「うちは企画住宅や建売が中心だから、設計がこだわれる余地はない」
「若手の設計担当者を、提案で選ばれる設計士に育てる方法が分からない」
設計担当者の提案力は、会社の受注力やブランドを大きく左右します。本記事では、住友林業の社内デザインコンペで最優秀を受賞し、設計のデザイン部門・業績部門の両方で全国1位を獲得した当社コンサルタントの解説をもとに、受賞物件に込めた提案の考え方と、選ばれる設計士に育つための習慣を紹介します。
※住友林業が会社としてデザイン性を保つ仕組み(デザインコードと評価制度)については「住友林業のデザイン性はなぜ高いのか」で解説しています。本記事では、設計担当者一人ひとりの成長に焦点を当てます。
受賞したのは、家の中に源泉かけ流しの温泉がある住まいです。お客様からいただいたテーマは「温泉をつけたい」、ただそれだけでした。
お客様と話を重ねるうちに、見えてきたことがあります。お風呂に入っている時間は限られている。このお客様が好きなのは、お風呂に入ることそのものより、「お風呂がある暮らし」なのではないか、ということです。
そこで提案したのが、玄関を入った瞬間にお風呂が見えるプランです。家に帰ってきたとき、一番好きなものが目に入ればうれしくなる。お風呂はリビングからも見え、湯上がりに椅子に座って自然を眺める様子がLDKとつながります。入浴中や来客時はブラインドで目隠しができます。これはお客様が望んだものではなく、100%設計側からの提案でした。
考えるのが面倒な細かい部分です。しかし、こうした細部の積み重ねが、良い物件になるかどうかの境目です。設計者自身が楽しんでプレゼンテーションをすることで熱意がお客様に伝わり、提案を受け入れていただけました。
住友林業の設計担当者は、高級物件ばかり手がけていると思われがちです。しかし実際は、20〜30代の若い世帯が30坪前後の家を建てるケースが多く、限られた予算の中でいかにきれいに見せるかという案件がほとんどです。社内コンペでも、高額な物件が評価されるわけではありません。むしろ、シンプルな家の中でこだわり抜いた物件のほうが受賞することが多いといいます。
お金をかけずに見え方を変えられるポイントは、たくさんあります。
企画住宅や建売住宅を中心とする会社こそ、こうしたノウハウを一度つかめば、すべての物件に生かせます。「企画住宅だからこだわれない」と感じて転職してしまう設計担当者もいますが、制約がある中でどう見せるかにこそ、設計の腕が試されるのです。

住友林業は商品力が高く、普通に設計してもおしゃれな家になります。だからこそ、それだけではやらされている感覚になってしまう。そこで基本は押さえつつ、すべての物件で必ず一つ、新しいことに挑戦することを意識していたといいます。コンセントの位置一つでも構いません。お金をかけなくても、こう工夫すれば良くなる、使いやすくなる。その積み重ねがなければ、ノウハウや経験値はたまっていきません。
アイデアは、ひらめきだけに頼る必要はありません。まずは良いものを真似し、そのうえで「こうしたらどうか」と自分で考える。この2段階が大切です。おすすめの情報源は次のとおりです。
最も大切なのがこれです。挑戦した結果が成功だったのかを、必ず確認します。完成物件を見に行くと、「内心こちらのほうが良かった」「扉に合わせて白にしたが、黒が良かった」「素材の組み合わせが微妙だった」といった反省が必ずあります。失敗がない物件はありません。お客様の前では言えなくても、スタッフの間では「良かったね」で終わらせず、「こうすればもっと良かった」を言葉にして意見を出し合うことが成長につながります。
担当者だけでなく、月に1回か2か月に1回、設計メンバー全員で同じ完成物件を見て意見を交わすのが理想です。過去にやっていたが続いていない、という会社は少なくありません。育成のための時間なので、半分以上は強制で構いません。忙しい中でも投資として時間を確保すると決めるのは、幹部の仕事です。
解説したコンサルタントが若手時代に配属されたのは、競合の厳しいエリアでした。指名で決まることは少なく、5〜6社でプランを競うのが当たり前。商品力に加えて、プランでどう勝つか、どう差別化するかを常に求められました。他社の提案を意識するからこそ、自社の強みと提案すべきことが見えてくるのです。若いうちにそうした環境を何年経験できるかは、大きな差になります。
受賞物件のように前例のない提案には、社内で不安の声が上がります。トラブルはないか、コストは大丈夫か。そのリスクを管理職が引き受けながら、「確かにこうしたほうがいい」と一緒に楽しんでくれる上司がいたからこそ、最後までやり切れたといいます。挑戦を許し、責任を取り、困ったときには相談に乗って指導してくれる存在が、設計士の成長には欠かせません。
とはいえ、すべての会社にそうした上司がいるとは限りません。「やりたいことはあるが、やり方が分からない」「誰に相談すればいいか分からない」という設計担当者は多くいます。社内に適任者がいなければ、外部のメンターを活用するのも一つの方法です。
A. まずは、すべての物件で一つだけ新しい工夫に挑戦することです。あわせて、完成物件を設計メンバー全員で見て、「こうすればもっと良かった」を言語化する場を定期的に設けると、ノウハウが社内にたまっていきます。
A. できます。玄関まわりの納まりや材料選び、照明の配置など、お金をかけずに見え方を変えられるポイントは多くあります。一度ノウハウをつかめば全物件に生かせるため、むしろ企画住宅や建売住宅こそ効果が大きいといえます。
A. 建築家の作品を紹介する住宅雑誌や、海外のInstagramがおすすめです。まずは真似をし、そのうえで自分なりのアレンジを考える2段階で取り入れましょう。
ピュアグロースでは、大手ハウスメーカー出身の設計のプロが、設計担当者のメンターとして提案の壁打ちや完成物件の振り返りに伴走し、プラン力の強化を支援しています。プランの見直しのポイントは「選ばれるプランの条件とは」もご覧ください。