鳥取県の住宅市場は、日本の都道府県で最も少ない人口(全国47位)を擁しながら、地場工務店が市場の77%を握るという全国でも稀有な「地場絶対優位市場」だ。筆者も鳥取県には長い間顧問先がおり、大阪・東京から訪問していたが、どちらもアクセスがいいとは言えず、裏を返すと商圏人口のサイズからも全国区ビルダーが積極的に展開する市場ではない。
SUUMO鳥取県注文住宅着工棟数データによれば、鳥取県で家を建てた人のうち実に77%が地元に密着した工務店・ビルダーに依頼している。全国大手ハウスメーカーが普及している他県では、大手シェアが30〜50%に達するケースが多い中で、この数字は突出している。なぜこれほどまでに地場工務店が強いのか。答えは「鳥取県内に大手ハウスメーカーの複数社が集まる総合住宅展示場がほぼ存在しない」という構造的な事実にある。
総合住宅展示場がないということは、多くの顧客にとって「住宅展示場を一気に見てハウスメーカーを比較する」という購買行動の出発点が存在しないということだ。顧客は口コミ・紹介・地元メディア・SNSを通じて、地元の工務店・ハウスメーカーを調べるというプロセスを踏む。この環境下では、地元で長年の実績と信頼を積み上げた工務店が圧倒的に有利になる。
しかし、この「地場の牙城」にも変化の波が押し寄せている。一条工務店山陰が鳥取・米子に複数拠点を展開し、アイ工務店が米子に「アイパーク米子」という大型複合住宅展示場を構え、タマホームが積極的に集客を続けている。そして何より鳥取県は、全国で最も激しい人口減少の圧力に直面しており、2025年時点で人口52.7万人・世帯数22.1万世帯という「47都道府県最小の住宅市場」での生き残り戦略が問われる。
本稿は、住宅会社・工務店・ハウスメーカーの経営者・幹部・マーケターを対象に、鳥取県市場の構造を徹底的に解剖する。基礎データ、着工構造の特性、エリア別特性、ランキングの変動、地場ビルダーの詳細、一条工務店山陰の全貌(一条工務店本体との違い・商品・採用条件の比較を含む)、そして地場ビルダーが勝ちきるための7つの提言まで、約20,000字で網羅する。
目次
鳥取県の人口は約52.7万人(2025年)、総世帯数は約22.1万世帯。全47都道府県で人口最少・面積最小規模の県であり、島根県(約65万人)・高知県(約68万人)とともに「縮小するローカル市場の先進地」として注目される。
人口ピーク(1955年・約616,000人)からの減少は約7割規模まで縮小するという驚異的な推移で、社人研の将来推計では2040年には40万人台に落ち込む可能性が示されている。県内19市町村のほぼすべてで人口が減少し、鳥取市(人口18.3万人)と米子市(人口14.9万人)という2大都市が全県人口の約63%を占める二極集中構造が強まっている。
■ 鳥取県・住宅市場の主要指標(PG戸籍名簿より)
人口 :約52.7万人(2025年)
世帯数 :約22.1万世帯(2025年)
注文住宅平均建築費 :約3,216万円(フラット35利用者調査・中国地方平均比506万円低)
土地付注文住宅建築費:約2,920万円(全国平均より485万円低)
土地取得費(平均) :約633万円(全国平均より864万円低)
総取得費合計 :約3,553万円(全国平均より約1,350万円低)
世帯年収(注文住宅):約647万円(全国平均660万円をやや下回る)
新設着工(持家+分譲):年間約1,960戸(2023年実績・全国46位)
(出典:国土交通省・総務省・社人研の公的統計、住宅金融支援機構フラット35利用者調査、PG戸籍名簿より)
注目すべきは「注文住宅の平均建築費が全国平均・中国地方平均を大きく下回る」という点だ。フラット35の利用者調査では、鳥取県の土地付注文住宅の建築費は約2,920万円で、全国平均より485万円・中国地方全体より506万円低い。この数字の背景には2つの要因がある。①鳥取県の土地価格が全国最低水準(平均633万円、全国平均の約42%)であること、②坪単価で見ると全国平均約105万円に対し鳥取県は約74万円で、建物単体の価格水準も低いこと、だ。
