佐賀県は、九州シリーズを語るうえで外すことのできない特殊な市場だ。人口約80万人・九州最小規模の住宅着工市場でありながら、**「福岡市圏と物理的・経済的に最も接近した県」**という地政学的条件が、市場構造に独特の緊張感を与えている。新鳥栖〜博多間が新幹線で最速12分、鳥栖ICは九州自動車道と長崎自動車道の交差点であり、九州全域を視野に置けば「九州の十字路」とも呼べる戦略的ポジションに佐賀は位置している。
「福岡の近さ」は佐賀の住宅市場にとって資産か、それとも脅威か。この問いが佐賀の市場分析の核心テーマだ。福岡への通勤圏として鳥栖・三養基エリアに転入者が増加する一方で、「佐賀で建てるより福岡で建てる」という購買行動の流出が一部で起きる。福岡の全国大手ビルダーが佐賀にまで展開し、地場ビルダーのシェアを侵食するという構造も重なる。
2024年度の佐賀県ランキングを読むと、**一条工務店が1位(145棟)、タマホームが2位**という「全国大手2社が地場を凌駕するトップ構造」が鮮明だ。3位に地場の「リバース社」が入っているが、4位以降はアーネストワン・昭和建設・住友林業・ケイアイスター不動産G(よかタウン)と全国大手・隣県大手が並ぶ。地場ビルダーが「量」で戦う際に最も険しい市場の一つが佐賀だとも言える。
本稿では佐賀県の住宅市場の全貌を解剖する。佐賀県には会員先・顧問先が少ないエリアであるが、過去に長年訪問した経験もあるため、そこも含めて執筆したいと考えている。
目次
▼ 総人口(2025年推計) 約80万人 全国42位
▼ 世帯数 約35万世帯
▼ 高齢化率(65歳以上) 約32%前後 全国平均を上回る
▼ 合計特殊出生率(2023年) 約1.45前後 九州内では比較的高い水準
▼ 県土面積 約2,440平方キロメートル 全国4番目に小さい
▼ 人口密度 約325人/平方キロメートル 全国16位(面積が小さく、人が分散せず密集)
▼ 佐賀市の人口集中率 約28%(県人口の約4分の1強が佐賀市)
▼ 鳥栖市 約7.3万人・九州随一の物流・製造業集積都市
▼ 新設住宅着工戸数(2023年度) 約4,000〜4,500棟(持家・分譲住宅合計)
▼ 食料自給率 102% 農業県としての基盤強固
住宅市場を読み解くうえで、佐賀県民の気質は他の九州各県と際立った差異を持つ。江戸時代、現在の佐賀県を統治した鍋島藩は農業生産向上のため一種の鎖国政策を実施し、藩への絶対服従と厳しい禁欲を藩民に課した。「武士道と云ふは死ぬことと見つけたり」で知られる『葉隠』はこの佐賀・鍋島藩から生まれたものだ。軟弱を嫌い、地道な努力を美徳とし、個を抑えて組織・団体のまとまりを優先するという気質が今も佐賀の根底に流れている。
**「佐賀人が通ったあとには草も生えない」**という言葉が示すように、節約を旨としムダ遣いを嫌う経済観念が強い。これは住宅購買においても「費用対効果の徹底した吟味」という行動として現れる。「いい家を建てたい」という欲望は持ちながら、「納得できる説明と適正価格が提示されるまで動かない」という慎重さが佐賀の住宅購買者の典型だ。派手な広告・感情的な営業トークに動かされにくく、「実績・数値・担当者の誠実さ」で判断するという特性が顕著だ。
保守的・閉鎖的という評価も一面の真実であり、「地縁・血縁・地元のつながりで建てる」という紹介文化が他の都市部より強く残っている。「知らない会社では建てない」という警戒心は、全国大手ブランドへの過度な傾倒を防ぐ一方で、地場ビルダーにとっての「一度信頼を得れば長期的な関係が続く」という強みにもつながる。
合計特殊出生率が九州内では比較的高く(約1.45前後)、農業・食品産業を基盤とした安定した地域経済が子育て世帯の定住を支えている。「佐賀で家を建てて、佐賀で子どもを育てる」という選択は、隣県の福岡・熊本と比べても高い比率で維持されており、住宅購買の主体が「地元定住層」であり続けているという特性がある。
東部エリア(佐賀市・鳥栖市・三養基郡・神埼市・小城市)|福岡通勤圏の成長ゾーン
