【47都道府県マーケットレポート㉟】島根県の住宅市場分析|人口動態・着工構造・主要プレイヤーから読み解く2026年の経営戦略・工務店経営を読み解く

2026.05.18 2026.05.18

島根県は、日本で2番目に人口の少ない県である。鳥取県に次ぐ約64万人の人口を抱え、東西に細長く伸びる地形が、出雲・石見・隠岐という3つの独立した経済文化圏を形成している。出雲市は縁結びの神様・出雲大社を擁する神話の地として広く知られ、松江市は「水の都」として国宝松江城を中心とした城下町の面影を残す。この2都市で県人口の約56%が集中する2極構造が、島根県の住宅市場を根本的に規定している。新築住宅着工は年間約3,200〜3,500戸と中国地方で最も小規模な市場でありながら、後継者不在率70.9%という全国7位の深刻な事業承継問題と、空き家率17.0%という全国平均を大きく上回る水準が、住宅会社経営に独特の構造的課題を課している。
本稿では、ピュアグロース式・島根県エリア分析の手法を用い、人口・着工・商圏・プレイヤー・現場論点・戦略の6章構成で、島根県の住宅市場の全貌を解剖する。ちなみにPG社には島根県の上位ビルダー含めて顧問先・会員先が複数在籍している。


目次

■ 島根県の位置づけ|全国47都道府県のなかでの座標

指標 数値 全国順位 総人口(2024年推計) 約64万人 46位 世帯数 約28万世帯 46位 平均年収 約370万円 42位前後 新設住宅着工戸数(2023年度) 約3,224戸 46位 空き家率 約17.0% 全国平均(13.8%)を大幅上回る 県土面積 約6,708平方キロメートル 全国19位 後継者不在率 70.9% 全国7位(2019年)

島根県の特異性は、全国で2番目に人口が少ないにもかかわらず、面積は全国19位と相対的に広い点にある。これは「薄い人口が広い県土に散在し、しかも3つの文化圏に分断されている」という三重の制約となり、住宅会社の事業効率を根本から規定する。さらに、65歳以上の人口構成比が35.2%と全国的にも高水準で、高齢化は全国平均より相当程度進行している。一方で合計特殊出生率は2023年に1.46と全国6位という高い水準にあり、「子供は生まれるが若者が出て行く」という構造的矛盾を抱えている。


■ 島根県の地理的要因|住宅市場を規定する物理的条件

ピュアグロース式・島根県エリア分析が前提とする5つの地理的制約

島根県の住宅市場を理解するには、五つの地理的条件を押さえる必要がある。

第一に、出雲・石見・隠岐の3文化圏並立である。出雲地域(松江市・出雲市・安来市・雲南市)、石見地域(浜田市・益田市・大田市・江津市・邑智郡等)、隠岐地域(隠岐の島町・海士町・西ノ島町・知夫村)の3地域は、それぞれ別の文化圏・別の生活圏として機能している。特に石見地域と出雲地域は中国山地で分断されており、浜田・益田の住民の生活圏は内陸ではなく、山口県北部や広島県西部とつながっていることも珍しくない。

第二に、隠岐という離島の存在である。隠岐諸島は島根半島沖の日本海に浮かぶ離島群で、県土の一部でありながら住宅市場として内陸とは完全に切り離されている。世界ジオパーク認定の観光地であり、近年は「島前高校の地域おこし」等で注目されるが、住宅着工棟数は微小で経済的自立性が低い。

第三に、山陰海岸・日本海沿岸の気候的特性である。島根県の沿岸部は冬季に強烈な日本海型気候の影響を受け、松江市・出雲市周辺では年間降雪日数が40〜60日に達する。宍道湖沿岸の松江市中心部では濃霧も多く、高断熱・防湿の住宅設計が実質的な必須要件となる。宍道湖・中海という内陸湖沼の存在が、この地域の湿度の高さに直結している。

第四に、広島・岡山圏との生活圏の連続性と断絶である。出雲・松江エリアは山陰自動車道で広島まで約2時間30分、岡山まで約2時間30分という距離感にある。鉄道では松江から岡山まで特急で約2時間10分。これは「島根に住みながら、広島・岡山へ通勤・進学する」パターンを作り出しており、住宅購買力に対して広島・岡山市場の引力が常に働いている構造を意味する。

第五に、人口減少スピードの深刻さである。島根県の人口減少は全国的に見ても最も深刻な水準にある。社人研推計(2023年12月公表)では、2020年から2050年までに約25.9%削減、約50万人へと縮小する見通しだ。2050年の平均年齢は54.8歳と予測されており、生産年齢人口の絶対的な縮小が住宅市場の母数を直撃する。


■ 第1章|人口・世帯動態

1-1|人口減少の進行速度と二極化

島根県の人口は2024年推計で約64万人(2025年4月時点で約638,081人)。2020年国勢調査の約67.1万人から既に3万人超を失っており、縮小ペースは東北各県に匹敵する速度で進行している。注目すべきは松江市・出雲市への集中である。2025年4月時点で松江市が約193,135人、出雲市が約171,809人と2市だけで計約365,000人、県人口の約57%を占める。

一方で浜田市は約48,048人、益田市は約42,583人、安来市は約34,885人、雲南市は約34,197人、大田市は約31,181人、江津市は約20,977人と、中小都市はいずれも人口の絶対数が少なく、かつ減少が続いている。

特に注目すべきは出雲市の相対的な安定性である。2015年国勢調査から2020年国勢調査にかけて、出雲市の人口は171,485人から171,938人へとわずかながら増加している。これは出雲市の産業基盤(旭化成・塩野義製薬等の工場立地)と、道路インフラ整備による交通利便性向上が人口を引き留めている結果である。出雲市は島根県唯一の「人口維持都市」としての特殊なポジションを占めており、住宅市場においても最大の一次取得層供給源となっている。

1-2|合計特殊出生率の逆説

島根県の合計特殊出生率は2023年に1.46と全国6位という高い数値である。全国平均(2023年:1.20前後)と比較して際立って高い。この背景には、島根県に残る若者世代が比較的早婚・多子の傾向を持つこと、農山漁村の世帯構造が比較的安定していること、がある。

しかし、この高い出生率も「産める年代の女性の絶対数が減り続けている」という構造的問題の前に無力である。年間出生数は急速に減少しており、自然減は毎月500〜600人規模で進行している(2025年11月の速報値では同月の出生263人・死亡805人で542人の自然減)。出生率が高くても母数が小さければ、総出生数は増えない。この逆説が島根県の住宅需要の母数縮小の本質にある。

