山口県の住宅市場は、中国地方の西端に位置しながら「東西から挟まれる」という地政学的宿命を持つ独特の市場だ。
近畿圏・中国地方の住宅市場を俯瞰すると、大阪→広島→山口という山陽軸では、西に進むほど市場規模が縮小し、広島発のライフデザイン・カバヤとアイデザインホームが山口県東部(岩国・周南・下松方面)へ侵食してくる圧力がある。同時に九州側——福岡・北九州を本拠とする東宝ホームや、下関市を起点に福岡・山口双方を商圏とする安成工務店などの「九州系ビルダー」が西側(下関・宇部)から入り込む。山口県の地場ビルダーにとって、東西両方向から外来勢力に挟まれるという構造は、和歌山や奈良のような「一方向の防衛」が成立しない難しい競争環境だ。
目次
山口県の住宅市場を他県と決定的に異なるものにしているのが、「分散型多極商圏」という構造的特性だ。この特性を理解するために、まず山陽新幹線の山口県内における停車駅を確認しておきたい。山陽新幹線(新大阪〜博多)の19駅のうち、山口県内には以下の5駅が位置する。
新岩国(岩国市) ─ こだまのみ停車。在来線の岩国駅まで約6km
徳山(周南市) ─ のぞみ・さくら・こだまが停車。在来線と同一駅
新山口(山口市) ─ のぞみ・さくら・こだまが停車。在来線(山口線・宇部線)接続
厚狭(山陽小野田市)─ こだまのみ停車・請願駅。在来線(山陽本線・美祢線)接続
新下関(下関市) ─ こだまのみ停車。在来線(山陽本線)接続。本州最西端の新幹線駅
この5駅という数は、広島県の5駅(福山・新尾道・三原・東広島・広島)と並んで全都道府県で最多タイの停車駅数だ。兵庫県(4駅)・岡山県(2駅)・大阪府(2駅)・福岡県(2駅)と比較すると、山口県の「新幹線駅の多さ」は際立っている。
しかし、これは住宅市場における「分散」を意味する。広島県の場合、5駅のうち最大都市「広島市」の広島駅に人口・需要が圧倒的に集中しており、広島駅を起点にした半径30km圏内に全県人口の過半数が住む。大型の合同展示場を広島市内の一か所に設けれるだけで、県内最大の商圏をカバーできる構造だ。
山口県は違う。5駅がそれぞれ異なる都市(岩国市・周南市・山口市・山陽小野田市・下関市)に点在し、各都市間の距離も岩国〜下関間は直線距離で約100kmと長い。さらに5駅のうち新岩国・厚狭・新下関の3駅は「のぞみ・ひかり・みずほが通過する各駅停車こだまのみの停車駅」であり、市街地から離れた郊外立地かつ在来線との接続性も限定的だ。新岩国駅は岩国市の中心市街(岩国駅)から約6km離れており、厚狭駅も山陽小野田市・宇部市の中心部からバスで移動が必要な立地だ。
これが住宅市場に与える影響は大きい。岩国市の顧客は「岩国の展示場」しか通わない。周南市の顧客は「周南・下松の展示場」を中心に動く。山口市の顧客は「山口市の展示場」、宇部市・山陽小野田市の顧客は「宇部の展示場」、下関市の顧客は「下関の展示場」という5極の商圏が県内に並立している。「山口県全体を1つの商圏」として設計することが原理的に難しいのだ。
この分散型商圏の構造が、住宅ビルダーにとって生む最大のデメリットは「1拠点に大型展示場を出しても、県内の人口・需要をカバーしきれない」という出展効率の悪さだ。東京や大阪、岡山、広島のように「中心部の1〜2か所の大型展示場に全県の顧客が集まる」という集中型商圏では、1棟の展示場で数十〜百棟規模の年間集客が可能だ。しかし山口県では、1つの合同展示場の商圏が限られており、1拠点で県全体の需要を取りにいくことは構造的に不可能だ。住宅会社が山口県で面的なシェアを狙うためには、必然的に複数拠点の出展が求められる。アイ工務店が6拠点、一条工務店が12拠点(通常+分譲展示場)を展開しているのも、この「分散型商圏を物量でカバーする」という戦略の必然的帰結だ。
しかし逆説的に、この分散型商圏構造はエリア特化型の地場工務店に大きな恩恵をもたらす。
各都市が独立した商圏を形成しているということは、「岩国市に特化した工務店」「周南市の注文住宅といえばここ」「宇部市のこだわりの家はあの会社」という「エリアNo.1」の認知を確立した工務店が、外来の大手ビルダーに対して圧倒的に有利なポジションを取れることを意味する。郊外分散型の商圏では、地縁・紹介・口コミという地場工務店が本来強い集客チャネルが最も有効に機能する。タナカホームズが山口県全域12拠点を展開し「萩・長門という過疎商圏でNo.1」を取り続けているのはその典型だ。各エリアで先に「代えのきかない存在」になった工務店は、大量の展示場を抱える大手より効率よく棟数を積み上げられる。
さらに言えば、山口県の5つの商圏は独立性が高いため「一条工務店が宇部で強くても、岩国では弱い」という現象が起きやすい。1拠点では県内市場を制覇できないという分散の逆境が、エリア特化型の地場工務店に「競合が届かない聖域」を自然に生み出す構造でもある。
近畿圏・中国地方の住宅市場全体で見ると、山口県は「分散商圏ゆえに出展コストが高い割に市場規模が小さい」という外来大手ビルダーにとって参入コストが高い市場だ。一方、地場ビルダーにとっては「エリアに出れば圧倒的シェアを取れる機会が豊富にある」という有利な構造でもある。この市場の二面性を理解せずに「山口は小さくて魅力がない」と捉えるのは誤りだ。山口県は「正しい戦い方を知っている地場工務店が最も報われやすい市場」の一つなのだ。