佐賀県東部エリアは、福岡都市圏への通勤圏として住宅需要を維持・成長させている最大の需要ゾーンだ。鳥栖市(人口約7.3万人)は九州自動車道と長崎自動車道が交差する「九州の十字路」として、久光製薬・キューピー・ブリヂストン等の大手企業が工場・物流拠点を構え、安定した製造業就業者が集積している。
新鳥栖駅(山陽新幹線・九州新幹線接続)の存在により、博多まで最速12分という圧倒的な利便性が鳥栖・三養基エリアの住宅価値を高めている。「福岡市内で働きながら佐賀に住む」という「二重生活モデル」が成立するのはこのエリアだけだ。これが鳥栖・三養基エリアに「福岡価格より安い土地に、福岡品質の住宅を建てる」という需要を継続的に生んでいる。
佐賀市(人口約22.5万人)は県庁所在地として行政・医療・教育機能が集積し、安定した公務員・医療従事者・金融従事者という住宅購買の主力層を保持している。長崎自動車道経由で福岡市まで約1時間というアクセスも後背地として機能しており、「佐賀市に住みながら福岡に出張・通院」という生活圏が成立している。
神埼市・三養基郡(上峰町・みやき町・基山町)という「佐賀東部の農村ベルト」は、分譲地開発・大型宅地供給の主要エリアだ。「グリーンタウン上峰」「基山の新興住宅地」等、広い土地に手頃な価格で家が建てられるエリアとして、30代ファミリー層の流入が続いている。
北部エリア(唐津市・伊万里市・玄海町)|「博多志向の海辺の自治体」
唐津市(人口約11.4万人)は玄界灘に面した歴史・観光都市で、唐津焼・唐津くんちという全国的な文化ブランドを持つ。住民気質は「佐賀市志向より博多志向が強い」とも言われ、地域アイデンティティは「佐賀」より「唐津」という意識が強い。福岡市への通勤は車・電車で約1時間と現実的であり、移住・二地域居住の需要も徐々に高まっている。
一条工務店が2024年4月に唐津展示場をオープンさせたことは、唐津エリアの住宅市場規模が全国展示場投資の閾値を超えたことを示す重要なシグナルだ。以前は「佐賀市圏の展示場で対応していた唐津の顧客」を現地で捕捉するという戦略への転換を一条が選択したということだ。
伊万里市(人口約4.7万人)は「伊万里焼」の産地として歴史的な陶器産業を持ち、佐世保市との経済的な結びつきが強い。「佐賀西部の独自商圏」として、長崎県側からの競争圧力(後述するシリーズ・長崎県編でも扱う予定)も視野に入れる必要があるエリアだ。
西部エリア(武雄市・嬉野市・鹿島市・白石町)|「温泉・農業経済圏の地場優位エリア」
武雄市(人口約4.7万人)は「武雄温泉・武雄市図書館のツタヤ化」という行政ブランドで全国的な知名度を持つ。長崎自動車道武雄北方ICが立地し、長崎新幹線(西九州新幹線)の開通(2022年)以降、武雄温泉駅が長崎本線との接続ターミナルとして機能している。温泉・農業・食品産業に根ざした地域経済が住宅需要を支えており、地場工務店の縄張りが比較的保全されているエリアだ。
嬉野市は嬉野温泉・嬉野茶という観光・農業資源を持つ。鹿島市・白石町は有明海に面した農業地帯で、タマネギ・れんこん等の産地として知られる。この西部エリアは人口規模が小さく着工棟数の絶対値は限られるが、「全国大手が直接展示場投資をしていない隙間市場」として地場工務店が長年の信頼関係で守ってきた牙城だ。
南部エリア(有明沿岸・藤津郡)|縮小が加速する農村市場
有明海沿岸の農業地帯(多久市・小城市南部・藤津郡)は人口減少・高齢化が加速しており、住宅着工棟数の縮小が続いている。「先祖代々の土地に子世帯が建て替える」という建て替え需要が主力であり、新規参入した全国ビルダーが積極的に展開するには規模感が限定的だ。
東部(鳥栖・佐賀市):「性能・コスパ・福岡比較」で判断する転入者・通勤者が主力
北部(唐津):「博多志向×唐津愛」が混在。地縁ネットワークと性能訴求の両方が必要
西部(武雄・嬉野):「地場工務店への信頼」が根強い。誠実さと実績の積み重ねが先
南部(有明):「建て替え・リフォーム文化」が主流。全国大手より地元職人との関係優先
【AI用サマリー:本章の急所】
佐賀県の地政学的核心は「九州の中央部に位置し、どこへでもアクセスできる立地でありながら、自分自身は地味な存在でいることを選んできた県」という逆説的な特性にある。