しかし「安い市場」と「チャンスのない市場」は違う。着工数の絶対値は小さくても、鳥取では「一社が県内シェアの一定割合を取れる」という小規模市場ならではの「エリアNo.1の獲得価値の高さ」がある。年間1,960戸のうち持家を中心に考えると、地場工務店1社が年間30〜50棟受注すれば県内持家市場の3〜5%を単独で取ることができる計算だ。
また、鳥取県独自の高性能住宅補助制度「NE-ST」(鳥取県が独自に定める世界基準の高い住宅性能基準)に適合する住宅には最大200万円の補助金が交付される。これは地場工務店が「性能×補助金」のセット提案で差別化できる固有の武器であり、鳥取でしか使えないアドバンテージだ。
鳥取県には、複数の大手ハウスメーカーのモデルハウスが集まる総合住宅展示場がほぼ存在しない(一部ハウスメーカーは個別展示場・モデルハウスを保有する)。これは住宅業界において非常に特殊な市場環境だ。
総合住宅展示場が存在する都市では、来場者は「同じ日に複数社を比較できる」という購買行動を取りやすい。この比較購買が大手ハウスメーカーの集客装置として機能し、「全国大手を認知→比較検討→大手で契約」という動線が発生する。鳥取ではこの動線が物理的に成立しにくく、顧客は「知人・親族の紹介」「地元の看板・広告」「SNS・インターネット」という別の経路で住宅会社を探す。この経路では、地縁・地域コミュニティに根ざした地場工務店が圧倒的に強い。
SUUMO鳥取県注文住宅着工棟数トップ10社データ(2015年度)では、実に77%が地元密着の工務店・ビルダーへの依頼という結果が出ており、この傾向は2020年代になっても大きくは変わっていない。鳥取県は「全国大手が本気で市場を制圧しにきていない」という力の空白地帯であり続けており、地場工務店にとって守りやすい市場環境が当面維持されている。
鳥取市の気候は日本海型気候(山陰型)で、冬は積雪が多く・夏は高温多湿という厳しい二面性を持つ。鳥取県全域が豪雪地帯に指定されており、最大積雪深が1メートルを超える年もある。この気候条件が住宅に対して強い影響を与えている。
①屋根の積雪荷重対応(雪下ろしが必要な急勾配屋根か、無落雪屋根の設計判断) ②高断熱・高気密化の必要性(冬の寒さと夏の暑さ双方への対応) ③樹脂サッシ・トリプルガラス等の高性能開口部 ④基礎の凍上対策(凍結深度を考慮した基礎設計)
これらが標準的に必要とされる鳥取県では、「安い家を建てる」というコスト優先の発想より「性能の高い家を建てる」という意識が消費者に根づいている。これが一条工務店山陰の高性能住宅訴求が鳥取で強い説得力を持つ理由であり、地場工務店が「NE-ST対応の高性能住宅」を訴求できる土壌でもある。
■ 鳥取県・エリア別市場規模比較(PG戸籍名簿・公的統計より)
【東部エリア】鳥取市・岩美郡・八頭郡・若桜町
人口 :約22万人(鳥取市18.3万人中心)
世帯数 :約10万世帯
新設着工(推計):年間 700〜900戸(持家+分譲、全県の35〜45%)
├ 持家 :年間 400〜550戸程度
└ 分譲(戸建):年間 200〜300戸程度
競合状況 :一条工務店山陰(本社エリア)・タマホーム・ヤマタホーム・スマートホーム
・アイホームズなど地場工務店多数
【中部エリア】倉吉市・三朝町・湯梨浜町・北栄町・琴浦町
人口 :約8万人(倉吉市4.6万人中心)
世帯数 :約4万世帯
新設着工(推計):年間 250〜350戸
├ 持家 :年間 160〜240戸程度
└ 分譲(戸建):年間 70〜110戸程度
競合状況 :スマートホーム(倉吉本社)が圧倒的強み。地場工務店中心
