今回は石川県を取り上げる。このシリーズはこれまで、北海道(巨大市場×断熱・寒冷地仕様の競争)、新潟県(地場2強体制が続く本州日本海側最大の住宅市場)と、構造の異なる住宅市場を分析してきた。今回の石川県は、その2県とまったく違う条件下にある。
理由は明確で、石川県は2024年元日の能登半島地震と同年9月の奥能登豪雨という、令和に入ってからの最大級の二重災害を経験した県だからだ。被災住宅の建替え、内陸部への移転新築、応急仮設住宅、災害公営住宅、こうした特殊需要が日常の住宅取得需要に重なった結果、令和6年度(2024年4月〜2025年3月)の持家新設住宅着工は前年比+11.2%と、全国で唯一の二桁プラス成長を記録した。同年度に持家がプラスとなったのは石川県を含めわずか7県(秋田・新潟・石川・山梨・愛知・大阪・奈良)であり、他の40都道府県は数%〜10%超のマイナスに沈んだ。
つまり石川県は、**「全国の住宅市場が縮小トレンドの中で唯一例外的な成長フェーズに入っている県」**という極めて特殊なポジションにある。特需が起きているのは中長期でみると需要の先食いに他ならないわけではあるが地域工務店・ハウスメーカー・住宅会社の経営者、北陸エリアへの展開を検討する全国大手、住宅コンサル領域のプロフェッショナルにとって、石川県市場の構造を正しく理解しておく価値は大きい。
この記事では、人口動態・世帯構造といったマクロ条件を前半で厚く整理し、後半で住宅会社ランキング、地場ビルダーの個別動向、全国ハウスメーカーの石川戦略、復興フェーズの3段階分析、集客チャネルの実態へと進む。弊社の会員・顧問先も石川県には複数おられるが言及は避ける。
目次
まず公的統計で押さえる。石川県の住民基本台帳ベースの2025年9月時点総人口は約109万人、世帯数は約48万世帯。北陸3県(富山・石川・福井)の中では最大規模で、富山県(約103万人)・福井県(約75万人)を上回る。
指標 石川県 全国順位
総人口(2025年9月) 1,090,014人 33位
世帯数(2025年) 約48.2万世帯 32位
1世帯あたり人員 約2.27人 全国平均並み
持家比率(住宅・土地統計2018) 69.3% 全国平均(約61%)を大きく上回る
木造一戸建比率(同上) 96.8% 全国でも上位水準
年少人口(0-14歳)構成比 11.5% 全国平均より高め
老年人口(65歳以上)構成比 30.9% 全国平均より高め
(出典:石川県統計情報室「いしかわ統計指標ランド」、総務省「住民基本台帳人口」、総務省「住宅・土地統計調査」)
注目すべきは、持家比率が69.3%と全国平均(約61%)を大きく上回り、住宅の96.8%が木造一戸建てという点だ。これは新潟県(持家58.8%)と比較してもさらに高く、北陸3県に共通する「賃貸→注文住宅」というシンプルな住宅取得動線が、石川県では特に色濃く表れている。住宅会社・工務店・ハウスメーカーにとっては、注文住宅で勝負ができる純粋な市場である。関東圏のレポートを読んでいただいてわかる通り、ほとんどが分譲戸建・マンション市場であることからすると、その差がよくわかると思う。
石川県の住宅需要は、地理的に明確な3つのゾーンに分かれる。市町村別人口(2025年9月住民基本台帳ベース)を見ると、その構造がよく分かる。
石川中央ゾーン(金沢圏):人口約74万人・県人口の約68%
県人口の3分の2以上がこのゾーンに集中している。金沢駅西口の再開発、野々市市の継続的な人口増加、かほく市の宅地開発などが住宅需要を支える。県内の住宅会社・地場ビルダー・ハウスメーカーの本社・主力支店はほぼここに集中しており、住宅展示場の大半もこのゾーンに立地する。
南加賀ゾーン:人口約22万人・県人口の約20%
