まず、筆者の正直な告白から始めさせてほしい。長崎県は、私・宮内が47都道府県のなかで唯一、顧問・コンサルティングの実績がないエリアだ。全国200社超の顧問先を持つピュアグロースにとっては現在1社だけ。
これは非常に珍しいことだ。だからこそ本稿は「現地経験値をゼロから補う知的作業」として書いた。PG戸籍名簿のデータ・各種統計・各社の公開情報・地理的・文化的文脈を積み重ね、「外から長崎を読む」という視座で市場分析を展開する。現地で活躍するビルダーの経営者の方には、「この読み方はどうだ?」という意味での壁打ちとして使ってほしい。
その告白が終わったうえで本題に入ると、長崎県は住宅市場を考えるうえで日本の中でも最も特殊な地理・文化的条件を持つ市場のひとつだ。「坂の街」「自転車に乗れない街」「離島が県土の45%を占める」「出島の開放性と島国の閉鎖性が同居する」——これらすべてが住宅の「建て方・売り方・住まい方」に深く影響している。
2024年度ランキングを見ると、タマホームが135棟で1位、一条工務店が130棟で2位という「全国大手2社によるトップ独占」という佐賀と同様の構造が鮮明だ。3位に地場の谷川建設(95棟)が入るが、4位以下は全国大手・外来ビルダーが並ぶ。「坂と海と歴史が織りなす特殊地形市場」で、タマホームが九州の創業地・筑後の隣県として存在感を示し、一条が「全館床暖房×高断熱」という価値で地場を侵食している構図が浮かび上がる。
目次
▼ 総人口(2025年推計) 約120万人 全国37位
▼ 世帯数 約56万世帯
▼ 高齢化率(65歳以上) 約35%前後 全国でも高水準の超高齢化県
▼ 合計特殊出生率(2023年) 約1.50前後 九州内では相対的に高い
▼ 県土面積 約4,131平方キロメートル 全国37位
▼ 海岸線の長さ 約4,183km 全国第2位(北海道に次ぐ複雑な海岸線)
▼ 島嶼数 971島(有人島58島) 全国第1位
▼ 離島の県土比率 約45%
▼ 長崎市の人口集中率 約35%(県人口の3分の1強が長崎市)
▼ 新設住宅着工戸数(2023年度推計) 約5,200〜5,500棟
▼ 坂の勾配5度以上の道路比率(長崎市) 約7〜8割
長崎市を語るうえで「坂の街」という表現は使い古された常套句に聞こえるが、住宅ビルダーにとっては比喩でも修辞でもなく、「建設コスト・設計制約・集客エリア」に直接影響する物理的な前提条件だ。街中の勾配5度以上の坂が7割とも8割とも言われ、急坂だけでなく坂から枝分かれした階段が延々と斜面をはう。この地形が生み出す問題は三層構造だ。
**第一に「車が入れない敷地」という建設コスト問題。**1960年代に細い畦道をたよりに家が建ち並び、車が通る道路の必要性もあまり論じられることなく、車が入れない市街地ができていった。この斜面市街地では、資材搬入・施工管理・工事車両のアクセスが通常の平地と比べて大幅に困難なエリアが今も多数残っている。「長崎市内の斜面地に建てる家のコストは、同じ規模の平地物件より20〜30%以上高くなるケースがある」という話は現地工務店の経営者から一般的に聞かれる事実だ。
**第二に「高齢者の斜面地離れ」という需要構造問題。**斜面市街地には階段が多く、狭い道路に車が入らないため、長崎市では要支援・要介護認定の人を手伝う移送支援サービス事業「いこ~で」も行っている。高齢化が進む長崎では、斜面地の既存住宅から「平地・郊外の新築住宅への住み替え」という需要が生まれており、この受け皿が長与・時津・大村・諫早という長崎市外の「平地ベッドタウン」だ。
**第三に「展示場立地の制約」という集客問題。**長崎市内の斜面地には大型合同住宅展示場を設置できる平地が極端に少ない。一条工務店の長崎県内主力展示場がすべて「諫早市・時津町・佐世保市・雲仙市」という長崎市外に集中している事実が、この「展示場立地の地形制約」を端的に物語る。
「長崎市民は自転車に乗れない人が多い」——これは実際の現地取材でも確認されている事実だ。転勤族はたいてい自転車を持ってくるが、利用しづらく途中で挫折するという。「乗れない」というより「乗っても意味がない・むしろ危険」というのが正確なところで、路面電車・バス・タクシーという公共交通と徒歩・車が移動の主体だ。