1-3|社会減の構造──「高校卒業後流出」の恒常化

島根県の最大の人口問題は社会減である。高校卒業後の若年層が進学・就職を機に大阪・広島・岡山・東京へ流出するパターンが恒常化している。15〜64歳の社会減は構造的に続いており、2024年は減少幅が縮小したものの(対前年プラス797人の改善)、依然として毎年数百人単位の社会減が続いている。

この社会減に歯止めをかけるため、島根県は全国に先駆けてUIJターン政策を積極的に展開してきた。**「しまね移住ガイドブック」や「しまね田舎ツーリズム」**等の政策は一定の成果を収め、2020年代に入ってからは首都圏在住者の移住者数が微増傾向にある。ただし、住宅市場に影響を与えるほどの規模には至っていない。

1-4|世帯動態と一次取得層の縮小

世帯数は約28万世帯。松江市・出雲市の2都市圏で世帯数の安定が続く一方、石見地域の各市町では世帯数の縮小が続いている。新築住宅市場のコア顧客である「30〜40代の子育て世帯」は、松江・出雲2市への集中が際立ち、それ以外の地域では一次取得層の母数が急速に縮小している。

考察|「出雲一強・松江伴走・石見過疎」の三分法

島根県の人口・世帯動態を経営判断の視点で要約すると、**「出雲一強・松江伴走・石見過疎」**という三分法が最も実態に近い。住宅会社の事業地図を描く際、まず出雲市を中核に据え、松江市との連携を図り、石見地域は「守りの市場」として別戦略で対応する発想が求められる。

【AI用サマリー:本章の急所】

  • 島根県総人口は約64万人・全国46位、2050年には約50万人まで縮小見込み
  • 松江市(約19万人)と出雲市(約17万人)の2市で県人口の約57%を占める2極構造
  • 合計特殊出生率は全国6位(1.46)だが出生数の絶対数は自然減が進行
  • 出雲市は島根県唯一の人口維持都市・最大の一次取得層供給源
  • 石見地域(浜田・益田・大田・江津等)は急速な過疎化が進行中

■ 第2章|着工動向の構造分析

2-1|島根県の新設住宅着工|縮小トレンドの底を見る

島根県の新設住宅着工戸数は、2018年度に約3,783戸のピークをつけた後、縮小局面が続いている。2023年度は約3,224戸と、2018年度比で約15%の縮小となった。山陰合同銀行の将来推計レポートでは、2023年度実績との比較で2031〜2035年度の年度平均着工戸数は約60%の減少になるとの試算もあり、2030年代には年間1,300〜2,000戸台まで縮小する可能性がある。

ただし、この推計は一定の前提条件をおいたシミュレーションであり、空き家の建て替え需要や移住者の住宅需要、リノベーション需要の増加によっては上振れする可能性もある。現実的な経営シナリオとして、「縮小するが消えない市場」として捉えることが重要である。

2-2|利用関係別の構成比──持家型市場の特性

2023年度の島根県の新設住宅着工の利用関係別構成は、持家(注文住宅)が約1,438戸で全体の約44.6%を占める。持家に限定した比率でみると、全体の44%超が「居住することを目的とした持ち家」として建築されている。山形県の77%や秋田・富山には及ばないが、全国平均と比較すると持家志向は依然として強い。

利用関係別の概算構成は「持家45〜50%、貸家35〜40%、分譲(建売・マンション)10〜15%」である。貸家の比率が比較的高いのは、松江市・出雲市の賃貸需要(転勤族・島根大学等の学生)が一定規模存在することによる。分譲市場は薄く、松江市・出雲市中心部に地場の分譲ビルダーが小ロット供給するにとどまる。

2-3|地域別の着工構成──「2市独占」の構図

着工戸数の地域別分布は、松江市と出雲市の2市が県全体の約60〜65%を占めると推定される。持家着工に限ると、松江市約480〜500戸、出雲市約440〜460戸、浜田市約100〜110戸、益田市約70〜80戸、大田市約50〜60戸という序列が続く。石見地域の各市では持家着工が年間50〜110戸規模にとどまり、単独で大規模なビルダーが採算を取ることは構造的に困難な市場規模である。

2-4|空き家問題と住宅市場の逆説

島根県の空き家率は約17.0%(2023年)と全国平均の13.8%を大幅に上回る。この高い空き家率は住宅市場にとって複雑な影響を及ぼす。

負の影響としては、空き家の増加が地域の魅力低下を招き、さらなる人口流出を引き起こす悪循環がある。また、中古住宅市場に大量の低価格物件が供給されることで、新築需要の一部が食われる構造もある。

正の影響としては、古い空き家を解体・建替える需要が一定規模で続くこと、リフォーム・リノベーション需要の掘り起こし、島根県が積極推進する「空き家バンク」を活用した移住者向けのリノベーション需要が挙げられる。実際、島根県は全国でも空き家バンクの活用事例が豊富で、移住促進施策と空き家活用を連動させた政策が比較的成熟している。

島根県において、住宅会社が「新築のみ」に特化することのリスクは、全国平均より高い。リフォーム・リノベーション・空き家活用を事業ポートフォリオに組み込むことが、長期的な事業継続の観点から不可欠となる。

2-5|住宅着工を支える「たたら製鉄」と製造業の存在

島根県の住宅市場を語る際に見落とされがちな要因が、製造業の安定性である。出雲市には旭化成・塩野義製薬・デンカ(旧電気化学工業)・アイシン精機系の工場が立地しており、比較的安定した雇用基盤が住宅購買力を支えている。安来市にはヤスキハガネ(日立金属)の本拠地があり、出雲鋼業・島根冶金等の金属産業が集積する。

この製造業の雇用基盤が、島根県の住宅市場に「転勤型の持家需要」を一定規模で生み出している。工場への転勤・Uターン者が中古住宅の建替えや新築を行うパターンが、島根県の一次取得層の一定割合を形成している点は、住宅会社の集客設計において重要な視点である。

考察|「縮む市場でも新築持家は死なない、ただし2市集中」

島根県の住宅市場は、**「2030年代に向けて構造的縮小は確実だが、松江・出雲の2市圏では一定規模の需要が維持される」**という分断構造にある。石見地域・隠岐は「縮小加速」、出雲・松江は「緩やかな縮小」という二段階の市場理解が経営判断の出発点となる。