しかしその一方で、山口県には独特の強みがある。本州最西端の山口市・萩市・長門市という日本海側エリアは、広島・福岡どちらからも遠く、大手ハウスメーカーの展示場密度が薄い。こうした「谷間のエリア」で地場工務店が独自のポジションを確立している構図は、全国的にも特異だ。明治元年創業のタナカホームズが山口県全域を12拠点で覆い、下関に本社を置く安成工務店が「100%自然素材の家」という全国唯一のポジションで高単価顧客を確保する——山口の地場ビルダーは、狭い市場の中で独自の差別化戦略を磨き続けてきた先進的な存在でもある。
本稿は、住宅会社・工務店・ハウスメーカーの経営者・幹部・マーケターを対象に、山口県市場の構造を徹底的に解剖する。基礎データ、着工構造の特性、エリア別特性、ランキングの変動、主要プレイヤーの戦略動向、九州系ビルダーの侵食状況、そして地場ビルダーが勝ちきるための7つの提言まで、山口県には件数は多くないがPG社の会員先・顧問先がおり、弊社の社員が山口県のアイ工務店で活躍していた実績があり特徴は把握している。
山口県の人口は約124.9万人(2026年4月現在)、総世帯数は約59.4万世帯。近年の急速な減少が続いており、2026年4月1日現在で124万9,424人と、2025年の推計126.8万人からもさらに減少が進んでいる。県内19市町のすべてで人口が減少するという状況が続いており、減少率・高齢化率ともに全国でも上位の「深刻な縮小県」だ。
人口ピーク(1985年頃・約164万人)からの減少幅は約39万人、率にして約24%に達しており、和歌山県の18%減をも上回る。社人研の推計では2040年に100万人を割り込む可能性があり、住宅市場の中長期的縮小は確実な前提として事業設計する必要がある。
しかしながら、市場全体が均一に縮小しているわけではない。県全体の人口が減少する中でも、下関市(30.8万人)・山口市(18.8万人)・宇部市(15.6万人)・周南市(13.6万人)という4大都市への集中は続いており、これらの主要4市で全県人口の約63%を占める。住宅着工市場の争奪はこの4市と周辺市町に集中し、それ以外のエリアでの着工は急速に縮小していく構造だ。
■ 山口県・住宅市場の主要指標(PG戸籍名簿より)
人口 :約124.9万人(2026年4月現在)
世帯数 :約59.4万世帯(2025年)
年間人口減少率 :約▲1.0〜1.5%(全県全市町で減少継続)
注文住宅平均建築費 :約3,620万円(フラット35利用者調査・2024年度、全国平均より約300万円低い)
土地付注文住宅合計 :約5,000万円前後(建築費+平均土地取得費)
住宅地平均坪単価 :約14万円(全国最低水準・2024年度公示地価)
新設着工(持家+分譲):年間約3,992戸(2023年実績・全国27位)
(出典:国土交通省・総務省・社人研の公的統計、住宅金融支援機構フラット35利用者調査、PG戸籍名簿より)
注目すべきは「住宅地平均坪単価約14万円」という数字だ。和歌山県(約18万円)・広島県(約35万円)・岡山県(約23万円)と比較しても最低水準であり、「安い土地に建物をかけられる」という構造は山口県特有の特徴だ。ただし土地が安い分、建物の価格も全国平均より約300万円低く、山口市場は「数は少なく・単価も低い」という厳しい市場構造であることは否めない。
着工数の推移を見ると、2023年の3,992戸は2022年(4,642戸)から14%減という急激な落ち込みを示している。この下落幅は全国でも大きい部類に入り、建材コスト上昇と人口減少の合わせ技が山口市場に特に強く効いた結果だ。
山口県の住宅着工は全体(持家・貸家・分譲含む)で概ね8,000〜9,000戸台で推移しており、そのうち持家・分譲(戸建)の合計が年間3,900〜4,600戸台というのが近年の水準だ。着工構成は以下のとおりだ。
広島県と比べると持家・分譲比率が相対的に高く、貸家比率は低い。これは山口県が大都市のような「賃貸住宅需要による土地活用」が活発な市場構造ではないことを示す。山口県の主戦場は純粋な「注文住宅と建売分譲」であり、地場の中小工務店・ビルダーが相対的に強みを持てる市場構造でもある。
山口県は東西に細長い形状で、北に日本海、南に瀬戸内海・関門海峡という海に挟まれた独特の地形を持つ。市場は大きく5エリアに分けて整理できる。
■ 山口県・エリア別市場規模比較(PG戸籍名簿・公的統計より)
【下関・宇部・山陽小野田エリア】下関市・宇部市・山陽小野田市
人口 :約52万人(下関市30.8万・宇部市15.6万・山陽小野田市5.7万)
世帯数 :約25万世帯
新設着工(推計):年間 1,400〜1,800戸(持家+分譲、全県の35〜40%)
├ 持家 :年間 700〜950戸程度
└ 分譲(戸建):年間 400〜600戸程度
競合状況 :安成工務店(地場精鋭)・タナカホームズ・アイ工務店(下関)・東宝ホーム