この「自転車文化がない街」という事実が住宅購買に与える影響は実は大きい。「自転車で駅まで行ける・子どもが通学できる」という郊外宅地の訴求が長崎市内では機能しない。代わりに「路面電車の駅から徒歩圏・バス停から徒歩圏」という交通利便性が、長崎市内での土地・住宅の価値を決定する重要要素になっている。
採用においても、長崎市内の営業所スタッフは「路面電車・バス移動での顧客対応」を求められるケースがある。「自転車で顧客宅に行く」という他県では当たり前の動きができない市場だという認識が、採用・研修設計において必要だ。
長崎県は陸地の大部分が半島と島しょから形成される。971島のうち58島が有人島という現実は、住宅市場において「島嶼部への建材・施工力の供給困難」という建設コスト上昇要因として機能している。壱岐・対馬・五島列島への住宅建設は、フェリー輸送コスト・施工職人の島籠もり・工期延長という三重のコスト増を伴い、本土と同じ価格設計では利益が出ない構造だ。
長崎県民性の根底には、江戸時代の鎖国政策下で唯一世界に開かれた出島という特殊な歴史的経験がある。外国貿易の利益の一部が各戸に配られ暮らしが裕福だったことから、楽天的で浪費家の性分が形成された。コツコツ貯めるより「今日が楽しければ」とパッと浪費するタイプ。
この「今を楽しむ」という気質は、住宅購買において「将来への論理的投資訴求(一条工務店の30年後のランニングコスト削減等)」より「この家に住むと今の生活がこう豊かになる」という「現在の体感価値訴求」が有効だということを示している。
また「和華蘭(わからん)文化」と呼ばれる日本・中国・オランダ文化の融合が長崎の独自の審美性を育んだ。住宅においても「規格通りの箱型住宅」より「個性のある設計・自然素材・異国情緒のあるデザイン」に惹かれる傾向が見られる。谷川建設の「木曾ヒノキ×完全自由設計」という差別化がある層に深く刺さる背景にはこの県民性がある。
江戸時代から外国との交流が活発だった長崎は、開放的な性格を育んでいた。明るく楽天的で好奇心が強い。また九州の他県(特に鹿児島・熊本)に顕著な「男尊女卑・亭主関白」という文化的傾向は長崎では相対的に薄く、男女平等の意識が強い。長崎の男性は争い事を好まず、穏やかで優しい「性格イケメン」が多いと評される。
この「開放的・楽天的・男女平等」という気質は、「夫婦での共同意思決定が機能しやすい市場」という意味を持つ。「夫婦で一緒に展示場を何度も訪れ、二人で納得してから決める」という購買プロセスが機能しやすく、「夫婦双方への訴求力を持つ商品・夫婦で来やすい展示場環境」が有効だ。
長崎市(人口約40万人)は観光業・サービス業・医療・行政という第三次産業依存型の経済構造を持つ。「坂と路面電車の街」という生活文化が住宅の選択肢を規定する。長崎市内の斜面地住宅は「眺望・歴史的景観・独自性」という価値があるが、建設コスト・生活利便性・高齢化対応という課題を持つ。
長崎市では社会増減が1,581人の転出超過となっており、近郊の長与町・時津町という「平地ベッドタウン」への移行が続いている。長与・時津は人口が微減しても世帯数(1世帯あたり人員の縮小)は維持されるという特性があり、住宅需要の世帯数ベースでは重要な市場だ。
佐世保市(人口約23万人)は海上自衛隊・米海軍基地という軍事経済圏を持つ特殊な都市だ。自衛隊関連雇用者・基地周辺サービス業従事者・造船業関係者という「安定所得の就業者層」が集積しており、住宅購買における主力顧客として機能している。
佐世保は「長崎市より独立した商圏」としての自律性が強い。「長崎より佐世保」というアイデンティティを持つ市民が多く、展示場も「佐世保に来てもらう」設計が有効だ。米海軍基地の存在は「外国文化への親和性」という独自の市場特性も生んでいる。
諫早市(人口約13万人)・大村市(人口約9.5万人)は長崎県の「成長ゾーン」だ。大村市は1970年から50年近く連続で人口増加を続けており、大村平野という長崎県内でも数少ないまとまった平坦地を有している。長崎県内で世帯数が最も増加したのは大村市(584世帯増)で次いで諫早市(482世帯増)という最新データが、この二市が住宅需要の集積地であることを証明している。