【西部エリア】米子市・境港市・西伯郡・日野郡
人口 :約19万人(米子市14.9万人中心)
世帯数 :約9万世帯
新設着工(推計):年間 700〜900戸(全県の35〜45%)
├ 持家 :年間 380〜530戸程度
└ 分譲(戸建):年間 200〜280戸程度
競合状況 :アイ工務店(アイパーク米子)・一条工務店山陰・ヤマタホーム・エルクホームズ
タマホーム・積水ハウス・大和ハウス工業が競合
(出典:国土交通省 建築着工統計・総務省 統計ダッシュボード、PG戸籍名簿より。着工数はPGクライアント経営対話との照合を含む推計値)
東部エリア(鳥取市中心)は県庁所在地・鳥取市を核とする行政・教育・医療の集積地だ。一条工務店山陰の本社(鳥取市東品治町)が位置しており、鳥取市内に複数の展示場・モデルハウスを持つ。地場工務店が多数存在し、特にヤマタホーム・スマートホーム・アイホームズといった精鋭型工務店がエリアに密着した集客を行っている。
中部エリア(倉吉市中心)は山陰の中間地点に位置する農業・観光地帯。スマートホーム(倉吉市本社)が中部エリアの圧倒的なポジションを持ち、鳥取市・米子市・倉吉市の全3エリアでモデルハウスを展開する数少ない地場ビルダーだ。着工数は小さいが、地場工務店が市場のほぼすべてを取っている「地場の聖域」的なエリアだ。
西部エリア(米子市・境港市)は鳥取県最大の商業集積地・米子市を核とする。大山を擁する観光圏でもあり、松江市(島根県)とも生活圏が連続している。アイ工務店が「アイパーク米子」という大型複合住宅展示場を開設し、一条工務店山陰が米子に複数展示場を展開するなど、東部エリアより競合密度が高い。ヤマタホームが「鳥取・米子・倉吉の全エリアに展示場を持つ」唯一の地場工務店として西部エリアでも存在感を持つ。
PG戸籍名簿のデータによると、2014年度の鳥取県ランキングは積水ハウスが首位に立ち、タマホーム・大和ハウス工業・積水化学工業(セキスイハイム)・住友林業・ミサワホームという「全国大手多極型」の構造だった。2024年度のデータでは、一条工務店(山陰)・積水ハウス・積水化学工業・タマホーム・大和ハウス工業・住友林業というように一条工務店山陰が最上位グループに浮上している。
最も重要な変化は2点だ。第一に、一条工務店山陰が2014年の中位圏から2024年に最上位へ躍り出たこと。これは鳥取県の気候(豪雪・寒冷)と一条の高断熱・高気密訴求の親和性が高まり、展示場投資の拡大と相まって棟数を伸ばした結果だ。第二に、アイ工務店が2014年には存在しなかったポジションから「アイパーク米子」という大型複合展示場の開設により西部エリアでの認知を急拡大させたこと。
一方で、地場工務店群は県全体のランキングには現れにくいが、特定エリアでは全国大手を凌ぐ棟数を確保している。「全県ランキング=各社が均等に競合している」という見方は鳥取では特に誤りで、エリアごとに地場工務店が強い「モザイク型の市場支配」が実態だ。
ヤマタホームは、ヤマタホールディングス株式会社のグループ会社として鳥取市に本社を置き、施工実績1,500棟以上・初回接客満足度97.3%という実績を持つ地場の実力派ビルダーだ。最大の特徴は「鳥取の多雪・猛暑・湿気に備えた『鳥取基準』を標準にした注文住宅」というポジショニングだ。
全国チェーンのフランチャイズ「ジャーブネット」にも加入しており、全国ネットワークのノウハウ・仕入れ力と地域密着の設計力・アフターサービスを組み合わせる「ハウスメーカーと工務店の良さを両立する」という戦略を取っている。
鳥取・米子・倉吉の鳥取県3エリア全てに展示場・営業拠点を持つ地場工務店は数少なく、この「全県展開力」がヤマタホームの最大の強みだ。建てた後も自社アフターとリフォームまで「窓口ひとつで暮らし全部を支える」というアフターサービスの一体性が、全国大手との差別化ポイントとして機能している。