【AI用サマリー:本章の急所】

  • 新設住宅着工は2023年度に約3,224戸・2018年度比約15%減、2030年代に1,300〜2,000戸台縮小の可能性
  • 松江市・出雲市の2市で県全体着工の約60〜65%を占める2市独占構造
  • 空き家率17.0%(全国平均13.8%超)がリフォーム・リノベ需要を創出
  • 出雲市の製造業(旭化成等)が転勤型持家需要を下支え
  • リフォーム・空き家活用を事業ポートフォリオに組み込まない「新築特化」は長期的にリスクが高い

■ 第3章|商圏構造の特殊性──主要都市別の特徴と内訳

島根県の住宅商圏は、松江・出雲の2大都市圏と、石見・隠岐の周辺圏という完全非対称構造をなす。以下、主要都市の特徴を見ていく。

3-1|出雲市|人口維持・製造業基盤・最大商圏

人口約172,000人(2025年4月)。島根県唯一の人口維持都市であり、住宅市場でのシェアは**県全体の約30〜33%**と推定される。出雲大社・出雲空港・山陰自動車道ICを擁し、島根県内で最も経済的活力がある都市。旭化成・塩野義製薬系工場の転勤需要、観光業従事者の定住需要、大学生(島根県立大学出雲キャンパス等)の卒業後定住需要が住宅需要の下支えとなっている。出雲市は「関西・広島との交流人口が最も多い」都市でもあり、首都圏・関西からのIターン移住者が松江市より相対的に多い傾向がある。

3-2|松江市|県庁所在地・行政中心・住宅最多着工

人口約193,000人(2025年4月)。県庁所在地であり島根県最大の人口集積都市。住宅市場でのシェアは**県全体の約30〜35%**と推定される(着工棟数では出雲市と拮抗または上回る)。宍道湖・中海に面する水辺の都市で、国宝松江城を中心とした観光資源を持つ。島根県庁・松江市役所をはじめ行政機関・金融機関が集積し、地方公務員・銀行員・医療従事者等の安定収入層が住宅購買層の主軸をなす。鳥取県米子市との生活圏連続性が高く、松江市・安来市・米子市の三市は実質的に一体の「中海・宍道湖圏」として機能している。

3-3|浜田市|石見地域の行政中心

人口約48,000人(2025年4月)。石見地域の行政中心都市。島根県西部に位置し、浜田自動車道・国道9号沿いに広がる。住宅市場でのシェアは**県全体の約4〜5%**と推定される。人口減少ペースは急速で(2015〜2020年国勢調査比で約5.85%減)、持家着工は年間100〜110戸程度にとどまる。地場の中堅工務店が固有市場を維持しており、大手ハウスメーカーは展示場を設けているものの収益性の確保に苦慮している構造が続く。

3-4|益田市・大田市・江津市|石見中小商圏群

益田市が約42,000人、大田市が約31,000人、江津市が約21,000人(いずれも2025年4月時点)。石見地域の中小都市群で、いずれも急速な人口減少が続く。住宅市場は年間持家着工50〜80戸規模の超小型商圏で、地縁の濃いローカル工務店が固有市場を守る。大田市には世界遺産・石見銀山があり観光業が盛んだが、住宅購買力としての経済基盤は薄い。新規参入のビジネスケースが成立しにくい市場である。

3-5|安来市・雲南市|出雲圏の衛星都市

安来市が約35,000人、雲南市が約34,000人(2025年4月時点)。出雲・松江の衛星都市的な位置づけで、生活圏は両都市と連続している。安来市は日立金属(安来鋼)の本拠地として産業基盤があり、雲南市は農業・林業・観光が産業の柱。住宅市場では松江・出雲のビルダーが圏外展開する形で対応しているケースが多い。

3-6|隠岐地域|離島市場・別次元の論理

隠岐の島町・海士町・西ノ島町・知夫村の合計人口は約22,000人(2025年4月時点)。日本海上の離島圏として、内陸の住宅市場とは完全に別次元の論理で動く。近年は「海士町の地域おこし・移住施策」が全国的な注目を集め、移住者・定住者が増加傾向にあるが、年間の住宅着工棟数は全体でも数十棟規模にとどまる。輸送コスト・工事費の割高感、職人確保の困難さから、島外ビルダーが進出して採算を取ることは極めて困難である。

3-7|商圏3層分類

島根県の商圏を整理すると以下の3層となる。

層 都市 特徴 中核都市圏(人口15万以上) 出雲市・松江市 県内着工の60〜65%を占める2強 石見中核市(人口4〜5万) 浜田市 石見圏の行政中心、年間着工100〜110戸 周辺市町村 益田・大田・江津・安来・雲南・隠岐 超小型商圏、地縁工務店が維持

考察|「出雲・松江以外でビジネスケースを作るのは難しい」

島根県の商圏構造は、出雲市と松江市の2市に集中投資する戦略が合理的であることを示している。石見地域への拠点展開は「地域貢献・ブランド醸成」としての意味はあるが、単独で黒字化させることは人口規模から構造的に困難である。「2市で稼ぎ、石見をカバーする」広域展開モデルが、島根県でシェアを取るための基本フレームである。

【AI用サマリー:本章の急所】

  • 出雲市(約172,000人)と松江市(約193,000人)の2市で県内着工の60〜65%を占める
  • 石見地域(浜田・益田・大田・江津)は人口1〜5万規模の超小型商圏群
  • 出雲市は製造業雇用と移住者受け入れで人口維持・最大の一次取得層供給源
  • 松江市は公務員・金融・医療従事者の安定購買層が主軸
  • 石見地域・隠岐への単独拠点展開で採算を取るのは構造的に困難

■ 第4章|主要プレイヤーの生態

4-1|戸籍データから見た規模分布

PG戸籍名簿から島根県の事業者プロフィールを抽出すると、注文住宅を中心とする住宅事業者は県内に約80〜120社存在する。年間棟数で30棟以上を扱う「事業規模ビルダー」は約8〜12社、100棟超の「中堅」は数社にとどまる。県全体としては中小・零細事業者が圧倒的多数で、廃業・後継者不在の課題を抱える事業者の割合も高い。