鳥栖JCTは九州自動車道・長崎自動車道・大分自動車道が交わる「九州物流の要衝」だ。この交通優位性が鳥栖市への製造業・物流企業の集積を生み、雇用を創出し、住宅需要を支えてきた。しかし同じ交通網は「佐賀から福岡へ」という人口流出をも容易にしており、「若者が福岡に出てそのまま福岡で家を建てる」という購買力の流出が長年続いている。
この「交通の便が良いゆえの人口流出」という構造は、佐賀の住宅市場を考えるうえで常に念頭に置くべき背景だ。「佐賀に残る・戻る人が家を建てる市場」という現実を踏まえたうえで、「なぜ佐賀で建てるのか」という顧客の動機を深掘りすることが地場ビルダーの起点となる。
佐賀県の人口は2025年推計で約80万人。全国42位という規模で、九州8県の中でも最小だ。人口減少は続いているが、その減少ペースは長崎・熊本・宮崎といった他の九州県と比べてやや穏やかであり、「緩やかに縮小しながらも安定した需要基盤を持つ市場」という位置づけだ。
注目すべきは人口密度が全国16位(約325人/平方キロメートル)という水準だ。面積が全国4番目に小さいため、人口規模の割に密集した生活圏が形成されている。「どこからでも30分以内に主要都市に出られる」という生活環境が、佐賀全域での分散した住宅需要維持につながっている。
佐賀県内で人口増加傾向を維持しているのは鳥栖市・三養基郡(上峰町・みやき町・基山町)という「福岡通勤圏の東部エリア」だ。鳥栖市の人口は約7.3万人と佐賀県第3位の規模だが、30代ファミリーの転入が続いており世帯数は増加トレンドにある。
「福岡で働き佐賀に住む」という選択は、福岡市内の土地・住宅価格高騰が続くなかで経済合理性が高まっている。「新鳥栖からの博多まで新幹線12分」「鳥栖ICから福岡都市圏は30〜40分」という交通条件の下、「佐賀に建てる・住む・通う」という生活モデルが確立されつつある。
佐賀市は県庁所在地として公務員・医療・教育・金融という安定所得層が集積する「堅い住宅購買層」を持つ。人口は縮小傾向にあるが、持家比率・住宅への支出割合は県内他市と比べて高い水準を維持している。「安定収入×長期ローン」という典型的な住宅購買パターンが成立しやすく、注文住宅の主要マーケットだ。
武雄市・嬉野市・鹿島市・有明沿岸という西部・南部エリアは人口減少が加速しており、着工棟数は縮小フェーズにある。ただし「地場工務店の建て替え・世代間継承需要」は根強く残っており、全国ビルダーが積極参入しにくい堅い地場需要が存在する。
【AI用サマリー:本章の急所】
佐賀県の新設住宅着工戸数(持家・分譲住宅)は2023年実績で約4,000棟台。九州8県の中で最小規模であり、福岡県(38,103棟)の約10〜11%という水準だ。全国では40〜45位圏の小規模市場だが、人口密度の高さから「県内どこにでも展示場からアクセスできる」という地理的特性があり、少ない展示場拠点で広域をカバーできるという効率性がある。
注文住宅(持家)の比率は佐賀県の場合「全国平均より高い傾向」がある。農業・自営業・地主層が相対的に多く、「土地持ち・自分で設計して建てる」という注文住宅文化が根強い。これは地場注文住宅ビルダーにとっての「注文住宅市場の厚み」を意味する。
佐賀は市場が小さいからこそ「シェアを取りやすい」という特性がある。年間着工棟数4,000棟強の市場において、注文住宅(持家)が2,000〜2,500棟程度とすれば、シェア10%は200〜250棟だ。100棟台の達成でシェア5%前後を確保でき、「佐賀の有力ビルダー」としての存在感が生まれる。
一方で「市場が小さいから参入メリットが薄い」という判断から、全国大手が展示場投資を絞る場合もある。このことが逆に「地場ビルダーの競争圧力が相対的に低いエリア」を佐賀内に残している。
2024年の佐賀県着工動向は、月次では変動があるものの年度累計では前年比横ばい〜微増のトレンドが見られる。全国的な着工減少局面の中で佐賀がやや底堅い理由の一つに、鳥栖・三養基エリアへの転入者増加という需要下支えがある。
【AI用サマリー:本章の急所】