スマートホームは鳥取県倉吉市に本社を置く地場工務店で、倉吉市・鳥取市・米子市のエリアを中心に、「省エネ等級4・耐震等級3・劣化対策等級3」の高性能注文住宅を提供する。「くらす、しあわせ。」というキャッチコピーのもと、性能・デザイン・アフターの三点を武器にしている。
中部エリア(倉吉市・三朝町・湯梨浜町)での圧倒的な認知は、創業以来の地域密着と紹介ネットワークによるものだ。アクアフォームなどの高性能断熱材・遮熱・防水工法を採用し、「鳥取の気候に強い家」という訴求が地元顧客に刺さっている。倉吉という小規模市場でシェアを固めながら、鳥取・米子への展開も行っており、「地場の精鋭として全県を取りにいく」という成長軸を持つ。
アイホームズは鳥取市に拠点を置く精鋭型の地場工務店で、高気密・高断熱住宅に特化した家づくりを強みとしている。アレルギー持ちのお子さんでも過ごしやすい室内環境という訴求が子育て世帯に支持されており、見学会・施工事例の丁寧な発信がInstagramを通じた指名来場につながっている。地場の小規模精鋭型工務店として、大手ハウスメーカーとの比較ではなく「高気密高断熱に特化した専門家」という独自軸で勝負している。
みやけ工務店は「ハピネスシリーズ」というブランドで注文住宅を提供する創業40年以上の老舗工務店だ。鳥取市・倉吉市・米子市・新温泉町(兵庫県)が主な施工エリアで、経験豊富な地場工務店の信頼感を武器にしている。クローバー住工房は「予算が限られている人でもマイホームを建てられる」という理念のもと、ローコスト路線を徹底しながら品質を担保する精鋭型のビルダーで、米子市・境港市エリアを中心に棟数を積み上げている。
株式会社一条工務店山陰は、1987年設立(36年超の歴史)・鳥取市東品治町に本社を置く一条工務店グループの法人だ。資本金3,000万円、売上高87億6,500万円(2021年12月決算)、従業員数95名(2022年5月現在)という規模で、鳥取県・島根県・岡山県北部の3エリアを担当する。2022年7月時点で総引渡し棟数が6,000棟を突破しており、山陰(鳥取・島根)における一条ブランドの住宅を約36年間一手に担ってきた。
一条工務店グループにおける「山陰」の位置づけ
一条工務店は全国に複数の地域法人(子会社・関連会社)を持ち、それぞれが特定エリアの営業・施工を担うフランチャイジー的な構造を取っている。山口県の「一条工務店広島株式会社(山口南部担当)」や岡山県の「下津井電鉄住宅事業部(岡山南部担当)」と同じ枠組みだ。一条工務店山陰は「山陰(鳥取・島根)・岡山北部」という担当エリアにおいて、一条工務店の屋号を使いながら独立した法人として事業を展開している。
一条工務店本体(本部法人)との違い:4つの軸で整理する
一条工務店山陰と一条工務店本体(愛知県小牧市本社、以下「一条本体」)の違いは、住宅を検討する顧客にとっても、採用を検討する就活生にとっても把握しにくいポイントだ。以下の4軸で整理する。
①商品ラインナップ:基本は同じ、一部の最新商品が違う場合も
一条工務店山陰が提供する商品は、一条本体が開発・製造する商品ラインナップと基本的に同一だ。グラン・スマート(GrandSmart)・アイ・スマート(i-smart)・グラン・セゾン(GrandSeason)・アイ・キューブ(i-cube)・HUGme(ハグミー)といった商品群は、一条工務店山陰の展示場でも扱われている。鳥取県内の一条工務店山陰展示場(後述)では「鳥取グランセゾン展示場」「米子i-smart展示場」「米子グランセゾン展示場」という展示場名からも、グラン・セゾンとi-smartが鳥取での主力商品であることが確認できる。