製造業従事者の安定した持家需要が市場を支える、堅実なボリュームゾーン。能美市にはアントールの本社があり、白山市の秀光ビルドとともに、南加賀の地場ビルダー文化を形成している。
中能登・奥能登ゾーン:人口約13万人・県人口の約12%
2024年元日の能登半島地震で甚大な被害を受け、その後9月の奥能登豪雨でも被災したエリア。長期的には人口流出が続く一方で、短期〜中期では復興需要・移転新築需要が集中する特殊フェーズに入っている。
国立社会保障・人口問題研究所の最新推計(令和5年・2023年公表)によると、石川県の将来人口は地域間で極端な格差が広がる。2020年を100とした2050年の総人口指数は以下の通り。
奥能登は30年で人口が半分以下になる推計で、輪島市(指数43.7)、珠洲市(同39.3)、志賀町(同46.9)、穴水町(同47.3)、能登町(同39.4)はいずれも50を下回る。これは全国でも例外的な縮小ペースで、住宅事業を考える上では「奥能登エリアの長期的な市場縮小は不可逆」という前提を持たざるを得ない。
一方で野々市市(生産年齢人口指数148.7)、津幡町(同137.7)、川北町(同131.6)など、金沢市近郊の市町は2050年でも生産年齢人口が増加する見込みで、ここが今後30年間の住宅会社・ハウスメーカーの主戦場となる。
国土交通省の建築着工統計によると、令和6年度(2024年4月〜2025年3月)の石川県の新設住宅着工は全体で約6,700戸前後(前年比微減レンジ)、うち持家は約3,400戸(前年比+11.2%)。
利用関係別 戸数(概算) 構成比
持家 約3,400戸 約51%
貸家 約1,700戸 約25%
分譲住宅(戸建+マンション) 約1,500戸 約23%
給与住宅 数十戸 約1%
(出典:国交省「建築着工統計」、石川県統計情報室)
繰り返しになるが、令和6年度に持家がプラス成長となった都道府県は全国でわずか7県(秋田・新潟・石川・山梨・愛知・大阪・奈良)のみで、その中でも石川県の+11.2%は最大の増加幅である。残り40都道府県は数%〜10%超のマイナスを記録した。
この異常値の主因は明確で、能登半島地震・奥能登豪雨の二重災害による復興需要である。被災者の建替え、内陸部(金沢圏・南加賀)への移転新築、復興公営住宅の整備が、通常年よりも大きく持家需要を押し上げた。住宅会社・工務店にとっては短期的な特需フェーズだが、これがいつまで続くか、復興後の市場で誰が残るかは、まだ見通せていない。
PG戸籍名簿集計(2024年度・確認申請ベース・上位15社)によると、石川県内の上位住宅会社の合計棟数は約1,640棟。県全体の持家+分譲戸建(約4,500〜5,000戸レンジ)のうち、確認申請データでカバーされる住宅会社・地場ビルダー・ハウスメーカー上位15社で約3〜4割を占める計算となる。
新築戸建の建築相場は2024年で約2,952万円、坪単価は約27.1万円(2024年)。これは新潟県(坪単価28万円台)・富山県(同27万円台)と概ね同水準で、北陸3県の中では中位の価格レンジに位置する。
ここから石川県の競争構造の核心に入る。PG戸籍名簿(2024年度・確認申請ベース)による石川県住宅会社ランキングは以下の通りである。
直近期の石川県における着工ランキングは下記のデータとなる。
1 石友ホームG
2 さくらホームG
3 タマホーム
4 アントール
5 住友林業
6 アーネストワン
7 秀光ビルド
8 アイ工務店
9 大和ハウス工業
10 一条工務店
(出典:PG戸籍名簿より)
上位15社合計1,640棟。
1位の石友ホームGから10位の一条工務店まで、棟数差は概ね230棟→90棟と段階的に縮小していく分布で、「絶対的な1強」は存在せず、地場2強+複数のミドルプレイヤーが拮抗する競争市場である。