(九州系)・一条工務店・積水ハウスが展示場に集結
【山口・防府エリア】山口市・防府市・周南市(一部)
人口 :約39万人(山口市18.8万・防府市10.1万)
世帯数 :約19万世帯
新設着工(推計):年間 900〜1,200戸
├ 持家 :年間 500〜700戸程度
└ 分譲(戸建):年間 250〜400戸程度
競合状況 :タナカホームズ(山口・防府店)・アイデザインホーム(KRYハウジングサイト)
・一条工務店・積水ハウスが合同展示場に出展
【周南・下松・光エリア】周南市・下松市・光市
人口 :約22万人(周南市13.6万・下松市5.4万・光市3.3万)
世帯数 :約11万世帯
新設着工(推計):年間 700〜950戸
├ 持家 :年間 400〜550戸程度
└ 分譲(戸建):年間 200〜300戸程度
競合状況 :タナカホームズ(周南店)・安成工務店(周南展示場)・まるるのおうち(地場)
・広島系ビルダー(アイデザインホーム)が進出中
【岩国・柳井エリア】岩国市・柳井市・玖珂郡
人口 :約15万人(岩国市12.0万・柳井市3.0万)
世帯数 :約7万世帯
新設着工(推計):年間 400〜600戸
├ 持家 :年間 250〜380戸程度
└ 分譲(戸建):年間 100〜180戸程度
競合状況 :広島市(廿日市・大竹)と商圏が連続。タナカホームズ(岩国店)
・ライフデザイン・カバヤが侵食。地場工務店も存在
【萩・長門・北部エリア】萩市・長門市・阿武郡・美祢市・山陽小野田市北部
人口 :約8万人(萩市4.4万・長門市3.1万)
世帯数 :約4万世帯
新設着工(推計):年間 200〜350戸(持家のみ)
├ 持家 :年間 180〜280戸程度
└ 分譲(戸建):年間 30〜70戸程度
競合状況 :タナカホームズ(萩長門店)が商圏を独占的に保有。大手の出展はほぼなし
(出典:国土交通省 建築着工統計・総務省 統計ダッシュボード、PG戸籍名簿より。着工数はPGクライアント経営対話との照合を含む推計値)
下関・宇部・山陽小野田エリアは全県着工の35〜40%が集中する最大市場だ。関門海峡を渡れば北九州市という地理的特性から、「福岡発の九州系ビルダー」が下関に拠点を設けやすい。安成工務店が下関に本社を置き、東宝ホームが北九州本社から下関へ参入している。同時に一条工務店・積水ハウス・タマホームという全国大手も下関・宇部の合同展示場に出展し、タナカホームズが下関・宇部の両方に店舗を持つという、山口県でも最も競争が激しいエリアだ。
山口・防府エリアは県庁所在地・山口市を核とする行政・教育・医療の集積地だ。山口大学・山口県庁・官公庁の集積から公務員・医療系・大学関係者という安定した住宅需要層が厚く、KRYハウジングサイト(KRY山口放送主催)という山口市の最大合同展示場を核に、主要な住宅会社が集まる。
周南・下松・光エリアは旧徳山市(現周南市)を中心とする石油化学コンビナートの工業都市だ。製造業・化学工業就労者の持家需要が安定しており、北九州・広島両方向からのビルダーが「ちょうど中間」に位置するこのエリアを狙っている。
岩国・柳井エリアは広島市の廿日市・大竹と商圏が地続きで連続しており、ライフデザイン・カバヤが岩国から広島方面への連続展開の一環としてこのエリアへの侵食を進めている。住宅市場としては広島圏の延長線上に位置づけられる。
萩・長門・北部エリアは人口減少が最も深刻で、住宅着工数は年間200〜350戸という全県最小規模だ。しかし、この市場でタナカホームズが「萩商圏着工棟数4年連続No.1」を達成しているように、大手が参入しない過疎エリアでは地場工務店が独占的なポジションを持てる。
PG戸籍名簿のデータによると、2014年度の山口県ランキングは積水ハウスが首位に立ち、積水化学工業(セキスイハイム)・大和ハウス工業・タマホーム・一条工務店・ミサワホーム・住友林業といった「全国大手多極型」の構造だった。むしろ積水王国とも以前は呼ばれ、全国トップセールスは山口県から産まれやすいとも言われていた。
2024年度のデータでは、積水ハウスが引き続き上位を維持しながら、一条工務店・大和ハウス工業・タマホーム・積水化学工業といった並びへと変化している。
最も注目すべき変化は3点だ。第一に、一条工務店が2014年の5〜6位圏から2024年には最上位グループに浮上した。一条工務店が山口県でも「性能系の代名詞」として定着し、坪単価対コスパの高さが山口の主力顧客(年収500〜700万円前後の製造業・公務員世帯)に刺さっている。第二に、アイ工務店が2014年には存在しなかったポジションから2024年に上位に食い込んだ。広島での8拠点10展示場体制に続き、山口県内でも6拠点を構築するという猛スピードの展開が、ランキングにも反映されている。第三に、アイデザインホームが山口県の主要合同展示場への出展を通じてランキングに登場しており、「広島発の地場有力ビルダー」が山口市場へ侵食してきた動きとして重要だ。
一方、山口県の地場工務店がランキング上位に入っていない点は、山口市場の特性を示している。タナカホームズ・安成工務店という山口を代表する地場精鋭ビルダーは、PG戸籍名簿のランキングでは全国大手の後塵を拝する形だ。池田建設も急成長を遂げている。