一条本体の最新商品(例:HUGmeの最新バリエーションや特定地域限定の新商品)の投入タイミングが、地域法人によって若干ずれる場合があるという報告もあるが、商品品質・性能基準・工場生産体制は全国一律で一条本体が管理しているため、「同じ一条のグラン・スマートが山陰で劣っている」ということは構造上ない。
②採用条件・雇用関係:「一条工務店山陰」の社員として採用される
一条工務店山陰は一条本体から独立した別法人のため、採用・雇用は一条工務店山陰として行われる。一条本体の社員ではなく「株式会社一条工務店山陰の社員」として採用される点が重要だ。
採用における最大の特徴が、独自プロジェクト「トットリターン」だ。鳥取・島根出身者の約8割が大学進学時に県外に出るという現実(鳥取県の大学進学希望者約2,000名のうち8割が県外へ)を踏まえ、一条工務店山陰は県外在住の山陰出身者を就職で呼び戻すUターン採用プロジェクトを2016年に立ち上げた。毎年年末に大阪・京都から鳥取・島根に向けた無料帰省バス「一条バス」を運行(延べ850人以上が利用)し、山陰以外の地域での就職イベントも開催。このプロジェクトがグッドデザイン賞(2016年)を受賞した点は、採用ブランディングの先進事例として住宅業界でも注目された。
給与体系については、一条本体の給与水準とは別に一条工務店山陰独自の賃金体系が設定されている。給与口コミ(JobTalk等)では「基本給は固定で昇給は少ないが、成果主義的なインセンティブ(契約歩合)があり、多く契約を取れば1,000万プレーヤーも可能」という評価が見られる。鳥取・島根という「人件費・物価が全国平均より低い地域」における給与水準として設計されており、一条本体の全国転勤前提の社員とは異なる「地元根ざし型のキャリア」が想定されている。
社員の約8割がUターン就職者であるという点は、採用ブランドとして機能しているだけでなく、「地元を知っている社員が地元の顧客に接客する」という地域密着型の顧客対応の質の担保にもつながっている。
③展示場・エリア担当:鳥取・島根・岡山北部に特化
一条工務店山陰が担当する鳥取県内の展示場は、以下のとおりだ(一条本体公式サイトで確認できる鳥取県内拠点)。
通常合同展示場タイプ
鳥取市と米子市の両主要都市に複数拠点を持ち、計3〜4棟の展示体制を構築している。
分譲地・完全予約制モデルハウスタイプ
一条工務店山陰の展示場体制は、山口県内の一条(12拠点)や奈良県内(8拠点)と比べると絶対数は少ない。しかしそれは「鳥取県の市場規模(年間着工1,960戸)に対して適正な展示場数」という一条本部の合理的判断の結果だ。むしろ、県内最小市場において複数拠点を維持している事実は、一条が鳥取市場を中長期的に重要市場と位置づけていることを示している。
④ブランド・顧客対応:「一条」の看板は同じ
顧客から見た場合、一条工務店山陰と一条本体の最大の共通点は「一条工務店」という屋号・ブランドで展示場運営・住宅販売が行われている点だ。「家は、性能。」というキャッチコピー、グラン・スマートの断熱等級7・全館床暖房・超高気密という商品特性、保証体制も一条ブランドとして統一されている。顧客が「一条で建てた」という感覚に、一条山陰かどうかという差はない。
ただし、地域特有の気候対応(鳥取の豪雪・凍上対策など)については一条工務店山陰のスタッフが「地元を知る社員として」顧客に寄り添えるという強みがある。「トットリターン」で採用したUターン社員が、鳥取の雪の積もり方・冬の寒さを体験的に知っているからこそ、「鳥取でどう一条の性能が効くか」を実感を持って語れる。これは一条本体から転勤してきた社員が担当する他県の展示場との実質的な差別化点だ。
一条工務店山陰の「トットリターン」プロジェクトは、単なる採用活動を超えた地域ブランディングとして機能している。大阪・京都で一条バスに乗った山陰出身の学生が「一条工務店山陰という選択肢があるから山陰に帰れる」と考え、Uターン入社する。その社員が山陰の顧客に「自分も山陰出身者として地元で家を建てる人をサポートしたい」という姿勢で接客する。このサイクルが「山陰に根ざした一条ブランド」を醸成し、純粋な大手ハウスメーカーとは異なる「地元感」を一条工務店山陰に与えている。