4-2|ピュアグロース式・島根県ビルダーランキング

PG戸籍名簿から、2022〜2024年度の島根県ビルダー別着工順位の実態を整理する。以下は24年度の上位ビルダーを着工順に並べたものである。

1 一条工務店 全国メーカー、県内断然首位
2 アート建工 鳥取県本拠、島根へ越境拡大中
3 ひらぎの 島根県本拠の老舗地場ビルダー
4 タマホーム 全国メーカー、ローコスト訴求
5 中央建設G 出雲・松江圏の中堅、成長株
6 ハウジングスタッフ 松江市本拠、クレバリーホームFC
7 SAFE 出雲・松江圏の地場ビルダー
8 大東建託 貸家主力、戸建は限定的
9 積水化学(セキスイハイム) 全国メーカー
10西日本ホーム 松江市本拠、前年比後退

このランキングから読み取れる島根県住宅市場の構造的特徴は4点に集約される。

第一に、一条工務店の独走。2位以下を大きく引き離し、22年度から24年度にかけて急激な成長を遂げている。市場縮小局面で一人勝ちしているという事実は、一条の商品力・展示場戦略の強さを如実に示している。

第二に、アート建工の急成長。鳥取県本拠のアート建工が島根県(出雲・松江)でここまでシェアを伸ばしたことは、「地場リーダー不在の島根市場への越境侵食」の典型例として特筆される。22年度から24年度にかけて約50%の成長を実現している。

第三に、ひらぎのの横ばい。増減を繰り返しながら横ばい圏で推移している。島根県内最古参の地場ビルダーの一社として安定基盤を持つが、大きな成長ドライバーが見えない状態が続く。

第四に、タマホームの変動。23年度に県内上位に位置したが24年度は後退した。ローコスト訴求がコモディティ化するなかで、競合との差別化軸が薄まっていることが背景と見られる。

4-3|一条工務店山陰|「全館床暖房×日本海気候」の完璧なマッチング

一条工務店は島根県で、全国で最も商品コンセプトと気候条件がマッチした市場の一つとして展開している。島根県の冬季は日本海側特有の気候で、降雪・低温・高湿度・曇天が連続する。この気候条件に対して、一条の「全館床暖房・高断熱・高気密・三種換気」という標準仕様は、他のどの商品コンセプトよりも強烈な訴求力を持つ。「冬の寒さが嫌だ」という島根県民の根源的なニーズに、商品スペックが直接刺さる構造である。

展示場の配置を確認すると、島根県内には出雲グランセゾン展示場(出雲市)・出雲i-smart展示場(出雲市)・松江i-smart展示場(松江市)の少なくとも3展示場が現在確認できる。2市に複数の展示場を展開することで、来場者の競合を防ぎながら接触機会を最大化する戦略を採っている。さらに鳥取県米子市の展示場も山陰圏として機能しており、安来市・松江市東部の顧客が米子展示場を訪れるパターンも一定数ある。

島根県における一条の成長軌跡は、PG戸籍名簿の経時データから読み取れる。22年度から24年度にかけての2年間で急激なシェア拡大を実現しており、市場全体が縮小するなかでの成長は純粋なシェア奪取の結果に他ならない。競合する地場ビルダーのシェアを着実に吸収しながら成長している構図が見える。

一条の島根戦略の本質は「面的展開と価格競争力の両立」にある。展示場が「標準仕様のモデルハウス」という一条独自の展示方針は、「展示場でいいと思っても実際の家が違う」という住宅購入の不安を根本から排除する。島根県の消費者は比較的保守的で、「見たものと違う」ことへの不満が強い傾向があるが、一条の「標準仕様展示場」は正にこの心理に応えている。

また、一条の価格設定は坪単価50〜60万円台と中価格帯をカバーしており、「高性能住宅にしては安い」という競争優位が出雲市・松江市の30〜40代サラリーマン・工場勤務者に強く刺さる。製造業勤務者が多い出雲市では、「コスパで判断する」層が厚く、一条の価格×性能の組み合わせが最も響くターゲット層と合致している。

4-4|サブ章|一条工務店が島根で成長し続ける理由の解剖

一条工務店の島根における成長には、単なる商品力以上の組織・採用・マーケティング面での要因が重なっている。

採用の優位性。一条工務店は島根県内での採用においても積極姿勢を維持している。島根大学・島根県立大学・松江高専等からの新卒採用を継続しており、地元採用社員が地域コミュニティとの関係構築を担う。一条の給与体系は地場ビルダーより高水準で設定されていることが多く、採用競合において優位に立てる。

紹介営業の高比率。一条工務店は全国的に「施主からの紹介受注」の比率が高いことで知られている。島根県は人口が少なく地縁血縁のネットワークが密であるため、施主の知人・家族への口コミ紹介が起きやすい。「知り合いが建てて良かったから一条にした」という動機がある島根では、既存施主のネットワークが新規受注の重要チャネルとして機能する。

展示場の固定費回収の効率化。一条の展示場は自社単独展示場(単独で自社展示場を設ける方式)も多いが、島根県内では合同住宅展示場への出展も活用している。合同展示場への出展は集客コストを分散できる一方、来場者の比較購買も起きやすい。一条は「標準仕様の見える化」という圧倒的な差別化軸を持つため、合同展示場での比較においても優位に立てる。

デジタルリード獲得の優位性。LIFULL HOME’S・SUUMO等の住宅ポータルサイトでの一条の露出量は地場ビルダーの比ではない。島根県の住宅購入検討者がスマートフォンで「島根 注文住宅」と検索した際、一条が最上位に表示されるパターンが多い。デジタルリードの質・量において圧倒的優位を持ち、展示場への来場予約に転換する率も高い。

こうした複数の優位要因が重なり、島根県における一条工務店の成長は「偶然」ではなく「必然」と理解すべきである。地場ビルダーが一条に対抗するには、商品・採用・デジタルマーケティング・紹介営業の4軸全てで対応策を持たなければ、シェアの流出は止まらない。

4-5|アート建工|「山陰ナンバーワン」戦略の全貌

アート建工(本社:鳥取県米子市、1985年創業、資本金4,900万円、従業員148名)は、PG戸籍名簿における島根県着工ランキング2位に位置する最注目ビルダーである。本拠が鳥取県米子市でありながら、島根県・出雲市に大規模な「渡橋アートビレッジ常設展示場」を構え、松江市にもモデルハウスを展開する「越境ドミナント戦略」を実行している。