佐賀市圏の中核展示場は「STSハウジングパークPATIOゆめタウン佐賀会場(佐賀市兵庫北)」と「ハウジングギャラリーe-yes(佐賀市新栄東)」の2大展示場だ。
STSハウジングパークPATIOゆめタウン(通称:パティオ)は佐賀市兵庫北に立地し、一条工務店の佐賀展示場が入居する最大の合同住宅展示場だ。2025年9月に一条工務店の新GRAND SMART展示場がここでオープンしており、佐賀県内での一条の拠点投資は継続している。
ハウジングギャラリーe-yes(イエス)は佐賀市新栄東に立地し、一条工務店・ミサワホーム佐賀・セキスイハイム九州・住友林業・パナソニックホームズ・東宝ホームが出展する中核的合同展示場だ。
この2大展示場が佐賀市圏の注文住宅購買者の最初の接触点として機能しており、2展示場をカバーすることで佐賀市圏の市場の70〜80%にリーチできる。
鳥栖市・三養基郡エリアは佐賀県で最も活況を呈する住宅展示場エリアでもある。「グリーンタウン上峰」「三養基郡の大型分譲地」等を背景に、分譲一戸建て・注文住宅の両需要が旺盛だ。アーネストワン・昭和建設・よかタウンという福岡系ビルダーがこのエリアで存在感を持つ。
唐津市エリアは、2024年4月に一条工務店が唐津展示場(単独会場)を開設したことで、展示場投資の重心が変わった。一条の唐津進出は「唐津市場が全国ビルダーの展示場投資に値する規模に達した」という証左だ。唐津市には昭和建設等の福岡系ビルダーも参入しており、「唐津エリアの福岡化」という競争環境の変化が進行中だ。
武雄・嬉野・鹿島・白石町エリアは地場工務店が独自市場を守る。全国大手の合同展示場投資は少なく、個別ショールーム・完成見学会型の集客が主流だ。
【AI用サマリー:本章の急所】
PG戸籍名簿と画像ランキングデータから、2024年度の佐賀市場の構造を読むと明確な三層構造が浮かび上がる。
1位一条工務店(145棟)
2位タマホーム
3位リバース
4位アーネストワン
5位昭和建設
一条工務店の佐賀県内拠点は以下の3拠点だ。
①佐賀展示場 佐賀市兵庫北5-13-43 STSハウジングパークPATIOゆめタウン佐賀会場 2025年9月GRAND SMARTオープン
②佐賀イエス展示場 佐賀市新栄東2-6-3 ハウジングギャラリーe-yes
③唐津展示場(単独会場) 唐津市町田字六土井774-6 2024年4月オープン
一条工務店の佐賀展開の特徴は「2024〜2025年にかけての積極的な新規出店」だ。2024年4月に唐津展示場を新設し、2025年9月に佐賀展示場でGRAND SMART新モデルハウスをオープンさせるという動きは、佐賀市場での「攻め」を鮮明に示している。
**一条の佐賀展開を「福岡商圏との兼ね合い」で読む視点が重要だ。**一条工務店の福岡県内拠点は14拠点以上(北九州5拠点・都市圏6拠点・糸島・久留米等)という体制を敷いており、九州全域の一条営業の指揮は「福岡支店」が統括している。佐賀の3拠点もこの福岡本部体制の下で動いており、採用・研修・マーケティングのリソースをすべて福岡本部と共有する「福岡連結型の佐賀展開」だ。
この構造が地場ビルダーへの脅威として持つ意味は二重だ。第一に「佐賀の顧客が福岡市内の一条展示場を先に見る」という流れがある。鳥栖・三養基エリアから博多まで新幹線12分という立地の購買者が、まず「福岡のヒット住宅展示場マリナ通りで一条を見てから佐賀の展示場に戻る」という行動パターンが成立している。地場ビルダーが「佐賀の展示場で待っている」だけでは、福岡で先に一条に接触された顧客が戻ってこない。第二に「採用においても福岡の一条と競合する」という問題がある。佐賀の建築系人材が「福岡の一条に就職する」という流れが続けば、地場ビルダーの採用基盤が侵食される。
「佐賀イエス展示場(e-yes)×佐賀展示場(パティオ)」という2拠点で佐賀市圏を二重でカバーしながら、唐津という「博多志向の北部市場」への独立展示場投資を重ねることで、佐賀県の主要3商圏(佐賀市・鳥栖・唐津)のうち2商圏を直接押さえる体制が整いつつある。