ランキング1位・2位を占める石友ホームGとさくらホームGは、ともに北陸を地盤とする地場ビルダーグループである。両社の合計棟数は440棟で、上位15社合計の約27%を占める。これは新潟県におけるイシカワ・ハーバーハウスの2強構造とよく似たパターンで、**「地場発祥の上位2社が県内市場の中核を担う」**という北陸圏に共通する構造を示している。
新潟県・富山県・石川県と並べて見ると、いずれも県内住宅市場の中核を地場ビルダー2〜3社が占めている。ハウスメーカー・全国大手だけが取り合う関東・関西・東海とは明らかに異なる競争秩序が、日本海側にはある。
ランキング4位のアントール(本社:能美市)は、2022年度105棟・2023年度110棟から2024年度155棟へと、1年で約45棟の急増を記録した。これは石川県上位15社の中で最大の伸び幅である。
アントールの躍進の背景には、能登半島地震復興需要への迅速な対応がある。同社は60㎡内外の平屋を中心とした商品ラインを能登商圏に集中投入し、被災者の建替え・コンパクトな災害復興住宅ニーズを取り込んだ。
アントールの復興支援活動と主な実績
アントールは、石川県内の住まいづくりにおいて、仮設住宅から一歩前へ進んだ「安心できる我が家」の再建を強みとしています。アントールの動きは、特定エリア×特定商品で短期間に棟数を倍増させた成功事例として、住宅コンサル領域でも注目に値する。災害復興という非定常市場でこれだけの瞬発力を発揮できたのは、本社が能美市にあり能登エリアまで車で1〜1.5時間でアクセスできる地理的優位、平屋商品の標準仕様化、被災者向け価格帯の機動的な調整、という3条件が揃っていたからである。何より同社の地域貢献というビジョンがあっての活動であることは疑う余地がない。
ランキング9位の大和ハウス工業は、2022年度140棟・2023年度130棟から2024年度90棟へと約40棟減らした。持家ベースでは45棟まで縮小しており、ボリュームの低下が顕著である。
これは石川県固有の現象というよりも、大和ハウス工業の全国的な戸建注文住宅事業の縮小トレンドが反映された結果と読み取れる。同社は近年、戸建注文よりも分譲・賃貸・物流施設・商業施設に経営資源を傾けており、石川県でもこの方針が棟数に現れた。鉄骨大手の中では積水ハウス(石川県内50棟・前年65棟)も同様の縮小傾向にあり、ハウスメーカーの戸建注文事業の構造変化が、石川県のような地方市場でも顕在化している。大和ハウス工業自体は多角化・脱戸建においての成長においては全国唯一無二の成長をしているが、地方の戸建市場は完全に「選択と集中」における経営セオリーを実践している事例とも言える。
ランキング8位のアイ工務店は、2022年度80棟・2023年度90棟・2024年度95棟と、3年連続で着実に棟数を伸ばしている。県内シェアは大きくないが、伸び率の安定性が際立つ。
アイ工務店が石川県を得意とする背景には、いくつかの構造的な理由がある。ひとつは、価格帯(坪単価60〜70万円台)が石川県の持家取得層の中央値とよくマッチしていること。もうひとつは、横綱・大の里の出身地が津幡町であり、大の里がアイ工務店のCMキャラクターを務めていることから、石川県内では他県を超える認知度・好感度を持っていることである。これは他のハウスメーカー・全国大手にはない、石川県ならではのブランド資産になっている。アイパーク金沢店は約1000坪の広大な敷地に様々な年代のライフステージに合わせた4棟のモデルハウスが一堂に会する、自然と一体の暮らしを想起させる新しい形の複合型住宅展示場であり、復興特需もありながら平屋や1.5階建てをミックスしたコロナ後の需要を確実に抑えた業態として筆者も注目している。復興需要もある中で1拠点で100棟以上を受注したという。総合展示場頼りから自社の単独展示場・家づくりYoutuberやSNS広告をフル活用した集客&受注のビジネスモデルは全国のビルダー・工務店がモデルにできるとも考えている。