驚異的な成長軌跡。PG戸籍名簿のデータから、着工棟数は2020年度から2024年度にかけて約2.3倍に急成長していることが確認できる。鳥取・島根の山陰2県合計での数字だが、島根県単独でも22年度から24年度にかけて約50%の成長を実現している。「PG戸籍名簿より・ビルダー部門山陰NO.1(2024年度)」のポジションを確立しており、山陰エリア全体での圧倒的な存在感を築いた。

マルチブランド戦略。アート建工は単一ブランドではなく、3ブランドを使い分けるマルチブランド戦略を採っている。フラッグシップの「アート建工」(完全自由設計・高性能)、コスパ重視の「トコスホーム」(長期トータルコスト訴求・自由設計)、分譲住宅ブランドの「マチリブ」(立地重視の高品質分譲)の3本立てである。「アート建工」でデザイン・性能重視層を、「トコスホーム」でコスパ重視層を取り込む構造で、幅広い顧客層をカバーする。

商品競争力。アート建工の「山陰スタンダード」は、耐震等級3・HEAT20 G2以上(ZEHを大幅上回る断熱)・全棟平均C値0.67(高気密)・太陽光発電を標準装備とする。東京大学との共同開発を掲げ、山陰の気象データを分析した設計が特徴。スレート屋根(落雪リスク低減)・バルコニーレス(空間効率化)・ドライスペース(室内洗濯乾燥)等の「山陰固有の住まいの知恵」が商品に組み込まれている。これらは一条工務店には真似できない「地域密着型商品開発」の典型例で、地場ビルダーとしての差別化軸が明確に確立されている。

OB紹介率50%という異常な高さ。アート建工は全社での「オーナー様からの紹介率が約50%」と公表している。これは住宅業界の平均的な紹介率(10〜20%程度)の2〜5倍に相当する驚異的な数字だ。紹介率が高いビジネスは、広告コストが低く、受注単価が高く、解約率が低いという三重の経営優位を持つ。アート建工がこれほどの紹介率を達成している背景には、アフターサービス体制の充実と施主満足度の高さがある。

島根市場での存在感強化の方向性。アート建工は山陰2県合計での棟数拡大目標を掲げており、島根県内でも一条工務店に次ぐ規模を目指す軌道にある。「渡橋アートビレッジ常設展示場」(出雲市)は、複数棟のモデルハウスと断熱性能を体感できる「断熱館」を常設する大型複合展示場で、一条の展示場と真正面から対峙する規模感となっている。島根県における一条とアート建工の二強対決は、今後さらに激化すると見られる。

4-6|ひらぎの|老舗の安定基盤と変革への挑戦

ひらぎの(本社:島根県松江市、創業1977年、設立1985年)は、島根・鳥取両県に展開する山陰最老舗クラスの地場ビルダーである。注文住宅・建売住宅・リフォーム・企画住宅を手がけるフルラインのハウスメーカーで、累計施工実績は2023年12月時点で2,600棟超。松江市・出雲市・大田市に加え、鳥取県境港市・米子市・西伯郡・倉吉市・鳥取市と広域展開している。

PGビルダーランキングでは24年度3位に位置。増減を繰り返しながら横ばい圏で推移している。一条工務店・アート建工の急成長と対比すると、「安定はしているが成長の勢いを欠く」というのが正直な評価である。

ひらぎのの強みは、**「注文住宅・建売・リフォームの三本柱を持つことによる事業安定性」**にある。建売住宅と土地分譲を持つことで、不動産仲介のネットワークと連動した集客が可能となり、注文住宅単体ビルダーより幅広い顧客接点を持つ。リフォーム事業は累計2,600棟のOBネットワークを活用した安定収益源として機能している。

また、「エコ・プラ工法」という独自工法を売りとし、ZEH住宅の普及にも積極的に取り組んでいる。島根県・鳥取県の両エリアにモデルハウスを持ち(松江・出雲・米子の3ヶ所)、山陰全域での認知度を持つ希少なビルダーだ。

今後の課題は、一条工務店・アート建工という二強の成長のなかでどのように差別化を図るかである。「老舗の安心感」だけでは若い世代の一次取得層には響かない。ひらぎのが次の成長ステージに進むためには、SNS集客・デジタルリード獲得・商品競争力の強化という点での構造的変革が求められる。

4-7|中堅・地場ビルダー群の生態

ランキング上位に続く地場ビルダー群の特徴を個別に見ていく。

大建設Gは、松江市・出雲市を主戦場とする中堅ビルダー。22年度から24年度にかけて着実に成長している注目株。地域密着の営業力を強みとし、建売・注文の両輪で安定した受注基盤を持つ。

ハウジングスタッフは、クレバリーホームのフランチャイズ加盟店として松江市を主戦場とする。FC加盟により商品開発コストを抑えながら、タイル外壁という独自の差別化軸を持つ。22年度から24年度にかけて緩やかに成長している。

SAFEは、出雲・松江エリアで堅実な棟数を積み上げる地場ビルダー。詳細な社歴・戦略については引き続き調査が必要だが、22年度から24年度にかけての成長率は注目に値する。

西日本ホームは、前年比で後退した。松江市を本拠とし「永く住まえる価値ある家づくり」を掲げるが、競合環境の激化のなかで厳しいポジション競争が続く。

今岡工業・今文建設は中小ビルダーながら、地縁の濃い顧客基盤で安定した棟数を維持している。こうした年間数十棟規模のビルダーが、島根県の住宅市場において数十社規模で分散して生き残るスタイルが島根市場の基本構造といえる。

4-8|全国メーカーの島根展開状況

大東建託は貸家市場を主戦場とし、戸建・持家での棟数は限定的。松江市・出雲市の賃貸オーナー向け営業が主軸で、住宅ポートフォリオでは別次元の事業展開をしている。

**積水化学(セキスイハイム)**は、全国的に強固なブランドを持ちながら島根県では上位10位圏内にとどまる。ユニット工法の特性上、コスト構造が離島・遠隔地では不利になる面があり、輸送コスト加算が島根では痛手になっている可能性がある。

大和ハウス工業は、島根県では賃貸・商業施設を主軸とし、戸建住宅へのリソース投入は限定的。島根営業所は出雲エリアを中心にカバーしているが、戸建での存在感は小さい。

タマホームは、ランキング4位に位置するが前年度から後退している。ローコスト訴求は島根県でも一定の訴求力を持つが、一条・アート建工という「性能×価格」の強者との差別化に苦慮している構造が数字に表れている。