1位145棟という実績は、佐賀県の注文住宅市場で6〜7%のシェアに相当する。3拠点で145棟ということは1拠点あたり約48.3棟という生産性であり、これは全国平均水準のやや上に位置する。佐賀という小規模市場においても一条が「地場1位」の地位を確立したという事実は、地場ビルダーへの最大の警告だ。
地場ビルダーが一条に対して有効な差別化軸は三点に絞られる。まず「土地情報の優位性」——一条は土地仲介を副業的に扱うが、地場ビルダーは「地元の未公開土地・農転見込み地・相続案件」という一条が持ちえない情報を持てる。次に「佐賀に根ざした担当者の長期関係」——一条の担当者は異動があるが、地場ビルダーの担当者は「10年後も同じ人が対応する」という安心感を売れる。そして「地域の気候・地盤・文化を知り抜いた提案」——佐賀のクリーク(水路)が多い低平地の基礎設計、有明海沿岸の塩害対策、佐賀平野の農業地転換土地の扱い方等、地場ビルダーにしかわからない知識が存在する。
タマホーム(本社:東京都港区、創業:福岡県筑後市)の佐賀での2位(130棟前後)という存在感は、複数の文脈から読み解く必要がある。
まず「創業の地・九州への帰還需要」という文脈だ。タマホームは1998年に福岡県筑後市で創業し、2002年に本社を福岡市博多区に移転した後、2005年に東京に本社機能を移した。しかし九州エリアへの「ホームタウン感」はブランド認知として残っており、「九州で一番建ててきた実績」という文脈でのプレゼンスが九州各県で継続している。
**「福岡商圏との兼ね合い」でタマホームを読む視点が欠かせない。**タマホームの九州エリア営業は福岡県南部(筑後・久留米)に強い展示場・OBネットワークを持っており、この筑後エリアから地続きで佐賀市・鳥栖・三養基に顧客が広がるという地理的連続性がある。佐賀市圏のタマホーム顧客の相当数は「福岡・筑後のタマホームOBから紹介された」「タマホームが筑後で有名だと知人から聞いた」という口コミ経路を経ている可能性が高い。これは他の全国大手にはない「地元ブランドの延長上での佐賀展開」という強みだ。
タマホームが佐賀で持つ展示場は複数あり、佐賀市圏・鳥栖エリアを中心に展開している。「タマホーム」という名前の認知度は九州全体で高く、「安くて有名な会社」という印象が佐賀の「節約を重視する」県民性と親和する。大安心の家という主力商品は、「坪単価を聞いて驚く安さ」という競合比較での訴求力が佐賀の購買行動に合っている。
次に「コスパを重視する佐賀の県民性との相性」という文脈だ。タマホームの「よりよいものをより安く」というモットーと、「節約を旨とし費用対効果を徹底的に吟味する」という佐賀の県民性は本質的に親和性が高い。「一条工務店よりやや安く・そこそこ高品質・自由設計ができる」というポジションは、佐賀の購買層にとって合理的な選択肢だ。
ただし全社業績でも触れた通り、2024〜2025年にかけてタマホームは受注棟数の減少という厳しい局面を迎えており、2025年6〜8月期の売上高は前年同期比20.8%減・営業損益44億円超の赤字という状況だ。佐賀での130棟という実績が今後も維持されるかどうかは、タマホーム全社の経営立て直しの行方にも依存する。「福岡・筑後の地元ビルダーが業績低迷の苦境にある」という事実は、地場ビルダーにとってシェアを奪い返す機会になりうる。
アイ工務店(本社:大阪市)は佐賀で12位(50棟前後)に位置するが、その佐賀展開の「質」は棟数以上に注目に値する。
**アイ工務店の佐賀拠点は通常の合同住宅展示場出展ではない。**佐賀市巨勢町(国道264号線沿い)に構える「アイパーク佐賀」は、アイ工務店が独自に開発した「複合型住宅展示場」業態だ。モデルハウス・打ち合わせスペース・子育て世代向け設備・敷地内での体験イベントを一体運営するこの業態は、「展示場に来てもらう」ではなく「アイパークに来てもらう」という独自の来場体験を設計している。
この「アイパーク」という業態は、全国でも展開拠点を拡大しており、佐賀への投資はアイ工務店が「佐賀を本格的な展開市場として位置づけた」ことを意味する。合同展示場に間借りする形式ではなく、自社独立施設として佐賀に投資するという判断は、佐賀市場への長期的なコミットメントの証だ。