復興期の特殊需要が一段落した後、石川県の住宅市場でアイ工務店の存在感がさらに増す可能性は十分にある。北陸では経験者を主軸に採用して中途メンバーが活躍するというアイ工務店の必勝パターンが確実に実践されているといえる。
ここでは石川県市場を実質的に動かしている地場ビルダー5社(石友ホームG・さくらホームG・アントール・タキナミ・玉家建設)について、それぞれの事業構造と戦略を深掘りする。全国ハウスメーカーだけを見ていたのでは石川県市場の本質は見えず、地場プレイヤーの動向こそが市場の成行きを決める。
石友ホームグループは富山県を発祥とする北陸最大級の住宅会社グループで、2024年度の北陸3県(富山・石川・福井)合計棟数は600棟超に達する。石川県内では2024年度230棟(県内シェア14.0%)でランキング1位を維持している。
同グループの最大の特徴は、マルチブランド戦略である。主力ブランドの「石友ホーム」(中価格帯〜上質ライン)を中核に、「ウッドライフホーム」(規格型ローコスト)、「インカムハウス」(積水化学工業との協業ライン)、「フレンドリーハウス」(特定エリア向け差別化ブランド)を傘下に持ち、価格帯・商品性で重ならないように棲み分けている。
この戦略により、石友ホームGは県内のあらゆる価格帯・あらゆる商圏で何かしらのブランドが上位に入るという、極めて強固なポジショニングを確立している。特に石川県では、北陸3県を跨ぐ広域物流・購買集中の効果が大きく、原価競争力で他の地場ビルダーを上回る。
復興期において石友ホームGは、能登商圏でも各ブランドを使い分けながら供給を拡大しており、「平時の総合力+有事の対応力」を兼ね備えた稀有な地場ビルダーとして、石川県市場の中核的存在を維持している。
さくらホームグループは石川県を地盤とする地場ビルダーで、2024年度棟数は210棟。県内シェア12.8%でランキング2位。22年度から24年度にかけて200→195→210棟と、極めて安定した供給を続けている。
同社の強みは、金沢市・白山市・野々市市を中心とする石川中央ゾーンでの濃密な営業網である。展示場・モデルハウスを石川中央エリアに集中配置し、移動時間を最小化することで来場効率を高めている。商品ラインは中価格帯(坪単価55〜70万円)の自由設計が中心で、石友ホームGの中価格帯ブランドと真正面でぶつかる位置取りだが、地元での細かな顧客対応・紹介経由率の高さで差別化している。
さくらホームGは、新潟県のハーバーハウス(イシカワに次ぐ地場2番手)と似たポジションにあり、「地場1強の独走を許さず、しっかり2番手を維持する」タイプの経営を石川県で実現している地場注文系ビルダーである。
玉家建設は2024年度55棟でランキング12位。22年度80棟から24年度55棟へと棟数を縮小しており、近年は事業規模の選択と集中フェーズに入っている可能性がある。地場の中堅工務店として長年安定経営を続けてきた住宅会社で、急成長は狙わないが急減もしない、**「地域に根付いた堅実な工務店経営」**を体現するビルダーである。こうした中堅地場が県内市場の中位を支えていることが、石川県の住宅市場が全国大手に簡単に侵食されない理由の一つでもある。
石川県のランキング表を見て、一条工務店が10位(90棟)に位置していることに違和感を覚えた住宅業界関係者は少なくないだろう。一条工務店は新潟県では2024年度300棟超で県内ランキング上位5傑、富山県でもタカノホームGC経由を含めると相当な棟数を確保しており、北陸全域で勢力を伸ばしている。なぜ石川県だけ控えめに見えるのか。
答えは、北陸エリアにおける一条工務店のGC(ゼネラルコントラクター)構造にある。