「アクセスの良さ×平坦な土地×手頃な地価×長崎空港(大村)・西九州新幹線(大村駅・新大村駅)」という住宅立地の好条件が揃うエリアだ。一条工務店が喜々津(諫早市多良見町)に2拠点を構える理由はここにある。
島原半島は普賢岳噴火(1991〜1995年)という深刻な経験を持つエリアだ。噴火による住宅・農地の被害から復興した歴史が「家は失われるもの・でも再び建てる」という独自の意識を残している。温泉・農業・観光という産業が基盤で、地場工務店が長年の信頼関係で市場を守ってきた。全国ビルダーの展示場投資が届きにくいエリアだ。
五島列島・壱岐・対馬という離島エリアは「島育ちのコミュニティ文化・閉じた関係性・地縁重視」という特性が強い。「島内の知り合いの職人・工務店に頼む」という文化が色濃く、全国ビルダーが参入できる余地は限られる。一方で人口減少・高齢化・空き家増加が深刻で「移住者向け住宅・リノベーション需要」という新しいセグメントが芽生えつつある。
長崎市圏:「坂からの郊外移住需要」「長与・時津の平地需要」が主戦場
佐世保:「自衛隊・基地関連の安定所得層」「佐世保独立商圏」の特殊市場
諫早・大村:「長崎県唯一の人口増加ゾーン」「最旺盛な住宅需要」
島原:「地場工務店の牙城」「全国大手が届きにくい温泉農業地帯」
離島:「地縁主体の市場」「移住者向けリノベという新セグメント」
【AI用サマリー:本章の急所】
長崎県の地政学的核心は「九州の西端・東シナ海に突き出た複雑な半島と島嶼群」だ。東は佐賀県と接し、西・北・南は海に囲まれた地形が「移動の制約」を生み続けている。長崎市から佐世保市への移動は高速道路利用でも約50分かかり、「長崎市圏」と「佐世保圏」は日常的に別商圏だ。
「長崎」という名前から想起される「長崎市」の存在感は強いが、住宅市場という観点では「長崎市は展示場立地が難しい・高齢化で人口が流出している縮小都市」であり、「成長市場は長崎市外(大村・諫早・時津・長与)にある」という逆説が成立している。
長崎県の人口は2025年推計で約120万人。全国37位で、1970年代のピーク(約160万人)から約40万人もの減少を記録している。自然減(死亡超過)は年間1万2,000人前後と九州各県の中でも最大規模に近い水準だ。
市町別の社会増減数は大村市(543人増)・諫早市(292人増)で増加した一方、長崎市(1,581人減)・佐世保市(1,561人減)・長与町(375人減)は大幅な転出超過となっている。
この「大村・諫早が成長し、長崎市・佐世保市が縮小する」という県内の人口移動パターンが、住宅市場の地理的重心を「喜々津展示場エリア(諫早市多良見町)」に集める構造を生んでいる。一条工務店が喜々津に2拠点を構え、タマホームが諫早エリアに注力していることはこの人口移動の方向性を読んだ拠点配置だ。
壱岐市・対馬市・五島市・新上五島町という離島市町では人口減少・高齢化が急速に進んでいる。全国ビルダーが本格展開を判断するには規模感が限定的だが、「移住促進×空き家活用×離島リノベ」という行政主導の需要創出施策が活発化しており、この文脈での地場工務店の役割は増している。
【AI用サマリー:本章の急所】
長崎県の新設住宅着工戸数は2023年度推計で5,200〜5,500棟程度。九州8県の中では福岡(38,103棟)・熊本・鹿児島に次ぐ第4位圏と推計され、佐賀(4,000棟強)を上回る水準だ。注目すべきは「持家(注文住宅)比率が相対的に高い」という特性だ。農業・漁業・地主層の「自分の土地に家を建てる」という注文住宅文化が島嶼部・農村部に残っており、これが地場注文住宅ビルダーの主戦場となっている。
大村市は大村平野という長崎県内でも数少ないまとまった面積を持つ平坦地を有している。この平坦地が「住宅展示場・大型分譲地の設置」を可能にし、着工棟数の地理的集積を生んでいる。諫早市・大村市・時津町・長与町という「長崎本土の平地帯」が長崎県全体の着工棟数のうち50〜60%を占めると推計される。
【AI用サマリー:本章の急所】