地場工務店にとって一条工務店山陰が手強いのは、全国大手の商品力・ブランド力を持ちながら、「山陰出身者が地元に帰って働く会社」という地場工務店的な親しみやすさを同時に持っているからだ。「全国大手か地場工務店か」という二項対立の中間に位置する独自の存在感が、一条工務店山陰の鳥取での競合上の強さだ。
アイ工務店は鳥取県西部・米子市に「アイパーク米子」という複合型住宅展示場を開設しており、ここが鳥取での主力集客拠点だ。「アイパーク」は通常の合同展示場と異なり、アイ工務店が単独で複数の体験コンテンツ(展示棟・打合せスペース・モデルルーム等)を展示場公園形式で展開する独自形式の大型展示施設だ。
米子という立地の選択は戦略的だ。米子市は鳥取県西部の最大都市であり、島根県松江市との生活圏が連続している。「米子で建てる顧客」と「松江から米子に来場する顧客」の双方を一度に取り込める立地として、アイ工務店にとって「鳥取・島根の西部一帯」を1拠点でカバーできる最適地だ。
商品はN-ees(ニーズ)×1cm単位の自由設計×断熱等級6×全棟気密測定というアイ工務店標準の軸で展開。「コスパの良い高性能住宅」という訴求が米子市の主力顧客層(製造業・農業・30〜40代世帯)に刺さっており、一条工務店山陰との「性能系ビルダー同士の直接競合」が発生している。
タマホームは鳥取市・米子市・周南市(山口)を中心に鳥取県内に複数の営業拠点を持つ。鳥取支店・米子営業所・宇部店・下関営業所という山陰・山口の連続展開だ。坪単価30〜50万円台という価格訴求が、予算制約の強い若年層・初めてのマイホーム購入層に響いており、鳥取でも一定の棟数を積み上げている。PG戸籍名簿の鳥取県ランキングでも継続的に名前が確認でき、中堅地場工務店との価格競合が続いている。
積水ハウスは鳥取県内に山陰支店を置き、シャーウッド(木造)+鉄骨造の両輪で高単価層・建て替え層への安定した訴求を続けている。大和ハウス工業も山陰支店から鳥取・米子に展開しており、注文住宅に加えてD-ROOM(賃貸住宅)の土地活用提案という複合事業で存在感を保つ。両社ともPG戸籍名簿の鳥取ランキングに継続的に名前が挙がるが、一条工務店山陰の台頭により2014年比での相対的地位は低下傾向にある。
ライフデザイン・カバヤは「鳥取・岡山北部」を担当エリアの一部に含めており(山口県版レポートと同様の山陽軸展開)、鳥取県東部・中部への一部侵食が見られる。岡山県との県境に近い鳥取県中部・南部エリアは、カバヤにとって「岡山北部の延長線上の市場」として認識されており、地場工務店が注意すべき動向だ。
鳥取県の注文住宅購買層の主軸は、①農業・農産業関連世帯(鳥取市・倉吉市周辺の梨産地・米産地)、②製造業・物流業就労世帯(米子市・境港市周辺)、③公務員・医療・教育関係者(鳥取市・米子市の行政・医療機関集積)の3タイプだ。
平均世帯年収は約647万円で全国平均(660万円)をやや下回る。しかし土地価格が全国最低水準(平均633万円)という構造から、「世帯年収は低くても、土地を安く手に入れられる分だけ建物にお金をかけられる」という購買パターンが成立している。鳥取県の平均敷地面積は全国最大水準とも言われ、「広い敷地に広い家を建てる文化」が根づいている。
また、鳥取県では農家・自営業者が親族から土地を相続・贈与で受け取るケースが多く、「土地代ゼロ・建物費のみ」という住宅取得も少なくない。この場合、建物費に予算を集中できるため、NE-ST対応の高性能住宅への需要が生まれやすい。