一条工務店は北陸3県(富山・石川・福井)において、自社直営ではなくタカノホーム(本社:富山県)を主力GCとした体制を敷いている。タカノホームが一条ブランドの商品を確認申請名義として処理する形になっており、富山県・石川県のランキング表で「一条工務店」名義に出てくる数字は、実態の一部に過ぎない。
PG戸籍名簿の推計では、タカノホーム名義での一条ブランド実績は富山・石川2県合計で約125棟とみられ、これに自社直営の確認申請ベースの棟数を加えると、北陸3県全体での一条工務店の実質供給棟数は240〜250棟規模になる。石川県だけで見れば、自社直営90棟+タカノホーム経由の一条ブランド分(推計60〜70棟前後)の合算で、実態棟数は150棟前後と読むのが妥当だろう。これはランキング表の見た目(10位・90棟)よりもはるかに大きな存在感である。
この構造を知らずに石川県ランキングを見ると、「石川県は一条工務店が弱い県」と誤読しかねない。実際には、一条工務店は北陸3県を1つのエリアとして広域運営しており、石川県内でも相応のシェアを取っていると理解するのが正しい。住宅コンサルとして他社の競合分析をする際、一条工務店の石川県内棟数を90棟と過小評価してはいけない。
石川県内で一条工務店が販売している主力商品は、全国共通の「グランセゾン」(坪単価70〜80万円台)と「アイ・スマート」(同65〜75万円台)。いずれも**断熱性能(UA値0.25W/㎡K前後)と気密性能(C値0.59㎠/㎡前後)**を業界トップ水準で訴求するモデルで、北陸の冬の寒さ・降雪条件にマッチする。
石川県は新潟県・富山県と比較すると積雪量が相対的に少ないエリア(金沢市の年間降雪量は約220cm程度)だが、それでも冬の暖房コスト・結露対策・冷暖房効率は住宅取得検討者の関心が高いテーマで、一条工務店の高断熱訴求は引き続き有効である。
石川県内における全国大手ハウスメーカーの2024年度棟数を比較すると、住友林業(110棟・5位)が最も健闘している。木造住宅の高級ブランドというポジショニングが、石川県の持家取得層の上位ニーズと噛み合っている。
一方で大和ハウス工業(90棟・9位)と積水ハウス(50棟・13位)は、それぞれ前年から大幅に棟数を落としている。両社とも全国的に戸建注文事業の縮小トレンドにあり、石川県でも例外ではない。鉄骨ハウスメーカーが地方市場でじわじわとプレゼンスを縮小させていく構造変化が、石川県でも顕在化している。
積水化学工業(セキスイハイム)は石川県内で順位表に出てこないが、これは積水化学工業が石川県でセキスイハイム中部を通じて事業展開しており、確認申請名義の集計上、上位15社からは漏れる事情がある。実態としては数十棟規模の供給があるとみられる。
ローコストパワービルダー系では、タマホーム(175棟・3位)、アーネストワン(110棟・6位)、秀光ビルド(100棟・7位)が上位に入っている。
タマホームは石川県内で着実に棟数を伸ばしており、22年度150棟→24年度175棟へと25棟の純増。全国ローコストの代表格として、価格訴求型の住宅取得層を取り込んでいる。
アーネストワンは2024年度持家60棟・分譲45棟という構成で、復興需要での分譲住宅供給が伸び幅に貢献した。災害復興期には行政発注の災害公営住宅・災害復興分譲などの特需があり、全国分譲大手にとっては平時を上回る商機が生まれる。
秀光ビルド(本社:白山市)は2024年度100棟・ランキング7位。前年90棟から微増にとどまり、地元本社のローコストビルダーながら、地場2強や能登復興特需を取り込んだアントールに棟数で抜かれている。秀光ビルドは石川県外(特に首都圏・近畿圏)の出店を加速させており、本拠地である石川県のシェア拡大よりも、全国展開フェーズでの広域シェア確保を優先しているとみられる。