「KTNハウジングギャラリーin喜々津」(諫早市多良見町市布)は長崎県最大の合同住宅展示場だ。一条工務店(喜々津展示場・喜々津東展示場の2拠点)・ケンコーホーム等が出展しており、「長崎市・諫早市・大村市・時津・長与からのアクセス」という広域集客ポイントとして機能している。「長崎市から20分・諫早市から10分・大村市から25分」という立地が、長崎本土の住宅購買者の最大公約数的集客地として機能する理由だ。
時津町の「NBCハウジングマルシェ時津ひなみ」は長崎市西部・時津町・長与町の購買者を集める第二の合同展示場だ。一条工務店・ケンコーホーム等が出展している。「長崎市内では展示場を作れない→長崎市近郊の平地(時津)に設置する」という「坂の街の展示場問題」の解決策として機能している展示場だ。
佐世保市の「NBCハウジングさせぼ大和町会場」は佐世保独立商圏の中核展示場だ。一条工務店(佐世保展示場・佐世保東展示場)・アイ工務店(させぼ展示場)等が出展している。「長崎市圏とは別の購買者層」を対象にした独立した市場として機能している。
【AI用サマリー:本章の急所】
PG戸籍名簿と画像ランキングデータから、2024年度の長崎市場の構造を読むと「全国大手2社によるトップ独占」という構造が浮かび上がる。しかし佐賀(一条1位・タマ2位)と異なり、長崎はタマホーム(135棟)が1位、一条工務店(130棟)が2位という順序だ。「タマホームの九州故郷ブランドが最も強く機能する県」として長崎がある、という読み方が成立する。
上位15社のうち長崎本拠の地場ビルダーは谷川建設・ケンコーホーム・コンフォートハウスG・グッドホームの4社であり、佐賀(2社)より多い。これは「坂と海による地形的参入障壁」が全国大手の拠点投資を一定程度制限し、地場ビルダーの存在余地を残しているという解釈が成立する。
PG戸籍名簿より、2024年の上位15社を整理する。一条工務店のみ棟数を記載する。
順位 社名 分類 1位 タマホーム 全国大手 2位 一条工務店(130棟) 全国大手 3位 谷川建設 長崎・九州系地場ビルダー 4位 リバース ビルダー 5位 アーネストワン 全国大手(分譲特化) 6位 積水ハウス 全国大手 7位 積水化学工業 全国大手 8位 ミサワホーム 全国大手 9位 大和ハウス工業 全国大手 10位 ケンコーホーム 長崎地場ビルダー 11位 大東建託 全国大手 12位 アイ工務店 全国大手 13位 コズムハウス 地場ビルダー 14位 コンフォートハウスG 長崎・熊本系ビルダー 15位 グッドホーム 地場ビルダー
※PG戸籍名簿より(2024年度・確認申請棟数基準)
タマホーム(本社:東京都港区、創業:福岡県筑後市)が長崎で1位(135棟)という事実は、九州シリーズを通じて最も重要な観察の一つだ。福岡でも上位に食い込み、佐賀で2位、そして長崎で1位というパターンが示すのは「九州発祥ブランドが九州各地で機能している」という事実だ。
**「なぜ長崎でタマホームが一条を上回るか」**という問いへの答えは三つある。
第一に「佐世保・諫早という平地エリアでの訴求力」だ。特に佐世保の「自衛隊・基地関連の安定所得層」は「コスパを重視しながら品質も追求する」という購買傾向があり、タマホームの「よりよいものをより安く」というモットーとの相性が良い。
第二に「長崎の楽天的・浪費傾向の気質との相性」だ。一条工務店が得意とする「長期的な断熱性能への投資・30年後のランニングコスト削減」という「将来への論理的投資訴求」よりも、「今の価格が安い・今の仕様が豪華に見える」というタマホームの「現在価値訴求」との親和性が高い可能性がある。
第三に「谷川建設との棲み分け」だ。「長崎市内・自然素材志向の層」は谷川建設が受け止め、「性能×コスパで決める層」をタマホームが、「性能×長期保証で決める層」を一条が取り合うという三極構造が成立している。タマホームが「中間的な多数派」の受け皿になっている。
**「福岡商圏との兼ね合い」**という視点でタマホームを見ると、長崎は福岡から1時間半〜2時間という距離にあり、「福岡で認知を高めたタマホームが長崎まで影響圏を広げている」という地理的延長として理解できる。特に西九州新幹線(長崎〜武雄温泉間)の開通(2022年)以降、「新幹線で武雄温泉→博多のタマホーム展示場で接触→長崎の展示場でクロージング」という購買経路が成立する可能性がある。これは地場ビルダーには見えにくい「福岡起点の顧客流入」という競合圧力だ。
ただしタマホームの全社業績は2024〜2025年に受注棟数前期比約22%減・2025年6〜8月期売上高前年同期比20.8%減・営業損益44億円超の赤字という深刻な局面を迎えている。長崎での135棟という1位の地位が今後も維持されるかどうかは、全社の経営立て直しと長崎エリアへの投資継続が鍵となる。