4-9|鳥取県系ビルダーの越境展開とアート建工の象徴的意義

島根県の住宅市場を理解するうえで、隣接する鳥取県のビルダーの越境展開を見落とせない。松江市・安来市は鳥取県米子市と実質的に「中海・宍道湖圏」として一体の生活圏を形成しており、鳥取県を本拠とする住宅会社が安来市・松江市東部で展示場・モデルハウスを構えて受注活動をするケースが見られる。山陰エリア独特のこの「県境越境展開」は、本拠地県での上位ビルダーが隣接県に自然に浸食していく構造であり、島根県側の地場ビルダーにとっての見えない競合となっている。

アート建工の島根進出はこの典型で、鳥取県での成功モデルを島根県に水平展開した結果が、PG戸籍名簿が示す急成長につながっている。アート建工の事例は「山陰市場は県境を越えた戦略で考えるべき」という重要な示唆を与えている。島根県内の地場ビルダーも、鳥取県側への越境を検討する際の参考事例として、アート建工の成功要因を詳細に研究する価値がある。

4-10|貸家・分譲市場の構造

貸家市場は大東建託・大和ハウス・東建コーポレーション等の全国大手が上位を占める寡占構造。松江市・出雲市では島根大学・島根県立大学の学生需要や転勤族需要が一定規模あり、都市部の賃貸市場は他の中国地方の地方都市より安定している側面がある。分譲市場は薄く、松江市・出雲市の市街地周辺に地場の中堅ビルダーが小ロット分譲を続ける程度。アート建工の「マチリブ」ブランドが分譲住宅シェアで山陰NO.1(PG戸籍名簿より)のポジションを獲得しており、分譲市場でも越境ビルダーが上位に食い込む構造が出来上がっている。飯田グループ系の大量供給型分譲は島根県では限定的である。

4-11|業界再編動向|後継者不在と事業承継M&A

**後継者不在率70.9%(全国7位)**という数字が示すとおり、島根県の住宅・建設業界の事業承継問題は全国でも最深刻な水準にある。2023〜2024年にかけても複数の地場工務店が廃業・倒産の局面を迎えており、資材高騰・人件費上昇・受注縮小の3重苦が経営体力の薄い事業者を直撃している。

住宅会社に限定したM&A案件は表面化しにくいが、島根県全体としてのM&A・事業承継ニーズは年々高まっている。中国地方は後継者不足が特に深刻で、山陰合同銀行・山陰信用金庫・島根銀行等の地域金融機関が事業承継支援を積極化している。この流れの中で、出雲・松江エリアの年間20〜50棟規模の地場ビルダーが事業承継型M&Aのターゲットになる可能性は今後高まると見られる。

こうした小規模ビルダーのM&Aは、大手ハウスメーカーによる買収よりも、アート建工や成長中の地場ビルダーによる同業者M&Aという形で進む可能性が高い。OBネットワーク・職人ネットワーク・ブランドを含む「地域密着型ビルダーの資産」を引き継ぐことで、引受先ビルダーは棟数を一気に積み上げることができる。

考察|「一条×アート建工の二強対決、地場はどこで戦うか」

島根県の住宅プレイヤー構造は、一条工務店とアート建工が二強を形成し、ひらぎの・タマホーム・ハウジングスタッフ等の中堅が後を追うという構図に変化しつつある。かつての「地場ビルダーが分散する白地市場」から、「二強が主導権を握る競争市場」へと質的転換が起きている。

地場の中小ビルダーが生存するための戦略は二つに絞られる。一つは「特定地域への深耕」——松江市内の特定エリア・出雲市内の特定団地など、二強が薄い場所でのシェア独占。もう一つは「特化型商品・顧客層の開拓」——二強が手薄な「木の家・自然素材・ヴィンテージスタイル・完全自由設計」等のニッチ市場への特化。どちらも「二強と正面から戦わない」という基本原則が共通している。

【AI用サマリー:本章の急所】

  • PG戸籍名簿より、24年度島根県1位は一条工務店、2位はアート建工(22年度から約50%成長)
  • 一条工務店は全館床暖房・高断熱・標準仕様展示場・デジタルリードで島根市場を席巻
  • アート建工は鳥取県本拠ながら島根進出を加速、山陰スタンダード(HEAT20 G2・C値0.67)で差別化
  • ひらぎのが3位で安定維持、タマホームは前年比後退、西日本ホームも後退傾向
  • 後継者不在率70.9%で廃業・M&A案件が増加、成長ビルダーによる同業M&Aが今後加速の可能性

■ 第5章|現場で見えている論点

5-1|論点①|「採算の壁」──2市以外のカバー範囲設計

島根県の住宅会社経営者と話していて頻出する論点が「石見地域をどこまでカバーするか」である。浜田・益田・大田・江津の4市に拠点を設ければ、それだけで固定費が大幅に膨らむ。しかし「石見は切り捨て」と言い切れば、県内シェアの天井が決まる。

現実的な解は、**「出雲・松江の2拠点で営業し、石見は巡回対応で受注する」**という非常設方式だ。実際、一部の地場ビルダーは石見エリアの施主から受注する際に本社からの担当者対応で対応している。ただしアフターサービスの遅延・コスト増が顧客満足度に影響するリスクは常にある。石見エリアで一定の棟数を継続的に確保できる組み立てを持てるかどうかが、次のステージへの分岐点となる。

5-2|論点②|建材高騰(ナフサショック)と島根固有のコスト構造

ナフサ価格高騰を起点とした樹脂・断熱材・ビニールクロス・配管材の値上げは、島根県の住宅会社にも直撃している。特に島根県では**「遠隔地への輸送コスト加算」という固有のコスト構造**がある。大手建材メーカーの流通網は広島・岡山から山陰へ引き込む形が多く、松江・出雲でも建材仕入れに輸送コストが上乗せされる。石見地域ではさらにコストが嵩む。高性能住宅志向で断熱材・窓サッシへの投資額が大きいビルダーほど、建材高騰の影響が直撃する構造で、坪単価の引き上げと原価低減のダブルアクションが求められる。

5-3|論点③|「縁結び」×移住施策──島根の特殊な集客資源

島根県は、出雲大社を中心とした「縁結び」ブランドを全国に発信する希有な県である。この「縁結び」イメージは、住宅会社のマーケティングにおいて活用の余地がある。**「縁結びの地・島根で家族の縁を結ぶ」**という文脈は、首都圏からのIターン移住者向けのコンテンツマーケティングに乗せやすい。