鳥取県独自の購買動機として「Uターン・移住」という層がある。鳥取砂丘・大山という観光資源と、テレワーク普及が重なり、都市部からの移住者が増加傾向にある。この層は高い世帯年収・こだわりの高い住宅ニーズを持ち、「鳥取の地場工務店ならではの地域素材・高性能・設計自由度」という差別化に反応しやすい。
また、一条工務店山陰の「トットリターン」が狙うのもこの層の裏側——鳥取出身者が「帰れる会社がある」という理由で就職とUターンを同時に決める——という構造だ。鳥取の住宅市場では「移住者の居場所作り」という文脈での住宅取得支援が自治体レベルでも行われており、地場工務店がこの移住者層を取り込むマーケティングを今から設計しておくことが2030年代の重要な仕込みになる。
鳥取県が独自に設けた「NE-ST」(鳥取の環境・省エネ住宅スタンダード)基準に対応した住宅には最大200万円の補助金が交付される。この補助制度の情報を最も詳しく・丁寧に説明できる会社が、鳥取市場の「補助金問い合わせ窓口」ポジションを取れる。一条工務店山陰もNE-ST対応は行っているが、地場工務店が「地元の補助制度に一番詳しい」という認知を先に取ることが、初期接触での優位性を生む。
「NE-ST×鳥取の豪雪気候×断熱等級6以上」という三点セットを数値と体感で説明できる工務店が、鳥取市場の性能訴求競争で一条工務店山陰と互角に戦える。
大手ハウスメーカーが大型展示場を梃子にできない鳥取では、SNSによる集客効果が他県より強く出る。Instagramで「鳥取 注文住宅」「米子 工務店」「鳥取 新築」というキーワードで検索される施工事例を継続発信することが、来場前に「この工務店で建てたい」という指名来場につながる。
また、完成見学会(実際に建てたOBオーナー宅の公開見学)は、「展示場を超えたリアルな暮らしの体感」を届けられる集客装置として鳥取で特に有効だ。鳥取の積雪・寒さという日常の課題を「こんな家なら解決できる」という体感で示すことが、他のどの訴求よりも強い購買動機を生む。
宮内和也著『SNSで家を売る ―「タイパ時代」の営業術』(クロスメディア・パブリッシング、2025年12月)で提示したフレームワークは、総合住宅展示場という集客装置を持たない鳥取のような市場において特に有効な手法体系だ。
アイ工務店がアイパーク米子を開設したことは、逆説的に「米子市の注文住宅市場が盛り上がっている」というシグナルでもある。アイパーク米子の来場者の中には「アイ工務店に興味があるが他社も見たい」という層が必ず存在する。その層が次に調べる「米子の地場工務店」として検索結果の上位に出てくることを今から仕込む必要がある。
「米子 注文住宅 地場工務店」「米子 高性能住宅」「境港 新築」といったキーワードでのSNS発信・ブログ記事・Googleビジネスプロフィールの最適化を先行して行うことで、アイパーク米子の来場後に「比較対象」として選ばれる工務店になれる。
一条工務店山陰が「トットリターン」でUターン採用を武器にしているように、地場工務店も「Uターン・移住者のための家づくり」を専門コンテンツとして打ち出すことで、同じ層へのアプローチが可能だ。
「鳥取に帰って建てる家の話」「大山の麓で暮らす家」「都会を出て鳥取に移住した家族の家」というコンテンツはInstagram・YouTube・ブログで全国の潜在移住者にリーチできる。移住を考えている段階の人が「鳥取で建てるならあの工務店」という認知を持つ状態を作ることが、来場前集客の核になる。
倉吉市・三朝町・湯梨浜町という中部エリアは、大手ハウスメーカーの展示場がほぼない「地場の聖域」だ。スマートホームがこのエリアで長年築いた地位を持つが、他の地場工務店もこのエリアで「SNS先行投資」を今すぐ行うべきだ。アイ工務店も一条工務店山陰も中部エリアには拠点が少ないため、SNSで「倉吉 注文住宅」「三朝 新築」「北栄町 工務店」という地名ワードを先に取った工務店が次の5〜10年でこのエリアを制する。