一条工務店の長崎県内拠点は以下の通りだ。
①長崎喜々津展示場 諫早市多良見町市布 KTNハウジングギャラリーin喜々津
②長崎喜々津東展示場 諫早市多良見町市布 KTNハウジングギャラリーin喜々津(喜々津に2拠点)
③長崎展示場 西彼杵郡時津町日並郷 NBCハウジングマルシェ時津ひなみ
④佐世保展示場 佐世保市 単独会場
⑤佐世保東展示場 佐世保市 単独会場(佐世保に2拠点)
⑥雲仙市愛野分譲展示場(完全予約制) 雲仙市愛野町
一条の長崎展開の構造的特徴は「すべての展示場が長崎市外の平地に立地している」という点だ。「喜々津に2拠点」という体制は、KTNハウジングギャラリーin喜々津という合同展示場内で「展示場を2棟構え、来場者がどちらの一条ブースに流れても一条に接触する」という面的制圧戦略だ。これは福岡での「マリナ通りに2拠点・大野城に2拠点」と同一の論理だ。
一条工務店の2024年全社受注棟数は19,418棟(過去最高)だ。長崎での130棟は6拠点で1拠点あたり約21.7棟と、全国平均(約36棟)を下回る水準だ。長崎という「地形的制約・小規模市場・地場ビルダーの底堅い存在感」が、全国平均より低い生産性に反映されている。しかし「全国平均を下回っても長崎に6拠点を投資し続ける」という一条の判断は、「長崎市場が今後も継続的に攻める価値がある」という戦略的コミットメントを示している。
**「福岡商圏との兼ね合い」**では、「福岡の一条展示場(14拠点以上)→西九州新幹線で武雄温泉→諫早・長崎へ」という広域来場経路が一条に有利に機能している。「長崎に住んでいるが福岡の一条展示場で検討を始め、長崎の展示場でクロージング」という購買パターンは佐賀と同様に発生しており、地場ビルダーにとっての「見えない競合」だ。
地場ビルダーが一条に対して有効な差別化軸は「斜面地・急坂・変形敷地への対応力」という長崎特有の地形対応ノウハウだ。一条工務店の規格型工法は「整形された平地」を前提とした施工体制を持ち、長崎市内の斜面地・変形敷地への柔軟な対応力は地場工務店に劣る部分がある。「一条では対応できない敷地でも我々なら建てられる」という訴求は、長崎市内の斜面地需要に特化した地場工務店の強力な差別化軸になる。
アイ工務店(本社:大阪市)は長崎で12位(40棟前後)という順位だ。長崎での拠点は「NBCハウジングさせぼ大和町会場へのさせぼ展示場出展」という1拠点体制だ。
「福岡商圏との兼ね合い」で読むアイ工務店の長崎戦略は、「福岡12拠点体制のカバレッジが長崎北部(佐世保方面)まで及ぶ」という論理だ。福岡から佐世保まで高速道路で1時間30分程度という距離は、「福岡のアイスタジオで体感→佐世保の展示場でクロージング」という購買経路を可能にする。
長崎本島(長崎市圏・諫早・大村)への展開は現時点では1拠点も構えていないが、「九州全県展開を2026年に加速中」というアイ工務店の戦略からすれば、諫早・大村エリアへのアイパーク型独自展示場の設置は今後の布石として視野に入っている可能性がある。現在40棟という実績は「長崎への本格参入前夜」という段階として読むことが適切だ。
谷川建設(本社:長崎市)はPG戸籍名簿で3位(95棟前後)に位置する。施工エリアは長崎県・福岡県・熊本県・鹿児島県・大分県・佐賀県・広島県に及ぶ(一部離島を除く)。木曾檜を中心に良質な無垢材にこだわった「自然素材×完全自由設計」の家づくりを特徴とする。
谷川建設のビジネスモデルの本質は「希少性のある素材(木曾ヒノキ)×完全自由設計」という組み合わせだ。「規格があって自分で選ぶ一条」でも「ローコストで建てるタマホーム」でもない、「自分だけのヒノキの家を建てる」という独自の価値提案が、「和華蘭文化で育った審美性の高い長崎人」の一部に深く刺さる。
