差が、5年後の棟数に決定的な違いを生む。①新卒採用への計画的投資、②未経験者向け教育プログラムの整備、③女性営業の積極登用、④設計士の景観規制教育プログラム──の4点を持続的に行えるかどうかが分水嶺となる。特に京都市内特化のビルダーにとっては、**「景観規制対応のできる設計士の社内育成」**が長期的な競争力の源泉となる。
2030年に向けた京都府の住宅市場規模はエリア別に異なる動きが予想される。京都市内は新築需要が建て替え・狭小地中心の構造に固定化され、戸数自体は緩やかに減少するものの、平均坪単価の上昇により市場金額ベースでは横ばい〜微増で推移する見通し。マンション市場が依然として強く、戸建注文住宅と分譲マンションの競合は続く。
洛南・学研都市エリアは世帯数増加と京阪奈アクセスの追い風で底堅く推移するだろう。京都市内の地価高騰がさらに進めば、戸建選好の30代世帯が洛南エリアにさらに流入する可能性すらある。学研都市方面(木津川市・精華町)は研究機関集積の継続で人口流入が続く。
府北部(舞鶴・福知山・宮津・京丹後)は人口減少の加速により住宅着工数は緩やかに縮小する。地場工務店は新築単独からリフォーム・既存住宅活用への業態転換を検討すべきフェーズに入っている。
一条工務店は京都府内9展示場体制を維持しつつ、京都・四条への新規出店効果でさらに棟数を伸ばす見通し。京都桃山のGRAND SMART展示場を起点としたハイエンドゾーンへの浸透も進む。京都市内の景観規制対応力をさらに磨くことができれば、伝統的に大手HMが強かった京都市内市場にも本格進出する可能性がある。
**大手HM3強(積水ハウス・大和ハウス・住友林業)**は緩やかな減少傾向が続く見通し。各社とも分譲事業強化・3階建て都市型商品・賃貸併用住宅でテコ入れを図るが、京都府特有の構造に対する決定打にはなりにくい。ただし京都市内ハイエンド層・大型分譲案件では引き続き強さを保つ。
**京都地場有力ビルダー(グランレブリー・小林住宅・木下工務店)**は、京都市内市場での景観規制対応力と地元ブランド力を武器に、現状ポジションを維持・拡大する見通し。特にグランレブリーは「総合住宅展示場 京都・四条」を新拠点として、京都市内・洛南両エリアでの存在感を高めるポテンシャルが大きい。
**洛南分譲ビルダー(フジ住宅・泉北ホーム・エルハウジング)**は、洛南エリアでの分譲地仕入れ力と価格競争力を武器に、ミドル〜ローコストゾーンを引き続き押さえる見通し。
アイ工務店は引き続き急成長が予想される。京都・四条への2棟同時出展は、京都府全域への本格展開の布石。2028〜2030年頃には京都府内シェアでトップ3入りする可能性がある。
オープンハウスGは京都市内の狭小地3階建てモデルを継続強化、京都市内3〜4位の地位を維持する見通し。
中小工務店・地場セカンドティアは二極化が進む。SNS・WEB集客への投資ができる会社は伸び、できない会社は急速に淘汰される。M&Aによる業界再編が京都府でも本格化する見通しだ。
PGの分析では、2030年の京都府住宅市場は以下のような構造になっていると予想する。
第一に、上位5社(一条工務店・フジ住宅・アイ工務店・積水ハウス・グランレブリーまたは木下工務店)の集中度がさらに上昇し、これら5社で京都府内シェア3〜4割を握る。
第二に、中堅地場ビルダー(年間50〜150棟層)はM&A・FC加盟・事業承継を経て、京都市内特化型と洛南特化型に二分される。
第三に、SNS・YouTube起点の集客が新築営業の主流になり、総合住宅展示場の集客比率は今より2割程度減少する。ただし「総合住宅展示場 京都・四条」のような新規開業の総合展示場は、京都市中心部の新たな集客拠点として一定の役割を果たし続ける。
第四に、京都市内マーケットは「景観規制対応のできる地場ビルダー」「狭小地3階建ての全国系ビルダー」「ハイエンド大手HM」の三層構造に再編される。
第五に、洛南マーケットは「総合展示場ドミナント型」「分譲ドミナント型」「全国成長型」の3類型に集約され、いずれにも該当しない中堅ビルダーは淘汰される。
この変化に乗り遅れた経営者は、5年後・10年後に「あの時こうしておけば」と振り返ることになる。逆に、いま行動できる経営者にとって、京都府の住宅市場は依然として大きなチャンスを秘めている。
京都府の住宅市場は、「古都景観規制マーケット」と「洛南・学研都市分譲ドミナント」の二重構造が共存する、極めて特殊で奥深いマーケットである。一条工務店が10年で10位から首位を奪取し、オープンハウスGが京都市内狭小地で台頭し、グランレブリーや小林住宅といった地場有力ビルダーが「総合住宅展示場 京都・四条」で大手HMと並ぶ存在感を放つ──この勢力図の動きは、京都府だけの現象ではなく、日本の伝統都市型住宅市場全体に共通する縮図でもある。
本レポートで示した分析・フレームワーク・戦略提言が、京都府で事業を展開する住宅会社経営者・幹部の方々の意思決定の一助となれば幸いである。ピュアグロースは住宅・建設業界に特化したコンサルティングファームとして、47都道府県すべての住宅市場を継続的に分析し、各エリアで戦う経営者の伴走者であり続ける。
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