特定エリア(萩・長門・宇部・周南など)では全国大手を凌ぐ着工棟数を持つ。「全県ランキングでは目立たないが、特定エリアでは圧倒的」という地場ビルダー固有の特性が山口では特に顕著だ。
山口県の地場ビルダーを語る際に最初に取り上げるべきは、タナカホームズ(田中建設株式会社・山口県萩市本社)だ。明治元年(1868年)創業という、住宅業界全体を見渡しても屈指の長い歴史を持つ老舗工務店が展開する住宅ブランドで、157年以上の実績を山口県・広島県・島根県に持つ。
全国最広域の地場ビルダーとしての拠点展開
タナカホームズの最大の特徴は、山口県全域+広島県・島根県にわたる圧倒的な拠点数だ。Instagramプロフィール(@loco.dh)で確認できる店舗は、山口県内だけでも萩長門店・防府店・山口店・宇部店・下関店・周南店・岩国店の7店舗に加え、広島西店・広島中央店・東広島店・益田店(島根)・福山店の5店舗、計12拠点を展開している。SUUMOの営業所一覧ではさらに広島西支店も確認できる。
山口県内の19市町のうち主要エリアのほぼすべてに拠点を持つという展開力は、全国大手ハウスメーカーを含めても山口県内では他社の追随を許さない。この「面を押さえた商圏支配」が、「萩商圏(萩市・長門市)での着工棟数4年連続No.1」という実績に象徴されるように、大手の展示場がない過疎・農村エリアでの圧倒的な存在感につながっている。
商品戦略:「コスパの良い高性能住宅」×「創業157年の信頼」
タナカホームズの商品戦略は「高性能×コスパ×地域密着」の三位一体だ。ZEH基準の高断熱・高気密性能(2×4構造・断熱等級5〜6対応)と耐震等級3を標準装備しながら、本体価格1,000万円台前半からという手頃な価格設定を実現している。
住宅性能面での外部評価も着実に積み上げている。「ハウス・オブ・ザ・イヤー・イン・エナジー2024 優秀賞(6年連続)・省エネ企業優秀賞(4年連続)」、「YKKap ハウスオブザ高断熱 販売実績部門 5年連続山口県第1位」という受賞実績が、「コスパのいい高性能住宅」という訴求の数値的裏付けとして機能している。
商品ラインは規格住宅(コンパクトスタイル)から完全自由設計まで幅広く対応。土地情報も「タナカホームズの物件情報」として建売・分譲地情報を継続的に提供しており、「土地から建物まで一気通貫で提案できる」垂直統合型の営業スタイルが特定エリアでの顧客接点を独占する要因だ。
広島・島根への展開:山口県を超えた中国地方ビルダーへ
タナカホームズは広島西店・広島中央店・東広島店・益田店(島根)・福山店という山口県外への拠点展開を進めており、実質的に「山口・広島・島根をカバーする中国地方ビルダー」として進化している。Instagram(@loco.dh)の自己紹介文には「山口県・広島県・島根県を拠点にコスパのいいマイホームを提供」と明記されており、エリア拡張の意図は明確だ。
特に広島西区(広島市西区)への出展は、ライフデザイン・カバヤやアイ工務店が席巻する広島市場への参入を意味する。「山口の老舗・コスパビルダー」というブランドが広島でどこまで通用するかは注目の動向だ。
課題:SNS集客の深化と設計力の見える化
タナカホームズのInstagramは14,000フォロワー(@loco.dh)という規模で、ルームツアー動画の発信を積極的に行っている。しかし競合のアイデザインホームやアイ工務店と比較すると、「スキップフロア」「カフェのような展示場」という「映えるコンセプト」での差別化が薄い。「コスパ×高性能×老舗」というブランドを30代・40代の若い世代にどう伝えるかが、次の10年の棟数を左右する課題だ。
安成工務店(本社:山口県下関市綾羅木新町)は、山口県が全国に誇る「地場工務店の最高峰」だ。大工工務店に端を発し昭和50年代にゼネコン化、平成に入り「環境共生型の家づくり」に転換という歴史を持つ。現在の事業の核心は「100%自然素材の木の家」という業界でも唯一無二のポジションだ。
「100%自然素材」という全国唯一のポジション
安成工務店が他のすべての住宅会社と一線を画すのは、構造材・断熱材・内装材の「100%自然素材」への徹底したこだわりだ。具体的には以下のような素材選定を行っている。
「構造材に集成材を使わない」「内装に新建材(工業製品の化粧板等)を使わない」という姿勢を貫く住宅会社は、大手ハウスメーカーはもちろん、中小の工務店でも稀だ。この「本物の自然素材」への一貫したこだわりが、健康・環境に強い意識を持つ顧客層——特に子育て世代・自然志向の共働き世帯——から深い支持を得ている。
下関本社から山口・福岡へ:8展示場の展開体制
安成工務店の展示場は山口県と福岡県に計8拠点を持つ。
山口県内:下関展示場・山口展示場・周南展示場・宇部展示場・新下関エコタウン分譲モデルハウス(下関市) 福岡県内:北九州展示場・福岡南展示場・糸島モデルハウス
「山口県の工務店が福岡に出展する」という構図は、安成工務店が「山口発・九州進出型の工務店」として成長してきたことを示す。関門海峡を隔てた北九州市への出展は、「九州系ビルダー(東宝ホーム等)が下関に入ってくるのと逆の動き」として見ると、安成工務店の独自の地位が際立つ。