長崎の「楽天的・浪費傾向」という気質は裏を返せば「良いものにはお金を惜しまない」という特性でもある。木曾ヒノキという「高品質な素材への投資」は「毎日ヒノキの香りに包まれた家で暮らす→今の生活が豊かになる」という現在価値訴求として機能する。施工エリアが長崎以外にも福岡・熊本・鹿児島・佐賀・大分・広島と広がっていることは「長崎を本拠として九州全域に展開する地場ビルダー」という戦略的野心を示している。
ケンコーホーム(本社:西彼杵郡時津町)は10位(45棟前後)に位置する。地元に密着し、これまで1000組以上の家族の家づくりをサポートしてきた。施工エリアを1時間圏内に限定し「もっとちかくに、ずっとやさしく」というスローガンのもと、快適な暮らしを支える住まいのパートナーとして地域に根差して活動している。
時津町という「NBCハウジングマルシェ時津ひなみ」と同じ立地を本拠に持つケンコーホームは、「長崎市・時津・長与という坂の街からの郊外移住需要」を最も近い距離で捕捉できる。建物は耐震性や耐風性に優れた2×4工法で、ZEH基準・HEAT20 G2基準をクリアした高性能住宅を提供している。「施工エリアを1時間圏内に限定」という農耕型経営の徹底が、アフターサービスの質という競合優位として機能している。
コンフォートハウスG(本社:熊本県、長崎支店:長崎市)は14位(35棟前後)だ。平屋の家づくりに特化した「フラットスタイル」として、施工エリアは長崎市・大村市を中心に離島を除く長崎県全域に対応している。全棟で制震ダンパー「ミライエ」を長崎で先駆けて標準搭載。ZEH標準搭載で高齢化が進む長崎県での「老後を見据えた平屋」需要を先取りしている。
大村・諫早という平地では「土地が広く取れる→平屋が建てやすい」という条件がある。「平屋特化×高性能×ZEH標準」という商品体系は長崎市場の時代の流れに乗っている。熊本本拠としながら長崎支店という形で九州展開しているモデルは、長崎シリーズを通じて「熊本→長崎への攻め上がり」という九州内連動の文脈でも読める。
【AI用サマリー:本章の急所】
佐賀が「福岡系ビルダーの最初の外征地」として機能しているのに対し、長崎は「坂・海・半島・離島という地形的参入障壁」によって、福岡系ビルダーの簡単な侵食を防いでいる。よかタウンが佐賀・熊本・大分への展開を明言しているのに対し、長崎への本格展開は表明していない。これは「分譲一戸建ての大量供給に必要な平坦な用地」が長崎市内では取得困難だからだ。「福岡→佐賀→熊本」という九州横展開ルートと「福岡→佐世保→長崎」という西九州ルートでは、後者への展開コストが地形的に高い。これが長崎において地場ビルダーの存在余地を残している構造的要因だ。
2022年9月に開業した西九州新幹線(長崎〜武雄温泉間)は、武雄温泉→博多間の在来線特急との乗り継ぎで「長崎〜博多が約1時間20〜30分」という時間短縮を実現した。住宅市場への影響は二方向だ。プラス方向では「福岡市内で働きながら長崎に住む」という超長距離通勤の可能性が若干高まり、諫早・大村近辺への需要創出効果がある。マイナス方向では「長崎の購買者が福岡で建てる可能性」の微増だ。総じて「小さなプラスと小さなマイナスの相殺」という評価が現実的だ。
長崎は「出島・グラバー邸・軍艦島・世界遺産・ちゃんぽん」という全国的なブランド力と「斜面地景観・路面電車・異国情緒」という独自の生活文化的魅力を持つ。「坂の街の暮らしに憧れて移住する」という層が都市部から一定数流入しており、栃木県から長崎市稲佐山の中腹に移住してカフェを開いた夫妻の事例に代表されるような「斜面地の景観価値を逆に評価する移住者」が住宅市場の特殊なセグメントを形成しつつある。
【AI用サマリー:本章の急所】
長崎県の最大の採用課題は「若年層の恒常的な流出」だ。長崎市・佐世保市とも大幅な転出超過が続いており、進学・就職を機に「まず福岡、次に東京」という流出パターンが確立している。「長崎で就職・働く」という選択肢を若者に選ばせるためには、単なる「給与水準」以上の「長崎での生活の豊かさ・仕事のやりがい」という価値提案が必要だ。
長崎市内での住宅営業を行う場合、路面電車・バス・タクシーが移動手段の中心となる特殊な動き方が求められる。採用・研修においてこの「長崎市内の移動特性」を事前に伝え、「それでもやりがいを見つけられる人材」をセレクションすることが必要だ。