第2章で触れたアイ工務店(95棟・8位)の石川戦略をもう少し深掘りする。
アイ工務店の坪単価帯(60〜70万円)は、石川県の持家取得層の中央値(約2,952万円÷30坪換算で約98万円/坪相当だが、土地代を除く本体価格ベースでは坪60〜75万円帯がボリュームゾーン)と高い親和性を持つ。秀光ビルドより高品質、住友林業より安価という中価格帯のスイートスポットを、アイ工務店は的確に取りに行っている。
加えて、横綱・大の里(津幡町出身)がアイ工務店のCMキャラクターとして起用されている影響は無視できない。石川県では大の里の知名度・好感度が他県を圧倒しており、これがアイ工務店のブランド浸透を後押ししている。CM起用というシンプルな施策でも、地元出身の広告塔という条件が揃えば、ハウスメーカーの地方市場攻略において大きな武器になる、という事例として住宅コンサル領域でも参考になる。
復興フェーズが落ち着いた後、石川県内での「中価格帯のスイートスポット」を巡って、アイ工務店と地場2強(石友ホームG・さくらホームG)の競合が激化する可能性が高い。住宅会社経営者・住宅コンサル関係者は、この競争軸の動きを注視する価値がある。
2024年元日の能登半島地震直後から半年〜1年の期間は、応急仮設住宅、災害公営住宅、被災住宅の応急修繕が住宅市場の主役だった。これらは行政発注・補助金活用の特殊建設で、地元の地場ビルダー・大手ゼネコン・プレハブメーカーが受注の中心となった。
通常の住宅会社・工務店の事業領域とはやや距離があり、純粋な民間注文住宅市場ではない。ただしこの期間に、地場ビルダーが行政・自治体との関係を深めたケースは多く、後の中期・長期フェーズでの民間市場での営業基盤強化につながっている。
2025年〜2026年にかけては、被災者の自己資金+災害復興融資+自治体補助による建替え・移転新築需要が本格化している。これが石川県の2024年度持家+11.2%の主因であり、現在進行中のフェーズである。
このフェーズで重要なのは、「現地建替え」と「内陸移転新築」の選択が住宅会社の商機を左右することだ。能登半島内で建替えを選ぶ被災者には、奥能登エリアで対応できる地場ビルダー(タキナミ、能登エリアの中堅工務店、復興対応に動いた石友ホームG・アントール)が受注を取る。一方で金沢圏・南加賀への移転新築を選ぶ被災者は、石川中央ゾーンの地場ビルダー(さくらホームG・玉家建設・タキナミの金沢支店など)と全国大手(住友林業・アイ工務店・タマホーム)が競合相手となる。
復興需要は2027年頃まで続く見込みだが、ピーク(2024〜2025年度)を過ぎた後の需要逓減フェーズにどう備えるかが、各社の経営課題となる。
2027年以降は、復興需要が一段落し、石川県市場は**「奥能登エリアの長期縮小」「金沢圏一極集中の加速」**という構造変化のフェーズに入る。
国立社会保障・人口問題研究所の推計通りに進めば、奥能登エリアの住宅市場は今後30年で半減する。地場ビルダーの中でも能登半島側に重心を置いてきた中堅・小規模工務店は、商圏の縮小に直面する。逆に金沢圏では、人口増加が続く野々市市・津幡町・川北町を中心に、住宅取得層の絶対数は維持〜微増する見込みで、ここでのシェア争いが激化する。
この構造変化に対する各社の対応はすでに始まっている。地場ビルダーの石友ホームG・さくらホームGは金沢圏の展示場・営業拠点を強化しており、アントールも能美本社から金沢圏への営業展開を加速させている。全国大手では、住友林業・アイ工務店が金沢圏の展示場プレゼンスを強化する動きが見られる。
住宅会社・工務店・ハウスメーカーの実務において、「石川県でいま何が効くのか」という問いは戦略選択と同じくらい重要である。PGクライアントの石川県内および北陸3県での実績から、現実に機能しているチャネルを整理する。