築20年の展示場が体現する「経年美」という差別化
安成工務店の下関展示場は築20年を超えた「リアルな経年変化の家」として意図的に残し続けている。「新築が美しく見えるのはどの家も同じ。安成の家は長い年月が経っても美しい自信があるからこそ展示場として残している」というメッセージは、大手ハウスメーカーが提示できない「20年後の本当の姿」という圧倒的なリアリティを持つ。
唐松の無垢材が経年変化で飴色になった壁・天井の質感は、写真や動画では伝えきれない「来場してはじめて感じるもの」だ。「来場してもらえれば、他社との比較がなくなる」という指名来場率の高い工務店の典型例であり、SNS発信(施工事例・建築中写真)も「経年変化した家の美しさ」というビジュアルでInstagram映えを実現している。
課題:棟数制約と職人の育成
「100%自然素材」「天然乾燥材の1年乾燥」「大工の墨付け・手加工」というこだわりは、施工できる棟数に上限を生む。大工の高度な技術力と自然素材の調達が必要なため、規模の拡大には限界がある。年間施工棟数は数十棟規模と見られ、タナカホームズの広域展開路線とは正反対の「棟数を絞った高品質・高粗利」モデルだ。この棟数制約を「選ばれる工務店」の証として訴求し続けることが、縮小市場においても持続的な経営を可能にするポイントだ。
まるるのおうちは、山口県周南市を中心に展開するローコスト系の地場住宅会社だ。「ウレタン遮熱工法など高性能な断熱材を使用しながら手頃な価格で提供」「60種類のプランから選ぶことができる」という特徴を持つ。
周南市・下松市・光市という石油コンビナート就労者が多い工業地帯において、「予算を抑えながらも快適な家を建てたい」という若い世代の需要に応えている。棟数規模は大きくないが、特定エリアに特化した集客と「地元で建てる安心感」を武器に、一定の市場シェアを維持している。
各エリアの地場工務店は大手展示場エリアから外れた市町村で独自の顧客ネットワークを持っており、「紹介・口コミ」という旧来の集客モデルで一定の棟数を確保してきた。しかしSNS時代の集客変化により、「紹介頼み」の工務店は急速に集客力を失い始めており、デジタル集客への転換が喫緊の課題だ。
アイデザインホームは山口県内に以下の展示場拠点を持っている。
山口発の広島展開を「東への拡張」と見るなら、アイデザインホームの山口進出は「西への拡張」だ。広島→岩国→周南→山口という山陽軸の連続的な拡張戦略の一環であり、山口県でもスキップフロア×適正価格×高性能という同社固有の差別化軸で展示場集客を行っている。
KRYハウジングサイト(KRY山口放送主催)は山口市〜周南市のエリアで最大規模の合同展示場の一つであり、アイデザインホームの出展はこの放送局主催展示場という山口固有の集客装置を活用した効率的な市場侵食だ。
アイ工務店は山口県内に下松・周南・山口・宇部・下関・岩国の6市にわたる展示場網を構築しており、広島エリアの8拠点10展示場と合わせた「山陽軸の総展示場網」が中国地方での競合支配を狙う戦略の核だ。公式サイト(ai-koumuten.co.jp)で確認できる山口県内の全展示場は以下のとおりだ。
■ アイ工務店 山口県内の展示場一覧(2025年現在)
①下松展示場
所在地:山口県下松市美里町3-7
会場 :読売新聞住宅展示場 ハウジングメッセ周南内
②周南展示場
所在地:山口県周南市公園区5854-1
会場 :KRYハウジングサイト内
③山口サエラ展示場
所在地:山口県山口市大内長野511番地
会場 :TYSハウジングプラザ山口 サエラ内
④宇部展示場
所在地:山口県宇部市東藤曲2丁目4番30号
会場 :ハウジングプラザ宇部内
⑤下関展示場
所在地:山口県下関市(ハウジングプラザ内)
⑥岩国展示場
所在地:山口県岩国市新港町2丁目5-38
会場 :総合住宅展示場ハウジングプラザ岩国内
この6拠点という数は、山口県内において一条工務店と並ぶ最多水準の展示場展開だ。県の東端・岩国市から西端・下関市まで主要合同展示場のほぼすべてをカバーしており、「山口県全域に面を張る」という戦略が鮮明だ。
展示場ごとの特徴も際立っている。周南展示場はKRYハウジングサイト内という山口・周南エリア最大の合同展示場に出展しており、TYSハウジングプラザ山口 サエラには「山口サエラ展示場」、ハウジングメッセ周南には「下松展示場」と、放送局・新聞社主催の主要合同展示場に重複出展している。宇部市ハウジングプラザには一条工務店・積水ハウス・安成工務店と同じ会場で競合が発生している。
商品は広島と同様に「N-ees(ニーズ)×1cm単位の自由設計×スキップフロア×断熱等級6標準」という軸で統一されている。山口市場の主力顧客(製造業・公務員・30〜40代世帯)が求める「性能もデザインも妥協したくないがコストも抑えたい」という要求に直撃する価格帯であり、各合同展示場での来場獲得から山口全域での棟数積み上げを図っている。