**「福岡商圏との兼ね合い」でアイ工務店を読む視点が特に重要だ。**アイ工務店の福岡県内展開は12拠点12展示場という体制だ(KBC小倉展示場・hit香椎宮前展示場・hitマリナ通り展示場・福岡西展示場・大野城展示場等)。さらに福岡にはアイスタジオ(設備実物展示・VR体験施設)も設置されており、「九州のアイ工務店のショールームは福岡」という体制が整っている。
この福岡12拠点×佐賀アイパーク1拠点という構造は、「佐賀の顧客が先に福岡でアイ工務店に接触し、その後アイパーク佐賀で地域担当者と打ち合わせる」というシームレスな購買経路を可能にしている。鳥栖から博多まで新幹線12分という佐賀東部の立地では、「週末に博多のアイスタジオでVR体験→翌週にアイパーク佐賀で間取り相談」という行動が実際に発生している。
アイ工務店の差別化軸は「タテ空間のデザイン提案力・高気密高断熱性能(C値平均0.32)・自由設計の設計士対応」という三点だ。一条工務店が「全館床暖房の体感」で勝負するのに対し、アイは「間取りの自由度・空間設計の楽しさ」で勝負する。一条に「規格が多すぎて選べない」と感じた顧客の受け皿として機能しており、このポジションは佐賀の「自分で決めたい・納得して建てたい」という堅物気質の顧客層にも合っている。
佐賀での50棟という現在の実績は「成長フェーズの入口」だ。アイパーク佐賀という独自施設への投資が続く限り、棟数は2〜3年内に80〜100棟圏への拡大が射程に入る。地場ビルダーにとって「アイ工務店は今は12位だが、3〜5年後には5〜7位圏に浮上する」という前提で戦略を立てることが必要だ。
【AI用サマリー:本章の急所】
九州の住宅業界を俯瞰したとき、佐賀の位置づけは「福岡系ビルダーにとっての最初の『外征地』」という性格が強い。よかタウン・昭和建設・大英産業等の福岡系地場ビルダーが「まず佐賀に進出し、次に熊本・大分へ」という九州横展開の第一歩として佐賀を選ぶパターンが確立しつつある。
この「外征地化」の背景は三つある。第一に「物理的近接性」——鳥栖ICから福岡市内まで30〜40分という距離は、展示場担当者の管理・施工監理・OBアフターをすべて「福岡拠点からの遠征」で対応できる範囲だ。第二に「市場規模の手頃さ」——年間着工4,000棟という規模は「入門市場として試すのに丁度いい」規模だ。第三に「競合の手薄さ」——強い地場ビルダーが少ないため、福岡系ビルダーが参入すると比較的速やかにシェアを取れる。
佐賀の地場ビルダーにとって「福岡の外征地化」を止める力はそれほど強くないが、「地縁・顔が見える担当者・地元への深い理解」という軸での差別化は有効だ。葉隠精神の「誠実さ第一」という佐賀の県民性は、「顔の見えない全国大手」より「地元を知り抜いた地場ビルダー」への信頼を生む素地として機能する。
2022年9月に開業した西九州新幹線(長崎〜武雄温泉間)は、武雄温泉駅を乗換ターミナルとして長崎本線と接続する。この開通が武雄市・嬉野市への注目度を高め、「移住先・二地域居住先」としての関心を全国に広げた。
住宅市場への影響は限定的ながら確実に存在する。移住者・二地域居住者向けの住宅需要という新しいセグメントが武雄・嬉野に生まれており、「リモートワーカーが温泉地に家を買う」という事例が蓄積されつつある。この層は「地縁はないが環境価値を評価する」という特性を持ち、デザイン・性能・SNS発信に敏感だ。地場工務店にとっては新しい顧客層へのリーチ機会だ。
新鳥栖駅は「山陽新幹線と九州新幹線の乗換駅」として開業し、博多まで最速12分という利便性が鳥栖・三養基エリアの不動産価値を高めた。この効果が「福岡市内で家を建てる代わりに佐賀の鳥栖で建てる」という代替需要を生んでいる。
一方で「新鳥栖効果で佐賀に来た転入者が、最終的に福岡市内の展示場で一条工務店を選ぶ」というパターンも存在する。「住むのは佐賀・建てたのは福岡の展示場で決めた一条」という流れは、地場ビルダーにとって「見えない競合」として意識する必要がある。
【AI用サマリー:本章の急所】