石川県内の主要住宅展示場は、金沢市・野々市市・白山市の幹線道路沿いに集中している。石川県平和町ハウジングセンター、TVQハウジングフェスタ金沢、HABハウジングプラザ石川などが代表的な総合展示場で、ここに地場ビルダー・全国ハウスメーカーが揃って出店している。
ただし、南加賀(小松市・能美市・加賀市)と中能登・奥能登エリアには大型ハウジングセンターが少なく、住宅会社・地場ビルダーが自社で単独展示場を構えるケースが多い。アントール、秀光ビルド、などは、本社隣接の単独展示場やショールームを集客拠点として運用している。
書籍『SNSで家を売る』で提唱されている**「大型単独展示場」「来場予約ファースト」**の手法は、ハウジングセンターの密度が他県より低い石川県では特に有効性が高い。総合展示場頼みになりにくい構造ゆえに、自社単独展示場のブランディング・集客投資が差別化につながりやすい。
20〜30代の住宅取得検討層が初期情報収集をInstagramとYouTubeから始める動向は、石川県でも他県と同様に進行している。施工事例写真をInstagramで発信し、興味を持った見込み客をLINE公式アカウントに誘導、そこで個別の質疑応答・資料送付・予約取得につなげるファネルは、地場ビルダー・中堅工務店にとって現実的な集客手法となっている。
『SNSで家を売る』で提唱される**「営業インスタ」「先行逃げ切り型のLINE営業」**は、石川県のような「総合展示場の数が限られ、口コミ・紹介経由の比率が高い県」では特に効果が出やすい。地場ビルダー・地元工務店の経営者にとっては、テレビCM・新聞折込のマス広告に投資する前に、まずSNS基盤の整備に投資する方が費用対効果が高い。
石川県では、北國新聞(県内最大シェアの地方紙)、テレビ金沢(日テレ系)、北陸放送(TBS系)、石川テレビ(フジ系)といった地域メディアの影響力が、人口規模の割に強い。ローカルテレビCMでブランド認知を取る戦略は、年間100棟以上を狙う中堅住宅会社・地場ビルダーにとって検討に値する。ただし、年間数千万円規模の予算が必要であり、年間棟数50棟未満の工務店にとっては投資対効果が見合わない。
新聞折込チラシは、北國新聞の購読層が60代以上に偏っているため、孫世帯への建替え助成・二世帯住宅・リフォーム需要の親世代に対する訴求としては引き続き有効。住宅会社経営者は、ターゲット層に応じてマス広告とSNSを使い分ける必要がある。
SUUMOカウンター・LIFULL HOME’S・ハウジング誌などの紹介プラットフォーム経由の集客は、石川県でも引き続き機能しているが、プラットフォーム手数料(成約あたり数十万円〜100万円超)が利益を圧迫する構造は変わらない。地場ビルダー・中堅工務店にとっては、依存度を下げて自社集客にシフトする戦略が望ましい。
復興期の特殊需要では、被災者向けの行政相談窓口・自治体連携が新たな集客導線となっており、これも住宅会社・地場ビルダー・ハウスメーカーが押さえるべきチャネルとなっている。
ここまでの分析を踏まえ、石川県内で住宅事業を展開する経営者・住宅コンサル領域のプロフェッショナルが、自社の戦略を点検するために向き合うべき問いを5つ提示する。
能登半島地震・奥能登豪雨の復興需要は、住宅会社・工務店にとって短期的な売上拡大機会である。しかし、人員・協力業者・建材調達能力を一気に拡大すると、復興後の需要逓減期に固定費過剰で経営を圧迫するリスクがある。アントールのような特需対応の機動力を発揮しつつ、平時規模に戻したときの軟着陸シナリオも同時に持っておく必要がある。
長期的な人口集中が金沢市・野々市市・津幡町・かほく市・白山市・能美市に向かう以上、住宅会社・地場ビルダーの営業拠点・展示場・人員配置も金沢圏寄りに再配分していく必要がある。中能登・奥能登に重心を置く地場ビルダーは、金沢圏進出のロードマップを描く局面に来ている。