ライフデザイン・カバヤは岡山→広島(福山・尾道)→岩国という山陽軸の連続展開の延長線上で、山口県東部(岩国市・柳井市)への侵食を進めている。岩国市は広島・廿日市市と商圏が地続きで連続しており、ライフデザイン・カバヤにとって広島西部拠点からの自然な延伸エリアだ。
岩国市は米軍岩国基地(岩国飛行場)の影響で安定した雇用(基地関連従事者・医療関係者等)と外国人居住者需要があり、他の山口県内市町より購買力の高い顧客層が存在する。山口県地場ビルダーにとって東側からの最大の脅威だ。
東宝ホームは福岡県北九州市本社の住宅ビルダーで、「外張り断熱+二重通気工法」という独自の「ハイブリッド・エア・コントロール住宅」を武器に、山口県西部(下関市・宇部市)への展開を進めている。九州(福岡全域・熊本)→広島という展開に加えて、山口県西部は「九州と中国地方の接点」として同社の拡張ルートに位置する。
宇部市ハウジングプラザ・周南市ハウジングメッセ内等での展示が確認でき、宿泊体験展示場という差別化集客で数より「体感の深さ」で競合する戦略は、下関・宇部エリアで安成工務店・タナカホームズとの直接競合を引き起こしている。
一条工務店が山口県において構築している展示場網は、アイ工務店と並ぶ最大規模だ。公式サイト(ichijo.co.jp)で確認できる全拠点を以下に整理する。
■ 一条工務店 山口県内の全展示場一覧(2025年現在)
【通常合同展示場タイプ】
①徳山展示場
所在地:山口県周南市公園区5853
会場 :KRYハウジングサイト
※アイ工務店・タナカホームズと同一会場で競合
②下松展示場
所在地:山口県下松市美里町3-7
会場 :読売新聞住宅展示場 ハウジングメッセ周南
※アイ工務店・安成工務店と同一会場
③山口展示場
所在地:山口市大内長野511
会場 :ハウジングプラザ山口サエラ
④山口東展示場
所在地:山口市大内長野511
会場 :ハウジングプラザ山口サエラ
※同一会場に2棟出展(同一敷地内で複数棟展開する一条の物量戦略の典型)
⑤宇部展示場
所在地:宇部市東藤曲2丁目4番30号
会場 :ハウジングプラザ宇部
※アイ工務店・積水ハウス・安成工務店と同一会場
⑥下関展示場
所在地:下関市大字石原285コスパ内
会場 :ハウジングプラザ・コスパ新下関
⑦岩国展示場
所在地:岩国市新港町2-5-38
会場 :ハウジングプラザ岩国
※アイ工務店と同一会場
【完全予約制分譲展示場タイプ】
⑧下関市秋根分譲展示場(完全予約制)
所在地:下関市秋根上町1-12-35
※宿泊体験イベント実施中
⑨山口市吉田分譲住宅(完全予約制)
所在地:山口市吉田2210-2
※平屋i-smart・29坪(「展示場よりも間取りの参考になる」リアルサイズ)
⑩防府市分譲展示場(完全予約制)
所在地:防府市沖今宿1-19-30
⑪萩市分譲展示場(完全予約制)
所在地:萩市大字江向67-11
※耐水害住宅の平屋モデル。萩の日本海型気候との親和性を訴求
⑫田布施町(完全予約制)
所在地:熊毛郡田布施町波野字道免2142-5
※宿泊体験会実施中・26坪平屋
この12拠点(通常合同展示場7棟+完全予約制5棟)という体制は、山口県内で圧倒的な最多水準だ。特筆すべきは以下の3点だ。
特徴①:同一合同展示場内に複数棟出展
ハウジングプラザ山口サエラには「山口展示場」と「山口東展示場」の2棟を出展している。1つの合同展示場公園内で複数棟を展開し、会場内での一条の接触面積を最大化するという戦略は奈良・岡山でも見られる一条固有の物量展開だ。来場者が展示場を回る中で「どこに行っても一条がある」という印象を与え、認知と検討の両方を底上げする。
特徴②:完全予約制分譲展示場による「過疎エリアへの侵食」
萩市分譲展示場・防府市分譲展示場・田布施町分譲展示場という完全予約制拠点は、通常の合同展示場がないエリアへの「低コスト侵食」の手段だ。分譲地上にモデルハウスを建て、高温度層の顧客を完全予約制で接客するというこの手法は、タナカホームズが「過疎エリアの聖域」として確保してきたエリアへの一条工務店の侵入を意味する。萩市は特にタナカホームズが「萩商圏4年連続No.1」を誇るエリアだが、一条の萩市分譲展示場は耐水害住宅の平屋という最新商品で直接挑む形だ。
特徴③:山口固有の気候ニーズへの対応
山口県は瀬戸内海側の温暖な西部と、日本海型気候(降雪・冷え込み)の萩・長門北部という気候の二面性を持つ。一条工務店の「超高断熱×全館床暖房×全館床冷房(夏)」という性能訴求は、この両方の気候に対応できる唯一の商品として機能する。特に萩の分譲展示場では「耐水害住宅」(水害リスクに強い水密構造)という差別化商品を前面に押し出しており、日本海側の豪雨・高潮リスクへの対応を訴求している。
全国データ(スプレッドシートより:2024年度全国展示場数481拠点・完工棟数17,345棟・1拠点当たり32.5棟)を山口の12拠点に当てはめると、年間390棟前後の完工が推計される。これは山口県全体の年間持家・分譲着工数(約3,992戸)の約10%に相当し、「一条一社で県内市場の1割」という圧倒的なシェア水準だ。