鳥取県は全域が豪雪地帯であり、冬の断熱・暖房性能の体感が来場者の意思決定に直結する。来場者が「雪の日でも暖かい」「結露しない」「電気代が想像より安い」という体感を展示場・完成見学会で得られるよう、冬季の体感機会を戦略的に設計することが有効だ。
具体的には、1月〜2月の寒い時期に「電気代ゼロ体験」や「全館床暖房の家でOBオーナーの話を聞く会」などの寒冬体感イベントを開催することが、鳥取の顧客に最も刺さる体験設計だ。一条工務店山陰も宿泊体験会を行っているが、「地場工務店が地元の顧客に地元の気候に合わせた体感を届ける」という点では地場工務店の方が誠実さとリアリティを持って伝えられる。
一条工務店山陰の弱点は、一条本体と同様に「設計の自由度の制限」「吉野材・鳥取素材の使用困難」「引き渡し後のきめ細かな対応」という点にある。一条の規格感に違和感を覚える顧客、鳥取の木材・素材にこだわる顧客、「社長に直接電話できる工務店」を望む顧客が一定数存在する。
この層に対して「自由設計×地元素材×社長が顔の見える関係」というポジションを鮮明に打ち出した地場工務店が、鳥取市場での「一条でもアイでもない工務店」という第三の選択肢として固定顧客を持つことができる。
社人研の推計では鳥取県は2040年に40万人台まで人口が落ちる見通しだ。これは年間着工数が現在の1,960戸(2023年)から2030年代には1,500戸を割り込む可能性を示唆する。これほど小さな市場で、地場工務店が何社も共存できるか。答えは「エリアに特化した数社が生き残る」という形の収斂だ。
鳥取市で年間30〜50棟を安定受注する工務店1社、米子市で年間30〜50棟を取る工務店1〜2社、倉吉市で年間15〜25棟を確保する工務店1社。これがそれぞれの主要都市のエリアNo.1として生き残る工務店の姿だ。それ以外の「なんとなく鳥取にある工務店」は、廃業か事業縮小の圧力を受ける。
一条工務店山陰は売上87億円・6,000棟超の実績を持つ「山陰最大の一条法人」として、鳥取の住宅市場を長期にわたって牽引する存在であり続けるだろう。しかし「一条に勝てない」というわけではない。
一条工務店山陰が取らない顧客層——設計の自由を求める層、地元素材にこだわる層、より密着したアフターを求める層——が鳥取市場には確実に存在する。この「一条が取れない顧客」を確実に受け止める地場工務店が、縮小する市場で最も安定した棟数を維持できる。
鳥取県の住宅市場の2026年的構造を一言で表現するなら、「ピュアグロース式・全国最小市場・地場絶対優位モデル」だ。
年間着工1,960戸・人口52万人という全国最小規模の市場に、一条工務店山陰という特異な「大手と地場の中間的存在」とアイ工務店という「近畿の新興力」が攻め込んでくる中、地場工務店はSNS×NE-ST補助×完成見学会という鳥取固有の武器を磨き続けることでエリアNo.1の地位を守れる。
鳥取は全国で最も小さな市場だが、エリアに特化して「代えのきかない存在」になれれば最も守りやすい市場でもある。今ポジションを固めた工務店が、2030年代の鳥取市場の「残存者利益」を独占する。
本稿で取り上げた鳥取県の住宅市場分析は、ピュアグロース株式会社が蓄積してきた全国住宅ビルダー支援の知見と市場データに基づいています。エリアNo.1戦略の立案・SNS集客の仕組み化・NE-ST補助制度を活用した集客設計・一条工務店山陰との差別化ポジション設計については、月次コンサルティングの中で顧問先様と一緒に設計・実行しています。
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本稿の内容は、公的統計・PG戸籍名簿・PGクライアント経営対話をもとに、ピュアグロース株式会社 代表取締役 宮内和也が執筆・監修したものです。市場データの引用・転載は出典を明記の上でお願いします。