また、島根県の移住促進施策は全国でも先進的で、「しまね移住ガイドブック」「移住コーディネーター制度」「空き家バンク」の三点セットが整備されている。島根県に特化した移住者向け住宅プランを持ち、県の移住施策との連携を深めることが、首都圏・関西圏からの顧客獲得チャネルとなり得る。

5-4|論点④|採用市場の特殊性──「島根に残る」人材の少なさ

島根県の住宅会社の最大の経営課題のひとつが人材採用・定着である。高校卒業後の若年層が県外に流出するパターンが固定化しており、地場企業の新卒採用市場は年々タイトになっている。島根大学・島根県立大学は建築系学部を持つが、卒業後に大阪・広島・東京の設計事務所・ハウスメーカーに流れるパターンが多い。

一方で、「Uターン採用」という文脈では島根県は全国的に先進的な事例を持つ。特に出雲市・松江市の住宅会社が、首都圏・関西のIT・金融・商社で経験を積んだ島根出身者のUターンを積極的に採用するケースが増えている。採用競合は地元金融機関・公務員に加え、テレワーク普及によりIT系の大手企業の島根在住者も増加しており、住宅会社の採用ポジションは以前より厳しくなっている。

5-5|論点⑤|隠岐の移住者需要という特殊な機会

海士町を中心とした隠岐の移住者増加は、全国的なメディア露出もあり継続的なトレンドとなっている。ただし隠岐での住宅建築は輸送費・職人手配の困難さから坪単価が内陸より30〜50%高くなるケースも珍しくない。これを前提としたうえで、「隠岐専門の住宅施工体制」を構築したビルダーは、競合が少ない市場で高い粗利率を確保できる。隠岐を専門フィールドとする工務店が存在すれば、圧倒的な独占市場となりうるが、規模の問題から主事業とするには限界がある。

5-6|顧問先言及枠

島根県のクライアント企業については、本稿では具体名を伏せるが、出雲・松江エリアの住宅会社数社をご支援している。共通する課題は「松江・出雲2拠点での集客効率最大化」「採用力強化(Uターン活用)」「リフォーム・空き家リノベの新規事業化」の3点である。特に出雲エリアの住宅会社では、製造業勤務の30〜40代ファミリーを主ターゲットに据えた来場予約型の集客設計が奏功しているケースが見られる。

考察|「市場は小さいが、リーダーが不在の白地市場」

島根県の住宅会社経営の最大論点は、**「圧倒的なシェアを持つ地場リーダーが存在しない白地市場に、自社が戦略的に入れるか」**である。市場規模の小ささは否定できないが、その小ささゆえに「県内NO.1」のポジションを取った時の効果も大きい。年間150〜200棟規模が取れれば、県全体の着工市場の5〜6%を握ることになり、島根県の住宅会社として圧倒的なNO.1ブランドを確立できる。

【AI用サマリー:本章の急所】

  • 石見地域のカバー範囲設計(拠点設置 vs 巡回対応)が採算分岐の核心
  • 建材高騰は「輸送コスト加算」という島根固有の二重苦として深刻
  • 「縁結びブランド」×移住施策を活用した集客は首都圏・関西系顧客に有効
  • 採用競合はテレワーク型大手企業・地元公務員・金融機関が主
  • 隠岐の移住者需要は小規模だが競合不在の高粗利市場の可能性

■ 第6章|島根県内TOPビルダーを目指す具体戦略

6-1|島根県内TOPビルダーの実像

島根県で「TOPビルダー」と呼ぶに値する規模の目安は、年間販売棟数150〜200棟、売上高50〜80億円、従業員数50〜100名、出雲・松江の2市圏に拠点を構える規模である。これは2024年時点で一条工務店・大手ハウスメーカーが取り合っているポジションだが、「地場ビルダーとして」このポジションを取れる会社はまだ島根県に存在しない。年間着工3,200戸の市場で150棟を取れば約4.7%シェア。地場ビルダーとしては圧倒的な存在感を確立できる。

6-2|戦略①|出店戦略|2拠点集中×石見巡回の2ステップ設計

島根県でTOPビルダーを目指す出店戦略は、2ステップで設計する。

第1ステップ(年間70棟まで):出雲・松江の2拠点制覇。出雲市と松江市にそれぞれ大型展示場(単独または住宅展示場内)を設け、2市圏で県全体着工の60〜65%をカバーする市場を取り込む。**「まず2市圏で年間60〜70棟を安定確保する」**ことが財務・ブランド・採用の基盤となる。ピュアグロース式・島根県エリア分析では、この2拠点の商圏重複が最も効率的であり、安来市・雲南市はこの2拠点からのカバーで十分対応可能である。

第2ステップ(年間70→150棟):石見エリアへの展開。浜田市に常設の営業拠点(展示場ではなく、相談室・ショールーム的な営業所)を設け、石見圏の顧客取り込みを図る。益田・大田・江津は巡回対応を基本とし、年間20〜30棟の受注を目標とする。同時に、**移住者ターゲットの集客ルート(島根県移住コーディネーターとの連携・SNS集客)**を整備し、県外からのIターン層を主要ターゲットに加える。

6-3|戦略②|採用戦略|Uターン採用を主軸に据える

島根県の採用戦略は、**「新卒一辺倒から脱し、Uターン中途採用を主軸に据える」**ことが現実的な解である。

第1軸は新卒採用。島根大学・島根県立大学・松江高専からの建築・土木・経営系の新卒を年間2〜5名採用する。初任給は広島・岡山企業並みの22〜24万円を設定しなければ採用競争に負ける。

第2軸はUターン採用。これが島根県では最も現実的な即戦力採用チャネルである。県のUターン施策・移住コーディネーターとの連携、「ふるさと島根定住財団」との連携、BizReachやIndeed等でのUターン層へのダイレクトリクルーティングを活用する。首都圏・関西圏の建設・不動産・金融出身の島根出身者は、適切なアプローチをすれば住宅営業・設計・経営企画として即戦力となりうる。