PG戸籍名簿のデータで2014年から継続して上位に名前を連ねる積水ハウスは、山口県でも「シャーウッド(木造)+鉄骨造」の二本柱と広告投資力で安定した認知・集客を維持している。ただし2014年から2024年にかけての相対的な地位低下は、山口でも木造・性能系ビルダーへのシフトが進んでいることを示す。既存OBオーナーへのリフォーム・建て替え需要の取り込みが安定した棟数維持の核となっている。
山口県の注文住宅購買層は、①石油化学コンビナート・製造業就労世帯(周南市・宇部市・岩国市)、②公務員・医療・教育機関関係者(山口市・防府市)、③農林水産業・自営業世帯(萩・長門・北部エリア)という3タイプが主軸だ。
フラット35利用者調査データによると、山口県の注文住宅取得世帯の平均世帯年収は概ね600〜700万円前後と推計され、広島県(約700万円)とほぼ同水準だ。しかし土地が安い分、建物に集中投資するという傾向は薄く、「土地も建物もリーズナブルに」という価格志向が強い。これが山口市場の平均建築費が全国平均より300万円低い構造的な背景だ。
米軍岩国基地(岩国飛行場)周辺の岩国市では、基地関連の外国人居住者(米軍関係者・家族)向けの賃貸需要という特殊需要が存在する。この層は高品質な賃貸住宅を求めるため、岩国市での注文住宅・分譲住宅の品質水準を底上げする効果がある。
山口県の住宅需要は、広島・奈良・和歌山のような「隣の大都市からの移住需要」というドライバーを持たない。大阪通勤圏でも広島通勤圏でも(中心部には)入らないため、住宅需要の主体は「生まれ育った地域で家を建てる」という地元定着型の内発的需要だ。
この地元定着型需要は、地場ビルダーとの長期的関係・紹介ネットワーク・OB顧客からの口コミという「地縁型集客」が機能しやすい。タナカホームズが157年の歴史と山口全域の店舗網を武器に「地縁型集客」を制度化し、安成工務店が「地域コミュニティへの貢献」を事業理念に掲げているのは、この山口市場の本質を深く理解しているからだ。
一方でこの地縁型需要は、若い世代(25〜35歳)が山口県から流出し続けることで着実に縮小していく。「若者の山口離れ→住宅取得世代の絶対数減少→着工数の構造的縮小」という不可逆的なトレンドに対して、地場ビルダーはSNS集客を通じた「戻ってくる若い人たちへの訴求」という新しい集客を今から構築する必要がある。
本稿冒頭で述べた「東からの広島系ビルダー(カバヤ・アイデザイン)×西からの九州系ビルダー(東宝ホーム)」という東西挟撃は、山口県特有の競争構造だ。和歌山のように「北側だけ守ればいい」という一方向の防衛が成立しないため、地場ビルダーは防衛コストが高くなりやすい。
この挟撃に対して有効な防衛戦略は「エリアの深堀り」だ。タナカホームズが萩・長門・防府・山口といった特定エリアで圧倒的な認知を獲得しているように、大手が入れない過疎エリアや、展示場コストが見合わないエリアに先に陣取ることで、東西挟撃の圧力が届かない独自の「聖域」を確保できる。
山口市・周南市・防府市エリアで最大の住宅展示場集客装置は、KRY山口放送主催のKRYハウジングサイトだ。山口県ではKRYという地上波放送局(日本テレビ系列)が展示場の主催者として機能しており、放送メディアとの連動集客という岡山・香川の「RSKハウジングプラザ」に近い構造が山口にも存在する。
KRYハウジングサイトへの出展は「山口市圏での存在感確保」の最短ルートであり、タナカホームズ・アイデザインホーム・一条工務店・積水ハウスなどが出展している。この展示場への出展競争が山口市〜周南市エリアの競合の最前線だ。
山口県北部(萩市・長門市・阿武郡)は日本海型気候(冬の降雪・強風・冷え込み)であり、建物の高断熱・高気密化の必要性は瀬戸内側より高い。この気候的要因が「性能を重視する顧客」を北部エリアに生み出す。
タナカホームズが萩・長門エリアで「ハウス・オブ・ザ・イヤー・イン・エナジー」受賞を前面に打ち出す戦略は、この気候的需要と見事に噛み合っている。日本海側という地理的要因を「高性能住宅の必要性を実感しやすい市場」として活かすことが、山口北部での差別化の軸になる。
山口県の地場工務店にとって最も現実的な生存戦略は「大手・外来ビルダーが展示場を出さないエリアでのNo.1認知の確立」だ。萩市・長門市・美祢市・柳井市・周防大島町といった過疎・農村エリアでは、タナカホームズですら拠点が1店舗以下のところがある。
このエリアで「地名×注文住宅」でGoogle・Instagram検索されたときに最初に出てくる会社になることが、縮小市場での生存確率を最も高める施策だ。地名を含む施工事例投稿・地元のイベント参加・地区の自治会との関係構築をSNSで発信するという組み合わせが有効だ。
タナカホームズの成功の本質は「拠点の数と密度で商圏を面的にカバーする」という戦略だ。単一拠点の工務店が目指すべきは「自社の半径30kmエリアの中の全市町村に対してSNSで施工事例を発信し続ける」ことだ。タナカホームズがやっていることをデジタルで再現するという発想で、SNSの施工事例に地名タグを細かく打ち込み、エリアごとの施工実績を可視化することが集客につながる。