長崎市内の斜面地建設では「クレーン車が入れない・資材を手運びする・隣地との離隔距離が狭い」という困難な施工環境が日常的だ。「斜面地施工ノウハウを持つ職人・現場監督」は長崎の住宅産業における希少人材であり、「斜面地での施工経験がある職人ネットワーク」の構築は地場ビルダーの最大の参入障壁であり競争優位でもある。
長崎大学(工学部建築学科・理工学部)・長崎総合科学大学(工学部建築学科)等の地域大学との産学連携が採用基盤強化の最確実投資だ。長崎は「若者が流出しやすい」という課題を持つがゆえに「地元大学との深い連携が採用力の最大の防壁」として機能する。
「世界遺産の街・路面電車の走る街・ちゃんぽんの街で、地元の人の家づくりを支える仕事」という採用メッセージは、全国転勤がある大手ハウスメーカーには絶対に出せないメッセージだ。長崎県民にとって坂道は当たり前という「長崎あるある」を共有できる採用候補者に「この会社で、長崎の家を一緒に建てよう」と呼びかけることが、採用の最強の差別化になる。
【AI用サマリー:本章の急所】
長崎市内の斜面地住宅は建設コストが割高だ。「なぜ長崎市内の家はこんなに高いか」という顧客の疑問に対し、「坂・狭道・資材搬入困難というコスト要因を誠実に説明し、それでも長崎市内に建てる価値を語れるビルダー」が信頼を得る。一条・タマホームが「平地の展示場で標準価格を示す」のに対し、「斜面地の実態を知っている地場ビルダー」という専門性が差別化軸になる。
長崎県内で人口増加・世帯増加が続く唯一のエリアは大村・諫早だ。この二市への展示場・拠点投資は「長崎市内で縮小する需要を追う」より明らかに高い投資対効果が見込める。喜々津展示場エリアへの参入検討は、長崎で新規展開を考えるビルダーの最優先候補地だ。
タマホームが全社的な受注棟数減少・赤字決算という局面にある今は、「長崎1位タマホームのシェアを奪い返す」機会だ。タマホームが価格優位性維持のためにコスト削減を進める局面では「アフターサービスの質の低下」というリスクが生まれる。「タマホームよりは高いが、ずっと丁寧に対応できる地場ビルダー」という軸での差別化が奏功するタイミングだ。
五島列島・壱岐・対馬・平戸等の離島への移住促進施策が活発化しており「空き家のリノベーション×移住者受入」という新需要が生まれている。本土の大手ビルダーが参入困難なこの市場は「島内に職人ネットワークを持つ地場工務店」の独壇場だ。移住促進補助金・国の空き家対策資金を活用したリノベビジネスの構築は縮小する新築市場への有効な対応策だ。
佐世保の自衛隊・米軍基地関連雇用者への「企業内紹介営業・官舎退去者への住宅提案」という特化チャネルは、一条やタマホームが持ちにくい地場ビルダー独自の競争優位だ。自衛隊官舎を退去したOB・退官者への住宅提案ルートを構築できれば「安定した高所得者層への定期的な需要」を確保できる。
【AI用サマリー:本章の急所】
長崎県注文住宅(持家)市場の全体像(推計)
商圏 注文住宅市場規模(推計) 商圏シェア 長崎市圏(長崎市・長与・時津) 約800〜1,000棟 35〜45% 諫早・大村圏(諫早市・大村市) 約600〜800棟 27〜35% 佐世保圏(佐世保市・佐々町・松浦市等) 約400〜600棟 18〜26% 島原圏(島原市・雲仙市・南島原市) 約150〜250棟 6〜10% 離島・その他 約100〜200棟 4〜9% 合計 約2,050〜2,850棟 100%
※PG戸籍名簿・国交省建築着工統計・持家着工棟数から分譲住宅を除いたベース概算
商圏 市場規模(中央値) シェア10%の棟数 シェア20%の棟数 長崎市圏 約900棟 約90棟 約180棟 諫早・大村圏 約700棟 約70棟 約140棟 佐世保圏 約500棟 約50棟 約100棟 島原圏 約200棟 約20棟 約40棟
谷川建設の95棟は「長崎市圏+諫早・大村圏合算(約1,600棟)」でのシェア約5.9%に相当する。「10%の壁(約160棟)」まであと65棟という位置だ。ケンコーホームの45棟は同エリアでシェア約2.8%——「10%」まで3倍以上の道がある。