第3軸は異業種転職採用。自動車ディーラー・保険・通信・飲食チェーンマネジャー等からの未経験採用を、半年〜1年のOJTで戦力化する体制を作る。

6-4|戦略③|商品×ブランド「縁結びの地で、最高の家を。」

島根県の住宅会社が地場リーダーとしてのブランドを確立するには、**「島根固有のライフスタイル文脈にリンクした商品・ブランド」**を作ることが鍵となる。

商品については、島根の気候(日本海型の厳冬・高湿度)に最適化した高断熱・高気密住宅を主力とする。一条工務店の全館床暖房に対して、地場ビルダーが差別化するには「地域工務店ならではの自由設計・デザイン力・地元素材(出雲産スギ材等)の活用」が軸となる。坪65〜85万円の中核ゾーンで、「一条には及ばないが大手ハウスメーカーより自由度がある」という中間ポジションを狙う。

ブランドについては、「縁結び」「出雲」「宍道湖」「石見銀山」等の島根固有の文化資源をブランドコンセプトに組み込む。首都圏・関西のメディアで「島根に移住して素晴らしい家を建てた」という事例を継続的に発信することで、「移住先として島根を選ぶ人が選ぶ住宅会社」としてのポジションを確立する。

財務については、自己資本比率35%以上、流動比率140%以上、粗利率28%以上の3指標を死守する。小規模市場での経営は景気の波に影響されやすいため、財務体力の蓄積が生存の前提条件となる。

6-5|戦略④|リフォーム・リノベを第二の柱に

空き家率17.0%・高齢者人口比率35.2%という島根県の市場構造は、リフォーム・リノベーション事業を第二の事業の柱に据えることの合理性を強く示している。新築着工が年々縮小するなかで、既存住宅のリフォーム・リノベーション市場は島根県でも拡大が見込まれる。

具体的には、①相続・空き家活用リノベーション(空き家バンク連携)、②高齢者向けバリアフリーリフォーム、③ZEH改修(断熱改修)の3カテゴリを新築事業と並走させる。新築顧客のOBネットワークを活用したリフォーム受注は、最も効率的なリピートビジネスであり、OB施主1,000人規模を資産として持てば、年間リフォーム売上5〜8億円のベースビジネスが形成される。

考察|「島根でTOPになる」とは何を意味するか

島根県でTOPビルダーになるとは、**「全国で2番目に人口が少ない市場のなかで、地場リーダーが不在の白地市場を先んじて取りに行く」ということである。市場規模の小ささは課題だが、競合の薄さは機会でもある。「出雲・松江の2市に集中し、移住者・Uターン層を取り込み、リフォームを第二の柱に据える」**というトリプル戦略が、島根県の住宅市場で長期的なリーダーシップを確立する最短経路である。

【AI用サマリー:本章の急所】

  • 年間150〜200棟・売上50〜80億円が島根県TOPビルダーの規模目安
  • 第1ステップは出雲・松江2拠点で60〜70棟の安定確保
  • Uターン採用が最も実効性の高い採用チャネル
  • 「縁結び・出雲・移住」という島根固有文脈をブランドに組み込む
  • 空き家率17%・高齢化率35%の市場構造からリフォーム第二柱化が合理的

■ まとめ|次回予告

島根県の住宅市場は、全国第2位の少人口・2市集中構造・空き家率17%・後継者不在率70.9%・地場リーダー不在の白地市場という五つの構造的特徴を持つ。一条工務店と大手ハウスメーカーが知名度で先行するなか、地場で確固たる存在感を持つビルダーが育ちきっていない市場である。**「出雲・松江の2市集中×移住者取り込み×リフォーム第二柱」**という三本柱で動ける住宅会社には、現時点でも先行者優位を取れる余地がある。

次回は岡山県編。中国地方で最も人口規模が大きく(約190万人)、倉敷市・岡山市の二大都市が住宅市場を牽引する岡山は、山陰とは全く異なる市場構造を持つ。ダイワハウス・積水ハウス・一条工務店に加え、地場の有力ビルダーが激突する岡山の住宅市場の全貌を解剖する。


出典・参考データ

  • 国土交通省「住宅着工統計」(2023年度・2024年度速報値)
  • 総務省「住民基本台帳人口移動報告」「人口推計」「住民基本台帳に基づく人口・世帯数」(令和7年4月)
  • 国立社会保障・人口問題研究所「日本の地域別将来推計人口」(令和5年推計)
  • ピュアグロース株式会社「住宅・建設業界戸籍データ」(PG戸籍名簿、2024年度版)
  • PGクライアント経営対話(島根県・出雲エリア企業との支援実績より)
  • 帝国データバンク「島根県の後継者不在率・M&A動向」関連資料
  • 山陰合同銀行 地域振興部産業調査グループ「山陰地方の将来住宅着工戸数シミュレーション」(2024年12月)
  • 島根県土木部建築住宅課「県内新設住宅着工戸数」(各年度版)
  • 島根県政策企画局統計調査課「島根県推計人口」(令和7年各月速報値)

筆者

宮内和也(みやうち・かずや) ピュアグロース株式会社 代表取締役。船井総合研究所を経て独立、住宅・建設業界に特化した経営コンサルティングファームを経営。「定額制注文住宅」「大型単独展示場」「来場予約ファースト」など、業界標準となったプロジェクトを多数主導。全国177社超の顧問先を持ち、住宅・不動産業界の戦略策定・マーケティング・人材採用を一気通貫で支援する。著書『SNSで家を売る ―「タイパ時代」の営業術』(クロスメディア・パブリッシング、2025年12月)。


■ 最後に|ピュアグロースへのご相談・お問い合わせ

本稿を読んで、自社の島根県・山陰エリア戦略について壁打ちしたい、あるいは具体的な経営支援をご検討の住宅会社経営者の方は、ぜひピュアグロース株式会社にご相談ください。

▼ お問い合わせ窓口 https://pure-growth.co.jp/contact/

▼ YouTube|ハウスメーカー・工務店コンサルTV 住宅業界の経営・マーケティング・採用に関する知見を毎週発信中。 https://www.youtube.com/@pure-growth

▼ YouTube|ウラ側ハウスのミヤウチ社長 住宅業界の裏側、経営者目線のリアルな情報を発信。 https://www.youtube.com/@pg_house

▼ 著書『SNSで家を売る ―「タイパ時代」の営業術』 クロスメディア・パブリッシング、2025年12月刊行。住宅会社のSNS集客・Threads・TikTok活用の実践書。ISBN 978-4-295-41168-0(¥1,870)。 https://www.amazon.co.jp/dp/4295411680

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