安成工務店の下関展示場が築20年でも集客し続けるのは、「写真では伝えられない素材の香り・質感・温度感」というリアル体験を提供しているからだ。自社のモデルハウス・完成見学会を「単なる見学」から「体感・匂い・温度を感じる体験」へと設計し直すことが、指名来場率・成約率を上げる最短ルートだ。
山口県北部(萩・長門)の日本海気候エリアで戦う工務店は、「断熱性能の数値(UA値・C値)」と「実際に冬に住んでどうだったかというオーナーインタビュー動画」をセットで発信することが最も効果的だ。タナカホームズが「ハウス・オブ・ザ・イヤー・イン・エナジー6年連続」という第三者認定を集客に使うように、外部評価の取得と発信が信頼構築の最短ルートだ。
山口県の人口流出(若者の流出)は不可避だが、Uターン・Iターンという流れを住宅取得の好機として捉えることができる。「山口に帰って家を建てる」「山口に移住して家を建てる」という顧客は、帰省前・移住決定前にSNSで山口の工務店を調べ始める。
Instagramで「山口県 注文住宅」「下関 工務店」「萩 新築」というキーワードで検索されたときに上位に出てくる施工事例を継続発信することが、「来る前から選ばれている」状態を作る。宮内和也著『SNSで家を売る ―「タイパ時代」の営業術』(クロスメディア・パブリッシング、2025年12月)で提示したフレームワークは、山口のように人口流出が多く「帰ってくる人が家を建てる」という市場に特に有効だ。
岩国市の米軍岩国基地周辺エリアは、外国人居住者(米軍関係者・家族)向けの高品質賃貸住宅という特殊需要を持つ。基地関連の賃貸住宅需要は安定しており、大手ハウスメーカーが参入しにくい「地元の関係性」が必要な市場でもある。岩国エリアに根ざした工務店にとって、この市場は「注文住宅以外の収益源」として有望だ。
KRYハウジングサイトへの出展は山口市〜周南市での認知確保の有効手段だが、展示場コストに対する受注効率を常に検証する必要がある。出展を維持しながら「KRYの集客エリア外(萩・長門・岩国南部など)ではSNS集客に集中投資する」という二軸の集客設計が、山口の地場工務店の最適な資源配分だ。
2030年に向けて山口県の市場縮小は加速する。注目すべき変化は「下関・宇部・山口・周南という4大都市圏への着工集中と、それ以外のエリアの急速な消滅」という二極化の深化だ。萩市・長門市・美祢市・阿武郡といったエリアでは年間着工数がさらに減少し、工務店の廃業・撤退が続く。
この縮小の中で「残る工務店」になるための条件は一つだ。今、特定のエリアで顧客から「代えのきかない存在」として認知されていること。「タナカホームズか安成工務店か」という二択まで候補を絞られる会社が、縮小市場で着工数を維持できる唯一の存在だ。
2026〜2030年の山口市場は、一条工務店(全国展開)・アイ工務店(下関拠点拡張)・ライフデザイン・カバヤ(岩国・柳井侵食)という三方向からの攻勢が激化する見通しだ。これら三社の共通の弱点——自由設計の制約・地域材の使用困難・引き渡し後のきめ細かな対応の難しさ——の逆を突くことが、山口の地場工務店の差別化の核心だ。
「一条でもカバヤでもない理由でこの工務店を選ぶ」という顧客を作り続けることができた工務店だけが、2030年の山口市場の「残存者利益」を享受できる。
山口県の住宅市場の2026年的構造を一言で表現するなら、**「ピュアグロース式・本州最西端・東西挟撃縮小モデル」**だ。
人口減少最前線の縮小市場に、広島系ビルダー(東)と九州系ビルダー(西)が両方向から侵食してくる。その中で、明治元年創業の歴史と12拠点網を持つタナカホームズが「コスパ×老舗信頼」でエリアを押さえ、「100%自然素材の家」という唯一無二のポジションを持つ安成工務店が高単価顧客を指名取りする。これが2026年の山口市場の現実だ。
縮小市場で生き残る地場工務店の道は「自分のエリアの中で代えのきかない存在になること」に尽きる。タナカホームズと安成工務店という先人が実践してきた「エリア深耕×独自価値の磨き込み」を、SNS時代の集客手法と組み合わせて実践した工務店が、2030年代の山口市場の残存者になる。
本稿で取り上げた山口県の住宅市場分析は、ピュアグロース株式会社が蓄積してきた全国住宅ビルダー支援の知見と市場データに基づいています。エリアNo.1戦略の立案・SNS集客の仕組み化・来場予約ファースト型オペレーションの構築・縮小市場での差別化ポジション設計については、月次コンサルティングの中で顧問先様と一緒に設計・実行しています。
🌐 お問い合わせ:https://pure-growth.co.jp/contact/ 📺 YouTube「ハウスメーカー・工務店コンサルTV」:https://www.youtube.com/@pure-growth 📺 YouTube「ウラ側ハウスのミヤウチ社長」:https://www.youtube.com/@pg_house 📗 著書『SNSで家を売る ―「タイパ時代」の営業術』(クロスメディア・パブリッシング、2025年12月)
本稿の内容は、公的統計・PG戸籍名簿・PGクライアント経営対話をもとに、ピュアグロース株式会社 代表取締役 宮内和也が執筆・監修したものです。市場データの引用・転載は出典を明記の上でお願いします。