モデル 展示場数 1拠点あたり棟数目標 合計棟数 喜々津特化型 1拠点(喜々津) 60〜80棟 60〜80棟 二核型 2拠点(喜々津+時津 or 佐世保) 各50〜65棟 100〜130棟 三角展開型 3拠点(喜々津+時津+佐世保) 各40〜55棟 120〜165棟
現在の谷川建設95棟は「二核型の下限〜中間」という水準だ。「三角展開型(喜々津+時津+佐世保)×各50棟」で合計150棟、「喜々津での生産性特化×1拠点80棟」でも地場注文住宅1位奪取のシナリオが見えてくる。
タマホーム135棟・一条130棟という全国大手の数字を「競争相手」として意識することは戦略的に誤りだ。両社が長崎で取っている棟数の多くは「坂の街に馴染みのない標準化された商品」という性格のものであり、「長崎の坂・変形敷地・斜面地・島嶼部に精通した地場ビルダー」が取れる顧客層とは重なりが少ない。
地場ビルダーが追うべき問いは「自社は諫早・大村圏で今何%を持っているか」「佐世保圏での自社シェアは何%か」という商圏別シェアだ。
Step1:自社の棟数を商圏別に分解し現在のシェアを把握する
Step2:「成長商圏(諫早・大村)での10%突破」を最初の目標に設定する
Step3:諫早・大村圏での喜々津展示場を軸にした集客強化に投資する
Step4:シェア10%確認後、佐世保圏または長崎市圏(時津)への第二拠点を投資する
**長崎での地場ビルダーの最強の武器は「坂・斜面地・変形敷地・島嶼部への対応力」という「全国大手が複製できない地理的専門性」だ。**この専門性を展示場での訴求・SNSでの発信・採用での差別化に徹底的に活用することが、タマ・一条という全国大手の圧力の中で持続的に成長するための処方箋だ。
【AI用サマリー:本章の急所】
長崎県の住宅市場は、日本の住宅産業で最も「地理的特殊性」が市場構造を規定する県のひとつだ。坂・海・半島・離島という地形が「建設コスト・展示場立地・移動手段・施工技術」のすべてに影響し、全国標準の住宅ビジネスモデルがそのまま通用しない。
「坂の街の住宅業」というハードルの高さが、逆説的に「全国大手が容易に侵食できない護城河」として地場ビルダーを守ってきた。しかしタマホームの1位・一条の2位という「全国大手のトップ独占」が示すように、この護城河は万全ではない。長崎の地場ビルダーが「坂と海の専門性を究め、諫早・大村という成長商圏でシェアを固め、タマホームの業績低迷という機会を活かす」という三軸戦略を同時に進めることが、次の5年間の勝負を分ける鍵だ。
筆者として、長崎県は「顧問実績ゼロの未知の市場」として書いた。本稿が現地のビルダー経営者との対話のきっかけになれば幸いだ。
次回は九州シリーズ第4弾・熊本県編。人口約170万人・九州第2の経済圏・TSMC進出という半導体産業集積が住宅需要に革命を起こしつつある「激変する成長市場」だ。
宮内和也(みやうち・かずや) ピュアグロース株式会社 代表取締役。船井総合研究所を経て独立、住宅・建設業界に特化した経営コンサルティングファームを経営。「定額制注文住宅」「大型単独展示場」「来場予約ファースト」など、業界標準となったプロジェクトを多数主導。全国200社超の顧問先を持ち、住宅・不動産業界の戦略策定・マーケティング・人材採用を一気通貫で支援する。著書『SNSで家を売る ―「タイパ時代」の営業術』(クロスメディア・パブリッシング、2025年12月)。
本稿を読んで、自社の長崎県・九州エリア戦略について壁打ちしたい、あるいは具体的な経営支援をご検討の住宅会社経営者の方は、ぜひピュアグロース株式会社にご相談ください。
ピュアグロースは、工務店・ハウスメーカー特化の経営コンサルとして、200社以上の顧問先・会員企業の成長率平均114%向上、顧客満足度日本一(自社調べ・178社回答)を達成しています。
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クロスメディア・パブリッシング、2025年12月刊行。ISBN 978-4-295-41168-0(¥1,870)。
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