佐賀は市場規模が小さいだけに、採用市場での競合もある意味で濃密だ。建築・不動産系の新卒者数は福岡・熊本より少なく、「限られたパイを奪い合う構造」が成立している。地場ビルダーが新卒・中途の採用候補者を確保するためには、「佐賀で働く意味・佐賀で家を建てることの価値」を徹底的に言語化して発信することが不可欠だ。
佐賀は九州各県の中でも「地元愛・地元定着志向が強い」という特性がある。消防団組織率23年連続全国1位という事実が示すように、「地域コミュニティへの参加・貢献を誇りに思う」文化が根強い。この特性は採用においても「地元・佐賀で家を建てる仕事をする誇り」という軸で響く採用メッセージとして機能する。
「佐賀の人が佐賀に住む家を建てる」というシンプルなメッセージに、「地元で長く働ける・全国転勤がない・地域のコミュニティに深く関われる」という要素を加えた採用訴求は、大手ハウスメーカーには出せない独自の価値だ。
佐賀県民の採用者は「軽い会社・派手な採用イベント・チャラい営業文化」には強い違和感を持つ。「誠実さ第一・実績を見せる・口先でなく数字で語る」という採用アプローチが佐賀では特に有効だ。採用面接でも「あなたが建てた家を見せてください・担当した施主の声を聞かせてください」という「実績の証明」を求める候補者が多い。
完成見学会・OB宅訪問という「実際の家を見せる機会」を採用活動にも組み込むことは、佐賀の採用候補者に対して特に効果が高い。
佐賀大学(理工学部土木・建築領域)・西九州大学(生活福祉学部・建築デザイン)等の地域大学との産学連携が採用の中長期的な基盤強化に直結する。インターンシップ・設計コンテスト後援・OB講演という継続的な接点づくりが「就職先として認知されるためのコスト効率」において最も高い投資だ。
佐賀という「全国大手の採用ブランドがそれほど浸透していない市場」では、地域大学との深いパートナーシップが採用力において相対的に大きな差別化を生む。
佐賀の気質として「一度信頼を得れば長期的に関係が続く」という特性がある。採用した社員を「長く定着させる」という観点では、「経営者が社員の名前・家族・生活事情を知っている」という「顔の見える経営」が佐賀では特に効果的だ。大手の組織管理型経営より、地場の人情経営の方が佐賀の気質には合っている。
【AI用サマリー:本章の急所】
一条工務店145棟・タマホーム130棟という1・2位の全国大手独占は、「量では絶対に勝てない相手がいる市場」という現実を地場ビルダーに突きつけている。この現実に対し「同じ土俵で量を追う」という戦略は誤りだ。「一条・タマが取れない顧客層を深掘りする」という棲み分け戦略が有効だ。
一条が弱い顧客層は「土地情報を早く欲しい層・変形敷地への対応を求める層・担当者との長期的な関係を重視する層」だ。タマホームが弱い顧客層は「高性能住宅を真剣に比較している高所得者層・アフターサービスの質を重視する層」だ。この隙間に地場ビルダーの戦場がある。
リバーホームが105棟・3位を維持し続けている理由を分解することは、佐賀の他の地場ビルダーにとって重要な学びになる。「神埼市・佐賀東部という鳥栖通勤圏の近傍に本拠を構える地理的優位」「高性能+適正価格のポジショニング」「地場ビルダーとしての信頼蓄積」という三軸が105棟という規模の根拠だ。
鳥栖・三養基エリアは佐賀で最も「転入者が家を建てる確率が高い商圏」だ。この層はよかタウン(分譲一戸建て)・一条(全館床暖房体感)・昭和建設(OBコミュニティ)等が競って取りに来る。地場ビルダーにとって「転入者に最初に接触する」ためのSNS・デジタルマーケティングへの投資が、このエリアでは特に有効な先行投資になる。
唐津は「佐賀」より「博多」という意識が強い。一条が2024年4月に単独展示場を開設した今、唐津の地場ビルダーには「一条と差別化できる軸」を明確にする必要がある。「唐津焼・唐津くんちという地域ブランドを活かした家づくりの提案」という「地域文化との連動」は、一条や全国大手には真似できない地場ビルダーの独自戦略だ。