中価格帯(坪単価60〜70万円)のボリュームゾーンには、石友ホームG(複数ブランド)、さくらホームG、アイ工務店が拮抗している。中堅地場ビルダーがこのレンジで戦うには、価格・品質・ブランド・地域密着のいずれかで差別化軸が必要。差別化軸が曖昧なまま中価格帯に踏み込むと、シェア争いで地場2強に吸収される。ただ北陸でチャレンジングな成長戦略を取る会社が出てくれば、この構図に風穴を開けることは十分可能である。
ランキング表だけを見て一条工務店を「石川県では弱い」と判断するのは誤読である。北陸3県全体での一条工務店の実質供給棟数(240〜250棟)と、石川県内推計棟数(150棟前後)を踏まえ、一条工務店は石川県内でも相応のシェアを取っている前提で競合戦略を組む必要がある。特に高性能訴求の中価格帯〜中上価格帯では、一条工務店が有力な競合として常に意識される。
紹介プラットフォーム依存・地縁依存・経営者個人依存のいずれも、5年・10年スパンでは脆弱性がある。SNS・YouTube・LINE営業・自社単独展示場・組織営業への投資配分を、いま見直すタイミングにある。書籍『SNSで家を売る』で提唱される手法は、石川県のような中規模県・展示場密度の低い県でこそ威力を発揮する。
石川県の住宅市場は、2024年元日の能登半島地震と同年9月の奥能登豪雨という二重災害を受けて、令和6年度に持家+11.2%という全国唯一の二桁プラス成長を記録した。この特殊フェーズは2027年頃まで続く見込みだが、その後は奥能登エリアの長期縮小と金沢圏一極集中という構造変化のフェーズに移行する。
県内競争構造は、地場2強(石友ホームG・さくらホームG)が中核を担い、震災特需対応で躍進したアントール、堅実な中堅地場の玉家建設、といった地場ビルダーが市場の半分近くを占める。全国大手では、住友林業が健闘する一方で、大和ハウス工業・積水ハウスは戸建注文事業の縮小傾向が顕在化。アイ工務店は中価格帯のスイートスポットと横綱・大の里効果で安定成長中。一条工務店はタカノホームGC構造を踏まえると、ランキング表の見た目以上の存在感を持つ。
住宅会社・工務店・ハウスメーカーの経営者にとって、石川県市場は**「短期の特需フェーズで売上を取りつつ、中長期の構造変化に備える二段階の経営判断」**が求められる難易度の高い市場である。同時に、注文住宅で勝負ができる純粋な市場であり、地場ビルダー・地域工務店が全国大手と互角以上に渡り合える稀有な土俵でもある。
復興フェーズが一段落した後の石川県市場は、地場2強と中価格帯帯ハウスメーカー(アイ工務店・住友林業・一条工務店)の競争が激化する一方、金沢圏での新たな展示場・営業拠点の開設競争が始まる。住宅コンサル領域として石川県を見るとき、この構造変化のスピードを読み取れるかどうかが、各社の中長期戦略の成否を分ける。
ピュアグロースは、工務店・ハウスメーカー特化の経営コンサルとして、200社以上の顧問先・会員企業の成長率平均114%向上、顧客満足度日本一(自社調べ・178社回答)を達成しています。石川県および北陸3県の住宅市場についても、地場ビルダー・地域工務店・全国ハウスメーカーの個別動向を継続ウォッチし、経営戦略立案の伴走支援を提供しています。
石川県の住宅市場で「復興特需後の事業設計をどう描くか」「金沢圏一極集中にどう備えるか」「地場2強・全国大手と棲み分ける差別化軸をどう見つけるか」——こうした経営課題について、ピュアグロースは住宅会社・工務店・ハウスメーカー特化の経営コンサルとして伴走支援を提供しています。
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