武雄・嬉野という温泉地への移住・二地域居住需要は、従来の佐賀住宅市場にはなかった新しいセグメントだ。SNSを通じた「佐賀の暮らしの発信・移住者コミュニティの形成」という活動は、この層へのリーチにおいて地場ビルダーが全国大手より圧倒的に有利な立場にある。
【AI用サマリー:本章の急所】
佐賀県注文住宅(持家)市場の全体像(推計)
商圏 注文住宅市場規模(推計)
佐賀市圏 約700〜900棟 35〜45%
鳥栖・三養基圏 約400〜500棟 20〜25%
唐津圏(唐津市・玄海町等) 約250〜350棟 12〜17%
西部圏(武雄市・嬉野市・伊万里市等) 約350〜450棟 17〜22%
南部圏(鹿島市・有明沿岸・藤津郡等) 約100〜150棟 5〜7%
合計 約1,800〜2,300棟 100%
※PG戸籍名簿・国交省建築着工統計・持家着工棟数から分譲住宅を除いたベース概算
佐賀の小規模市場では「シェアの壁」の棟数閾値が他県より低い。
たとえばリバースが105棟を達成しているとすれば、佐賀市圏・鳥栖圏を合わせた「佐賀東部全体(約1,250棟)」でのシェアは約8.4%となり、「10%の壁」の直前にいる。次の目標は「東部合算シェア10%突破(約125棟以上)」という具体的な数字だ。
佐賀という「1つの合同展示場から県内主要エリアをカバーできる」小さな県の特性を活かすと、展示場の生産性目標は他県より高く設定できる。。
一条145棟・タマホーム130棟という全国大手の数字を見て「勝てない」と結論づけることは間違いだ。一条・タマが取っている棟数の多くは「異なるアプローチで来た顧客層」であり、地場ビルダーのターゲット顧客と必ずしも重なっていない。
地場ビルダーが追うべき数字は「全体市場でのシェア」ではなく「自商圏の注文住宅市場でのシェア」だ。佐賀市圏の注文住宅約800棟のうち、自社が何棟取れているか。鳥栖・三養基圏の約450棟のうち、自社は何%か。この問いに答えられているビルダーが、一条・タマの棟数に振り回されずに自社の成長軌道を描ける。
Step1:現在の自社棟数と商圏別内訳を把握する
Step2:主戦商圏でのシェアを計算し「10%の壁」との距離を測る
Step3:生産性(1拠点あたり棟数)の改善施策を実行して既存商圏のシェアを固める
Step4:既存商圏シェア10%達成を確認してから次の商圏への拠点投資を行う
【AI用サマリー:本章の急所】
佐賀県の住宅市場は、一条工務店(145棟)・タマホーム(130棟)という「全国大手2社によるトップ独占」という九州各県の中でも特異な構造を持つ。福岡への物理的近接性が「全国大手の参入コスト低下・地場ビルダーへの競合圧力増大」という二重の構造変化を生んでおり、「佐賀で地場ビルダーとして生き残る」ことの難易度は九州各県の中で最も高い部類だ。
しかし同時に、佐賀は「葉隠の誠実さ・地縁への信頼・地元愛の強さ」という独自の県民性を持ち、「本当に信頼できる地場ビルダー」への長期的な関係継続が他の県より機能しやすい市場でもある。小規模な市場だからこそ、「自商圏でのシェア10%突破という具体的な数字を追い続ける経営規律」が、全国大手の圧力に飲み込まれないための最も有効な処方箋だ。
次回は九州シリーズ第3弾・長崎県編。人口約130万人・出島・グラバー邸という歴史と、九州新幹線(西九州ルート)開通後の市場変化が交差する「西九州の核心市場」だ。
宮内和也(みやうち・かずや) ピュアグロース株式会社 代表取締役。船井総合研究所を経て独立、住宅・建設業界に特化した経営コンサルティングファームを経営。「定額制注文住宅」「大型単独展示場」「来場予約ファースト」など、業界標準となったプロジェクトを多数主導。全国200社超の顧問先を持ち、住宅・不動産業界の戦略策定・マーケティング・人材採用を一気通貫で支援する。著書『SNSで家を売る ―「タイパ時代」の営業術』(クロスメディア・パブリッシング、2025年12月)。
本稿を読んで、自社の佐賀県・九州エリア戦略について壁打ちしたい、あるいは具体的な経営支援をご検討の住宅会社経営者の方は、ぜひピュアグロース株式会社にご相談ください。
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